FATE/BiOHAZARD   作:ダイアジン粒剤5

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ネメシス

 ニュクスが岩盤を掘り進み作り出した、地上へと続く直径百メートル以上はあろうかという巨大な縦穴。

 その縦穴の壁を蹴り地上へと駆け上がって行くエミヤ、ピアーズ、藤丸の三人だったが、最初に藤丸が後ろから響いてくる異音に気が付いた。

 

 「……? 何かが、上がってくる?」

 

 「どうした、マスター?」

 

 藤丸を抱えて壁を蹴るエミヤが尋ねる。

 

 「何かが、下から追いかけてきてる」

 

 「なんだと? ……いや、確かに聞こえるぞ!」

 

 エミヤと同じく壁を蹴り上がっていたピアーズも動きを止め、壁にぶら下がって眼下を睨む。

 

 「ム……」

 

 二人の言葉にエミヤも動きを止めアーチャークラス特有の千里眼――視力の良さ、を使い眼下の暗闇を透視する。

 

 ――そして、見た。

 

 獣の如き四肢を使い、壁を駆け上がってくる異形の怪物の姿を。

 

 「あれは……ネメシスか?」

 

 眼下に迫る異形の四足獣、その姿には先ほどまで戦っていた大男の面影が微かに残っている。

 

 「……ああ、俺にも見えた。 確かに、あれはネメシスだ。 また質の悪い変異を遂げたもんだ」

 

 そう吐き捨てるピアーズの異形の右腕は帯電を始めており、攻撃の準備は整っていた。

 

 「いい加減しつこいぞ、化物。 ――地獄に落ちろ!」

 

 放たれる、一筋の稲妻。

 しかし稲妻は跳躍したネメシスに躱され、岩盤を削り取るだけに終わる。

 

 「クソッ!」

 

 「悔しがってる場合ではない、来るぞ!」

 

 舌打ちするピアーズを叱咤するエミヤ。

 事実、ネメシスは反撃の態勢を整えていた。

 

 ――持ち上げられたネメシスの右腕が形を変え、長く太い鞭の如き触手と化す。

 

 その触手を伸ばし、正しく鞭として振るうネメシス。

 狙われたのは、藤丸を抱えるエミヤ。

 

 ――エミヤは舌打ちをすると一際強く壁を蹴り、触手による一撃を躱す。

 

 触手の当たった場所では爆弾でも炸裂したかの如き破壊が起き、岩が周囲に飛び散る。

 

 「クソッ!」

 

 再びネメシスに向け稲妻を放ちながら、ピアーズもまた壁を蹴りエミヤの後を追って縦穴を駆け上がった。

 

 ――再びの稲妻も跳躍し躱す、ネメシス。

 

 対面の壁に着地したネメシスは両足と左腕を器用に使い壁を駆け上がり、地上へと向かう三人を追撃する。

 無論、ただ追うだけではない。

 触手を使った鞭による攻撃は、絶え間なく三人に向けられる。

 

 「俺が、誰かを召喚して……」

 

 「駄目だ、こんな状況では誰を召喚しても劣勢は覆せない! 召喚出来るのは後二回なのだろう? まずは地上に出て、その後で仕留めるぞ!」

 

 無理をしようとするマスターを諫め、地上へと駆け上がるエミヤとピアーズ。

 背後から迫る攻撃を幾度となく躱し、上へ。

 

 ――そして程なく、地上の光が見えてくる。

 

 「もうすぐだ、急ぐぞ!」

 

 触手による鞭の一撃を躱しながら、エミヤに声をかけるピアーズ。

 藤丸を抱えるエミヤもその声に頷き、壁をける足に更なる力を籠める。

 

 ――だがネメシスに与えられていた指令は、三人が地上へ出ることの阻止。

 

 ネメシスは三人が地上に出ることを、何が何でも阻止するべく行動に出る。

 先程ピアーズに躱された触手の先端を更に伸ばし壁の奥にめり込ませ、支点に。

 そして手足を強く踏ん張り壁を蹴り、更に触手を引き戻す力をも加えて大跳躍。

 エミヤたちの頭上を越え、上に。

 

 「なに?!」

 

