FATE/BiOHAZARD   作:ダイアジン粒剤5

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C

 深紅のタイラント――赤鬼に向かい突っ込む、鬼武蔵と李書文の影。

 それに合わせてアスクピレオスが、数本のメスを赤鬼の顔へと向けて投擲した。

 メスは李書文よりも早く赤鬼に向かうが、ロケット弾すら目視して掴むタイラントの反射神経の前にあっさりと腕で払われる。

 その背後に、鬼武蔵が人間無骨を振り上げて迫った。

 だが赤鬼は動じず素早く鬼武蔵の懐に潜り込むと、その体に強烈な拳の一撃を見舞う。

 その一撃により既に霊子が解れかけていた鬼武蔵は現界を保てなくなり、光の粒子となって消えていく。

 

 ――そして赤鬼は向き直り、李書文の攻撃に備える。

 

 一撃をもらうことは、覚悟の上。

 耐えた上で反撃し倒すという意思が、その瞳には宿っていた。

 

 ――しかし赤鬼の視界の中に、李書文の姿は映らない。

 

 どころか聴覚を含むあらゆる感覚器が、李書文の存在を認識しない。

 困惑する赤鬼。

 だが直後、赤鬼の巨体の真前。

 まさに懐と称すべき場所に、李書文のあまり大きいとは言えない姿が出現する。

 

 「!!??」

 

 李書文のスキル、『圏境』。

 瞬き一つの間に天地と完全に合一し、自然の中に溶け込むことにより自らの存在を消失させる絶技。

 赤鬼がアスクレピオスのメスを弾き、鬼武蔵に一撃を見舞った一瞬。

 一瞬だけ李書文の存在を意識から外した隙にスキルは発動され、李書文は完璧な奇襲に成功した。

 困惑により赤鬼の気は緩み、懐に入られた以上如何なる迎撃も不可能だ。

 

 「宝具解放!」

 

 藤丸の指示により、李書文の宝具が赤鬼に突き刺さる。

 猛虎硬爬山。

 无二打とも言われる、宝具の域にまで高められた一撃必殺の術技。

 

 ――赤鬼が後退り、その全身に亀裂が入り激しく吐血する。

 

 今回の猛虎硬爬山、その威力は李書文だけの力により出されたものではない。

 森長可のスキル、『鬼武蔵の遺言状』。

 自身が戦闘不能になった時に発動されるこのスキルは、僅かながらも味方の力を上昇させる。

 李書文単独で放つより、更に威力を増した猛虎硬爬山。

 それは確かに、赤鬼に致命傷を与えた。

 

 ――だが、絶命には至らなかった。

 

 一撃必殺の魔技とはいえ、それは飽く迄も人間相手の話。

 人を素体にしているとはいえ、既に人間を逸脱した生物と化しているタイラントを一撃で葬り去ることは出来なかった。

 

 ――吠える、赤鬼。

 

 全身の肉が盛り上がり猛虎硬爬山により負った傷を塞ぎ、更に肥大化していく。

 特に両手が肥大化していき、遂には刀剣の如き爪が生え始める。

 

 ――そして、基は人型であったという事しか分からない程の怪物が出来上がった。

 

 その前に、既に李書文の影の姿はない。

 宝具を使い魔力を使い果たした李書文は、猛虎硬爬山を放った直後に光の粒子となって消滅した。

 自身を遮るものが無くなった赤い怪物は爪を振り上げ、藤丸たちを殺そうと憎悪に満ちた視線を向ける。

 そして、見た。

 藤丸を守るように刀を構えて立つ、浅葱色の羽織を着た少女を。

 

 ――死ぬ。

 

 憎悪に染め上げられながらも、深紅の怪物の本能は絶対的な死の予感を感じた。

 故に少女の射線から逃れるべく大跳躍を為そうとしたのだが、駄目だった。

 ピアーズの雷撃が怪物の体を貫き、その動きを一時的に止めたのだ。

 そして怪物が動きを止めたと同時に少女が一歩を踏み出し、同時に破裂音が響く。

 少女の踏み込みが音速を超え、空気の壁を突き抜けたのだ。

 

 ――最早、躱せぬ。

 

