――地下。
人の頭ほどもある巨大なヒルの群れが、部屋の中を蠢いている。
部屋は白色で近未来性すら感じさせる最先端機器が稼働を続けているのだが、その上を蠢く悍ましいヒルの群れはあまりにも原始的で。
そのアンビバレンスさが、部屋を一種の異界としていた。
そしてその異界の中央に立つ、一人の青年。
青年の容姿は美しいと言えるものであり、青年はその秀麗な容貌に酷薄な笑みを浮かべ先端機器の一つに映し出された画像を見つめている。
そこには病院の前に立つ、藤丸立香と二人のサーヴァントの姿が映し出されていた。
青年は流麗な手つきで機器を操作し、それに合わせて何かが解放される音が地下に響く。
「行け、タイラント。 奴らを、殺せ」
藤丸とピアーズが最初に出会ったとき戦った、青白い肌をした大男。
それが十数体。
地上の病院へと続く道を、歩き始めた。
………
……
…
「病院の地下に治療薬があるだと?」
「ああ、俺の記憶が正しければNEST2にはTウイルスのワクチンがあったはずだ。 発症前なら、それを打てば助かる」
「いいだろう。 ならばカルテを回収した後に地下に行き、そのワクチンも手に入れるとしよう」
ハンターの群れを抜け、藤丸たち3人はラクーン総合病院の眼前にまで辿り着いていた。
「カルテを回収する必要なんてあるのか? ワクチンはもう完成しているんだぞ」
「そのワクチンは、発症を阻止するだけの物だろう。 カルテには、発症後の患者を治療しようとした記録が残っているはずだ。 医者である以上、患者を治療しようとするものだからな。 僕にとって真に必要な物はそちらだ。 ――病に挑んだ医師たちが今はこの病に勝てずとも、後に続く者たちに病の克服の希望を託してカルテを残したはずだ。 僕には医者として彼らの希望を継ぎ、病の克服に努める義務がある」
「じゃあ俺たちも、まずはアスクレピオスのカルテ探しを手伝った方がいいかな?」
藤丸の言葉にピアーズも少し考えた後、首を振る。
「いや、今すぐ地下に踏み込むべきだ。 地下にはハンター共を操っていた元凶がいるはずだ、防御を整える時間を与えるべきじゃない。 それに戦力の分散も良くない。 医者先生も、カルテは後回しにして俺たちと一緒に――」
「断る」
断固とした口調のアスクレピオスに助けを求める視線を藤丸に送るピアーズだったが、藤丸は説得は無理だと言うように首を振るだけだった。
「――分かった、医者先生は病院でカルテを探していてくれ。 俺とマスターは、地下で特異点の元凶とワクチンを探す。 マスターも、それでいいか?」
「俺はいいけど、アスクレピオスは一人で大丈夫?」
「問題ない、もともと一人で行うつもりだったからな」
「よし、作戦行動は定まったな。 それじゃあ、病院内で二手に分かれて行動するぞ」
――そうして、三人が病院内に踏み込んだ時。
金属がひしゃげるような音と、コンクリートの壁が破壊されるような音が病院内に響いた。
「……どうやら、敵は待ってくれるつもりは無いようだな」
床を踏み砕くような激しい音が響き、そして――藤丸とピアーズが最初に戦った青白い肌をした大男が、壁をブチ破って複数体現れた。
「森くん!」
藤丸が、サーヴァントの影を召喚する。
鬼武蔵こと森長可――巨大な槍を持ち、白い鬼のような全身鎧を着込んだ戦国武者である。
「宝具展開、人間無骨!!」
藤丸の声に従い鬼武蔵の持つ大槍が左右に割れ柄と合わせて十文字の形になり、その穂先についた細かい刃がチェーンソーの如く回転を始める。
森長可の宝具『人間無骨』――相手の防御力を無視してダメージを与える、単純ながら強力な大槍である。
「……ッ」
藤丸が顔を歪める。
宝具の展開には、膨大な魔力が必要になるのだ。
モノによっては一度使うだけで影を維持できなくなるほどの、膨大な魔力を。
幸いにも、森長可の宝具は消費魔力が極めて少ない。
故に宝具展開を維持したまま影の限界を続けることが出来るのだが、それでも一度に大量の魔力が体から抜け出る感覚は何度経験しても軽い眩暈を起こすのだ。
もっとも、歴戦のマスターである藤丸立香がその程度のことでミスを起こすことなどないのだが。
「二人とも、森くんの援護を!」
藤丸の指示に、ピアーズは何時でも放電できるよう右腕に電気を纏わせる。
「ああ、任せろ! この数のタイラント――間違いなく、敵の最大戦力だ! 此処を凌げば、俺たちの勝ちだ!!」
アスクレピオスもまた手にした杖を操作し、機械仕掛けの蛇のような使い魔を呼び出す。
「また新しい症例だ。 出来れば一体ほど生きたまま捕まえて調べたいが――今はカルテの方が重要だ。 病院で暴れるような愚患者共は早急に排除するとしよう」
タイラントたちが咆哮を上げ、藤丸たちに向け突進を始める。
森長可の影もまた手にした人間無骨を唸らせ、タイラントたちに向かい突撃を掛ける。
病院内での戦いが、始まった。