たまに寄り添う物語   作:魔愛暴導富

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唐突にウマ娘との関係盛るマン。


アオハル
一等星の狂騒


「スグ。トレーナーってさ、何でいるの?」

 

「それはどういう?」

 

「アタシは小学校を卒業したらトレセン学園に行くの。それで、ウマ娘は走りたいから走るけど…トレーナーは何でトレーナーをやるのかなって」

 

「難しいな」

 

「見てるだけじゃつまらないでしょ?」

 

「でも…そうしたいと思う人がいるんだ」

 

「スグは?」

 

「俺もそうだ」

 

「変だなー……」

 

「俺にも分からないな」

 

 

 

 

 

───7年後。

 

 

 

 

 

「おいスグ」

 

「なんだ?…おい、何の真似だ」

 

「トレーナーってのはこうすると断れないよな?アタシと夢を見てみないか…?」

 

「…悪いが、海外には行けない。俺にはブライアンがいる」

 

「いつからアタシの言葉を払う様になった?『ありがとうございます。光栄です』だろ?」

 

「…本当に、悪い」

 

「……そうか。ま、言ってみただけだけどな」

 

「お前は強い。きっと夢も成し遂げられる。だが、俺はお前と目的を共有できない。済まない…」

 

「まぁアタシにもすぐ相棒が出来るだろ。その時後悔するのはアンタだぞ?スグ」

 

「なら、後悔させてくれ」

 

「ハハッ!じゃあな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回も駄目か……クソッ…」

 

 

 

 

 

──在りし日の記憶。

 

 

○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

「──おはようございます。秋道トレーナー」

 

「──おはようございます。樫本代理。朝会の準備は整っています」

 

「感謝します。しかし…随分と準備が早いのですね」

 

「全教職員には貴女の情報が行き渡っていますからね。駿川理事長補佐がサポートしますが、彼女は主に生活指導の役職に従事する為、現期間は基本的に私が貴女の補佐を行います」

 

「うん?貴方はトレーナーなのでは…補佐の仕事もこなせるのですか」

 

「一時期駿川補佐…たづなさんの元で働いていた事があります。貴女はここに勤めていた事がある為、そもそも補佐など必要ないでしょうが、現時点貴女が知り得ない情報は私が提供します」

 

「なる程。理解しました。ではもう一つ──貴方のチームを放っておいて良いのですか?」

 

「ご心配なく。私が補佐になった理由はアルデラミンが私に仕事をさせてくれるチームだからです。学園の判断と言うべきでしょうか」

 

「改めて確認させて頂きますので覚悟を。緩いと判断した場合即刻貴方をトレーナーのみに引き戻します」

 

「ご自由に。それと…くれぐれも──」

 

「はい?」

 

「───運営に偏りが無いように」

 

「…肝に銘じておきます」

 

 

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

トレセン学園の理事長、秋川やよいは海外へ出張した。

年単位の出張なので、運営を誰かに委任しなければならない。そこで、URA職員である樫本理子が代理としてこの学園に訪れた。

 

今日から始まる彼女の運営、その挨拶は全校朝会によって済まされる。

既に全クラスが体育館に集められ、前方には演台とマイク。

教職員は生徒から見て右側の入口付近、トレーナーは左側の壁に並んでいる。

 

隠そうともしない欠伸が蔓延る中、程なくしてたづなと一人の女性が台に上がる。

 

 

「気をつけ」

 

たづなの声で全校が姿勢を正す。

 

「今回の理事長の出張により、代理として来ていただいた樫本さんに挨拶をしてもらいます」

 

マイクを手渡し、鋭い目つきの女性が口を開ける。

 

「トレセン学園の皆さん、おはようございます。私は樫本理子。樫本代理と呼んでください。以後お見知り置きを」

 

 

作業の様な拍手に混じって、興味の視線が交差する。

長話をしそうだと、嫌そうな顔をする生徒もいるが、それは自然な反応かもしれない。

 

お手本の様な堅物。

それが樫本代理だった。

 

 

「さて、まずは先日からトレーニングを見させて貰っていたのですが…端的に申し上げて、()()。そして杜撰(ずさん)な管理と言っても過言では無い」

 

 

今度は眠そうなウマ娘達が目を開いた。

いきなり否定をされるとは思わなかったのだろう。トレーナー陣も一部にどよめきが走っている。

 

 

「過度なトレーニング…それも夜中に隠れて。食事は後日に影響が残るまで食し……特に顕著なのが、()()()()による効率の低下でしょう」

 

 

何人かのトレーナーが胸を抑えて苦しそうに崩れた。

悩みの種だったのだろう。正論は時に人を苦しませるものだ。

 

 

「よって私は【管理教育プログラム】を規定し、これに則って運営を進めます」

 

堅苦しい名前の計画に、ウマ娘達の顔が不安に包まれた。

 

 

「簡単に言えば、練習、日常生活、学習、食事全てに至り監視による徹底的な管理を行うという事。これにより才能と実力の促進を図り、無駄で不確実な行動は無くなります」

 

察しが良いウマ娘は既に顔を青くしている。

練習だけで無く、日常生活に至り監視される。

 

つまり趣味に走る時間は消され、好きな物を好きな時間に食べる事が出来ない。嫌いな勉強の時間は増えるだけ。

声が上がるまでに時間はかからなかった。

 

 

「すまない!食事の監視とはどの様な物だろうか!」

 

有名な芦毛のウマ娘が皆の疑問を口にした。

 

 

「無論カロリーの過剰摂取、栄養バランスを無視した食事は許されません。ご安心を、メニューは此方で決めます。貴女達は出された食事を」

 

次にメジロ家の令嬢が口を開いた。

 

「で、デザートはどうなるんですの…?」

 

「必要ありません。寧ろ少量でカロリーが多すぎる。毒です」

 

「あ、ああ…」

 

 

絶望の伝染。

人の精神とは、こうも脆いのか。

 

 

 

「言い切りましょうか。好きには食べられません」

 

 

 

その言葉は、彼女達の嘆きを呼び起こした。

悲しんだ理由は多種多様だ。

 

 

「駄目だ!食べる事は生きる事なんだぞ!?」

 

「あああ!!!終わりですの……私のたのしみがぁぁぁぁ…!!!」

 

「お母ちゃん…あたし死んだべ………もう無理だべ………」

 

「ふざけんな!何が管理だ!正統なやり方だってついていけない奴等もいるんだぞ!そいつ等を置いていくのかよ!!」

 

「ウマドルの…夢が」

 

「大変合理的だと思いますが、ケーキはもう作れませんか…」

 

「はちみーはただのドリンクだから大丈夫だよね!?ねぇ!ねぇってば!!!」

 

