ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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13話 命令

俺はお館様に呼ばれ、鬼殺隊本部・産屋敷邸の会見の間にいる。お館様には初めてお目にかかるが、行燈の明かりではお顔の様子は暗くてあまり良く見えなかった。

「倫道。君は甲になったばかりだったね。早速で悪いが任務を頼みたい。那田蜘蛛山に、先遣隊と討伐隊20人を向かわせたが、相手は異能の鬼らしく苦戦している。十二鬼月もいるかもしれない。柱である義勇としのぶとともに、君も行ってやってくれないか?2人とはこの機会に顔を合わせておくといい。ああ、義勇は兄弟子だったね」

お話が終わった後、俺は会見の間の隣部屋、控えの間で彼らの到着を待っているのだった。

会見の間に義勇としのぶさんが到着し、お館様と話をしているのが聞こえてくる。

(足痺れてきた……。正座してるのつらくなって来たな)

痺れた脚をさすっていると、

「今日はもう1人呼んである。しのぶは初対面だね。――倫道」

丁度お館様に呼ばれた。しのぶさんと素面での初対面だ。

「はッ」

イキって返事をして颯爽と登場するはずが。

「あら?」

立ち上がろうとしたが痺れた脚がもつれ、ふすまがスローモーションのように眼前に迫って来る。お館様たちのいる会見の間に、俺は外れたふすまとともに転げ込んだ。

ばたーん、と大きな音が響く。お館様の命を狙う者と勘違いしたのか、義勇としのぶさんは片膝立ちになり、刀の柄に手をかけていつでも抜ける態勢になった。き、斬らないで。転んだだけだから。外れたふすまの上にどてっと転がった俺。自分で言うのも何だが見事なこけっぷりだ。どんなもんだい。

「えへへ、す、すみません……」

義勇、しのぶさんとばっちり目が合う。お館様に付き添っているお嬢様、ひなき様、にちか様とも。俺はしびれた脚をさすり、恥ずかしさに耐えながら照れ笑いする。数瞬の微妙な沈黙の後、事情が分かったのか、何事もなかったように義勇としのぶさんは前を向いた。

すんごい恥ずかしい。顔から火が出てお屋敷が全焼するくらいだ。よりによってしのぶさんの前で……。ああ、しのぶさんとの恋愛展開が消えて行く。

(※作者注 もともとありません)

「今の音は、どうしたのかな?」

お館様が誰にともなく聞いた。お館様、分かってて聞いてません?

「脚がしびれた水原さんが、転びました」

お嬢様たちが、笑いもせず報告する。

そんなこといちいち報告しないで良いです。義勇は俺をちらりと見ながら、

「派手な登場だな」

と余計な一言までかけやがった。くそう、ちょっとくらいフォローしてくれたって良さそうなもんだろ。兄弟子じゃないか。しのぶさんは、顔を覆って笑いを堪えているが、肩が震えて、「くっくっ」という声が漏れて来る。

「では、頼んだよ」

「「御意」」 「ぎょ、御意……(すみません)」

お館様が去ると、しのぶさんは涙をぬぐいながら、

「人も鬼も、みんな……ぶふっ!」

仲良く、でしょ?セリフの途中で吹き出して、しのぶさんはその続きが言えなくなってしばらく笑っていたが、少し落ち着いた後、

「大分お待たせしたみたいですね。蟲柱……、ぷぷぷっ、胡蝶しのぶです。くくくっ」

なおも笑いを堪えながら自己紹介してくれた。

「初めまして、水原倫道です。よろしくお願いいたします」

俺は、何かありました?的な態度で答える。もう頼むから忘れてください。

「どこかで会いましたか?」

しのぶさんは俺の顔をじっと見ながらにこやかに問う。

「いえ、初めてお目にかかります」

何度も会っているが、俺はすかさずとぼけて答える。

「そうですかあ?隠の隊員たちとも随分仲良しなのでは?」

しのぶさんはさらに追及するが、

「いえ、隠の皆さんなど知りません!」

俺はあくまで白を切る。

「まあいいでしょう、その件はいずれ。それに、水原さんの噂は、色々聞いていますよ」

しのぶさんは一旦矛を収めるが、新たな手段で攻撃して来た。えっ、どんな噂を?

