FATE/BiOHAZARD   作:ダイアジン粒剤5

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タイラント

 タイラントの外皮は、最早外殻と言っていい程に岩の如く硬い。

 小銃の銃弾など余程の大口径でもなければ弾き返すし、両手持ちのマシンガンの乱射を受けても意に介さず攻撃を続ける。

 最強の生物兵器の名に恥じない戦闘能力を持つ、狂気の企業アンブレラ社の最高傑作。

 単騎にて完全装備の一個小隊を凌駕する怪物、それがタイラントである。

 

 だが――そんなタイラントとて、単騎にて戦略爆撃機に匹敵すると言われる人類最強の兵器、サーヴァントが相手では分が悪かった。

 岩の如く硬い外皮も鋼のような筋骨も、森長可の振るう人間無骨の前には無意味。

 首を獲られる者、胸から脇腹にかけ袈裟懸けに裂かれる者。

 最強の生物兵器タイラントが、ただの一兵卒の如く切り捨てられていく。

 

 ならばと数に任せて無力なマスターである藤丸立香を狙うも、そちらも上手くいかない。

 アスクレピオスとピアーズ、二騎のサーヴァントが守りを固めているからだ。

 アスクレピオスの操る、縦横無尽に宙を舞う機械の蛇。

 それが時に噛み付き、巻き付き締め上げ、更に医神特製配合の毒のブレスを吐く。

 それに翻弄されタイラント達は思うように攻められず、ピアーズもまた電流を放ち感電させることで藤丸に向かってくるタイラントの動きを止める。

 そうして間誤付くタイラントもまた、鬼武蔵の振るう人間無骨に命を刈り取られていく。

 

 ――結局のところ、サーヴァントという超級の個を前に数は意味をなさない。

 

 単騎性能でサーヴァントに劣る戦力がサーヴァントを相手に出来ることは精々時間稼ぎであり、その事実はどれだけ数を揃えても変わらない。

 サーヴァントを相手にするなら、最低限サーヴァント級の力がなければ勝機は皆無なのだ。

 サーヴァントとまともに戦えるのは同じサーヴァントか、またはそれに準ずるモノだけ。

 

 今回の場合、それに該当するのは――十数体のタイラントを全て倒した後に現れた、深紅のタイラトがそうだった。

 

 「……鬼?」

 

 日本人である藤丸がそう呟いたのは、至極当然である。

 カルデアにいる、酒呑童子や茨木童子とは違う。

 頭には角が生え筋骨隆々で赤い肌をした、物語の中で語られる赤鬼。

 その深紅のタイラントは、まさに赤鬼といった姿をしていた。

 

 ――赤鬼は咆哮を上げ、同胞たちを屠った鬼武蔵に襲い掛かる。

 

 森長可は今までと変わらず人間無骨を振るい、赤鬼を両断しようとするが――赤鬼は恐るべき反射速度でそれをかわし、人間無骨の柄の部分を掴んだ。

 そして信じられない膂力をもって片腕で鬼武蔵の体を槍ごと持ち上げ、病院の壁に投げつけた。

 

 「行け!」

 

 壁を突き破って飛ばされていった鬼武蔵を確認することもなく、藤丸を狙って突進を始めた赤鬼。

 それに対処すべくアスクレピオスは杖を操り機械の蛇を差し向け、毒の息を赤鬼に吹きかける。

 

 ――だが赤鬼は、それを意に返さない。

 

 毒の息によって皮膚を焼け爛れさせながらも、蛇の尾を掴む。

 蛇は振り解こうと赤鬼の頭に噛み付こうと襲い掛かるが、赤鬼は逆にその首を掴み、そのまま機械仕掛けの蛇の体を力任せに引き千切った。

 

 「喰らえ、化物!!」

 

 赤鬼の胸に、稲妻の奔流が突き刺さる。

 ピアーズの放電だった。

 流石の赤鬼も、電流に焼かれればただでは済まない。

 全身の血管から筋肉、神経まで焼かれた赤鬼は体から黒い煙を出し動きを止める。

 

 ――しかし、それも一瞬のこと。

 

 赤鬼は拳を握り、藤丸の命を叩き潰そうと剛腕を振るう。

 

 「書文先生!」

 

 ピアーズが作り出した、一瞬の隙。

 その刹那の瞬間に新たな英霊の影を召喚していなければ、藤丸は確実に命を落としていただろう。

 中国拳法八極拳の達人、李書文。

 神秘の薄い近代の英霊であり見た目も白髪の老人だが、こと対人近接戦闘に関しては神代の英霊すら凌駕する。

 書文の影は赤鬼の剛腕をいなし逆にカウンターを決め、その巨体を吹き飛ばす。

 

 「…………」

 

 書文の一撃を喰らい吹き飛ばされながらも、大したダメージも無さそうに敵意に満ちた視線を藤丸に向ける赤鬼。

 そこに壁の向こうまで吹き飛ばされていた森長可が、人間無骨を唸らせガレキを吹き飛ばしながら戻ってきた。

 一見すると傷は浅そうだがその体を構築する霊子は解け、体の所々が霧状になっている。

 

 ――基本的に英霊本体と性能差の無い影だが、ことタフネスに関しては話が別だ。

 

 英霊本人なら耐えられる傷でも影では耐えられず、現界を維持出来なくなり消滅してしまう。

 故に影はあくまでサポート、戦闘の主軸は正しく現界しているサーヴァントに任せるのが本来の影の運用である。

 今回行動を共にしているサーヴァント、アスクレピオスとピアーズ。

 彼らはどちらも前線での戦いに向いていないため主攻と助攻が逆転しているが、正直あまり好ましい状況ではないのだ。

 

 「……ピアーズ、あいつの動きを止めるから、その時電撃を放ってくれる?」

 

 だが、この程度の苦境で藤丸立香が怯むことはない。

 

 「分かった、任せろ」

 

 理由も聞かず即答したピアーズに頷くと、藤丸はアスクピレオスに視線を向けた。

 

 「アスクレピオスは、森君と書文先生の援護を」

 

 藤丸の言葉に、アスクレピオスは黙って数本のメスを取り出す。

 医者とはいえ、アスクレピオスも黄金の羊毛を目指す大冒険を潜り抜けた英雄。

 主武装である蛇を失ったからといって、戦う手段が無いわけではないのだ。

 

 「森君、書文先生! 行って!!」

 

 共に進む二人の英霊の意思を確認した藤丸は、自らの召喚した二人の英霊の影に指示を出す。

 

 ――赤鬼に向かって駆け出す、二騎。

 

 決着の時が、迫っていた。

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