地上は既に夜が明け、青空が広がっていた。
工場地帯のど真ん中に出たからだろう、周囲はコンクリートの壁だらけ。
だが人影も無く物音もせず、不気味な静けさが響く。
「クソ、遅かったか!」
地下から続く縦穴から飛び出して来たエミヤ、ピアーズ、藤丸の三人。
彼らは影の中にいる。
地下で見た時より更に大きく太くなり、天を貫く程に高く成り果てたニュクスの作り出す影の中に。
『愚かしくも地の底から這い出てきたか、新たなる神に逆らう反逆者どもよ』
ニュクスから響く、スペンサーの声。
『まあ所詮は脳無しの怪物ども、役に立たずとも仕方あるまい。 ――さあ空を見るがいい、滅ぶべき旧世界が見えてきたぞ」
ラクーンシティを覆う青空が歪み始め、地響きと共に空間全体が軋むような異音が響く。
『時空が歪み始めた。 あと少しだ。 あと少しで、このラクーンシティは汎人類史の1998年アメリカ中西部に浮かび上がる。 そして此処を起点に我が神体から放たれるTウイルスは世界に広がり、古き人類史は終焉を迎え、私が神として君臨する新人類が住まう理想郷が開かれるのだ!』
勝利を確信した哄笑をあげる、スペンサー。
事実、空の歪みは大きくなり続け狂気の野望の成就が迫る。
「――そうはさせん」
一歩、前に踏み出すエミヤ。
そして右腕を胸の前で組み、足元に青い魔力の渦を生み出す。
「マスター、令呪をくれ。 あれだけのデカブツを取り込み結界を長時間維持するには、膨大な魔力が必要だ。 君からの魔力供給だけでは、マスターの身に危険が及びかねん」
エミヤの言葉に藤丸は力強く頷き、令呪の刻まれた右手を掲げる。
「令呪を持って告げる、宝具を解放せよ!」
藤丸がそう告げると右手に刻まれた令呪の一角が輝き、その輝きはエミヤに移りエミヤの全身に魔力を漲らせた。
「――
魔力を漲らせたエミヤの口から、宝具発動のための詠唱が紡がれる。
それと同時にエミヤの足元の青い渦が広がっていき、三人を、ニュクスを、そして周辺全てを飲み込んでいく。
『なんだ? 貴様、何をするつもりだ!?』
困惑と焦りの入り混じった声を上げる、スペンサー。
だがそんな怪物の焦りなど無視し、エミヤの詠唱は続く。
「
『止めろ、貴様! させんぞ!!』
全身からは発電し、巨大な稲妻の奔流をエミヤに向けて放つスペンサー。
だがその攻撃は、ピアーズの放った稲妻により反らされる。
「させないのはこっちだ、化け物め!」
「
エミヤの詠唱は続き、同時に周囲の景色が変わっていく。
歪んだ青空の下に広がる無人の工場地帯から、無数の剣が突き立つ無人の荒野へ。
空は燃え盛る炎のように紅く、無数の巨大な車輪が浮かんでいる。
――焦りからくる怒りから、怒声をあげるスペンサー。
乳白色の体に浮かぶ無数の眼球に電流を集中させ、無数の稲妻の帯を放つ。
稲妻の爆撃は荒野を穿ち歯車を破損させるが、それでもエミヤの詠唱は止まらず固有結界の感性も止まらない。
「
エミヤの宝具たる固有結界、無限の剣製。
それは自身の心象風景たる錬鉄の世界に敵を取り込む、大魔術。
「
時空の歪が始まった以上、ラクーンシティが汎人類史に浮上することは止められない。
だがTウイルスを世界にばらまくニュクスさえいなければ、もう化物のいないラクーンシティが汎人類史に現れても問題ない。
後は固有結界が維持されている間に
やるべきことは、シンプルだ。
「
完全成立する、固有結界。
剣と炎の世界に屹立する、悍ましい白い肉の柱。
