投影した矢をつがえた弓を引き絞り、己が標的たるテイロスに向けて構えながら駆けるエミヤ。
その疾走をを阻止しようと二体のイワンは跳躍し、エミヤを殴り飛ばそうと剛腕を振りかぶる。
そして当のテイロスは巨大な左腕をゴリラのナックルウォークのように使い走り出し、エミヤの矢から逃れようとする。
――しかしイワンの拳がエミヤに届くことは無く、過たず放たれた矢はテイロスの装甲の一部を剝ぎ取った。
二人の新選組隊士の影――藤丸の指示を受けた土方と斎藤が、イワンの動きを止めたのだ。
無敵の剣たる斎藤一はイワンの防御を許さず逆袈裟切りにてその巨体を刻み、修羅の剣たる土方歳三は自身の攻撃こそ止められたものの、その宝具『不滅の誠』の副次効果として発生する無数の銃撃によりイワンの体を穿つ。
だがイワンは仮にも最強の生物兵器たるタイラントを、更に強化改造した存在。
その程度では致命傷に至らない。
両腕をコートが敗れる程に肥大化させたイワンは、更に爪をサーベルの如く伸ばし土方と斎藤に襲い掛かる。
だが土方と斎藤はその巨爪による攻撃を難なくいなし、反撃を行う。
そんな二人と二体、刀と爪による斬りあいを尻目に、エミヤは矢継ぎ早に弓を放ちテイロスの装甲を削っていく。
対するテイロスはナックルウォークで逃げ回りながら、誘導機能を持ったロケット弾を発射しエミヤやピアーズ、そして藤丸たちを狙う。
無論エミヤがそれを許すはずもなく、放たれるロケット弾は全て弓で撃墜していく。
――このままでは負ける。
そう判断したのかテイロスは反転し、ロケット弾を撃ちながら突進しその巨大な左腕でエミヤを叩き潰そうとする。
だがエミヤは全てのロケット弾を撃ち落した上でテイロスの攻撃を跳躍して躱し、躱しざまに矢をテイロスの頭に当て頭部装甲を削ぎ落す。
機動力において、テイロスはエミヤの足音にも及んでいなかった。
そして、ピアーズと異形の怪物セルゲイの戦闘。
痛みを希求し苦しみに歓喜する狂気の怪物セルゲイは、ピアーズの放つ弾丸を避けようともしない。
故にダメージは確実に与えているのだが、セルゲイは驚異的な回復力とタフネスで弾丸に耐え、警官の傍から離れられない藤丸とアスクレピオスに迫る。
「さァ! 痛みをォォォォ!!」
弾丸によって刻まれた銃創から血を吹き出しながら、セルゲイは鋭い爪の付いた触腕を振るう。
「マスター!」
「――! 景虎さん!」
爪が届くより一瞬早く、藤丸が新たなサーヴァントの影を召喚する。
七支に分かれた異形の穂先を持つ槍と長刀を構えた白髪の女性、越後の軍神長尾景虎。
彼女は軽やかに刀槍を振るい、セルゲイの触腕を薙ぎ払う。
「オオ! イイ! イイ、痛みだァ!」
触腕に深い傷を負わされ血を流しながらも、セルゲイは歓喜に悶える。
「君たちもォ! 味わってくれ、この、痛みィッ!」
肥大化した顎の先に生えた、棘。
その棘を吹き矢の如く飛ばすセルゲイだったが、それも景虎によって容易く払われる。
「マスターから離れろ、この、アンブレラの亡霊め!」
セルゲイの背に向けて、弾丸を撃ち込むピアーズ。
しかしセルゲイは四本の茨のような触手を使って跳躍し、その弾丸を難なく躱す。
「――――!」
目を見開く藤丸。
一方、セルゲイは跳躍したまま触腕をピアーズに向けて伸ばす。
触腕は既に血が止まっており、先程景虎によって刻まれた傷は完全に塞がっていた。
「ハハハハ! 君も、痛みをォ!」
転がり、間一髪で触腕を躱すピアーズ。
一方セルゲイは触腕をそのまま地面にめり込ませ、それを起点に遠方へと降り立つ。
「どうした、君たちィ!? これでは私ばかりが痛みを感じている! 君たちも私からの痛みを感じてくれ! 互いに、痛みを感じ合おうじゃないかぁッ!!」
昂った声で挑発するセルゲイ。
ピアーズは憎々しげに舌打ちをした。
「狂人が、痛みが欲しいなら勝手に自傷でもしてろ」
「ピアーズ」
一方、藤丸はセルゲイの言葉を完全に無視してピアーズに話しかける。
「俺が隙を作るから、あいつの背中を攻撃出来る?」
「背中?」
訝し気に聞き返すピアーズだったが、すぐにはっと目を見開き、力強く頷き返す。
