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八体に分身した、長尾景虎の影。
そのもとに同じく八頭に分身した景虎の愛馬、ユニコーンの如き角の付いた馬鎧を着た白馬、放生月毛が虚空より召喚され駆け寄ってくる。
景虎たちはその背に跨り、怪物達に向け駆け出す。
その手には刀、薙刀、七支槍が握られており、それらを怪物達に振るう。
無論、怪物達とてただ斬られはしない。
タナトスは残った左腕の白い巨爪を振るい景虎を馬もろとも引き裂こうとし、ヒュプノスは驚異的な跳躍力を持って跳び回り景虎たちから逃れようとする。
――しかし、英霊が召喚した神馬たる放生月毛から逃れることは出来なかった。
景虎の駆る放生月毛は易々とタナトスの爪を躱し、あっという間に飛び回るヒュプノスの前に回り込む。
そして二体の怪物に見舞われるのは、斬撃の嵐。
胴はもちろん顔から足、肥大化した腕まで。
無傷な場所など無い程に、タナトスとヒュプノスの全身は切り刻まれる。
一方、ネメシスは景虎たち相手に健闘していた。
広範囲を焼き払い、例え外したとしても地面で長時間燃え続ける可燃性の混合液を撒き散らす火炎放射器。
四方から凄まじい速度で襲来し自身を切り刻もうとする景虎を寄せ付けまいと、ネメシスは周囲に火を撒き炎の壁を造る。
炎の壁は熱と煙を放ち、放生月毛を近寄らせない。
愛馬が進まぬが故、ネメシスの周囲を旋回するしかない景虎たち。
ネメシスは嘲笑するかのように唸り、旋回する景虎たちを焼き滅ぼすべく火炎放射器を向ける。
――そこに放たれる、一筋の稲妻。
稲妻はネメシスの背に負われた燃料タンクに突き刺さり、タンク内に満たされた可燃性混合液に着火。
大爆発を起こし、ネメシスは炎に包まれた。
「命中だ」
稲妻を放った者は、当然ピアーズ。
ネメシスは周囲を旋回する景虎たちに気を取られ、弱点たる燃料タンクを負う背をピアーズたちに向けてしまったのだった。
「誘導見事だ、マスター」
ピアーズからの賞賛に、魔力の大量消費から来る疲労から顔を青くしながらも藤丸は笑みを返す。
単純な策だったが、上手く嵌ったようだった。
――響く、叫び声。
炎の壁の向こうから、ネメシスが飛び出して来た。
全身には炎が纏わりつき未だ燃え続けているが、手には火炎放射器の銃身が握られ戦意は欠片も衰えていない。
その猛る戦意のままに、炎の纏わりついた銃身を振り回し景虎たちに襲い掛かるネメシス。
だがそんな破れかぶれの攻撃が通じる程、景虎たちは甘くない。
放生月毛を駆り悠々と攻撃を躱し、返す刃でネメシスを切り付ける。
その後に待つものは、タナトスやヒュプノスと同じ。
ネメシスはその全身を、余すことなく切り刻まれた。
――やがて、その姿が薄くなる景虎と放生月毛。
宝具発動による魔力の大量消費で、現界に必要な魔力を使い切ったのだ。
光の粒子となって退去していく、景虎と放生月毛。
そして彼女を召喚していた藤丸は、魔力の大量消費による疲労で膝をつく。
一方、三体の怪物たち。
怪物たちは、重傷を負いながらも生きていた。
細胞分裂の限界か先程までは一瞬で塞がっていた裂傷も今はそのまま残り血を吹き出しているが、それでも唸り声をあげ爪を振り上げ戦意を滾らせている。
――最期の突貫を仕掛けてくる、怪物達。
先行するのはタナトスとヒュプノス。
爪を振り上げ突進してくる彼らを止めるべく、ピアーズとエミヤも飛び出す。
――ヒュプノスに向かい、干将剣を投擲するエミヤ。
ヒュプノスはそれを左腕の一振りで弾き飛ばすが、それにより開いた懐に莫邪剣を手にしたエミヤが飛び込む。
ヒュプノスは右腕でエミヤを迎撃しようとするが、エミヤが莫邪剣を突き刺す方が早かった。
景虎により刻まれた傷を狙って剣を差し込み、ヒュプノスの心臓に刃を届かせるエミヤ。
ヒュプノスは牙の生えた口から、大量に吐血する。
