村田光良…改変キャラ 村田さん
緑川駿人…改変キャラ サイコロステーキ先輩
尾崎東子…改変キャラ 母蜘蛛鬼に操られる女性隊員
成嶋多門…オリキャラ 元警官 鬼にされたが人を喰わない
警察署での十数人の暴行事件。まあ自業自得と言えばそうなのだが。
三十年近く前の事件だが、警察署長にその事を聞いてみた。しゃべりたがらなかったので、少し多めに握らせると渋々教えてくれた。
「そのような暴力沙汰があったことは事実です。ですが、当時何度も山狩りをしてますし、どこかへ逃げたか、もう死んでいるでしょう」
当時三十代なら現在は六十代、早い年には10月から雪が降る気候の厳しいこの地方で、1人山中生活は困難だろう。
「鬼にでもならなきゃ無理だな」
俺の呟きに署長がわずかに反応した。
――どういたしましょう?
警察署の奥まった所にある署長室。その奥にある隠し扉の前で、警察署長が声を潜める。
――最初は、警察内部の捜査を行う高等警察の手の者かと思いましたが、どうやら鬼狩りのようです。ガキばかりに見えますが間違いないでしょう。若殿、というのは大したことはなさそうですが、執事だというあの男は油断がなりません。
署長は尚も声を潜めて話し続ける。
……分かりました、ヤツをおびき出して始末し、それから佳代を奪いましょう。なに、あの男さえ始末すれば後はどうとでも。成嶋を使いましょう。
人払いした警察署の署長室で、そのような密談がなされていた。
その日の夕刻。署長からの伝言です、そう言って若い警官が封書を置いていった。中を見てみると、
「執事の男 今夜10時、飯盛山の白虎隊墓所まで1人で来られたし。成嶋多門」
……これ果たし状じゃないか。署長関係ないし。でも何で警官がこれを持って来る?警察もグルなのか?さらに署長までも関係してるのか?でも俺の探知では、警察の中には鬼らしき雰囲気は無かったが。
成嶋多門、白虎隊の生き残りだという例の男だ。どうする?俺は迷ったが、これは俺たちの動きが核心に迫っている証拠でもある。せっかく向こうから接触して来たのだ、これを利用して相手の懐に飛び込み、一気に本丸を叩くチャンスでもある。
俺は誘いに乗ってやることにした。
村田さん、緑川君、尾崎さん。俺は飯盛山に行ってくる。こちらにも何らかの攻撃があるはずだ。佳代ちゃんを頼む。
今夜がおそらく最終決戦となるので、ここは隊長らしいことを言っておかんとな。
「命令は3つだ。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ」
どうよ、他の世界の尊敬する隊長の言葉だ。かっこいいベテランの隊長が、新兵をリラックスさせる時に言っていた。そのまんま使わせてもらったぜ。
「水原さん、それじゃ4つだぜ?」
「あ、あれ?そうだった?」
緑川君が少し呆れつつ、冷静にいいツッコミをしてくる。村田さんは、またしょうもない事を言い出したかと苦笑いしている。
「えっ?えっ?何?何で?!」
1人だけ分かっていない尾崎さん。何で分かんないんだよ。
「いいか、数えてみろよ。一つ目が死ぬな、で、二つ目が死にそうになったら逃げろ、で……」
緑川っ!解説すんな!!