 そう観念した怪物は肥大化した両手を前面にかざし、急所たる頭と心臓を守る。

 それと時を同じくして少女が二歩目を踏み出し、その姿が掻き消えた。

 仙術たる次元跳躍にも匹敵する、移動の極み。

 

 ――瞬間移動の如く少女の姿が怪物の前に現れ、必滅の突きたる魔剣が穿たれる。

 

 怪物は、耐えられると思っていた。

 肥大化した両手は太く硬く、巨大化した肉体の耐久度も高まっている。

 仮に先ほど自分を瀕死に追い込んだ技と同程度、あるいはそれ以上の破壊力があろうとも命には届かない。

 生き残れると、怪物は確信していた。

 

 ――そしてその確信を抱いたまま、怪物は死んだ。

 

 絶対の耐久力を持つはずの両手と頭部を、跡形もなく消滅させて。

 沖田総司の宝具たる、魔剣『無明三段突き』。

 それは如何なる守りも耐久力も無視して対象を破壊する、絶対破壊の魔技。

 避けることが不可能となった時点で、怪物の命運は尽きていたのだ。

 

 

 崩れ落ち、地に倒れ伏せる深紅の怪物。

 沖田総司の影もまた、宝具の使用により現界に必要な魔力を使い果たし光の粒子となって消えていく。

 

 ――そしてそれを見届けた藤丸立香もまた、膝から崩れ落ち地に肘をつく。

 

 「マスター、大丈夫か!?」

 

 藤丸の顔は青白く汗をびっしょりかいており、その息はフルマラソンを走り切った後の如く荒かった

 

 「いったい……!」

 

 困惑するピアーズ、しかし傍らの医神の行動は早かった。

 藤丸の状態を支えた上で仰向けにし、その口に懐から取り出した薬液の瓶をあてる。

 

 「飲め」

 

 藤丸は逆らわず、口に当てられた薬液を飲み干す。

 すると顔色が戻り息も整い始め、藤丸の体調は回復してきたようだった。

 

 「ありがとう、アスクピレオス。 楽になったよ」

 

 「体力の使い過ぎだ。 もう少し安静にしたら、この栄養剤を飲め。 それで行動に支障が無い程度には、回復する」

 

 アスクレピオスから栄養剤を受け取った藤丸は片膝を立てて床に座り、一息を吐いてピアーズに向き直った。

 

 「ごめん、ピアーズ。 驚かせたかな?」

 

 「いや……。 だが、やはりあの英霊召喚というのはリスクもあるのか?」

 

 「リスクなんて無いよ。 ただ召喚には俺の魔力を使うんだけど、俺は魔力を自力でほとんど生成できないから体力で代用してるんだ。 だから使いすぎると疲労するし、限界を超えると指先が壊死しちゃったりするんだ。 今回は森君の宝具の常時展開に書文先生と沖田さんの召喚、それに宝具使用で体力を使いすぎて眩暈を起こしちゃった。 大丈夫、アスクレピオスの薬で回復したから。 このまま地下にいる元凶を、倒しに行こう」

 

 歴戦の戦士のように力強く笑う、藤丸。

 その姿にピアーズは、悲哀のようなものを感じた。

 

 (相当の場数を踏んでいるとは、感じていた。 だがその桁は、間違いなく俺の想像を遥かに超えるものだ。 俺なんかとは、比べ物にならない。 クリス隊長並み……いや、ひょっとしたらそれ以上に過酷な戦場を潜り抜けてきたのか)

 

 東洋人というのもあるが、藤丸の顔立ちには幼さが残っている。

 にも拘らず、過酷極まる戦場を数多超えてきた。

 自分のように軍人の家系に生まれ、軍人になるよう幼いころから鍛えられてきた訳でもないのに。

 

 (後が、無いから)

 

 戦ってきた理由は、教えてもらっていた。

 藤丸が諦めれば、全てが終わってしまうから。

 藤丸自身も含めた、何もかもあらゆる全てが。

 

 (守りたい……いや、守らねば。 この街では勿論、可能ならその後も……)

 

 心の中で決意を固めつつ、ピアーズは立ち上がろうとする藤丸に手を差し出した。

 

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