「野菜…か」

 

「ふぅン…どうやら研究が滞りそうだ。…彼女をどうやって私への管轄外へ追放すべきか…」

 

「分かっちゃった!これディストピアって言われてるやつ!」

 

「まぁゲームくらい隠れて出来るし…」

 

 

聞くに耐えない。

これが青春を謳歌していた彼女達の姿か。

 

 

「……ゴホン!ともかく、このプログラムは来週から施行します。今週中に準備しておくように!以上!」

 

 

返答はブーイングの嵐だった。

罵詈雑言、そして手で……それよりも、一部トレーナーからもそれが伺える事から、このプログラムが急な物であった事が分かる。

 

 

朝会後の学徒達の意気は、言わずもがな。

そして、樫本代理の明日を本気で心配すべきだろう。それくらいの恨みを買った。

 

トレセン学園が荒れていく。

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

 

「随分と豪胆な」

 

「必要な事です。秋道トレーナー、貴方にも理解できる筈」

 

「…確かに最近のウマ娘は体調管理をおざなりにしがちです。ですが、全てを監視するとストレスが溜まり本末転倒の可能性も…」

 

「あれは気を引き締めさせる為に少し誇張した表現を用いました。別に外食程度は…まぁ認めます」

 

「なる程…」

 

「この後にあるトレーナー会議も参考にし、確実性を高めます。異論は?」

 

「懸念が一つ」

 

「…?」

 

「生徒会です。彼女等も言いたい事がある筈」

 

「トレーナー陣の手腕に託します。が、私の計画に反対するトレーナーもいるでしょう。貴方にはそこを何とか言いくるめて欲しい」

 

「ベテランが言った方が早いでしょう。私がやってもクソガキとしか思われません」

 

「そ、そうですか…やけに実感の籠もった…」

 

 

実際、そんな事もあったからな。

俺は舐められやすい質なのかもしれない。だが、下手に出れば舐められ、威張れば淘汰される。

下手に出るのが上等だろう。

 

だが、最近は寧ろ新人トレーナーに問題がある。

ウマ娘における今の世代はツワモノ揃いの奇跡と言われており、地方から飛んでくるトレーナーも多い。

当然地方との力の差を感じた彼等は指導するウマ娘を厳選していく。

 

 

 

「最近、中央での新人としてのトレーナーからこんな言葉を聞きました。トレーナー人生は【ウマ娘ガチャ】と」

 

「は?」

 

「意識の低下、なんとかしたいですよね」

 

「……やはり緩い。そんな者が試験に受かるのですか。面接陣は何を………」

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「という事で樫本代理は意識の低下を重視しており、理想的にはトレーナー、ウマ娘の関係性を文字通り固くしたいと」

 

「あー…そりゃ堅苦しいって意味か?」

 

「好きに捉えてもらって構いませんが、悪意は無い事は確かです」

 

 

トレーナー会議の時間だ。

会議に出れるのは優秀なトレーナーとURAに判断された者。

その基準は、前提としてGⅠ一勝以上またはGⅡ三勝以上のウマ娘を現在進行形で育てているトレーナーである。

 

現在のメンバーは、秋道邁こと俺、奈瀬先輩、リギルの東条先輩、スピカの西崎トレーナー、カノープスの南坂先輩、黒沼先輩、ライスシャワー達のトレーナーである水宮トレーナー、アグネスデジタル達のトレーナーである美濃山トレーナーの計7人だ。

 

そして、選ばれるトレーナーの優先順位が存在する。それは、新たなレース観の開拓である。

 

開拓とは、正に新しい何かを見せることである。

リギルは一強時代でそれを示し、スピカはゴールドシップを始めとした多彩な走りでそれを示した。奈瀬先輩は勝ち続ける異常な安定性を評価されている。

ライスシャワーとミホノブルボン、加えてターボは精神性を評価された。俺は昔シービーの走りで参加していたが、今はオペラオーの年間無敗記録によるものだろう。アグネスデジタルの万能性も貴重だ。

 

つまり、敷居が高い。

URAに直接意見を通せる可能性があるので仕方がない。トレーナー会議とは、そういうものだ。

だが、そんな功績を毎年簡単に残せる訳は無く、あくまで優先順位での話である。だから、基本的には平均的に成績が優秀なトレーナーが選ばれる。

 

 

「提案です。この管理体制が正しいかどうかを見極める為に一つ特別な期間を設けます」

 

「今回の件については君が樫本代理のサポートを任命された。僕は君に任せるよ」

 

「ありがとうございます奈瀬先輩。では先ず説明から」

 

 

先輩達が顔を向ける。

そもそも俺が何故樫本代理の側に付いているのかと言うと、アオハル杯の開催により根本的なルール等をたづなさんが新人に教えなければならないからだ。加えてウマ娘にもチーム編成の要項を伝えなければならない。

 

流石にたづなさんでも補佐の仕事とアオハル杯の説明を済ますのは身が持たないので、比較的補佐の仕事が出来る俺が任された。これも、会議で決定した事だ。

 

逆に言えば、今回の改革の状況をいち早く飲み込み、最適な形に変えなければならないのも俺の責任だ。

だから慎重に考えた。

 

 

「チーム間での一時的なトレーナー変更です」

 

「却下だ」

 

黒沼先輩はやいっす。

当然か…そもそも怪我なんてさせたらどう責任取るって話だしな。だが、今回はその点も少し違う。

 

 

「ただし、メニューはそのままです」

 

「…聞こう」

 

「まず、今回の管理体制とは…即ち平等的なトレーニングになる物と思われます。しかし、それならばメニューだけ用意して、医療関係に気を配ればトレーナーの価値が無くなります。ですから、検証するんです」

 

「それは、メニューも練習場所も変えないで、ただトレーナーを変えるだけ…練習の結果によってトレーナーの固有的な指導の価値を探るという事ね?」

 

 

東条先輩は理解してくれたみたいだ。

 

管理体制の正誤を判断するには、どれだけそれぞれのトレーナーの影響力があるかを証明すればいいだけ。

確証性は無いが、トレーナーとウマ娘の信頼関係はレースの結果に出るらしい。つまり、勝負服の様に力が湧き出る何かがある。その理論にも近い。

 

 

「参加は任意です。参加する場合各々のウマ娘とよく話し合って必ず許可を取ってください。トレーナー間の変更はくじ引きで決めます。管理体制が正しいのなら、誰が何処に行っても同じメニュー効率を生み出せるでしょう。だがしかし、それが駄目ならば……ということです」

 

「ウマ娘次第ってことだな。やる気を下げられても困るし、許可を取るのは当然か」

 