 ネメシスはエミヤたちより上方の壁に着地すると下へと向き直り、咆哮をあげる。

 

 「上から我々を阻止するつもりか! だが、その程度で止めることは……!」

 

 エミヤが言葉を言い切るより先に、ネメシスの体が変異する。

 背中から無数の触手が伸び壁に突き刺さると同時に、体が異常に肥大化していく。

 牙のようなモノの生えた巨大な殻が下半身から複数生え、両腕は体長よりも長く巨大なものに。

 

 ――ネメシスは縦穴を塞ぎ地上への出口を塞ぐほどの巨怪へと、その姿を変えた。

 

 「もはや怪獣だぞ、そのサイズはッ……!」

 

 吐き捨てるエミヤ。

 その声に反応するかの如く、ネメシスは吠え巨大な両腕を叩きつけてくる。

 

 ――避ける、エミヤとピアーズ。

 

 躱せたものの、巨大さに見合った両腕の一撃は縦穴の壁を振るわせ崩落を引き起こす。

 

 「クソッ! 最悪、この縦穴ごと潰れるぞ! アイツ、心中狙いか!」

 

 ネメシスに向かって稲妻を放つピアーズ。

 エミヤも投影した剣を何本か投げつけるが、ネメシスの巨体は揺るがない。

 ただ怒りを煽るだけになり、ネメシスは両腕を激しく振り回す。

 エミヤとピアーズはその攻撃を悉く躱すが、縦穴の壁は更に損壊し崩落の時が迫る。

 

 「俺に、任せて」

 

 脇に抱える藤丸の声に、ハッとするエミヤ。

 

 「……何とか、出来るのかね?」

 

 「うん、頑丈なだけの動かない的だから」

 

 藤丸の言葉に一瞬だけ逡巡したエミヤだったが、すぐに力強く頷いた。

 

 「分かった、任せる」

 

 「うん、任せて!」

 

 力強く応えると藤丸は縁を辿り、カルデアにいる自分に力を貸してくれる英霊へとパスを繋げる。

 

 「来て、魔神さん!!」

 

 藤丸の呼ぶ声に応え、白い長髪を靡かせ白黒だんだら模様のコートを羽織った女性が召喚される。

 女性の名は沖田総司オルタ。

 自身の身長よりも長い漆黒の大太刀を操る、沖田総司の有り得たかもしれない姿。

 

 「絶剱・無穹三段!!」

 

 藤丸による、宝具の真名解放。

 その声に応え沖田オルタは大太刀煉獄を鞘から抜き放ち、両手で構えを取る。

 漆黒の稲妻を纏う、煉獄。

 

 ――放たれる、神速の片手突き。

 

 そして剣先から奔流となって放出される、漆黒の極光。

 極光は太く長い光の帯となり、縦穴を塞ぐネメシスへと突き刺さる。

 ネメシスには巨大な両手で光を覆う暇も、迫りくる光に恐怖の咆哮をあげる暇も無かった。

 

 ――ネメシスの体は光に飲まれ、そして光が晴れた時、そこにネメシスの姿は既に無い。

 

 地上への出口を塞ぐネメシスの巨体は、沖田オルタの宝具により消し飛ばされたのだ。

 

 ――光の粒子となり退去していく、沖田オルタの影。

 

 強力な宝具の使用は、現界に必要な魔力を一気に消費する。

 その膨大な魔力を体力を犠牲に支払った藤丸の顔は、貧血でも起こしたかの如く青い。

 

 「大丈夫か、マスター!?」

 

 ピアーズの叫びに、藤丸は親指を立て笑顔で答える。

 

 「……大丈夫だよ。 あと一回は、問題なく召喚出来る」

 

 藤丸の答えにピアーズは何か言いたげに口を開くが、結局何も言わずに上向き、地上へと向かって壁を駆け上がる。

 軍人の家系に生まれ軍人として生きてきたピアーズは、目の前のやるべきことを優先する訓練が出来ていた。

 そしてその姿を見たエミヤもまた、藤丸を抱え厳しい顔で地上へと駆け上がる。 

 世界を滅ぼさんとする怪物を、倒さなければならないからだ。

 




次回投稿予定は9月6日です。
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