「……街がこんなことになって、妻も死んだ。 それだけじゃなく、娘まで噛まれて、症状が出始めた。 それで絶望していた時に、先生がツレを連れて店に入ってきたんだ」
外への警戒は続けながら、藤丸とピアーズ、ロバートの三人はこれまでの事を話し合っていた。
「それで娘を治療してくれて……。 目に見えて体調が良くなって、症状も治まってきた。 天の助けだと思ったよ。 でも、完治したわけじゃないから病院に治療法を探しに行くって」
ロバートは新たに湧き出てきた涙を拭う。
「正直、待ってる間は生きた心地がしなかった。 何しろ外は化物だらけだ。 もし先生が死んじまったら? もし先生がいない間に娘の病状が悪化したら? 先生に言われた投薬の時間だけは忘れないようにしながら、ずっと神に祈っていたよ」
今までの不安な気持ちを吐き出すようにそこまで言い切った時、奥の部屋からアスクレピオスが出てきた。
「先生、娘は?!」
飛び上がって縋りつくロバート。
そんなロバートにアスクレピオスは淡々と告げる。
「峠は越した。 だが幼い事もあって、体力の消耗が著しい。 しばらくは経過観察だな」
「で、では、娘は助かるんですか?」
「もちろんだ、僕の誇りにかけて合併症など起こさせない」
アスクレピオスの言葉にロバートは再び床に突っ伏して泣き出し、感謝の言葉を呟き始める。
無論アスクレピオスはそんなロバートの様子になど一切興味を示さず、藤丸と共に貰い泣きしているピアーズに視線を向けた。
「次はお前の番だ。 ピアーズといったな? こっちに来い」
突然指名されたピアーズは、目を白黒させる。
「え、俺?」
「そうだ、言っただろう。 この男の娘の命は、ひとまず問題ない。 だから次は、お前の治療だ。 ほら、さっさと来い。 患者は医者の言うことに従うんだ、治りたくないのか?」
細い見た目に似合わず力が強いのか、多少の抵抗を試みつつも甲斐なく引きずられていくピアーズ。
マスターである藤丸に助けを求める視線を送るが、藤丸は諦めを促すように首を振るばかり。
結局ピアーズは、奥の部屋へと連れていかれてしまった。
「――よし」
ピアーズの連れ込まれた部屋から聞こえてくる恐ろしい音から藤丸が全力で耳をそらしていると、泣くだけ泣いて落ち着いたらしいロバートが立ち上がる。
「すまない、みっともない所を見せたな。 ……それで悪いんだが、藤丸と言ったかな? バリケードを造るのを手伝ってくれないか。 俺の娘もお前さんのツレも、しばらくは此処で療養する必要があるだろう。 化物どもが入ってこないようにしたいんだ」
娘の命が助かったことにより落ち着いたロバートは人の好さを滲ませた顔で頼み込んできて、藤丸はそれに笑顔で答えた。
「ええ、もちろん。 俺に出来ることなら、何でもしますよ」
「――私にも、手伝わせてくれないか?」
背後から響いた聞き慣れた声に、藤丸は目を見開いて振り返る。
「大丈夫なのか? あんたも娘と同じで、感染していたんだろう。 まだ休んでいた方が、良いんじゃないか?」
ロバートの気遣う声に、浅黒い肌をした白髪の男は笑顔で返す。
「なに、大丈夫さ。 まだ多少のだるさはあるが、動いて問題ないと先生からのお墨付きはもらっている。 それに
そう言って藤丸にウインクを送った赤い外套の男の名は、エミヤ。
カルデアにて藤丸と契約を結んだ、アーチャーの英霊である。
次回更新は6月7日を予定しています。