ピアーズが目を覚ました時、最初に感じたのは困惑だった。
まず、目を覚ましたこという事実そのものに驚きを感じた。
最後に意識を手放した時。
あの海底油田基地に偽装されたテロ組織のアジト。
崩壊し海の藻屑と化していくあの場所にて。
自分はやるべき事を全てやり遂げた後、安心して死の安らぎに身を任せ目を閉じたはずだった。
だが、目を覚ました。
そのこと自体は、まだ納得できた。
死の直前に体内に注入したウイルスの効果により、自分は人ではない異形の存在と化した。
その効果により命を繋いだとしても、有り得ないことではないだろう。
しかし、周囲の光景が異常だった。
そこは海の底などではなく、まごうことなく地上でありコンテナの山が積みあがっている。
どこかに漂着したのかとも思ったが周りに海はなく、潮の香もしない。
それどころか、体も一切濡れていない。
本当に、地上のどこに放り出されたとしか思えない状況だった。
ウイルスの影響で、白昼夢でも見ているのだろうか。
実際体の調子が安定せず、まるで魂だけの存在になってしまったこのような違和感を感じる。
体調自体もあまり芳しくない。
――兎にも角にも状況を知るため、周囲の探索を始めた。
コンテナが積みあがった景色が続くだけだったが、その過程でゾンビにプラーガを寄生させたかのようなB.O.W.に数多く襲われた。
幸いと言っていいのか判らないが右腕は変異したままであり電流も問題なく放電出来たため、たいして強くないB.O.W.だったこともあり撃退は容易だった。
しかし現状の把握はますます困難になり、困惑だけが募っていく。
(ここは何処なんだ? まさか、死んで地獄にでも落ちたのか?)
地獄に落ちるようなことはしてこなかったつもりだが。
しかし仮に此処が地獄なら、死んでまでB.O.W.と戦うことになるとは。
「まったく、勘弁して欲しいぜ……」
そんな事を呟きながら彷徨い歩いていた時。
ピアーズは見たのだ。
異様な姿のタイラントに襲われ、今まさに殺されそうになっている少年を。
助けた少年。リツカと契約を結ぶと宣言して以降、体の調子がすこぶる良い。
ウイルスを注入して以来続いていた不調が嘘のように無くなり、重かった体も信じられないほど軽くなった。
異形と化した右腕から放つ雷撃も、先程までよりパワーアップしたように感じる。
「ピアーズさん、お願いします!」
「よし、任せろ!」
リツカの指先より放たれた謎の光弾により動きを止めたタイラントに向け、十分にチャージされた電撃を放つ。
タイラントとの戦いは、リツカとの連携により優位に進んでいた。
(……不思議な少年だ。 完全な一般人、ただの逃げ遅れた市民だという印象だったのに、動きは洗練されていいて、間違いなく高度な訓練を受けている。 タイラントを前にしてあの胆の座りようも、相当の実戦経験を経なければああはならない)
それでいてリツカからは兵士や戦士などが持つ、戦う者特有の気配がまるでしない。
(高度な訓練を受けている、実戦も経験している。 しかし兵士のような戦闘の訓練は受けておらず、数多の実戦を経験していながら戦いの経験はほとんど無さそうだ。 まるで戦場で生き延びるための訓練だけをひたすら受け、そして実際に多くの戦場を生き抜いてきたような……)
BSAAの隊員として数多の戦場に赴き多くの戦士たちを見てきたピアーズだったが、リツカのような者は見たことがなかった。
「潜った!」
タイラントが背中から生えた虫の足を器用に使って地面に潜り、土竜のように土中を移動し始める。
土中に潜まれては電撃が届かない。
どうするか考えた時――
「俺が囮になります! ピアーズさんは、攻撃の準備を!!」
リツカが土竜のように移動するタイラントの前に立ち、そのまま逃げ始める。
何らかの感覚器で地上の様子を把握しているのか、タイラントは正確にリツカを追い回す。
土中を掘り進んでいるにも関わらず想像以上に動きが速いタイラントは早々にリツカに追いつき、土中から虫の触腕を突き出しリツカの命を刈り取ろうとする。
「させるかッ!!」
だがそんな真似はさせない。
即座に電流を放ち、触腕の動きを止める。
――突き出した触腕に当たった電流が、全身を駆け巡ったのか。
タイラントは呻き声をあげながら土中から飛び出し、大きく胸を開けて絶叫する。
――そんなチャンスを、ピアーズは見逃さない。
契約以来軽くなった体を躍動させタイラントに近付き、異形と化し巨大な爪の生えた右腕をタイラントの無防備に開かれた胸に突き刺した。
悲鳴をあげるタイラント。
しかし当然、爪を突き刺しただけで終わるつもりは無い。
胸を突き刺し心臓を一つ潰した程度で死ぬほど、タイラントという生物兵器は簡単な相手では無いのだ。
「くたばれ、化け物ッ!!」
突き刺した爪の先から、電流を最大出力で送り込む。
全身に流れる血液を沸騰させ、骨を焦がし神経を焼き切り筋肉繊維をズタズタに引き裂いていく。
ピアーズを跳ね除けようと決死の抵抗をみせるタイラントを捻じ伏せ、電流を送り込み続ける。
――やがてタイラントは目や口から煙を吐き出しながら真っ黒に焼け焦げ、地に倒れ伏せた。
荒い息を吐きながらも焼け焦げたタイラントの胸から右腕を引き抜き、そのまま立ち上がり大きく一息吐くピアーズ。
その姿に戦いが終わったことを理解した藤丸立香は、労いと体の調子を心配する声を掛けながらピアーズのもとへと駆けよっていく。
死都と化した街における、最初の強敵との戦い。
その軍配は、藤丸立香とピアーズ・ニヴァンスのコンビにあがったのだった。
明日からは一日一話投稿の予定です。