ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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立志編
1話 プロローグ~目覚め


「父上、お願いがあります」

十二歳を目前に控えたある日、俺は居住まいを正して父の前に正座する。

 

 俺は多摩地方のとある町に生まれた。

時は明治中期、ちょうどこの辺りが東京府に編入されて間もない頃の事だ。家の周囲は田畑が広がり、近所には山があり、のどかで自然いっぱい。というか田舎だ。父母と俺、家族3人と使用人が少しいて、まあちょっと大きい家ではあった。

 時々変な夢を見たり、自分自身に違和感を覚えたことがあったものの、平和に暮らしていた。大人びているが普通の子だった。

 ある時から、時々遠くの町で急に人がいなくなったり、猟奇殺人事件の噂が聞こえて来たりするようになった。そしてついに町内でも人が消える事件が起きた。住人は行方不明、部屋には大量の血痕。襲われてさらわれたのか、それとも。

 

 何とも言えない不気味さ、違和感。日常生活のほんの少し先に、何か触れてはならない物が潜んでいる。得体の知れない何かが実はすぐ近くにいる。

 ――平和な日常が、少しずつ狂い始める。見知ったはずの世界の、本当の姿が現れる――。

 そんな予感がした。

 

 俺が十歳のある日、薄暗くなるまで遊んでその帰り道。数メートル先の暗がりに何かが佇んでいた。ぼさぼさの長い髪、下を向いて表情は見えないが、低い唸り声がはっきり聞こえた。だらりと下げた両腕の指先には、長く鋭い爪が見えた。

 

 そいつが顔を上げて俺を見た。

 

 白眼の部分が真っ赤だった。獲物を見つけ、目を細めて恐ろしい笑みを浮かべ、半開きの口から長い犬歯、いや牙がのぞく。薄暗がりでもいやにはっきりと見えるその顔。――鬼だ。

 

 変質者、人間ではない。鬼が、目の前に迫っていた。俺は悲鳴を上げて頭を両手で覆い、へたり込んだ。恐怖で目を開けていられなかった。殺される。そう思ったが何も起きない。

 

 数秒後、恐る恐る目を開けると、鬼は頸と胴を寸断されて地面に倒れており、

「鬼……狩り……め……」

そう声を絞り出し、見る間に灰となって消えて行った。

 

 目の前には、青い羽織を着て刀を持った人が俺に背中を向けて立っていた。何かが俺の傍を風のように通り過ぎた気がしたが、一体何が起きたのか?この人は誰だ?助けてくれたのか?

 

「坊、大丈夫か?」

羽織の人は、刀を鞘に納めて俺の方に向き直り、被っていた天狗の面を顔の上にずらした。その優しそうなおじさんが俺に歩み寄り、手を取って助け起こしてくれた。ごつくて、温かい手。その手の温もりに心の底から安心したのを覚えている。

 

 同時に、何かを思い出しかけた。

 

 俺は以前にも、こうして鬼から助けられたことがある。

 だが、それ以上は思い出すことはできなかった。

 

「ありがとうございます」

俺は我に返りお礼を言った。

「気をつけてお帰り。……間に合って良かった。この子を頼む」

おじさんは、やって来た2人の黒服の人たちに俺を預けると去っていった。

 

「承知しました、鱗滝様」

頭巾で顔まで隠した黒服さんたちはおじさんを見送り、俺を家のすぐ前まで送ってくれ、優しく頭を撫でてくれた。呆然と、小さくお礼を言うことしかできなかった。驚きと恐怖で思考が停止していたが、その反動か、俺は唐突に思い出し、理解した。

 

 

 俺は、令和の世に生きる五十歳のおっさんだったはずだ。令和3年春のある晩、仕事で疲れ切って帰宅し、倒れるように眠りに落ちた。

 

 それきり前世の記憶は途絶えた。

 

 時々あった違和感の正体は、転生者だったから。同時に、鬼がいて、それを狩る者がいるこの世界を俺は知っている。

 鬼滅の刃の世界。過去に遡ったのではなく、全く違う世界に紛れ込んでしまったのだ。

 鬼滅の刃は大好きであるが、それは外から見ているからであって、自分がその中に放り込まれたらまたそれは別問題だ。

 なぜ、ここなのか?よりにもよって、この危険極まりない世界に転生。人喰い鬼の脅威がすぐそばにある、鬼滅の世界(厳密に言えばそのパラレルワールド)。

 