「ああ、そうかあ!」
尾崎っ!薄々分かってはいたが、お前天然だったのか……このボケ殺しめ。
こんな具合に、既に俺たちはチームワークもばっちり(?)なのだ。
鬼殺隊の隊服を着て腰に刀を差す。急に雰囲気が変わった俺たちを見て佳代ちゃんが不安がってるから、ちょっとボケてみました。フッと、全員の空気が緩む。
「では行ってきます」
何とも締まらないまま、俺は決闘の場所に向かった。
飯盛山の頂上近く、開けたところに白虎隊士の墓所があった。そこに佇む影を、満月が白々と照らしていた。
「成嶋多門か」
倫道が問いかける。
ゆっくり振り向く人影。骨と皮ばかりに痩せこけてはいるが、腰には古びた刀を帯び、まさに武人然とした佇まいだった。廃刀令が布告され20年以上、全く時代にそぐわぬ姿だ。
「あんたを止めに来た」
倫道が刀を構える。鬼も静かに鞘を払う。
「参る」
鬼はそれだけ言って、戦闘が始まった。
数合打ち合うと、
(隙がない)
倫道は思った。痩せこけているがその剣は強く、速い。しかし不思議にも匂いがとても弱いのだ。殺意も感じない。
「あんた、人を喰ってないな?何でだ?」
ひとしきり激しく打ち合い、倫道は問いかける。
「この飢えと渇きは、罰だ。1人生き恥をさらす儂の」
鬼は構えたまま答える。
「1人も喰ってない、そういう匂いだ。どうして鬼になった?復讐か?」
倫道はさらに問う。
その鬼、多門は刀を下した。
「あの戦争で、白虎隊の仲間が大勢死んだ。警察でも十数人の同僚を殺した。儂も半死半生で山に逃げこんだ。ここで死ぬのか、そう思った時にあの男がやって来た。死にたくない、そう思ってしまった。多くの人間を殺したお前にさらなる楽しみを与えてやろう、あの男はそう言って儂を鬼にした。しかし人を喰らうことなどできなかった。ならぬことはならぬもの、そう教わってきた。この永遠の生き地獄が、儂の贖罪だ」
(違う)
倫道は、やるせない気持ちになった。ばあちゃんから聞いた話には続きがあった。
「戦争では知らないが、少なくともあんたは警察の同僚たちを誰も殺してない。1人も死んでないんだ。多門さん、あんた鬼舞辻に騙されたんだ」
倫道は多門の言葉を訂正する。多門は天を仰いで、それから安堵の笑みを漏らした。紅い目から涙を流して。
「人を喰わぬ儂は疎んじられ、新しい鬼がやって来た。そいつは警察署を根城に人を操り、人を喰らっておる」
そこにマスカラスが飛来し、宿が襲われていることを告げた。
「多門さん、話は後だ。俺は市街へ向かう!」
倫道はそう言い置いて走り出す。山道を飛ぶように駆け下り、市街地の建物をハードルのように飛び越えながら全速力で宿へ向かった。
同時刻、宿周辺では村田、緑川、尾崎の3人が奮闘していた。鬼は稀血の佳代を喰って逃げる積りでおり、用済みになった警察署長を喰らって本人に擬態し宿を急襲したが、3人は違和感に気付いて不意打ちを躱し、佳代を守って逃げたのだった。鬼は身長3メートル余り、金剛力士像のような本来の姿となって襲いかかり、戦闘が始まった。鬼のパワーとスピードに3人は押されながらも、市街地への被害を最小限に食い止めていた。
「水の呼吸 一ノ型・水面斬り!」
「水の呼吸 参ノ型・流流舞い!」
「水の呼吸 肆ノ型・打ち潮!」
3人は必死に技を出し倫道が帰るのを待ったが、鬼の猛攻に圧されていた。その時。
「水の呼吸 捌ノ型・滝壺!」
上空から斬擊を叩き付け、倫道が合流した。鬼は縦に一刀両断されるが、すぐに再生して襲ってくる。
(成嶋め、もうやられたか!役立たずめ!)
倫道の姿を見た鬼はそう呟く。倫道に成嶋をぶつけて佳代から引き離し、上手くいけば相討ちにさせる腹であった。倫道さえ始末すれば後は容易く殺せると踏んでいたが、他の3人が予想を遥かに超える奮闘を見せたため鬼はイラ立っており、そこに倫道が生きて帰って来たため、鬼の怒りはさらに募った。
尾崎が佳代を守って鬼の注意を引き、倫道、村田、緑川が連携する。剛力で振るう攻撃は脅威だが、戦闘力で言うなら多門の方がはるかに上。
戦いの中で倫道は気付く。月明りにきらめく3人の刀身の色。そして、3人が剣を振るう度、その斬撃に伴ってザザアッ!と水のエフェクトが見えた。
(いいぞ、3人とも!これならイケる!)