「後、新人のトレーナーには基本的に参加は控えてもらいたいと思っています。あくまで管理体制の検証の為なので、大事な彼らの時間に巻き込みたくありません」

 

「と、すると…基本的には中堅以上の実力を持つトレーナーへの伝達だけでいいかな」

 

「はい」

 

 

順調に話が進んでいると、水宮トレーナーがおずおずと手を上げた。

彼女は実力を持ってはいるが、ライスシャワーが一人で自らを鍛え込んだ事に関与出来ず、自信を失った者だ。ナーバス状態を維持していたが、何か意見はあるのか。

 

 

「どうぞ」

 

「あ、あのですね…参加者自体が少なかったらこの企画は…?」

 

「潰れます。新しいのを考えれば良い話です…が、管理体制施行まで時間が無いので交渉が必要です。その点は何とかしますので安心して下さい。念の為皆さんに聞きましょうか。この案に乗るか乗らないか、参考の為に理由も教えて下さい」

 

「じゃあ私から」

 

 

東条先輩が先人を切った。

 

 

「参加するわ…とはいえ私のウマ娘は皆が経験を積んだベテランであり、新入りがいないからこその判断よ。不安があるとすればくじ引きで我が強いトレーナーが来ることかしら」

 

「オハナさん…我が弱いトレーナーなんてこの学園いないぞ…?大人しそうな奴も大抵心にぶっといの隠してるしな」

 

「…そうだったわね」

 

「次は俺が話すぞー」

 

 

次にスピカの西崎トレーナーだ。

彼は東条先輩と知り合いのようだが、スピカにゴールドシップが入るまではあまり学園で見かけたことが無い。

だが、サイレンススズカ、メジロマックイーン、スペシャルウィーク等をどうやって引き入れたのか。手腕が気になる。

 

 

「勿論参加だが、どちらかと言うと俺のチームを担当させられる奴が心配だ。ちゃんとした奴程来ない方がいい。スピカだけでもくじ引き止めて人選んだ方がいいぞー」

 

「分かりました。検討しておきます」

 

「俺は参加しない」

 

 

黒沼先輩は反対の様だ。

いや、反対意見の方が多くて然るべき策だと思ったから驚きはしない。

 

 

「この案を根本的に否定するつもりは無いが、俺の指導は特別だ。例え厳しいメニューだけがあったとしても、俺がいなければあいつ等は追い込まない。本当に自分に厳しかったのはブルボンくらいだからな」

 

「私は参加します…」

 

「あ、僕もです」

 

 

水宮トレーナーと美濃山トレーナーは参加と。

 

 

 

「私も指導で新しいアプローチが欲しいので…こういう検証は大事かと思ったんです…あの子達次第ですけど」

 

「デジタルは別段そういうの気にしませんから。ていうかいつも勝手にやってますし…」

 

美濃山トレーナーは凄い人だ。

なんと言うか…アグネスデジタルの担当を出来るのが凄い。

 

 

「私は参加しません…彼女達も大事な時期ですから」

 

 

南坂先輩は不参加。

続いて奈瀬先輩が口を開く。

 

 

「僕は…参加はするが、一つだけ条件がほしい」

 

「それは?」

 

「この問題の趣旨を理解しているトレーナーに当たって欲しいという事。あくまでこれは検証であり、他のチームを見る事ができる良い機会と考えているトレーナーには参加して欲しくない。決して悪影響が無いとは言えないからね」

 

「分かりました。もう少しルールを組み直します」

 

「頼むよ」

 

 

穴が多い。

ノーリスクで検証できる手段はもうアンケートくらいしか思いつかないが、それは主観が混じりやすい。

加えて管理体制は正しい指導と言える為、反対側の詭弁を追求されればおしまいだ。

 

やはり、樫本代理の信頼を得るしかないのだろうか…。

 

 

「取り敢えず管理体制の施行を先延ばしにしてもらえるように交渉はします…それで延期出来たらウマ娘達の気分も晴れるでしょう……その隙に検証を」

 

「あ、その事なんだが」

 

「なんです?」

 

「うちのスペがな…何か変な雰囲気出しててな」

 

「変な雰囲気…?」

 

「もっと意気消沈してるかと思えば、何か覚悟決めた様な顔してよ」

 

「…管理体制を受け入れたという事では?」

 

「そうだと良いんだがな…いや、良くないのか?」

 

 

あのスペシャルウィークが…?

もっと絶望してるかと思ったが…

 

 

「メジロマックイーンはどうでした?」

 

「マックイーンは分かりやすく頭を抱えていたが、スペに何かを呟かれた途端同じく覚悟を決めた」

 

「……何か怪しいですね。カノープスはどうです?」

 

「特に何もありませんが…あ、タンホイザさんやターボさんは管理そのものにげんなりしてましたね」

 

管理そのものに、か。

スペシャルウィーク達とは違う事に先輩も気づいている。

 

 

「そういえば…クリークがオグリキャップを心配していた…」

 

「デジタルは『クソです』としか言っていなかった気が…」

 

「ブライアンは落ち込んでるし、アマゾンは弁当が作れなくて寂しそうだったわ。後はルドルフが少し反対派ってとこだけかしら」

 

…雲行きが怪しくなってきたな。

今日の昼、何かが起きる予感が。

 

すると突然会議室の扉が空いた。

たづなさんが慌てた様子…それも緊急の用があるのか決死の表情だった。

 

 

「み、皆さん!大変です!ウマ娘達が悔いを残さない様にと食堂が…食堂が半壊状態に陥っています!!」

 

「「「!?」」」

 

 

はん…かい?

 

 

「即座に近くの教職員が説得を試みましたが全滅!庭に投げ捨てられています!」

 

「な、なんだって!?」

 

「今は生徒会の皆さんが止めてくれています!私も二十人程鎮圧しましたが止めきれません!トレーナーの皆さんも説得を宜しくお願いします!では!」

 

 

そう言ってたづなさんは食堂の方向へ戻って行った。

少しだけボーっとした後、俺達は動き出した。手短にやる事を述べる。

 

「皆さん!出来るだけ最初に信用を得ている自分の担当を説得してください!そのウマ娘が友達に説得を心がける事で鎮圧が早まります!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

クソッ!彼女達は知っていた!

()()()()()()()を!ただ好きな物を食べて喜ぶのでは無く、自分に対してそれがどれだけの幸福を示すかを理解していた!尊みを理解していた!

 

それが失われるという事は、幸福の喪失を意味する。つまりッ!彼女達は自らの幸福を樫本代理に奪われたと解釈した!これはクーデターであり、アピールであり、存在証明なのだろう。

後腐れのないように食堂に向かうのも当然か!

