FATE/BiOHAZARD   作:ダイアジン粒剤5

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JAZZ BAR

 ――――子供のころ、自分は何に成りたかったのだろう。

 

 全ての始まりとなった、あの街。

 あの街の警察官になろうと思ったのは、頻発していた猟奇殺人事件の解決に貢献したいと思ったからだったはずだ。

 だとすれば自分は子供のころ、ひょとしたら正義の味方に成りたかったのかもしれない。

 巨大な悪と戦う、正義の英雄に。

 

 ならばその願いは叶ったのだろう。

 今の自分はアメリカ大統領直轄組織、DSOのエージェントだ。

 バイオテロを根絶すべく戦っており、大きな事件も幾つか解決へと導いてきた。

 自分を英雄と呼ぶ者も、稀にいる。

 

 だがあの街の崩壊と共に壊れてしまった世界は、まだ元に戻らない。

 人が怪物に変わる悪夢は未だ覚めず、それどころかますます広がり多様化している。

 悪夢を終わらせようと、志を同じくする友人も出来た。

 だがある者は死に、ある者は怪物と化し自ら引導を渡した。

 悪夢を終わらせるための出口の見えない戦いは、今も続いている。

 

 ――――あの日始まった悪夢は、まだ覚めない。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 「おいリツカ、そろそろ起きろ」

 

 欠けた夢を、見ていたようだった。

 藤丸立香が目を開くと、ピアーズが淹れたてのコーヒーをテ-ブルに置いてくれた。

 

 「ありがとう、ピアーズ。 いただくよ」

 

 湯気の立つ熱いコーヒーを飲みながら、藤丸はピアーズと出会ったコンテナ置き場からこの市街にあるジャズバーへと至った経緯を思い出す。

 

 

 タイラントと呼ばれた怪物に襲われたコンテナ置き場は、街の外れに位置していた。

 此処は何処で、何時なのか?

 気付いた時にはコンテナ置き場に召喚されていて怪物たちと戦っていたというピアーズも分らないというので、情報を得るため市街部へと戻ることにした。

 街には最初に訪れた時と変わらずゾンビを始めとした各種様々な怪物たちが徘徊していたが、ピアーズと契約したことにより戦闘が可能になり、探索し調べることが出来るように変化。

 結果、多くのことが分かった。

 この街の名は、ラクーンシティ。

 アメリカ中西部に位置する地方都市で、アンブレラという聞いたことのない製薬会社の企業城下町であるらしい。

 時代は世紀末、1998年。

 世界が滅びると予言された年の前年に、何らかの事情でレイシフトで飛ばされたようだった。

 

 

 「特異点、魔術師、レイシフト。 それに英霊召喚とサーヴァント、か。 BSAAとして常識外れの化物どもと戦ってきた俺でも与太話として笑い飛ばす類の話だが……。 それでも此処があの1998年のラクーンシティで、しかも自分自身が霊体化ってのが出来た以上、間違いないんだろうな」

 

 バーにあった軽食を食べながら酒瓶をラッパ飲みし、ピアーズがごちる。

 

 「それより、リツカ。 お前は2015年にそのカルデアに行くまでは、間違いなく日本の一般社会で暮らしていたんだよな? それなのに、本当にアンブレラ社やラクーン事件を知らないのか? バイオテロも起きてないって、それは本当か?」

 

 「うん、起きてないよ。 多分だけど、俺の世界とピアーズの世界は並行世界なんだよ。 近いようでいて、何処か違う世界。 そういう場所にも行ったことがあるから」

 

 人理焼却事件が解決されてから、人理漂白事件が起きるまでの間に経験したレイシフトの一つ。

 あの時は1639年の日本に飛ばされた。

 何処でどのような分岐を経たのかは分からないが、本来の歴史には無い巨大な城と都市がある日本。

 正確には特異点というよりは異聞帯に近い並行世界だったらしいが、専門的な話で詳しくは良く分からない。

 

 「……ラクーン事件が起こらず、バイオテロも起きない世界。 いやそもそも全ての元凶、アンブレラ自体が設立されてもいない世界、か」

 

 ピアーズは真剣な顔で尋ねてきた。

 

 「なあ、リツカ。 もしこのラクーンの特異点が解消されなかったら、どうなるんだ?」

 

 「……俺じゃあ、専門的なことは説明できないけど。 多分、俺の世界は消える。 1998年にこの事件が起きて世界にバイオテロが広まったという歴史が、起きなかった俺の世界の歴史を上書きするんだ」

 

 正直な話、特異点がそのままになったらどうなるのか。

 正確なことは理解できていない。

 だが自分の世界が壊され、殺されてしまうという事だけは分かっている。

 だから今まで、生きるために特異点を解決し続けてきた。

 特異点とは違う異聞帯も、自分たちが生き残るために滅ぼし続けてきた。

 故にこの特異点も、必ず解決しなければならない。

 生きるために。

 

 「そうか、なら改めて。 俺はリツカに全力で協力して、この特異点を必ず解消してみせるぜ。 バイオテロを未然に防ぐ。 それがBSAAの、使命だからな」

 

 怪物化していない左手を握りしめ、笑みを浮かべながら力強く自分の胸を叩くピアーズ。

 その姿は頼りがいのあるプロの軍人といった体であり、今まで出会ってきた過去の偉人英雄たるサーヴァント達とは少し違う身近さを藤丸に感じさせた。

 その理由を、藤丸は少し考え理解する。

 

 (ああ、そうか。 世界は違っても、この人は俺と同じ時代を生きていた現代の英雄なんだ)

 

 初めて見る、同じ時代を生きた現代の英雄。

 その姿に藤丸は、今まで出会った英霊たちとは何処か違った眩さを感じるのであった。

 

 

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