FATE/BiOHAZARD   作:ダイアジン粒剤5

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G

 「倒した、か……。 宝具を強制解除されたのは予想外だったが、もう問題あるまい」

 

 抱えたマスターを工場の屋根に降ろしながら、エミヤは眼下の光景に目を落とす。

 溶けたニュクスの残骸、白い海に飲み込まれ無数の屋根だけが飛び出たアンブレラの工場跡。

 空だけは透き通るように青い分、目の前の終末染みた光景は不気味だった。

 

 「今俺たちがいるのは、汎人類史って事でいいのか?」

 

 後ろから掛けられる、ピアーズの声。

 振り向くと、片手に聖杯を持ったピアーズが立っていた。

 

 「ほらマスター、聖杯だ。 確かこれが必要なんだろ?」

 

 「うん、ありがとう!」

 

 藤丸に聖杯を手渡すピアーズ。

 喜ぶ藤丸の姿を尻目に、ピアーズが先程の質問の答えを促してくる。

 

 「ああ、ここは汎人類史の1998年アメリカ中西部で間違いないだろう」

 

 壁に背を預けながら息を吐き、座り込みながらエミヤは答える。

 ニュクスのような巨大な怪物を抱え込んでの長時間の宝具展開、エミヤの魔力は枯渇しかけで疲れ切っていた。

 

 「形としては何もない森の中に、突如としてこのラクーンシティが現れたという感じだろう。 政府や魔術協会は大慌て、神秘の漏洩を防ぐために魔術協会の責任者は今頃緊急会議でも開いているだろう。 後々、責任者が何人か首を切られるかもしれないな」

 

 名も知れぬ誰かに、エミヤは軽い同情を送る。

 その誰かに責任が有る訳でもないのに、可哀そうにと。

 

 「……大丈夫なのか、それは? それに、この街はどうなる?」

 

 ニュクスの残骸に覆われた街を、険しい目で睨むピアーズ。

 この残骸を基に、B.O.W.の脅威が汎人類史に広まりはしないかと考えているのだろう。

 

 「大丈夫さ。 そもそも、この街はそう長い時間もかからず汎人類史から退去するだろう。 元々、本来の歴史には無い異物だからね」

 

 この街、ラクーンシティというテクスチャを汎人類史に浮かび上がらせ縫い付けていたのは、聖杯の力を得たニュクスという神の名を持つ怪物。

 それが消えた以上、この街は自然に消滅していくのが道理だった。

 

 「そして特異点の元凶が消えた以上私とマスター、そして君も早々にこの世界から退去することになるだろう。 我々もまた、この時代にとっての異物だからね。 ひょっとしたらカルデアの方も、そろそろ我々の事を見つけて――」

 

 

 『あー! 未来クンたち、やっと見つけたー!!』

 

 

 頓狂な声が響く。

 先程まで何もなかったはずの空間に鏡のようなものが現れ、そこに女性の姿が映っていた。

 

 「あ、卑弥呼さん」

 

 「やっほー、私だよー! ――じゃなくて!」

 

 太陽のような笑顔を向ける女性の名は、卑弥呼。

 藤丸と契約した英霊、古代日本は邪馬台国の女王である。

 

 「もー、大変だったんだよ。 図書館で倒れてる、未来クンたち3人が見つかって。 とりあえず精神だけがどこかに行ってるのは分かったから、皆で必死に探して。 私も鏡を使って探して、ようやく見つけたんだから!」

 

 どこか軽い口調の卑弥呼だったが、僅かに見える目の下の隈から必死に探してくれていたのだろうことが分かった。

 

 「うん、ありがとう!」

 

 「――! どういたしまして!」

 

 藤丸の言葉に、とびっきりの笑顔を返す卑弥呼。

 感謝の言葉一つ、それだけで彼女の頑張りは服われたのだ。

 

 「じゃあ、今からそっちとこっちを繋げるから待ってて……なにこれ、何か近づいてくる!」

 

 突如として血相を変える卑弥呼。

 同時に、卑弥呼の姿が薄まり始める。

 

 「気を付けて、未来クン! 何か、とても良くないものが近づいてきてる! そっちとの繋がりも、その何かに邪魔されて――」

 