 

 

「チィ!!」

 

目立つくらいの舌打ちがつい出てしまった。

生徒会が味方なのは喜ぶべき事だが、問題は尊敬を得ている奴が食堂を荒らしている可能性。

 

それは──オグリキャップだ。

 

 

もう六平銀次郎(フェアリーゴッドファーザー)は近くにいない!どうやって彼女を止めるか!?

鍵は…クリークかタマモクロスか……ベルノライト?

 

 

タイシンは問題ない。

シャカールは逃げるだろう。

シガーとアースも問題ない。

オペラオーは…多分問題ない。

 

アルデラミンは大丈夫だとすれば、出来るだけ仲の良いやつの相手をしよう。

 

 

食堂に着くのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

「オイ!お前らよせ!っ!このバカ共!」

 

 

食堂は地獄絵図だった。

テーブルは破壊され尽くし、厨房にはウマ娘が群がっているが、誰一人食品を持っていない。

おそらく、誰かがまだ止めているのだろう。

 

 

俺は近くで奮闘しているブライアンの方へ向かった。

 

 

「ブライアン!」

 

「…!アンタか!見ての通りだ、ヤバい!」

 

「お前は大丈夫だったのか?」

 

「…まぁ、最初はステーキでも沢山食おうと思ったんだがな…こんなの見せられてたら嫌でも冷静になる」

 

「そうか。ルドルフは?」

 

「……五十人くらい止めて最初に脱落した」

 

「なん…だと?」

 

 

ルドルフが最初に…?

マズイ、勝ち目が無くなる。

いや、本気のウマ娘五十人相手に健闘したなら凄いのか。たづなさんでも二十人でキツイからな…。

 

「あと何人だ?」

 

「分からん…が、恐らく250人はいるだろうな」

 

「5ルドルフか…俺達だけではキツイな」

 

「しかし…皆何故か気絶してるだけで怪我は無い」

 

「ハチャメチャ空間特有の気絶現象だ…気にするな」

 

「ああ…。ん?電話だ。もしもし」

 

『ブライアン!気をつけろ…そっちにオグ──何をするやめっぐぁぁぁぁ!!』

 

「エアグルーヴ!?どうした!おい!」

 

「……」

 

 

何かヤバそうな電話入ったぞ。

 

 

「…どうした」

 

「エアグルーヴが…やられた」

 

「あとはお前だけか」

 

「…いや、一応手伝ってくれてるウマ娘もいるが…無事か分からん」

 

「分かった。じゃあ俺も参戦するから頑張れ」

 

「おい、これを持っていけ」

 

「これは…メガホン?」

 

「大して効果無かったが、アンタなら皆が聞くかもしれない」

 

「感謝する。頑張れ!」

 

「ああ!」

 

 

第二波が始まった。

 

 

 

 

────────

 

 

「ぐあぁぁあ!!」

 

 

また一人トレーナーが吹き飛ばされていく。

倒れているトレーナーとウマ娘達を安全圏に運びながら戦場を駆け回る。

 

見た限りゴールドシップとサクラバクシンオーは止める側に立って、やられていた。

 

 

「ドリンクサーバーは……あれはブルボンか!?」

 

唯一完全に守られている場所はドリンクサーバー。

しかし何故ブルボン一人で…?

 

 

「マスター曰く、私には電子機器を破壊する謎の能力があるそうです。そのことを踏まえて、あなた達が迷惑を考えずにこの場を荒らすのなら私は躊躇いもなくこの機器に触れるでしょう」

 

「「「ぐっ…!」」」

 

「今この機械に最も近いのは私です」

 

 

…その手があったか。

天才、ブルボンは天才だ。

 

ならここは心配無いな。

通りざまにグッジョブサインをすると、律儀に返してきた。本当にナイス。

 

ならば正面の激戦区に突撃するまで。

 

 

「ぎゃァァァァァァァァ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 

この世のものとは思えない叫びと普通の声が聞こえ、二人の影が飛んできた。

 

「くっ!」

 

 

慌てて二人をキャッチする。

 

「た、助かったわ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「タマモクロスにライスシャワー…何があった!」

 

「ウチはオグリを説得しようとしたら…なんか他のやつに飛ばされたんや…」

 

「私はマックイーンさん達に…」

 

「…くそ、タマモクロスはともかくライスシャワーにまでそんな事を……限度がある」

 

「待てや聞こえたでともかくってなんや」

 

「取り敢えず説得は無理だ…この人数は恐らく……実力行使で」

 

「アカンで死ぬでホンマ」

 

「やるしかない。骨は好きに拾え。俺は行く」

 

「ら、ライスも行きます!」

 

「…ウチはもう一回あの地獄に向かうんか…クリークがいるからなぁ…行くしかないんか…」

 

「ちなみにこっちの主戦力は誰だ」

 

「クリークと奈瀬さんにスピカのトレーナーや」

 

「相手は?」

 

「オグリとスペとタイキとマックイーンプラスα百人くらいや」

 

 

何だそれは。

勝ち目がなさすぎる。それにしても極端に大食いのウマ娘はそんなに居なかったはずだ。

普通のウマ娘まで…何故こんなに纏まっている?

 

 

「……シリウスシンボリか」

 

「せや。アイツがリーダー格やった…やったんやけどな…」

 

「…?」

 

「予想外に騒動になったせいで人知れずやられてたわ」

 

 

……不良をまとめ上げるカリスマはあるがこれ程とは思わなかったんだろうな。自業自得か。

 

 

取り敢えず、死ぬ気で突撃してみる。

テルモピュライの戦いの様な物だが、こちらの戦力は無いと思ったほうがいいだろう。スパルタでも何でもないからな。

 

 

だが、有利なのはスペース管理だ。

数百人もいれば縦に広がらなければいけないのはあっち側。堅実に抑え込んでいれば倒せる可能性はある。

 

即座に職員だけが入れる裏口から救援に行く。

 

 

「おう秋道!これ使え!」

 

「西崎さん!これは?」

 

「大鍋の蓋だ!汚れてないから安心しろ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 

これで攻撃を防げという事だろう。

殴ってくるわけじゃないが、掴まれたらさっきの二人みたいに投げ飛ばされるということだ。

 

それに西崎さんは最強の耐久力を持つ。

前にスピカのメンバーの蹴りを食らっていたがすぐに復活した。

肉壁にはもってこいの人材だ。

 

 

主力はクリーク、次点にタマモクロスとライスシャワー。

肉壁に西崎トレーナー、奈瀬先輩と俺は時間稼ぎ役だな。

 

 

 

タイキシャトルが攻め込んできたので割り込む。

…鍋が軋む音がした。奈瀬先輩がクリークと一緒に守る理由も分かる。てか冗談じゃない、腕が曲がりそうだ。

 

 

「ぐぅ、おおおおおお!!!」

 

「どいてください邁!」

 

「こと、わる!!」

 

「ワタシ達はただ楽しく食事をしたいだけなんです!」

 

「今更何言ってんだぁぁぁぁぁ!!」

 

「人を傷つけたくは無いんです!」

 

「こんなことしたら…東条先輩が怒るぞ!怒ってる!てかあの人どこ行った!?」

 

「くぅ!ですがコチラも引けない物があります!プライドです!」

 

「ぐ、がぁぁぁぁぁ!?」

 

 

無理だ…。たづなさんはこれを二十人…だと?

