「それで特異点の発生には元凶となる誰かがいて、そしてその誰かに力を与えている聖杯があるんだな?」
「うん。 その元凶を倒して、聖杯を回収する。 経験上、それで特異点は解消できるよ」
藤丸の言葉を聞いたピアーズは異形と化した己の右腕を見つめ、言葉を続けた。
「元凶、か。 それが誰なのかは分からないが、そいつがこのラクーンシティの何処に隠れてるかには心当たりがある。 なにしろラクーン事件についてはBSAAの教習で徹底的に教え込まれたからな。 ……そいつが潜んでるのは、恐らくNESTだ」
「ネスト?」
「ああ、正確にはNEST1とNEST2の二つがあるんだがな。 アンブレラがこのラクーンシティの地下に秘密裏で作り上げた生物兵器開発のための研究所だ。 隠密性が高く、守りも堅い。 事件の元凶が隠れ潜むには絶好の場所だと思わないか?」
「確かに……」
ピアーズの言葉に頷く藤丸だったが、無論確実ではない。
魔術的な要素が絡む関係上、特異点の黒幕が潜む場所は常識の埒外にある。
だが他に当てがないのも確か、探索する価値は十分にありそうだった。
「それで、それは何処にあるの?」
「NEST1は郊外にある工場地帯の地下、NEST2は市内にある総合病院の地下だったはずだ。 ここから近いのはNEST2の方だな。 まずは其処から行ってみないか?」
「よし、行ってみよう!」
そう言って、力強く椅子から立ち上がる藤丸。
目的が定まったからには即、行動に移す。
それが数多の危険な旅路を巡ってきた藤丸の、経験から来る踏破への道だった。
「……ああ、そうだな!」
そんな藤丸の思い切りの良さに若干戸惑ったピアーズだったが、すぐに笑みを浮かべ同じように力強く椅子から立ち上がる。
「目的地へ向かうぞ、マスター。 安心しろ、道中の敵は俺が倒すぜ!」
自身のサーヴァントという立場を受け入れ、立場的には上官に位置する藤丸をマスターと正式な敬称で呼ぶことにより精神を臨戦態勢へと切り替える。
此処は伝説のラクーン事件の渦中、どんな凶悪なB.O.W.が現れるか想像もつかないのだ。
「うん、よろしく!」
自分を認めマスターと呼んでくれたことに喜びを感じながら、藤丸は笑みを浮かべてジャズバーの出口へと向かう。
ピアーズはそんな藤丸に先行する形で扉を開け、異形の右腕を掲げて周囲の安全を確かめてから着いてくるようジェスチャーを送る。
藤丸とピアーズ、二人の主従は再び怪物蔓延るラクーンの街を進むのだった。
………
……
…
――地下。
巨大な眼球を持つ怪物が、その瞳を激しく動かしながら手の内にある黄金の盃を愛でいた。
「聖杯……万能の願望器、神の盃。 ――そう、神。 まさに、神たる我が手の内にこそ相応しい。 新世界の神たる、我にこそ」
薄く微笑む怪物の目の前には、醜悪な肉の柱が屹立していた。
乳白色の肉塊で構成された体躯は人の死体を捻じ込んだ物で出来ており、血管のような筋が網の目のように広がった体の各部には昆虫の複眼のような核が肉腫の如く浮き出ている。
そんな悪趣味なオブジェにしか見えない柱は、しかし確実に生きていた。
脈打つように振動し、更に何かを取り込み肥大化を続ける。
まともな精神を持つ者がこの柱を見れば、この世に在っていい物ではないと口を揃えて断言するだろう。
だが眼球の怪物はそんな柱を愛おしい物を見るように見つめ、囁く。
「もっとだ……。 もっと栄養を取り込み、もっと成長するのだ‘ニュクス‘よ。 お前が育ち切ったその時、この街は汎人類史に浮き上がる。 ――そして世界は革新され、進化した選ばれし新人類による新世界の幕が上がるのだ」
肉の柱の脈動と眼球の怪物の声だけが地下に響き、やがて消える。
歪んだ人類愛によって始動した計画は、成就の時に向かって確実にその歩を進めていた。