「ああ、任せろ」
「うん、よろしく。 ――景虎さん!」
藤丸の声に従い、景虎の影がセルゲイに向かって駆け出す。
対するセルゲイは新たに顎に形成された棘を天に向かって打ち出した後、触腕を鞭のようにしならせ景虎に叩きこむ。
――景虎はそれを避けず、左手の刀でもって受け止めた。
刀は触腕にめり込み切り裂き、血を滴り落させる。
その痛み、セルゲイは歓喜の声を出す。
「イイゾォ! 君も、痛みをォ!!」
セルゲイは触腕の先を伸ばし、景虎の頭を握りつぶそうとする。
景虎は右手の槍を突き出し、それを止めた。
更に与えらる痛みに、歓喜のあまり震えるセルゲイ。
「痛みィッ!!」
七支に分かれた穂先によって触腕の先がズタズタになることも厭わず、セルゲイは触腕を伸ばす。
触腕の先は景虎の頭に届きそのまま握り潰し――景虎の影は、光の粒子となって消えた。
――痛みの応酬による歓喜の余韻を体に残しながら、セルゲイは景虎に集中させていた意識を他に向ける。
余裕は、あるはずだった。
棘は弧を描き、藤丸たちに届くよう打ち出した。
ピアーズがそれを打ち落とすには、ある程度の時間が必要になる。
その時間内に景虎は始末できた。
次はピアーズと痛みを与えあい、最後には殺す。
そのつもりだった。
――既にセルゲイの背後へと回っていたピアーズが、その背に弾丸を叩きこむ。
悦びなどの籠っていない、純粋な苦痛の叫びを上げるセルゲイ。
仰向けに転がり暴れ回り、殺虫剤を吹きかけられた虫の如くもがく。
――セルゲイの打ち出した棘は、ピアーズではなく藤丸によって打ち落とされていた。
礼装の力を借りて指先から打ち出す呪い、ガンド。
召喚された英霊にさえ気をつけておけば、マスターである藤丸など何も出来ない無力な一般人。
そう判断し、藤丸の存在を意識から外していたセルゲイの失策であった。
――もがくセルゲイに向けて撃ち込まれる、無数の弾丸。
しかし弱点である背への攻撃ではない以上、大したダメージは無い。
むしろ弾丸により与えられる痛みが悦びとなり気付けとなって、セルゲイは触手を使って起き上がる。
「マダ、だ……。 モット、モット痛みをォォォォ!!」
景虎の槍によってズタズタになっていた触腕は既に元通りに回復し、それを蛇が鎌首をもたげるが如く怒らせて戦意を滾らせるセルゲイ。
しかし、彼にその戦意を解放する機会は与えられなかった。
「ガ、ァ……?」
セルゲイの背に突き立つ、二振りの刀。
それを持つのは二人の新選組隊士、土方歳三と斎藤一。
――いくら強化タイラントであるイワンとはいえ、近接戦一騎打ちでは新選組幹部に叶わなかった。
二体のイワンは既に倒され、二人の新選組隊士は返す刀でセルゲイに切りかかったのだ。
「オ……オォ……。 痛ミ……痛、ミィ……!」
血を吹き出しながら、うわ言を呟いて。
セルゲイは、死んだ。
「やったな、マスター」
強敵の撃破に一息つくピアーズ。
藤丸もそれに答えて表情を緩めるが――すぐに顔を険しいものに変え、叫ぶ。
「一ちゃん! 副長も!!」
藤丸の指示の通り。
斎藤は藤丸たちに向かって来た複数の赤い光線を切り払い、土方は吹き飛ばされてきたエミヤを抱きとめた。
「大丈夫か!?」
「……ああ、何とかな」
口から血を吐き、フラフラと立ち上がるエミヤ。
そんなエミヤに、藤丸は礼装の力を借りて回復魔術をかける。
「有難うマスター、随分楽になった。 ――では早速で悪いが、化物退治に協力してくれるかな?」
眼前を睨みつけるエミヤ。
その先に在るのは、巨大な上半身に蛇のように長く太い骨を引きずる
何より目を引くのは、二対四本の巨爪が生えた体と同じほどに巨大な両腕。
怪物は背から生えた鋭い爪を持つ無数の触手をうねらせながら、縦に裂け牙の生えた口から唸り声を漏らしている。
「――テイロスだ。 倒したと思ったが、あの姿に変異した。 強敵だ、気を抜くなよ」
エミヤの言葉に頷きを返す、藤丸とピアーズ。
そんな彼らを正しく敵と認識したのか。
テイロスは両の巨腕を使って地を這い、彼らへと襲い掛かっていった。
次回投稿予定は7月26日を予定しています。