倫道の頬が思わず緩む。倫道が前面で攻撃を全て捌き、鎌鼬(カマイタチ)を繰り出す。飛び道具が欲しくて新たに身に着けた新技だ。真空の渦を作り、離れた敵を切り裂く、漫画の世界の技。
数回の遠隔斬撃が鬼の防御を削り、
「水の呼吸 弐ノ型・水車!」
村田が跳躍し、鬼の片腕を切断。
「水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き 牙斬!」
倫道は鬼の射程圏内に自分から飛び込み、パンチを出した鬼の拳を狙って突きを見舞い、その小指側から肩まで抉り抜く。一瞬両腕を失う鬼。倫道と息を合わせて、加速していた緑川が踏み込む。
「水の呼吸 壱ノ型・水面斬り!」
激しい水飛沫のエフェクトと供に、緑川が見事鬼の頚を刎ねた。
ほっと安堵したのも束の間、そこに多門が現れた。
刀の柄に手をかけながら一直線に走り、距離を詰めてくる。佳代を後ろに庇い、3人が日輪刀を構え直す。
「俺が行く!」
倫道は、尾崎に佳代の目を塞ぐように頼み、同じように多門に向かって走りながら迎撃態勢に入った。
多門が抜刀した。
「水の呼吸 肆ノ型・打ち潮!」
技を繰り出そうとして、倫道は多門の僅かな動きを見逃さなかった。月明りにきらめく多門の刀は、刃ではなく刀の峰がこちらを向いていた。
「水の呼吸 伍ノ型・干天の慈雨」
倫道は走りながら咄嗟に技を変え、多門の首を刎ねた。
隠せただろうか?この人の頸を刎ねるところは佳代ちゃんには見せたくはなかった。多門さんは灰化しながら徐々に壮年の人間の姿に戻っていく。
佳代ちゃん、実はね、この人は。
「じいちゃん……なの?」
佳代ちゃんが答える。分かるのか。
「うん、あの時ね、助けてくれたから」
そうか、貴方は襲撃したんじゃなくて、家族を守ろうとして戦ったのか。いつも心配して影ながら見守ってたんだね。だから襲われた時にもすぐ駆けつけた。
「ありがとう、ようやく……死ねる。仲間のところには行けぬが。鬼狩りの少年よ、孫を、頼む」
多門さんは穏やかな顔で消えて行った。
会津っぽ、て言うんだよな、ああいう人。
彼も時代に翻弄された被害者。鬼にされたにも関わらず人を喰わなかった。ならぬことはならぬ、会津人の誇りを、意地を貫き通した。この人が今度生まれてくる時は、どうか幸せな人生を。俺は多門さんの魂に手を合わせ、そう祈らずにはいられなかった。
緑川も、尾崎も、僕も。本当に頑張った。3人で頑張り、一般人に被害を出さずに済んだ。水原はすごく褒めてくれた。最初は嫌な感じだった緑川は実は意外といいヤツで、信じられる仲間と思えるようになった。今度はしっかり守れたな、と水原に言われて、
「みんなの力だろ」
そう言い返していたが、急に優等生になり過ぎていて笑ってしまった。
「へえー」「何か悪い物でも食べた?」
みんなで感心していると、
「何だよ、俺は良いこと言っちゃいけねえのかよ」
緑川は不貞腐れていたが、そんなに嫌そうではなかった。
水原はほとんど無傷だった。1回鬼と戦った後僕らのところに駆けつけて、あの仁王みたいにでかい鬼を手玉に取っていた。戦いの後も疲れた様子も見せない。僕ら3人は傷だらけなのに、本当に掠り傷一つない。あまりの違いに僕は落ち込むが、帰路水原に言われて初めて気づいたことがある。
「みんな、お疲れ様。誰も死なず、大怪我もせず、無事に任務終了だ」
僕たちは笑顔でうなずく。
「ところでみんな、刀を見てみよう!」
水原が言ったので、僕たちは良く分からないまま刀を抜いてみた。
僕は、いや、俺は。
改めて青く色変わりした自分の日輪刀を見た。緑川と尾崎も、刀の色変わりを果たしていた。この戦いの前は変わっていなかったのに。
まだまだなのは分かってるけど、水の呼吸の剣士、そう名乗っても恥ずかしくない位にはなれた気がする。少しだけ強くなれたという確かな手ごたえと、色変わりした日輪刀を得て、俺たちはこの印象深い合同任務を終えた。
それと……水原。佳代ちゃんが「倫道兄ちゃんのお嫁さんになる!」って言った時、「丁重にお断りします」って返してただろ?それは最悪だぞ。絶対ちゃんと謝っとけよ。