――だが、ヒュプノスはまだ生きていた。
最期の足掻きに勢いよく腕を閉じ、懐で剣を突き刺すエミヤを鯖折りで道連れにせんとするヒュプノス。
だがその足掻きは突如背中から突き刺さる、先程弾き飛ばしたはずの干将剣により止められた。
――干将剣と莫邪剣は、夫婦剣。
離れれば磁石のように引き合う性質があり、弾き飛ばされた干将剣は莫邪剣を求めて前後から挟み込むようにヒュプノスの心臓を貫いたのだ。
――心臓を完全に潰されたことにより、遂に絶命するヒュプノス。
一方タナトスも、ピアーズの手により止めを刺された。
左腕による巨爪の一撃を躱され、心臓に異形化し爪の生えた右腕を突き刺される。
それでもなお生命活動を停止しなかったタナトスだが、ピアーズの右腕は発電能力を持つ。
突き刺された右腕から放たれ、タナトスの全身を焼き焦がす高圧電流。
神経と筋線維を焼き切られ、血液を始めとする全身の水分が沸騰する。
体が焼け焦げ煙を発しながらもタナトスはピアーズを振り解こうと足掻いたが、やがて黒焦げとなって死んだ。
そして、ネメシス。
火炎放射器の燃料だった混合液は未だネメシスに纏わりつき、その身を燃やし続けている。
それでもネメシスがまだ生きていられるのは、その本体たる寄生体αが齎す驚異的な生命力あってのものだった。
――全身火達磨のまま、藤丸に向けて突進するネメシス。
自分ごとを藤丸を焼き殺すつもりの、命を捨てた特攻。
エミヤとピアーズはヒュプノスとタナトスに掛かりきりで、藤丸も宝具使用による魔力の大量消費で動ける状態にない。
ネメシスは、藤丸を殺すことが出来ると確信した。
――だが藤丸は跪いた状態のままネメシスを指差し、指差しから光弾が放たれる。
対象の動きを止める呪い、ガンド。
ネメシスはガンドにより動きを止められ、もんどり打って地面に倒れこむ。
だが、ガンドに込められた魔力が少なかったのだろう。
ネメシスの動きを封じる呪いは直ぐに解け、ネメシスは立ち上がり突進を再開しようとする。
――その僅かな時間で、十分だった。
ネメシスの背に稲妻が突き刺さり、それに続くように無数の矢が全身を穿つ。
ピアーズとエミヤだった。
タナトスとヒュプノスを倒した二人は、返す刃でネメシスを撃ったのだ。
稲妻で全身を焼き焦がされ、矢で背骨や後頭部を貫かれたネメシス。
ネメシスは倒れ伏し、動かなくなった。
「やったな、マスター!」
膝を着く藤丸に駆け寄ってくる、ピアーズとエミヤ。
藤丸は疲労に顔を歪めながらも笑顔を返し、ピアーズの手を借りて立ち上がる。
「うん、ありがとう。 後は……」
そして頭上を見上げ、
「ああ、後は全ての元凶を倒すだけだ。 マスターは私が抱えて登るつもりだが。 ピアーズ、君は?」
「俺は大丈夫だ、自力で登れる。 こんな見た目だが、体調はすこぶる良くてな」
そう言うとピアーズは空洞に向けて跳躍してみせ、空洞の壁面を掴んでぶら下がると笑顔で手を振ってみせる。
その姿にエミヤは軽く苦笑し、藤丸は屈託なく笑む。
「確かに、問題ないようだな。 ではマスター、抱えるぞ。 快適な道行とはいかないだろうが、勘弁してくれ」
エミヤは藤丸の腰を抱え、ピアーズに続くよう空洞へと跳躍する。
そして空洞の壁面を蹴り、地上へと駆け上がっていく。
その姿を見たピアーズも後に続くよう、地上へ。
三人は決着をつけるため、昇って行った。
――そして、三人が消えた後。
倒れ伏していたネメシスの体が震えだし、肥大化していく。
腕が伸び背中が膨れ上がり背ビレのような物が形成され、巨大な四足獣が如き怪物と化す。
四足の怪物と化したネメシスは地面を這い、既に死したタナトスとヒュプノスの前に至ると歯を剥き出し喰らい付き、咀嚼を始める。
喰らうたびにネメシスの体は大きくなり、体はより頑強に成っていく。
ネメシスの足掻きは、まだ終わっていなかった。
次回投稿予定は8月30日です。