拮抗どころか鎮圧したあの人は何者なんだ。

 

 

「ぐ…お前がもし改心して、周りを説得すればまた皆で食卓を囲める!だから今は下がれ!」

 

「わ、ワタシは…」

 

 

あと一息で味方にできる!

…と、思ったらタイキが誰かに引っ張られて外側に行った。

 

 

「助けに来たぞサブ公!」

 

「ヒシアマゾンか!!」

 

「他はリギルが沈めた!後はここだけだ!!」

 

 

東条先輩はリギルを集めていたのか。

いや、リギルだけじゃない。スピカもカノープスも段々集まってきた!

 

 

「あとはヒシアマ姉さんに任せ…て…え?」

 

「止まるなアマゾン!」

 

 

タイキを止めた時点で油断したヒシアマゾンは飛ばされた。

くそ!姉貴分でもお構いなしか!ホントに樫本代理は生きて帰れるのか!?フジキセキまでやられたのが見えた…。

 

俺達は数の暴力にまたもや押され始めた。

 

スマホをポケットから出しシャカールに繋ぐ。

恐らく教室にいるだろう。

 

「シャカール!今すぐアルデラミンを集めて食堂に来てくれ!ついでにタイシンにはBNW、オペラオーにはメイショウドトウ、シガーにはシービーを呼ばせてくれ!頼んだ!」

 

『アァ!?今何が起きてんだ!下からすげェ音なってんぞ!』

 

「生徒達が反旗を翻して食堂を崩壊させた!トレーナーと大食いと生徒会とチームが入り交じる総力戦中だ!」

 

『なにィ!?バカか何やってんだお前ら!?』

 

「手短に言う!もう無理助けて!!」

 

『しょうがねぇなァ!!』

 

 

これで戦況はマシになるか…。

本当は()()()()()()()()()()()のだが、もしもがあったら困る。

 

 

「オグリちゃん!止まって!」

 

「止まれないんだ…私は!!」

 

「うそっ…!蓋が…!」

 

 

オグリキャップの指が蓋を抉り曲げている。

化物だ。芦毛の怪物ここにあり。タマモクロスとライスシャワーもキツそうだ。

 

もうメガホンを使って無理矢理止めるしかない。

 

 

「皆!耳をふさいで!」

 

 

皆の反応は早かった。安心して声を出せる。

 

 

「スゥ…」

 

相手はまだ気づいていない。

注意を向ける言葉はやはり…管理体制の内容だろう。

 

 

「管理体制についての情報がある!聞け!!」

 

「────」

 

 

一気に場が静まった。

程なくしてオグリキャップがスタスタと歩いてくる。その目は正に怪物。此方の考えを見定める目だ。

 

 

「聞こうか」

 

「食事を制限すると言っていたが、本人は休日の外食程度は認めると言っていた」

 

「それで?」

 

「きっと、お前らを苦しめたくて管理制度を決めた訳じゃない。それは分かるだろう?」

 

「それで私達が止まる理由にはならない。来週?早すぎる。正当な理由を話すべきだ。そのせいで腹の音も鳴り止まない」

 

「なら、俺が交渉する!延期…もしくは中止できるよう取り合う!」

 

「何日かかる?」

 

「話をつけて…更に代理を納得させる必要がある…早くて3日かかる」

 

「駄目だ、待てない」

 

 

く、くそ…。

オグリキャップが近づいてくる。肩を掴んで、俺の目を覗き込んでくる。

『お前はどちら側だ?』と明確に探ってきている。ルドルフより怖い。

だが動揺しては駄目だ。責任を持って強く在る。

 

「今日には話をつける。だから、頼む…引き下がってくれ」

 

「いいだろう。嘘じゃないな?」

 

「ああ」

 

「なら君に任せるよ。でも肝に銘じてくれ。私達は君の不義理を許さない。君が彼女と話して、成果が得られないのなら…私達の気持ちはどこに向かうんだろう」

 

 

こ、殺される。樫本代理め…。

 

「皆、帰ろう」

 

 

オグリキャップは他の奴を連れて帰っていった──

 

 

「いや、帰れる訳無いだろう。何だこの有様は。貴様ら、ただでは済まさんぞ」

 

 

──が、入口にいた東条先輩が待ったをかけた。

あんなに殺気立っていたオグリキャップ達が一瞬で顔を青くした。目の前にいるのは鬼。

 

「全員で掃除だ。オグリキャップ…ついでにタイキ。貴様らはそれ相応の対応をする」

 

 

……たすかったぁ。

 

 

 

 

───────

 

 

 

「で、オレ達はパシリって訳か」

 

「タイミングが悪かった…すまんシャカール」

 

「…まぁオマエに怪我なくて良かったけどよ、こんな事なってたのか…」

 

「アタシ来ても意味なかったと思うけど」

 

「人手が欲しかった…わかってくれタイシン…」

 

「授業潰れたのは嬉しいけどね」

 

 

職員が気絶したお陰で授業は中止、加害者は全面的な掃除と説教、他は被害者の気付けと予備の配置だ。

 

一番驚いたのは、今横にいるオグリキャップだ。

実は俺の言ってることが本当かどうかが気になっていただけで、脅しているつもりも無かったらしい。

いや、興味だけであんな目出来るのか…。

 

 

「本当に…すまない」

 

「お、オグリちゃんもこう言っているので…その、許してあげてくれませんか?」

 

 

説教後の涙を引き継いで謝る彼女を見てるとクリークと同じく許したい気分になってくる。

だが、被害者の気持ちを考えると何とも言えない。奇跡的に皆無傷だが。

 

あと、首謀者のシリウスシンボリは生徒会室に飛ばされた。本人の目論見からは大きく外れたが、惨状を引き起こしたのは事実。起きた時にはルドルフの前だろう。合掌。

 

 

「…………俺はもっと怒っていいと思うんだが」

 

「でも、怒れないのが君だ」

 

「あ、奈瀬先輩」

 

