諸悪の元凶、アンブレラ総帥スペンサーに向かって放たれた無数の弾丸。
しかし、それらがスペンサーに届くことは無かった。
スペンサーの背後で蠢く肉の柱、ニュクス。
そのニュクスの中から飛び出して来た大男が、全ての銃弾を受け切ったからだった。
「……ネメシスか。 やはり、護衛はいるようだな」
ケロイド状の皮膚に唇のない、歯を剝き出しにした大男。
大男の上半身からは無数の触手が生えており、それらをうねらせ唸り声を上げる。
――と同時に。
再び二つの黒い影がニュクスから飛び出し、藤丸たちを襲う。
「ムッ!?」
咄嗟に投影した矢を弓につがえ、影に向けて放つエミヤ。
音速を超えた速度で影に迫る矢だが、影はその矢を空中で軽々と掴み圧し折る。
――起きる爆発。
英霊の宝具を矢に加工して放つエミヤの弓は、破壊されれば
その威力は、例えサーヴァントでも無傷では済まない程のものなのだが――二体の黒い影は、平然と爆発により生じた煙の中から姿を現す。
現れたのは、白く肥大化した両手に巨爪を生やした巨漢の黒人男性。
そして両手両足に恐竜のような黒い爪を生やし、背びれに鋭い牙まで生やした異形の怪物。
その左腕は右腕より二回りは太く逞しくなっており、先についた黒い爪もサーベルの如く長い。
「タナトス、そしてヒュプノス。 ネメシスを含めて、タイラントシリーズの中でも特に強力な三体だ。 神たる私に、直接相手をしてもらえるなどと思い上がったか? お前たちの相手など、この化物共で十分だ。 私には新世界の創造という、重要な仕事があるのだからな」
ニュクスから触手が伸び、スペンサーの体を掴む。
「私はこれよりニュクスと一つになる。 我が身に宿るGウイルスーーTウイルスの化身ともいえる存在と化したニュクスと一体化することで、我らは更なる高みへと至るのだ」
触手により掴み上げられ、ニュクスへと引き寄せられるスペンサー。
「させるかッ!!」
スペンサーに向けて矢と銃弾を叩きこむ、エミヤとピアーズ。
しかし三体の怪物により、全ての攻撃はスペンサーへと届く前に打ち落とされる。
「無駄だ。 私が神へと至るのは、運命により定められた真理。 お前たちごとに止めることは出来ん」
完全にニュクスの中に取り込まれるスペンサー。
――同時に、ニュクスの巨体に電流が走る。
電流はどんどん勢いを増していき、遂に研究所の壁を破壊する程の稲妻へと化していく。
「いかん! マスター、ピアーズ! 私の後ろに!!」
藤丸とピアーズは、その後ろに隠れる。
――さらに勢いを増す稲妻。
その稲妻の中、ニュクスの全身に浮き出した昆虫の複眼の如き核が、スペンサーの右肩に形成されていたものと同じ瞳孔を備えた眼球に変わっていく
――ニュクスの全身から響きだす、スペンサーの声。
『地上の工場に集められた化物共。 奴らは何のために集められたと思う? お前たちの侵入を阻止するため? ――いいや、違う! 奴らは
稲妻を発しながらニュクスの巨体が蠢動を始め、同時に研究所の天井から破砕音が響き、瓦礫が落ちてくる。
『既に町中のゾンビと化物共を、工場に集めている! 奴らを全て喰らい尽くすことにより、
研究所の天井を砕きその先の岩盤を割り、
『お前たちは其処で、そいつ等と遊んでいるがいい。 ――その間に私は、創造主へと至る! そしてもしそいつ等を倒せたなら、その時は見せてやろう。 滅びた旧世界と、私が創造した新世界をな!!』
岩盤を突き抜け、地上へと消えていくニュクス。
――静けさを取り戻した研究所の中、三人は目の前に立つ三体の怪物を睨む。
「景虎さん」
藤丸が白髪に白装束の少女――英霊、長尾景虎の影を呼び出す。
七支に分かれた大身槍と刀を手に、前面に出る景虎。
ピアーズは銃を構え直し、エミヤは干将莫邪の両剣を手にする。
「こいつ等を倒し奴を追うぞ、マスター。 奴の狂気の思想、野放しには出来ん」
「うん、倒そう、二人とも」
瞳に決意を込め、エミヤとピアーズに頷く藤丸。
その姿に笑みと共に頷きを返し、二人の英霊は怪物達に向かっていく。
黒幕を守る最後の壁を、破るために。
次回投稿予定は8月16日です。