爆発に巻き込まれ、ピアーズは吹き飛ばされ宙に舞う。
そのピアーズを空中で抱き留めたのは、傷の痛みに顔を歪めるエミヤだった。
「まったく……私はこれでも重症なのだがね。 あまり、無茶はさせないで欲しいものだ」
エミヤはピアーズを抱えたまま、藤丸の待つ崩壊した工場の屋根に降り立つ。
「大丈夫、ピアーズ!?」
駆け寄ってきた藤丸に、ピアーズは立ち上がり笑みを返す。
「ああ、大丈夫だ、マスター。 この通り、ピンピンしてる」
「――素人の自己判断ほど危険なものはない。 どれ、僕に診せてみろ」
突如背後から掛けられた声。
その声に三人がギョッとして振り返ると、そこにはアスクレピオスが立っていた。
「い、医者先生?! アンタ、いつの間に……」
「さっきだ。 それより動くな、これより診察を始める」
驚く三人を無視し、アスクレピオスはツカツカ前に進み出てピアーズの診察を始める。
「アスクレピオス、君が治療していた黒人警官は? 確か、一緒にいたと思ったのだが……」
「奴は既に完治した。 健康な人間に興味はない、だから置いて来た」
先程までアスクレピオス達がいた方向に視線を向けると、そこではあの黒人警官が手を振っていた。
それなりに離れた場所にある工場の屋根だったが、サーヴァントの脚力なら十分に跳んでこれる距離だった。
「良かった、無事で。 そういえば、結局あの人の名前って何だったの?」
「マービン・ブラナーだ。 ……そういえば、感謝していたぞ。 この街をこんな風にした奴と戦ってくれてありがとう、と言っていた」
ピアーズの舌を引き出しながら告げられた言葉に、三人の顔が僅かに綻ぶ。
当事者からの感謝の言葉。
それはこの特異点を解消したことに対する、確かな報酬だった。
「診察は終わりだ。 ……僅かにあった擦り傷も、驚異的な自然治癒力により回復。 つまらん、もっと面白い傷を負っていれば良かったのに。 だがウイルスの再活性化による右腕の再変異は面白いな。 採血するぞ、あと細胞片も欲しいので一部切開する。 ――……ああ、痛かったら申告するように。 鎮痛系の薬剤も、幾つか試してみたい」
野太い注射器と、切開用の工具を取り出すアスクレピオスに慌てるピアーズ。
そんな二人の姿に藤丸とエミヤが苦笑していると、大きな鏡が現れた。
「――……あ、繋がった! 大丈夫、未来クン?! 妨害は無くなったみたいだけど、そっちはどうなってるの!?」
鏡に映る、卑弥呼の姿。
特異点の元凶であったスペンサーを倒したことにより、カルデアとの接続が回復したようだった。
「大丈夫、こっちの問題は片付いたよ」
卑弥呼は藤丸の答えに一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、すぐに太陽のような笑みを返した。
「――そっか、良かった! じゃあ、この鏡に入って。 そうしたらカルデアの皆の体に戻れるから!」
そう言うと卑弥呼は、えーと皆の体に繋がった鏡はどれだったかなー?、と言いながら鏡の奥へと消えていった。
「……どうやら、マスターたちは帰る目途が立ったみたいだな」
かなり多くの血を抜かれたのか、青い顔をしたピアーズが近付いて来た。
「うん、これでカルデアに帰れるよ。 ……ところで、大丈夫?」
異形化していたピアーズの右半身は、そのほとんどが包帯に巻かれている。
「ああ、あの医者先生に変異した部分をほとんど切除されたんだ。 人間らしい見た目に成れたから、むしろ良かったよ」
ピアーズは右半分を包帯に覆われた顔で、ぎこちなく笑う。
そして当のアスクレピオスは、切り取ったピアーズの体をラベリングしながら何かを診断書に書き記していた。
「決して、悪い人物ではないんだがな……」
「分かってるよ、あの先生は良い医者だ。 この姿も、間違いなく治療はしてくれた訳だからな。 ――それでマスター、頼みがあるんだが」
ピアーズは、真剣な面持ちで藤丸に向き合う。
「出来たら俺も、マスターたちのカルデアってところに……って、なんだこりゃ!?」
ピアーズの体は細かい光の粒子となり、徐々に薄くなっていた。
「――退去が、始まったんだ。 君はこの特異点が召喚したサーヴァント。 特異点の元凶が倒れた今、これ以上現世に留まるのは世界が許さないのだろう」
神妙な面持ちで語るエミヤ。
ピアーズは驚きに目を丸くしていたが、すぐに諦めたように頭をかく。
「……そうか、残念だな。 俺もカルデアってところに行って、マスターの戦いの手助けがしたかったんだが。 俺は、ここでも途中で退場か」
「そんなことないよ」
自嘲するピアーズに、藤丸がはっきりと告げる。
「また、会えるよ」
「いや、だが俺は英霊の座ってところに――」
「カルデアにて再び召喚されろ」
いつの間にか近付いてきていたアスクレピオスが、断固とした口調で命令する。
「お前の治療は、まだ途中だ。 僕の治療を途中で止めるなど、決して許さない。 何が何でもカルデアに来て、治療の続きを受けてもらう」
「――そうだな、そういう事もあるかもしれないな」
笑みを浮かべたエミヤが、二人の言葉を継ぐ。
「今、人理はとても不安定な状態だ。 今の君そのもではないかもしれないが、君が再びマスターの力になることもあるだろう。 その時が来ることを、私も祈るとしよう」
「…………」
三人の言葉にしばし無言で答えるピアーズだったが、やがて居住まいを正し敬礼する。
「ああ、またな!」
そうしてピアーズは、光の粒子となって退去する。
その光を藤丸、エミヤ、ピアーズの三人は最後まで見送るのだった。
これにて終わりです。
このような拙い文章に、五カ月近くもお付き合いくださり有難うございました。