「クリークがいなかったら僕もやられていた」

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ」

 

無事だったドリンクサーバーから飲み物を持ってきてくれた。無論オグリキャップ以外にだが。

 

 

「うう……」

 

「掃除しなさい」

 

 

先輩の厳しい指摘にオグリキャップは雑巾を握りしめる。

 

 

「…くそ、オグリキャップ。飲め」

 

「いいのか!?」

 

「ああ」

 

「ありがとう!!」

 

 

…クリークの気持ちがわかる気がする。

泣き顔は駄目だ。ボロボロ時代のタイシンを思い出す。

皆がため息をつくと、ドタバタ走る足音が聞こえた。

 

もう間隔だけで分かる。

シービーだ。

 

 

「邁ー!助けに来たぞー!!」

 

「遅い…」

 

「大丈夫?手足折れてない?風穴空いてない?てか生きてる?幽霊じゃない?カフェちゃん呼んでこようか!」

 

「うるさ…」

 

「シャカール!先輩は敬うもんだよ!」

 

「へーい…」

 

 

心底だるい奴が来たとシャカールがげんなりする。

 

 

「それで奈瀬先輩…今回おかしい所ありませんか?」

 

「奇遇だね、僕もそう思う」

 

 

それは──樫本代理がどこに行ったという話だ。

顔くらい出してけ。

 

「まぁ…管理体制が間違った話ではないにしろ、少々急すぎるよな」

 

「シャカールですらそう思うんだ」

 

「タイシン。オマエはどう思う」

 

「別に。アイツは気に入らないけど」

 

「そういう事だ」

 

 

そんな本音の会話を聞いていると、電話が鳴る。

たづなさんからだ。

 

 

『秋道君!お疲れ様です!』

 

「お疲れ様です。どうしました?」

 

『樫本代理を見つけました』

 

「どこにいたんですか?生徒に連れ去られてないか心配してたんですけど」

 

『廊下で大の字で倒れてました…』

 

「……は?」

 

は?

 

 

『どうやら…我先に騒ぎを止めようとして廊下で走ったら転んだようです…。それで腰が…』

 

「分かりました。後で保健室に向かいます」

 

『では、私もそこに向かいますので…』

 

「ありがとうございます」

 

 

樫本代理…本当は勇者になれる存在だったのかもしれない。

まさか唯一の怪我人とは…でも責任感はあったんだな。安心した。

 

 

「樫本代理は保健室にいます。転んだみたいですね」

 

「間抜けだね」

 

「間抜けだな」

 

「お前ら口悪すぎないか?」

   

タイシンとシャカールは躊躇いがなさすぎる。

 

 

「順当だと思う」

 

「オグリちゃん。手を動かしましょう?」

 

「あ、ああ、分かったクリーク…だからその、怖い顔をやめてほしい」

 

「道具をオシャカにしたのはオグリちゃんですよー?」

 

「ひぃ!?助けてくれ秋道さん!」

 

「…」

 

 

クリークも怒るんだな。結構迫力ある。

 

さて…掃除が終わったらシリウスシンボリの生徒指導と代理への報告…話し合いにウマ娘への説明。

たづなさんが手伝ってくれるにしろブラックだな。

 

生き残ったブライアンがエアグルーヴとルドルフを起こし、次にルドルフがシリウスシンボリを起こして始まった連行。職員全滅の為俺が話を聞かなければならない。

たづなさんが向かうのが一番早そうだが、今は余裕がない。他のトレーナーもほぼ全滅。

 

東条先輩と黒沼先輩では相手の精神を破壊してしまう。

立場的にも、俺が行ったほうが納得するだろう。

 

 

「俺は生徒会室に行きます。ルドルフに呼ばれたので」

 

「あ、アタシも行く」

 

「遊びじゃないぞシービー」

 

「いやね、やりすぎも駄目だと思うのよ。シリウスちゃんにはそれを分かってもらおーかなって?」

 

「…立派になったな」

 

「え、おっさん?」

 

「黙れ」

 

 

まだ21だ。

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

生徒会室の前には門番のようにエアグルーヴとブライアンが立っていた。

 

 

「お疲れ様」

 

「お疲れだな。アンタは無事だったか」

 

「お前のメガホンが効いてな…助かった」

 

「ば、馬鹿な…私が何を叫んでも効果が無かったというなに」

 

 

エアグルーヴは真面目すぎる。

ずっと『止まれ』の様なただの注意を繰り返したのだろう。

 

 

「やっほーブライアン!また可愛くなったね!」

 

「そういうアンタは老けたな」

 

「………アタシちょっと死んでくる」

 

「シービー先輩!?これはですね!そ、そうだ!ブライアンなりのイジリというやつです!」

 

「ふっ……」

 

「ブライアン貴様何を笑っている!!」

 

 

イジるなブライアン。病むなシービー。フォローナイスエアグルーヴ。

そろそろ本題に入りたい。

 

 

「で、中で何が?」

 

「喧嘩中だ」

 

「なる程。ブチギレルドルフか」

 

「そうだ」

 

「分かった。入るぞシービー」

 

「オーケー」

 

 

三者面談といこう。

 

 

 

─────────────

 

 

 

「だーかーらー!飯に関してはアタシの管轄外って言ってんだろ!こっちは単純に反感持ってるやつを集めただけだ!後から着いてきた奴が飯の事考えてたなんて知るかよ!」

 

「では君に責任は無いと。そもそもあの数を集めたのだ。確信犯の様なものだろう。情けない真似はやめろシリウス」

 

「かー!皇帝様は威圧がご上手で!」

 

「調子に乗りすぎだ。言葉には気をつけろ」

 

「どういう言葉だ?お得意の正論まがいの方弁で教えてくれよ」

 

「そうか、残念だ」

 

「残念だよホント!会長様がこんな腑抜けだなんて」

 

 

…思った以上に修羅場だな。

シンボリ家の喧嘩…殺伐としている。

 

 

「来たぞルドルフ」

 

「済まないな秋道君」

 

「ああ…?チッ…アイツの下に付いた腰抜けが。それに性格が丸くなった三冠さんもいるじゃねぇか」

 

 

ルドルフが退出し、そこにはシービーが座る。

俺は横に座り、対面しているシリウスシンボリを見る。

三者面談が始まった。

 

 

「今更なんだ…説教か?」

 

「生徒指導…理由を聞きに来ただけだ。何を思ってこの行動を起こした?」

 

「ハッ…分かってる癖に」

 

「なんか当たり強いね」

 

 

シリウスシンボリとは小学校での付き合いがあった。

高学年特有のお世話係として低学年の彼女と遊んでいたものだ。

『スグ』というあの呼び名が懐かしい。昔から我の強い子だった。だが、悪態癖は無くすべきだな。

 