『神に歯向かう愚か者どもがァ! 許さんぞォォォ!!』
スペンサーの怒号と共に、肉の柱の底部が蠢き全身がケロイド状に白く変色したゾンビの群が這い出てくる。
不気味な足取りで藤丸たちに向かってくる白いゾンビの大群。
それを睨みつけるエミヤ。
エミヤが鋭い視線のまま片腕を上げると、地面に突き刺さっていた無数の剣が宙に浮かび上がる。
そしてエミヤが手を振り下ろすと同時に剣の白いゾンビに襲い掛かり、ゾンビの群を壊滅させた。
『おのれェ!』
更にゾンビの群を吐き出す肉の柱、ニュクス。
エミヤは視線をニュクスに移し、今度はニュクスに向けて手を振り下ろす。
――再び浮き上がり、ニュクスに向かい飛ぶ剣たち。
『そのようなもの、神に届くかァ!』
だがニュクスの全身から放電された稲妻により、剣は全て撃墜される。
――舌打ちするエミヤ。
再び腕を振り剣をニュクスに飛ばすが、やはり放電により全て撃墜された。
「……やはり、私だけの力では奴を倒すことは出来ないようだ。 マスター、ピアーズ。 後はお願いできるかな?」
背後を振り向き、信頼の籠った目で問うエミヤ。
ピアーズは力強く頷き、藤丸もまた強い意志の籠った目で答える。
「うん、任せて」
そして藤丸は目を閉じ、今の自分に出来る最後の召喚を為すべくカルデアに座す英霊への縁を手繰り寄せた。
「ノッブ! 信勝くん!」
――藤丸の声に応え召喚される、紅黒二色の軍服を纏った二人の英霊姉弟。
第六天魔王織田信長と、その弟織田信勝。
「魔王回天・曼殊沙華!!」
藤丸の宝具解放宣言と共に発動される、織田信勝の宝具。
――左右の腕を大きく広げる信勝、その足元に焔と共に広がる彼岸花の花畑。
信勝の姿が塵となって消え、傍らに立つ信長の体に膨大な魔力が満ち満ちる。
織田信勝が唯一持ち得た力、己の消滅と共に最愛の姉を強化する自害宝具。
「波旬変生・三千大千天魔王!!!!」
そしてその膨大な魔力をもって解放を宣言される、織田信長の宝具。
――炎を纏い後光輪を背負って地面を割り現れる、ニュクスに匹敵するほど巨大な六本腕の黒い骸骨。
過去現在未来において信長に注ぎ込まれた数多の衆生の恐怖と畏敬をその身に宿し、第六天魔王すら超えたあらゆる神仏を毀す三千大千天魔王と化した信長の姿。
信長は骸骨の頭頂に仁王立ちし、骸骨は二本の腕を藤丸とピアーズに差し出し、手の上に乗るよう促す。
「では、あの魔神柱もどきは君たちに任せた。 あの白いゾンビの群は私に任せてくれ。 決して君たちには近づけさせないさ」
ニュクスから這い出し、再び大群を形成した白いゾンビたちは進撃を始める。
またそれだけではなく最初に剣に貫かれたゾンビたちも、即死を免れた何割かは体を再生させ進撃を再開していた。
「見た目だけでなく、再生能力も異常らしい。 ――これが最後の戦いだ、全力で行くぞ!」
腕を上げ、剣を宙に浮かせるエミヤ。
藤丸とピアーズは骸骨の手に乗り、骸骨は二人を自らの両肩にそれぞれ運ぶ。
――二人は骸骨の肩に立ち、悍ましい白い肉の柱を睨む。
後光輪から光弾をニュクスに向けて放物線上に放ちながら進み始める、三千大千天魔王。
ニュクスは全身に浮き出た眼球から無数の稲妻を放出し、己に向かってくる光弾を迎撃する。
互いの全能力を賭した総力戦が、始まった。
すみません。
完成できなかったので投稿は一日遅れさせてもらいたいと思います。
次回投稿予定は9月14日(火)を予定しています。