 原作ストーリーに関わるか、逃げるか?多くの二次創作の主人公たちも悩んでいたが、俺も悩む。

 

 もっと登場人物を救えないかな、と考えていた。その機会が巡って来たのだろうか。

 すごく悩んだが、やってみよう、みんな生存ルート。ここは漫画の世界、現実世界で成しえない事もできるかもしれない。そしてヘタレなまま、ただ年を重ねてしまった自分がもう一度色んな事に挑戦して、心を燃やす生き方ができるチャンスかもしれない。

 どこまでやれるか分からないが、幸い俺には原作の知識がばっちりある。漫画の原作は最後まで何度も読み返したほど好きで、よく知っている。それに漫画の世界で何ができるのか楽しみでもある。自分の思い描くハッピーエンドを目指し、精一杯頑張ろう。

 

 現在1904年、明治37年。原作スタートから8年前。

 

 こうして俺の“みんな生存ルート”を目指す日々が始まった。

 

 幸い近所には手ごろな山があり、自然の地形を利用して基礎体力を養った。十歳の子供とそれなりに鍛えた五十歳の元の体では、特に筋力が全く違って始めは戸惑ったが、毎日訓練しているうちにすぐに慣れた。子供の身体的成長は自分でも驚くばかりに早く、転んでばかりいた俺もしばらくするとものすごいスピードで山中を駆け回れるようになった。

 町の柔術道場にも通い、古流武術も学んだ。この道場は実戦的な技術体系を多く残しており、こんな子供が習いに来るのが珍しかったのか、打撃、投げ、締め、関節技の他、暗殺武器術も面白半分に教えてくれた。

 俺には人の動きが見えた。原作のように人体が透き通って見える訳ではないが、筋肉の緊張、力の伝達が分かった。どこに力を入れ、どう動けば良いかをすぐ理解しコピーする能力もあったため、元の生活の時に動画やらテレビで見ていた実際のスポーツや格闘技、そんな動きもこの世界ではできてしまった。例えば体操選手の身ごなし、ボクシング選手の打撃コンビネーション、武道家の鍛錬等も再現できるようになった。そして、その試みは漫画やアニメ、特撮、その他ドラマなどフィクションにも及んだ。

 ここは漫画の世界。できないはずはないと強く信じて、憶えている限りのあらゆる技を再現する努力を続けて行くことにした。

 また、原作主人公たちほどではないが、五感は非常に鋭く、強化五感と言ってよいレベルであることも分かった。

 

 俺はいつのまにか、中身のおっさんどころか常人をはるかに凌ぐ身体能力を獲得していた。

 

 原作のキモである呼吸法、剣技のテクニカルな面は入門後に嫌でも教わるし、筋力の伸びはこれからだ。

 

“行儀が良くて利発な子”という俺の近所の評判は、

“よく分からない鍛錬ばかりしているちょっとアレな子”に変わっていた。

 

 自己鍛錬を始めて2年近くが経った。頃合いは良し。

 

 

「父上、お願いがあります」

十二歳を目前に控えたある日、俺は居住まいを正して父の前に正座する。

 

「数年間家を出て、ある方に弟子入りして剣の修業をすることをお許しください!」

思い切ってお願いした。

「話は分かったが、誰に弟子入りするんだ?」

父は聞いた。

「狭霧山に住む、鱗滝左近次という人です」

俺は正直に答えた。

 

「鱗滝――。そうか」

普通十二歳の子供が、「人喰い鬼がいる」とか「鬼狩りになりたい」などと言えば、童話に夢中になる歳でもあるまいに、そんなものは早く卒業なさいと言われるところだ。若しくは、頭は大丈夫か、中二病ここまで拗らせたか、早く病院へ、となるかもしれない。だから本当のことは説明したくはないのだが、全て分かっている様子であった。

 

「厳しい道だが、頑張って修行して必ず生きて戻りなさい」

そう言ってくれた。

「時々は帰って来なさい。いつでも待っているから」

でもそう言われた時、俺はちょっとだけ泣きそうになった。

 

 こうして俺は無事に親の許可を得て、鱗滝さんのいる狭霧山へと旅立った。

 

 

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