 卑弥呼の姿が掻き消えるのと同時に、何かがニュクスの残骸である白い海から飛び出して来た。

 何かは骨が飛び出したような爪の付いた腕を振るい、藤丸の命を刈り取ろうとする。

 

 「危ない! マスター!」

 

 先に反応したのはエミヤだった。

 エミヤは藤丸を抱え、怪物の一撃をモロに受ける。

 

 ――エミヤは藤丸ごと吹き飛ばされ、工場の壁に叩きつけられる。

 

 「クソッ!」

 

 放たれる、ピアーズの雷撃。

 稲妻は過たず飛び出して来た怪物に突き刺さり、怪物は焼かれる痛みに苦痛の叫びを上げる。

 

 ――その声は、スペンサーのものだった。

 

 「ガァアアアア! 貴様ら、よくもォ! 私の理想、私の夢、新世界の創造をォォ!!」

 

 筋組織が剝き出しになったような怪物の左肩、新たに形成された骸骨のような東部の隣にスペンサーの顔がへばり付いている。

 怪物の肩で吠えるスペンサーの顔は狂気と憎悪に歪んでおり、その顔は悍ましい姿をした怪物よりなお醜かった。

 

 「まだだ……。 まだ、終わらん! Tは消えたが、まだGがある! 聖杯さえあれば、まだ取り返せる!」

 

 怪物の体が膨れ上がり、スペンサーの顔が怪物の体の中に完全に埋まる。

 だがそれでも、憎悪に満ちたスペンサーの声は止まらない。

 

 「聖杯だ……。 聖杯を、返せ。 あれは私のものだ、私が神に至るための鍵だ。 私の新世界の礎だ。 ――私の新世界の創造をォ、邪魔するなァァッッ!!」

 

 巨大な腕が肩から跳び出し、スペンサーは二対四本の腕を持つ異形の怪人と化す。

 

 ――怪人は吠え、肩から生えた巨大な腕を振り回しピアーズの命を刈り取ろうとする。

 

 「くっ……!」

 

 ピアーズは転がりスペンサーの爪を避けるが、スペンサーの攻撃は止まない。

 四本の腕、その先の鋭い爪をひたすら振り回し反撃の隙を与えずピアーズの命を刈り取ろうとするスペンサー。

 その動きを止めたのは、エミヤが吹き飛ばされた方向から飛んできた光弾だった。

 光弾が当たったスペンサーは稲妻に貫かれたかの如く、動きを止める。

 

 「おおっ!!」

 

 ピアーズはその隙を見逃さず、牙のような骨に覆われたスペンサーの胸に異形化した右腕を突き刺し電流を叩きこむ。

 

 ――全身を焼かれる痛みに悲鳴を上げる、スペンサー。

 

 だが命には届かず、スペンサーは腕を振りピアーズを弾き飛ばす。

 宙を飛ぶピアーズだったが、工場の止めに接する際に上手く受け身を取り、無傷で立ち上がる。

 

 「大丈夫、ピアーズ?!」

 

 響く藤丸の声。

 壁に叩きつけられ重傷を負ったエミヤを背に、手を銃の形にしガンドを撃つ態勢をとった藤丸が立っていた。

 

 「下がれ、マスター。 後は私と彼が……」

 

 「エミヤは休んでて。 アイツは、俺とピアーズが倒すから」

 

 重傷をおして立ち上がろうとするエミヤを有無を言わせぬ口調で制し、反論の隙を与えず藤丸はピアーズのもとに駆け出す。

 

 ――ニュクスの残骸、白い海の中に突き出した工場の屋根。

 

 その空間に、一体の怪物と二人の人間が立つ。

 

 「……そういえば、最初に会った時もこうだったな。 あの時マスターーーリツカは、あんな感じの化物に襲われてた」

 

 「うん、ピアーズが助けてくれた」

 

 ガンドの構えをとる藤丸。

 

 「ああ、そして今度はマスターが助けてくれた」

 

 異形の右腕に稲妻を纏わせ始めるピアーズ。

 

 「これが最後だ! 倒すぞ、マスター!!」

 

 「うん!!」

 

 ――電撃のダメージから立ち直り、獣ような雄叫びを上げるスペンサー。

 

 それを合図に駆け出す、藤丸とピアーズ。

 本当の最終決戦が、始まった。

 




次回投稿予定は9月27日です。
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