 

「管理体制が気に入らないか?」

 

「当たり前だろ。今の校風でさえついて行けない奴もいる。管理なんかされたら何も出来なくなるぞ」

 

「他人に迷惑をかけてまでやる事では無い」

 

「中堅共は皆管理体制を良しとしてやがる。ベテランも否定はしねぇ。新人達はあたふたしてるだけで頼りねぇ。だからアタシが変えてやろうと思った。悪いか?」

 

「はぁ…」

 

「アンタには分からないだろうな。そもそも補佐だなんだとアイツの奴隷になったんだ。最初からあっち側の思考ってわけだ。分かるはずもねぇ」

 

「身勝手はどっちって話だよ。シリウスちゃん」

 

「なんだと?」

 

 

シービーが口を開いた。

誰よりも自由なシービーが、身勝手に対して怒っている。

 

 

「確かに管理体制もやり過ぎだし、それに従いたくないのも分かる。でもね、それに反発する事に意義を見出しちゃ駄目。自分達の意思を証明するべきでしょ?君がやってるのは相手の意見を踏みにじってるだけ」

 

「じゃあ代理のとこに突っ込めって事か?生徒の意見だけじゃ変わんねぇよ」

 

「君がどんなに炙れた人の事を理解してるか分からないけどね。協調と扇動は全くの別物だよ。行動に正当性が全く無い」

 

「…!」

 

「君は自惚れすぎ。じゃあね」

 

 

 

シービーは言いたい事は言ったとばかりに退出した。

シリウスシンボリは陰ながらシービーの自由性に尊敬の念を抱いており、そんな彼女に言いくるめられたのはかなりのショックだろう。

 

彼女は俺を睨み、言葉を出そうとしているが出ないようだ。

 

 

「……別に俺はお前の行動に矛盾を感じていない」

 

「…」

 

「管理体制に反対していたウマ娘があんなに多かったのは事実。お前が纏め上げ、あいつ等に本心からの行動を出させたのも事実。規模が大きすぎただけで、別にそこまで俺は怒っていない」

 

「…なら、何しに来た」

 

「言っただろ。生徒指導だと」

 

「随分と上から目線だな。教師にでもなったつもりか?アンタはトレーナーで、尚かつ()()()()()()()()()()アルデラミンの担当だろうが」

 

「聞き手の問題だ。たづなさんは忙しい。東条先輩達は必ずお前に怒り、お前はまた反抗するだろう。何度も言わせるな」

 

 

シリウスシンボリは影の統率者だ。校則に則り生徒達を率いるのがルドルフなら、炙れた者を仕切るのがシリウスシンボリ。だが、勝手にコースを占領したり、時間外に練習をさせたりと横暴が目立つ。規則を破るウマ娘達を率いているので、当然真面目なウマ娘達はバカを見る。

 

如何に理由があって規則を守れない者がいるとしても、他者を妨害していい理由はない。

俺は明確な意思を持って彼女の正義を否定し、叩き潰す。

 

俺はな()()()()。お前のやり方が嫌いだ。

 

 

 

「アタシを理解したつもりか?」

 

「誰も彼もがお前の事を分かっている。お前の行動理念も、お前の正義もな。だからこそ皆いつもお前を批判するんだ」

 

「バカにしやがって。アタシ達を理解してるんなら何故校則で縛る?」

 

「……お前いい加減気付け」

 

「っ…オイオイ結局キレてるじゃねぇか?なんだよ気づくって?」

 

「甘やかされてるって事にだ」

 

「ハイハイ温情ね。皇帝さんの優しさと学園の校風でアタシ達は何とか意地っ張りでいられますってか?」

 

「そうだ」

 

「ふざけんな!!」

 

「ふざけてるのはお前だろうが!!!」

 

 

俺は基本的にはウマ娘には自由にやらせてあげたい。

そして、彼女達は強くなる為にトレーナーに自ら厳しく、徹底されたメニューを要求する。それ等を乗り越えた先に信頼関係が構築され、より強固な存在となる。

だから、管理体制を完全には否定せずとも…樫本代理の様に強行策を取ることを良しとしなかった。だから彼女にも取り合って、トレーナー会議で話し合う事にした。

 

物事には責任が伴う。

樫本代理にも責任が発生し、彼女は一人でそれを背負うつもりだ。今回一人でウマ娘達に相対しようとしたのもその考え故だろう。樫本代理の人間性に対して俺は敬意を評する。

 

だから今のシリウスは許せない。

 

 

「お前は確かにウマ娘の苦しみを理解して、救おうとしたのかもしれない…。だが、お前は結局の所理念の為なら手段を選ばず、その手段の責任を放り捨てる。ルドルフだって管理体制に対しては反対派だ。じゃあ何故お前達を止めたと思う?それはお前らがただ他人を困らせる──ガキの真似事をしたからだ!」

 

「黙って聞いてりゃ偉そうに…!見て見ぬふりの何が正しい!所詮理事長代理の肩書に気圧されて対策を先送りにしてた奴等の怠慢だ!」

 

「批判するだけなら誰にも出来るし権限もある。ただし行動でそれを示し、他者の行動に干渉したのならそれは別の派閥だ。お前はただ行動するだけが正しいと思っているのか?責任感の無いやつが何かを引き起こした所で、誰も本質を組み取らない。シービーが言った通り、今回のお前は他者を扇動しただけの自己満足だ」

 

「ッ……ああ分かったよ…!好きにしろ!!結局何もしなかった奴の正論がアタシ達をバカに仕立て上げる!こんな環境願い下げだね!!」

 

「…!」

 

 

──言うな。

それを言ったら俺は…。

 

 

 

 

「停学でも退学でも勝手にやれよ!!」

 

「お前ッ!!!」

 

 

 

 

──そのとき。初めてだ。

 

 

 

 

初めて…人に暴力を振るって……シリウスの頬を…()ってしまった。

 

シリウスは言ってはいけない事を言った。

だが、言葉で諭す場に最も適していない行動をしてしまった。俺は人に危害を加えてしまった。

 

後悔よりも怒りが上回った。

情けない話だが、それでもシリウスに言ってやりたかった。そして、シリウスに言ってほしくなかった。誰にもここを嫌いになってほしくなかった。

 

 

「ッ……なに、しやが、る…」

 

「お前は行動の起点になったこの学園すらも捨てるのか。お前の思い出…ダービー…トレーナー…それすらも侮辱して…お前は何がしたいんだ!」

 

「や、やめ……?!」

 

 

