FATE/BiOHAZARD   作:ダイアジン粒剤5

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ラクーン市警

 「――そういえば、エミヤは何で感染したの?」

 

 ロバートの店から警察署は目と鼻の先だったが、もともとが美術館だったという警察署は相当に敷地面積が広く、目的地である正面エントランスに辿り着くにはかなりの大回りが必要だった。

 そして無論、そこに辿り着くまでにはゾンビを始めとした怪物たちが無数に徘徊しており、戦闘は避けられない。

 

 「そこのアーチャーが見たという肉塊、それが原因だ。 サンプルを解剖して分かったが、肉塊からは街を覆ったウイルスと同種のウイルスが発散されていた。 英霊にまで感染した原因だが、ウイルスからは聖杯に由来すると思われる魔力が検出された。 魔力が籠っていれば、英霊にも効果はある。 大方、黒幕が肉塊の成長に聖杯の力でも利用しているんだろう。 それで感染したんだ」

 

 とはいえ、三騎もの英霊が共にいれば怪物など脅威ではない。

 四人は順調に警察署正面玄関へと歩を進めていた。

 

 「また感染しない?」

 

 「ワクチンを接種したからな、耐性もついているし問題ない。 実際、探索の途中で再び肉塊と遭遇したらしいが感染していないだろう。 ちなみにお前とピアーズ、そしてあの店の人間たちも問題ない。 あの二人には僕が改良したワクチンを接種させているし、お前は元々の毒耐性がウイルスの毒性を抑え込んでいる。 ……そして、ピアーズは面白い症例だったな。 この街のウイルスから派生したのだろうウイルスに適合し、面白い症状を発症している。 ククク、何か面白い傷でも負わないものか。 どのような経過を辿るか観察してみたい」

 

 「あんまり怖いことを言わないでくれよ、先生」

 

 ピアーズは手にした機関銃に火を噴かせゾンビの頭を吹っ飛ばしながら、アスクレピオスに苦言を言う。

 その背にはショットガンにグレネードランチャー、スナイパーライフルなどが背負われており、更には体の各部に銃弾や手榴弾を巻き付けている。

 明らかに人間が持つには過剰な装備だが、ピアーズは重さなど感じていないかのように軽々と動く。

 

 「重くないの、ピアーズ?」

 

 「ああ、まったく重くない。 むしろ今までになく体が軽いな。 これが英霊になるって事なのか?」

 

 「そうじゃない」

 

 アスクレピオスが、向かってきたゾンビの頭部にメスを投げながら言う。

 

 「お前が英霊化により獲得した能力は、手にした武器を宝具化することくらいだ。 お前の筋力や耐久力が強化されたのは、お前が生前投与したというウイルスの効果だ。 生前は変異が酷く本来の性能が出せなかったんだろうが、僕の治療により悪性腫瘍を取り除かれたお前は超人になったんだ。 ――実に面白い。 この特性を利用すれば、僕の医学は更に飛躍するだろう」

 

 不気味に含み笑いをするアスクレピオスを、ピアーズは何とも言えない表情で見る。

 

 「……この先生、俺がBSAAにいた頃に逮捕したマッドサイエンティスト連中にそっくりなんだが。 本当に大丈夫なのか?」

 

 「確かにちょっとアレな所もあるけど、医者の鏡みたいな人だから……」

 

 「その通り、僕は医者だ。 僕には医者として、僕の医学を更に発展させる義務がある。 僕の医学が発展すればそれは人類のためになり、ひいてはお前たちのためにもなるんだぞ」

 

 「そこまでだ、着いたぞ」

 

 エミヤがアスクレピオスの話を手で制する。

 R.P.D。『RACCOON POLICE』と看板の掛かった警察署の正面入り口に、四人は辿り着いた。

 

 「開けるぞ」

 

 エミヤが扉に手をかけ、ピアーズが銃を構える。

 そしてエミヤが扉を開けると同時に、ピアーズは警察署内部に突入した。

 

 「……クリアーだ、敵性個体の姿はない。 入って来て大丈夫だぞ」

 

 しばらくして掛けられたピアーズの言葉に従い、藤丸、エミヤ、アスクレピオスの三人も警察署内に歩を進める。

 

 ――元が美術館であったというだけあり、警察署のエントランスは高い天井を持ち奥行きのある広大な空間だった。

 

 そして最初に目に付くのは、目当ての地下道への扉を裏に隠す巨大な彫像。

 

 「行くぞ」

 

 エミヤが先導し、ピアーズが周囲を警戒しながら四人は彫像の前へと向かう。

 特に彫像の前に立てられたカーテンの裏。

 正面からは死角になった場所、そこに出る前にはピアーズが銃を構えて飛び出す。

 

 「む……」

 

