アンケートだとシンボリルドルフが多いですが、一応出してます。投稿が遅れたのは納得がいく作品が書けなかっただけなので、今後の投稿が滞ったら面倒くさくなったか、納得いかないかのどちらかと思ってください。
朝起きて、ご飯を食べる。食器を水の入った桶に沈め、味の良い茶けた色合いのカバンにパソコンと書類を入れて出勤する。
それが、俺のトレーナーとしての朝のルーティン。
「あら、おはよう御座います。トレーナーさん」
「よ、グラス。相棒は?」
「エルならもうじきですよ。なんでも宿題が終わって無かったとか」
「そうか、大変だなあ」
エルコンドルパサー。グラスワンダーの同室の友人でライバルでもあるが、やや抜けたところがあり、苦い目に遭うことが多い。グラスは手伝わずにちゃんと自分でさせようとする辺りが良く出来た娘だと思う。
「トレーナーさん、今日の放課後に二人だけで話したいので、お時間を頂けませんか?」
「うーん……構わないよ。それじゃあ頑張ってね」
スケジュールに問題はなく、時間なら十分にあった。
「はい。それでは」
綺麗に一礼した後、グラスワンダーは建物内に入っていった。
「にしても、話って何だろう。深刻じゃなきゃいいな」
随分と呑気なことを思いながら、俺もトレーナー室に向かって歩き始めた。
「うーっす、中華食いにいこうぜ」
「おう、少し待ってくれ」
同僚で、同年代の北島トレーナーが中華を食べに行こうと誘ってきた。いつもはカフェテリアで適当に済ませているが、偶には街の中華に挑戦するのも悪くない。片付けを済ませてから、徒歩五分ほどの近場に足を運ぶ。店は路地を少し入った所に暖簾を出していた。
「いや、中々の量だな」
思わず涎が垂れそうになったが、すんでの所で堪えられた。それ程にこの店の中華は魅力的。
頼んだラーメン定食はそこそこのボリューム。オーソドックスな味噌ラーメンに野菜の炒め物、チャーハンの食欲を強烈にそそる匂いにすっかりと虜になってしまう。空っぽで胃がグウグウと鳴っていた俺には割り箸とレンゲを持つ以外の選択肢は無かった。
「そうだろ。ここのチャーハンは美味えんだ。担当も連れてきたいが、年頃の子を連れて行くのは気が引けるんだなこれが」
北島は、レンゲで半分になったチャーハンを崩しながら頬杖を突いて溜息を吐く。確かに、ここの店は絶品で格別だが、タバコOKで、油などの臭いもキツく、体重管理を絶望的な脅威にする品目ではとても無理そうだった。
「ファミレスとかが良いんじゃないか?ウマ娘用メニューだってあるんだし、最近はバラエティが豊富だぜ?」
俺は最近は行かないが、ファミレスは昔よりも進化しているらしい。今でもドリンクバーを混ぜるやつはいるのだろうか。
「へえ、そうなのか。ファミレスっつたら一番にハンバーグとか頼むくらいだな」
「そうだ、話は変わるんだがーー」
グラスワンダーから放課後に二人で会う約束にどうすればいいか迷っている事を告げると、北島の顔が青ざめたような顔になった。
「い、いやー、暑いなあ……」
わざとらしく扇ぐような真似をした北島。大根役者も大概だった。
「ちゃんと言ってくれ。そもそもお前が食った料理じゃあそんなに汗かかないぞ」
「……お前、うん。そうだな……」
「早く言えや」
「このままだと……うまぴょい()直行だぞ」
「う、うまぴょいってアレか?」
「アレだ」
うまぴょい伝説。よく分からない歌詞だが、ハイテンションで気分も雰囲気も大盛り上がりの正に伝説の名に違わぬ曲。
URAファイナル優勝などの大きな節目に歌われる事が多いので、その時期に好感度の異常に高いーー所謂、重いウマ娘はその時期にトレーナーや好意を抱く人物に、告白や実力行使などの愛情を示そうとする傾向がある。
誰が言ったか「うまぴょいする」という暗にそういった行為を匂わす隠語が、トレーナー間で使われるようになったのだ。
「でもなぁ、グラスなんだぜ?」
「ああいう表面的には判らないやつほどどデカい爆弾を抱え込んでいるもんさ」
そして、俺は北島の顔が青くなる理由と、やけに実体験でも伴ったように詳しい理由が分かった。
「うしろ……」
だらりと冷たい汗が流れたのは決して熱い料理を食したからではなく、迫る恐怖を理解したからだった。
「やあ、私のトレーナー君?」
「……や、やあ、元気そうでなりよりだルドルフ」
北島の顔はリトマス紙がアルカリを検知したよりも早く真っ青に染まる。このドラマみたいな状況に、画面外の視聴者のような奇妙な冷静さが俺に宿った。自分よりもビビってる奴を見て落ち着くという何とも情けない話であるが、この際関係は無いのだから問題は無いのだ。
「何度も電話したのに、ツーコールで出なかったよね?」
「……!」
シンボリルドルフの約束を破った子供を叱るような目に、おぼつかない震えた手でバックを弄ると、北島の携帯はバッテリー切れを起こしていたらしく、一つと反応を返さなかった。
