――バイオテロの根絶を、諦めない。
兄や友人たちとは違う道、市民の立場からの戦いを私は選んだ。
全ての始まりとなったラクーンシティ壊滅の時。
私はただの学生で、兄達のようには戦えなかった。
兄達の真似をしてアンブレラの研究所に潜入し、逆に捕まり監獄に捕らわれた。
監獄では生涯の友を得、そして喪った。
兄に救われ、監獄を支配していた真の黒幕は兄が倒した。
私は、無力だった。
だから私は、戦い方を変えた。
反バイオテロを掲げるNGO団体テラセイブに加入し、兄達とは違う立場で違う戦い方をすることにした。
バイオテロの被害者を支援し、バイオテロに関わった企業を告発する。
兄達とは違う形で、私は戦い続けた。
その戦いに、きっと意味はあった。
戦いの中で多くの友人を失い、同志だと信じていた友人にも裏切られた。
それでも全ての元凶であるアンブレラ社は崩壊し、その悪意を継いだトライセル社も滅んだ。
戦いの日々に意味はあったと、私は信じている。
だが、バイオテロは無くならない。
アンブレラの生み出した悪意は他の誰かに引き継がれ拡散し、世界に暗い影を落とし新たな被害者を生み出し続けている。
――あの日始まった悪夢は、まだ覚めない。
………
……
…
欠けた夢を、見ていたようだった。
簡易ベッドから身を起こし、伸びをする。
完全回復とはいかないが、それでも心身の疲労はかなり和らいだ。
「起きたようだな、マスター」
声をかけられる。
まだ霞む目を向けると、エミヤが見覚えのある男性と向かい合って座っていた。
赤毛の短髪で、筋肉質な体格をした端正といっていい容貌をした青年。
特徴的だった右腕が普通の腕になり、ひび割れたような顔の傷も無くなっているが、青年が誰かは直ぐに分かった。
「ピアーズ?」
「おはよう、マスター。 どうだ、見違えただろう?」
上げた右手を振り、ピアーズは笑みを向ける。
「あの先生、正直かなり不安だったんだが腕は確かだったみたいだな。 もう元には戻らないと思ってた体が元に戻るってのは、こんなに嬉しいことだったんだな」
嬉しそうにはしゃぐピアーズの姿に藤丸も嬉しくなって笑みを返し、ベッドから立ち上がりエミヤたちの下に向かう。
「雰囲気は怖いけど、アスクレピオスは凄い先生だからね」
「ああ、流石は医神といったところだ」
相槌を打つエミヤ。
エミヤがピアーズに向ける視線は親し気で、眠っている間に随分と親しくなったようだった。
「それで、そのアスクレピオスは? 後、俺はどれぐらい眠っていたの?」
「アスクレピオスはエマの経過検診、君は随分と長く眠っていた。 おおよそ半日、今は翌日の昼過ぎだよ」
「そんなに?」
「ああ、戦いの連続に心身が相当疲弊していたのだろう。 ピアーズの手術は随分前に終わって、私たちはバリケードの改修と周囲の探索をしていた。 それで分かったこともある。 早速で悪いが、情報共有と今後の行動方針について話し合いたいと思うのだが、構わないかね?」
エミヤの問いに頷く藤丸。
ちょうどその時、店の奥から軽食の乗ったトレイを持ってロバートが出てきた。
「おはよう、藤丸。 取り敢えず、これを食べるといい」
そう言ってロバートは、湯気の立つコーヒーとサンドイッチをテーブルの上に置く。
「このサンドイッチは、エミヤさんが外から材料を持ってきて作ってくれたんだ。 後、先生がこれを飲んどけって」
袋に入った薬が二つ、そして水の入ったコップがテーブルに置かれる。
「こっちが食前で、こっちが食後。 忘れず飲むように言ってたぞ」
「ありがとうございます」
食前の薬を水で喉に流し込み、次にサンドイッチを口に運ぶ。
サンドイッチは作られてから時間が経っているようでパンが少し乾燥していたが、エミヤが作ってくれただけあって十分美味しいものだった。
そしてそのカルデアで慣れ親しんだ味がこの特異点にレイシフトしてから満足に食事を摂っていなかったことを思い出させ、藤丸は貪るようにサンドイッチを口に放り込む。
その姿にロバートは軽く微笑み、エミヤとピアーズの隣に椅子を持って来て座る。
彼も話し合いに参加するつもりのようだった。
「……では、食べながらで良いので聞いてくれ。 我々が調べたこの街の現状と、これからの方針についてだ」
次回投稿予定は6月28日です。