 カーテンの裏には黒い革張りの長椅子があり、その上には脇腹に血が滲んだ黒人警官が倒れていた。

 

 ――ゾンビか生存者か、あるいは唯の死体か。逡巡するピアーズには目もくれず、アスクレピオスは黒人警官の元に駆け寄り診察を始める。

 

 「いや、先生。 危ないぞ、ゾンビだったら……」

 

 「感染しているが、発症はしていない。 だが、随分病状が進行しているな。 これは……」

 

 服を裂いて脇腹の傷の状態を調べ、口を開き口内を確認し、腕をとり脈拍を確認。

 そこまでしたところで、椅子に倒れていた黒人警官が唸り声をあげて起き上がった。

 

 「ダ……だレだ、お前、たチ……」

 

 「よし、意識はあるな。 この指は何本に見える、言ってみろ」

 

 呂律の回らない口調で問うてくる警官。

 しかしアスクレピオスは問いを無視し、指を一本立てる。

 

 「逃、ゲろ……。 俺は、もウ、だめ……」

 

 「僕は医者だ、質問に答えろ」

 

 医者という言葉に、警官の瞳に光が灯った。

 

 「医、者……? 良、カっ……。 い、いや、駄目、ダ。 もう、助からな……。 自分デ、分かっ……!」

 

 激しく咳き込んだ医者は、銃を持つピアーズに目を向ける。

 

 「頼、む。 ウッて、くれ……。 これイジョウの被ガイは、出せない……!」

 

 警官の言葉に、銃口を向けるピアーズ。

 しかし藤丸が、それを制した。

 

 「マスター?」

 

 「待って。 ……大丈夫だから」

 

 しかし藤丸の言葉とは裏腹に警官は苦しみだし、嘔吐しながら床に膝を着く。

 

 ――そして次に顔を上げた時。警官の瞳に意思はなった。

 

 白目をむき、口からは涎と唸り声だけを出す動く死体と化した警官。

 警官は唸り声をあげながら腕を広げ、アスクレピオスに襲い掛かった。

 

 「先生!!」

 

 藤丸を押しのけ、警官を銃を撃とうとするピアーズ。

 しかしその目の前で、アスクレピオスは見事な体術で警官を取り押さえ、そのまま警官が元々眠っていた椅子に懐から取り出したロープで拘束する。

 

 「ククククッ! 僕は実に付いている! まさか、発症したての患者が手に入るとは!」

 

 暴れる警官の口に詰め物をし、腕に何かの薬品を注射して大人しくさせたアスクレピオスは手術用具を取り出しながら嬉しくてたまらないという風に言葉を続ける。

 

 「まずは体内のウイルスの不活性化を……いや、不活性化させ過ぎるのも良くないか? しかしまずは脳だ。 前頭葉の損傷が大きくなりすぎては取り返しがつかん。 既に侵された部分を、まずは切除する必要があるな。 開頭手術を……」

 

 「ええと……先生、あんた、何をする気なんだ?」

 

 ピアーズの質問に思索を邪魔されたのか、アスクレピオスは露骨に舌打ちをする。

 

 「僕は医者だ、患者にすることなど治療に決まっているだろう」

 

 「治療?! 治るのか!?」

 

 更に大きな舌打ちをし、アスクレピオスは答える。

 

 「分からん。 が、可能性はゼロではない。 既に材料は揃っている、後は僕の医術とこいつの体力次第だ。 分かったら静かにしていろ、僕は忙しんだ」

 

 そう言い捨てると、アスクレピオスは黒人警官の治療に専念しだす。

 その全身からはあらゆる干渉を拒否するという意思が溢れ出しており、ピアーズはそれ以上何も言い出せなかった。

 

 「ふむ。 まあ、人命救助は最優先されるべきだろう。 彼のことはアスクレピオスに任せて、私たちは彫像裏の隠し通路を探すとしよう」

 

 重くなった空気を変えるように、エミヤが提案する。

 

 「あ、ああ、そうだな。 マスターも、それでいいか?」

 

 ピアーズの問いに、藤丸は首肯する。

 

 「もちろん」

 

 「よし、では彫像を調べ――」

 

 ――エミヤが動き出そうとした時、何かが風を切る音が警察署の外から聞こえてきた。

 

 瞬間、エミヤは顔色を変え四人の前に飛び出す。

 

 「皆、私の後ろに隠れろ!!」

 

 エミヤの手に薄い紅色の花弁が生まれ、それが広がり始めた。

 

 ――それと同時に警察署の正面入り口が吹き飛び、爆炎と爆風がエントランスに吹き荒れる。

 

 そして爆発により舞い上がる粉塵の奥から複数のロケット弾が飛来し、エントランス内で炸裂。

 警察署のメインホールは、見るも無残に破壊された。 

 




次回投稿予定は7月12日です。
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