シリウスは怯えている。

詰め寄られ、本気で怒られた事が無いのだろう。ルドルフも彼女の理念には理解を示していた。だからこそ話し合いの余地があると認め、常に公平を保っていた。

 

そう、本気で否定された事が無いのだ。

 

 

「ごめ、あ、謝る…から…スグ…アタシが悪かった…から」

 

「…いい。反省して休め」

 

 

言いたい事は言った。その場をルドルフに返そうとしたが、俺の手をシリウス本人が掴んだ。

涙に濡れたその顔を何を意味するのか。

 

「…なんだ」

 

「…あ、その…あ」

 

「まさか…お前は」

 

 

彼女が行った一人の海外遠征、決して楽な事では無く、結果も奮わなかった。ダービーでの意気揚々とした表情も無かった。

 

元々嘘が嫌いで、人を焚きつけるナニカがあったのは確かだが…はぐれ者を仕切り始めたのは海外から帰ってきた時だと今気づいた。

シリウスは落ちこぼれの希望でもあり、仲間こそがシリウスの希望だった。

 

 

「…撤回する。誰もお前を理解していなかったんだな」

 

「…え?」

 

「もう一度、ルドルフと話をしてみてくれ。その後また話そう。ほら、ハンカチやるから」

 

 

慌てた様子で涙を拭く。

頑張って気丈な様子を取り戻そうとするも叶わず、ヘタっとした耳と眉がまた目立つ。

 

 

「それに…トレーナーの大半は管理体制への反対派…というより疑問を抱いている者が多い」

 

「そうなのか…?」

 

「安心しろ。俺もだ」

 

 

悲しげな顔が幼子の様に明るくなり、先程とは違う視線でこちらを見る。

 

「俺達は管理の正しさを問い続ける。管理体制がどうなるかは分からないだろうが、お前の心配する方向へは行かないだろう。打って悪かった…ごめんな」

 

 

 

最後に頭を下げて、生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

外に出るとエアグルーヴが心底驚いた表情でこちらを見ていた。

 

 

「…なんだ、そんなに意外か」

 

「ウマ娘至上主義の激甘たわけ男だと思っていた…」

 

「失礼だろお前」

 

「ま、あれは妥当だな。アンタじゃなくても…オハナさんは殴ったな」

 

「だとしてもやってしまった」

 

「いや、本来なら私がやるべきだったよ」

 

「…ルドルフ」

 

「君は怒っても優しい。優しいから怒ったんだろうね。私も、彼女への理解が足りていなかった様だ」

 

「…今からでも話しておけ」

 

「そうするよ」

 

 

 

俺は次に保健室に向かった。

 

 

 

 

 

 

───────────

 

 

 

「樫本代理ー。無事ですか?」

 

「あ、秋道トレーナーですか。今体勢を変えますので…ぐぅ!?」

 

「横のままでいいです」

 

「助かります…。今日ほど我が身の脆さを呪った日はない」

 

 

樫本代理はベッドに寝かされていた。

多分ギックリ腰とかじゃ無く肉体強度の問題だよな…?

 

 

「今回の騒動の理由は分かりますね」

 

「はい。管理体制への反対は予想していましたが…ここまでとは思わなかった。一先ず体制への移行は一ヶ月後に延期とします。それと、暴れたウマ娘に関しては不問で」

 

「…いいんですか?」

 

「私の不理解が招いた事。今のトレセン学園の彼女達を知ろうとしなかった私の甘さです。それに朝会の態度も悪かった…」

 

「ありがとうございます」

 

「…何故貴方が礼を?」

 

「色々あったのです」

 

「そうですか」

 

 

樫本代理──トレセン学園に巻き起こる新しい時代は、どの様に変貌を遂げるのか分からない。だが、彼女が悪い方向に持っていくとはとても思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

何故なら彼女は──俺と同じ思考回路だからだ。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

 

「スグの奴…」

 

「少しスッキリしたかな。お姫様?」

 

「ルドルフお前…!」

 

「ふふ…茶化しすぎたか。弱味を見せれる人間がいる事は良い事だよ」

 

「…そんなんじゃねぇよ。ただアイツとの付き合いがこの学園の中で一番長いってだけだ」

 

「やけに解説風…自慢かい?」

 

「ハン、アンタに自慢してどうすんだよ」

 

「じゃあ、外にいるブライアンへの当てつけかい?」

 

「…さてな」

 

「悪い顔だぞシリウス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か自然にマウント取られてるぞブライアン」

 

「下らん。さっきまでぴーぴー泣いてた先輩が情けない事だ」

 

「お前…強くなったなぁ。昔のお前だったら壁叩いて黙らせてただろうに」

 

「結局アイツを捕まえられてないんだからな。カワイイ奴だ」

 

「あ、シリウス先輩がキレた音がした」

 

「じゃ、頼んだぞエアグルーヴ」

 

「そこで振るのか…」

 

「食堂は早いうちに直さなくてはな。珍しく働くから大目に見ろ」

 

「段々秋道に似てきたな……」

 

「…姉貴の落ち着きが移っただけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

EP4 一等星の狂騒(シリウスの意地)

 




樫本理子
・イメージと性格が全然違ったあの人。アプリをやっている皆さんはこの人の管理体制に大賛成だと思います。あの短期間でチームファースト仕上げるってこの人マジ…?


シリウスシンボリ
・顔と声が良すぎる。反対派で食堂を牛耳って樫本代理への反抗を企てたが、他の人の食欲が強すぎて食堂破壊にまで至ってしまった。小学校はずっと邁と一緒にいた。その為か大変入れ込んでおり、邁がトレセン学園に来た時点に渡り自分のトレーナーにしようとずっと思っていたが、尊敬するシービーとぽっと出のブライアンに取られ一人で海外遠征に。今でもブライアンには無意識にガンを飛ばす。


タマモクロス
・皆が鍋の蓋で暴走ウマ娘を跳ね除けている間、蓋の数が足りなくて素手で応戦していた悲しきウマ娘。自分を投げ飛ばしたウマ娘の顔はきっちり覚えている。


オグリキャップ
・腹が減って集中するとシンデレラグレイ時の怪物顔になる。食べ物の恨みは恐ろしい。


スーパークリーク
・実は暴走ウマ娘70人を跳ね除けたMVP。体格に恵まれた。


シンボリルドルフ
・彼女を倒したのはヒシアケボノ。


西崎トレーナー
・アニメ一期のトレーナー。個人的にしっくりくるので、初期案の名前を引用した。


水宮トレーナー
・アニメで一瞬登場したライスシャワーのトレーナー。名前と性格はオリジナル。


美濃山トレーナー
・オリキャラ。変態。


ミホノブルボン
・強キャラ。




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