「は、アハは、あはは……」
「それではグラスワンダーのトレーナー君、彼は貰っていく。ああ、それとここのお代は私が受け持っておくよ」
力なく諦めの表情で笑う北島を抱え、シンボリルドルフは店を出た。
「あの兄ちゃんも大変だね」
他人事のように呑気な事を言う。事実として他人事だが、店員は興味なさそうに言った。
「まあ、トレーナーですから」
外に出ると、遠くの空は積乱雲で曇っていた。
「明日は雨かな」
そんな事を思いながら、俺はトレセン学園への帰路に着く。そして、部屋で業務をこなしていると約束の時間が来た。
「よし、またせちゃ悪いしな」
待ち合わせの十分前に着くように出ると、グラスはハミングしながら移ろう空を眺めていた。
「ごめん、待たせちゃったか」
「いえ、私は構いませんよ」
クリっとした青い目に、長く艶のある鹿毛。いつもよりも鮮やかで、綺麗に見える。それに惚けてしまうが、悟られまいと意識を切りかえた。
「ありがとうな。そんで、話があるって何?」
「大したことではありません。目を瞑って、少ししゃがんで頂けませんか」
「おう」
俺は目を瞑り、しゃがんだ。
「……」
まだ何も起きない。
「……なあ、目開けるぞ」
ちょっと長すぎるだろうと思い、目を開くとグラスワンダーは顔を真っ赤にして目を回していた。
「おーい、グラスさーん?」
普段なら確実に反応するだろう耳や尻尾はピクリとも動かない。
「あーあ、こりゃダメそうだな」
俺はグラスを抱えて保健室に向かった。
「う、う〜ん……」
間延びした、倦怠感のある声。グラスはようやく目覚めた。
「ヒゃあ!と、ととととトレーナーさん!?」
目を白黒、声も裏返ってドタドタとベッドの上で大暴れ。
「ぐ、グラス……ここ、保健室」
「あっ、すいません……」
頬が朱色に染まり、耳のハリが萎れている。
「まったく、俺もビックリしたぞ。突然倒れたんだからな」
「私が、倒れた?」
どうやら記憶が混濁しているようで、大まかに教えると納得したようだ。しかし、今度は俯いて黙り込んでしまった。
「……」
「……」
俺も彼女も何を話せばいいのかわからなくなった。
「グラスワンダーのトレーナーさん。私はちょっと部屋を開けるから」
助け舟ではないが、保健室の先生は用事で退室するらしかった。短い時間が緩衝材となり、俺は話そうとする決心をつける。
「「あのーー」」
変な所で通じ合った俺たちは、全く同時に全く同じことを言った。それが何だか愉快に思えて互いに思わずくすくす笑ってしまう。
「はは、先に言っていいよ」
「では、私から」
今度こそ背筋が綺麗に伸び、こちらに澄んだ青い目は貫くような真っ直ぐ向けられる。ピン、と空気の張り詰める音が聴こえた。
だが、グラスワンダーがとったのは確かめる行為。
「ん……」
深紅の舌で俺の乾燥した唇を味わうように舐める。ほんのりと甘い鉄の香りが薫り、心臓の鼓動は早鐘を打つ。グラスワンダーはモナリザのような微笑をたたえたまま、いつのまにかペンと紙を取り出して、こちらに差し出した。
「……嫌いです。私をこんなにおかしくしても、変わらない貴方が」
狂おしいほどの執着。目は濁り、明らかに正気を喪っていた。
「……なあ」
「では、これにサインして頂けます?」
婚姻届。既にグラスワンダーの欄には全てが書かれていた。いくらなんでも手が早すぎる。そう俺は思ったが、彼女の目はいつだって本気だった。レースでも、何事も。
「まあ、俺もね……グラスのことは好きなのは確かだ」
「では!」
満面の笑みを見せるが、それを手で制して次の言葉を紡ぐ。
「だが、俺と君はトレーナーとウマ娘の関係だろう?」
「仕方ありません。こうなったら……」
「ステイ、待てよグラス。別に君とそういう関係になるのは、やぶさかじゃない。君が成人して、それまで俺を好きなら……俺から言うよ」
「……もう!!」
その後、なんだかんだでG1連勝、結婚、栄光のロードを歩む……
「みたいな感じだったら、良かったのにね。父さん」
知っているのに、全く知らないウマ娘が此方の眼を覗いている。
「あえ?」
知らない部屋。白くて、清潔で、生活に必要な凡ゆる物が揃った部屋。ただ一つの違和感は、俺が鎖で繋がれていること。
「ああもう全く……よだれ垂れてる」
見覚えのある紅い舌で、涎を舐め取り、乾いたタオルで口元を拭かれた。
「あ、あ、あ”あ” あ” あ” あ”!!!!!!!!」
おもいだした。そうだ。そうだ、そうだ。そ
「もう、父さんったらまた発狂してる……こんなに注射上手くなるなんてあんまり嬉しくないんだけどなあー」
熟練の医者のように素早く注射した彼女は注射器をゴミ箱に捨てて、溜息を吐いた。
「じゃあ、またね。これ以上居ると母さんに怒られるからさ」
次回はナリタブライアンの予定。たぶんメリーゴーランドくらい平和です。