「まずこの特異点……街を地獄に変えた元凶と思われる人物、アンブレラ社会長オズウェル・E・スペンサーについてだ。 この男は郊外の工場地帯、及びその地下に存在する研究施設NESTに潜んでいると見て間違いないだろう」
「根拠としては、工場地帯の警備の厳重さだ。 遠目に確認しただけだが、数えきれないほどのB.O.W……怪物共に守られていた。 あれを突破するには最低でも完全武装の一個大隊が必要だ、可能なら航空機による支援も欲しい。 まあどちらにしろ、今の俺たちの戦力で強行突破は難しい。 本拠地である地下研究所にも未知の敵戦力がいるだろうことを考えると、地上の敵との戦いで体力を減らした状態では勝ち目は薄いだろうからな」
「故に、攻めるなら地下からだ。 地上に戦力を展開している以上、どうしても空と地下の警備が手薄になる。 敵の本拠地が地下にあることからも、地下から攻めるのが上策だろう。 ……ただ、問題もある」
そこで言葉を切ると、エミヤは幾つかの印の入った地図を取り出した。
「これはこの街の地図だ。 そしてこの印は、下水道への侵入が可能な下水口の位置を表している。 街の水道局からこの地図を失敬した私とピアーズは、地下水路への侵入経路を探してこれらを一通り巡ってきた。 ……そして結論から言わせてもらうと、これらの場所からは全て侵入不可能だった。 私が地下研究所で見た、乳白色の肉塊。 あれが全ての侵入経路を塞いでいた。 軽く攻撃してみたが、肉塊は相当奥まで詰まっているらしく侵入経路の確保は出来なかった」
「だがこれだけの街の下水道だ、全てに肉塊が詰まってるということはないだろう。 だから侵入時には、道路を破壊し地下水路に降りるしかないという話になった。 エミヤには道路を破壊し、地下への道を造るだけの破壊力がある切り札があるんだろ? それを使って侵入経路を――」
「待ってくれ。 そういう事なら、いい場所があるぞ」
ロバートが手を上げる。
「あんたらが調べたのは、下水口だけだろ? だったら、あそこから地下に行けるかもしれない。 ――この店の目の前にある、警察署。 あそこには、地下に繋がる道があると聞いたことがある」
「そんな物が、あるんですか?」
驚く藤丸に、ロバートが頷く。
「ああ、目の前にあることもあって警察はこの店のお得意様でな。 スターズっていう特殊部隊が持っている銃も一人一人にオーダーメイドした、この店のお手製なんだが……ってそれはいいか。 で、そんな常連の一人だった、今はもう退職しちまった警官が昔言ってたんだよ。 この街の警察署は元々美術館だったんだが、改築された後に署を探検していたそいつが、下水道に繋がる地下道を見つけたって。 そいつは留置所のマンホールからその道を見つけたらしいんだが、なんでも署のエントランスにある銅像の裏にも秘密の扉があって、そこからも同じ道に行けるそうだ。 留置所のマンホールはどれが入口か分からないが、署のエントランスのほうなら分かりやすいだろ。 そこを調べてみたら、どうだ?」
ロバートの言葉に、エミヤが考え込む。
「地元の人間、それも一部の者しか知らないような隠し通路か。 そんなものがあること自体驚きだが、仮にそれが本当にあるとするなら、調べてみる価値はあるだろう」
「道路を壊して進入路を造るより、遥かに隠密性も高い。 そこを通って下水道に降り、そのまま敵本拠地であるNEST2に急襲を掛ける。 俺もその作戦の方が成功率が高いと思うが、マスターはどう思う?」
軍人らしく、最終決定権を
それに対する藤丸の答えは、決まっていた。
「行こう、警察署に」
既に食事を終えていた藤丸は立ち上がって答え、エミヤとピアーズは頷きを返し後に続いて立ち上がる。
善は急げ。行動は果敢に、迅速に。
三人は、今すぐに出発するつもりだった。
「では、僕も付いていくとしよう」
そんな三人に、奥の部屋から出てきたアスクレピオスが声を掛ける。
「先生! 娘は?!」
「症状は既に改善された、合併症や後遺症の心配もない。 後は安静にして栄養をきちんと摂れば、問題なく完治する」
大きく安堵の息を吐き、感謝の言葉を告げるロバートには興味を示さず、アスクレピオスは店の出口に向かって歩き出す。
「何をしている、早くその警察署とやらに行くぞ」
「いや、あんたまで行ったらロバートとエマちゃんだけが店に取り残されることになるだろ。 ここは誰かが残らないと……」
「なら、お前たちのどちらかが残ると良い。 あの娘が治った以上、ここにはもう患者はいない。 医者は、患者の前にいてこそ意味がある。 警察署とやらには、まだ行っていなかったからな。 新たな症例の患者に出会えるかもしれん。 ……ククク、楽しみだ」
マッドサイエンティスト味溢れるアスクレピオスの言葉に軽く引くピアーズだったが、そういった態度にある程度慣れているエミヤは軽くため息を吐いて言葉を紡ぐ。
「仕方ない、では私が残るとしよう。 今回は飽く迄も偵察、全員で行く必要は無いだろう。 侵入経路を確認し次第撤収し、突入は後日――」
「いや、あんたら全員で行ってくれ」
エミヤの言葉を遮り、ロバートが断固とした口調で告げる。
「外じゃあ何が起きるか分からない。 俺たちのことで、あんた等に迷惑をかけるわけにはいかない。 全員で、行ってくれ。 大丈夫だ、銃の腕には自信がある。 エマと自分の身くらいは守れるさ」
「それは……」
藤丸の異論を手で制し、ロバートは言葉を続ける。
「あんた等は、この街をこんな風にした奴を倒そうとしてるんだろ? それは何よりも優先しなきゃならないことだ。 ……大勢の人が死んだんだ。 俺の妻も、友人も、見ず知らずの誰かも大勢が。 仇を、とってくれ」
強い意志の籠った、ロバートの目。
その目に答えるように藤丸たちは何も言わず頷き、店を出ていく。
ロバート・ケンドは去っていく彼ら四人の背を、見えなくなるまで見送った。
次回投稿予定は7月5日を予定しています。