「安心してください、良い噂ですよ」

うーん、怖い。だが可愛いなあ。そんなことを思っていると、

「お前たち、そろそろ行くぞ」

義勇が出立を促した。

義勇を先頭に、俺たちは那田蜘蛛山に走り出す。

 

那田蜘蛛山に到着し、登山口から登って行くと、先遣隊の隊員たちの亡骸が散乱している場所に着いた。村田さんたちが入山しているはずだが、大丈夫かな?

亡くなっている隊員の顔を確認するが、見知った顔は無かった。申し訳ない、後でちゃんと埋葬しますから、安らかに眠ってください。俺は手を合わせ、3方に別れようというしのぶさんの提案に従った。しのぶさんは西から、義勇は東から、俺はこのまま直進だ。

死ぬなよみんな。命令を忘れるな。

 

 

 

地面を這ったままの炭治郎に止めを刺そうとして、怒りに表情を歪ませながら、累が背後からゆっくりと歩み寄る。

「あの炎、妹の力か何か知らないけど……。こんなに腹が立ったのは、初めてかもしれないよ。もういいや、お前も妹も、バラバラに刻んで殺してやるよ……!」

血鬼術・殺目篭を放とうとした時、累はふと、視線を炭治郎や禰豆子よりも離れた前方に向けた。前方から、音もなく猛スピードで走ってくる人影があった。走る人影が、抜刀するなりその刀をビュン、と横薙ぎに一閃する。

同時に、ひゅっと風音が鳴った。己の視界に、急に地面が迫ってくる。転んだのか?累は混乱して、脚を踏ん張ろうとしたが、力が入らないことに気付く。

いつの間にか、腹のあたりで上半身と下半身が分断されていた。

人影は累の前から炭治郎と禰豆子を抱えて飛び退り、緑川の傍に2人を横たえた。緑川はその人物を見て、思わず流れそうになる安堵の涙を危うく堪えた。

 

「遅えよ。来ないかと……思ったぜ」

(この人が来てくれた。もう大丈夫だ。助かる!)

悪態をつきながらも確信した。

「倫道さん……」

炭治郎もやっと声を絞り出す。

「ごめんな、遅くなっちまった」

倫道は微笑んで、累に向き直った。

「次から次へと、僕の邪魔ばかりするクズどもめ!」

累は事態にようやく気付き、すぐに体を再生した。

「血鬼術・刻糸輪転!」

怒りに燃える目は一層赤く光り、歯噛みしながらを血鬼術を繰り出すが、全ての糸は倫道に届く前に霧散してしまった。

(糸が全部切れた!何でだ、もう一度……!)

「えっ?」

累は、一瞬倫道が微笑んだように見えた。

最高強度の刻糸輪転を再度繰り出そうとして、累の視界はぐるりと垂直に回る。視界には、頸のない自分自身の胴体と、刀を鞘に納める先ほどの鬼狩りの姿。

数秒の後、斬られたことに気づく。

 

累の中で、不意に人間だった頃の記憶が蘇る。

 

 

 

病弱だった俺を、無惨様が鬼にした。強い体となったが、日の光に当たれず、人を喰わねばならなくなった。父や母はそれを知り、嘆き悲しんだ。

父は俺を殺そうとした。――涙を流して。

「一緒に死んでやるからな……」

確かにそう言って。

俺は怒りのあまり父を殺し、父を止めなかった母も殺した。

「丈夫に産んであげられなくて、ごめんね……」

母はそう言って事切れた。

あの夜、自分自身の手で一番大切な絆を切ってしまった。父や母は、本当に俺の事を想ってくれていたのに。

ぼくは。

ずっと、謝りたかったのだと今さらながらに気付く。もう遅いと言うのに。

父と母の幻が現れ、いつの間にか僕の傍らで手を取ってくれていた。人間だった頃、いつもそうしてくれていたように。

「鬼になってたくさん人を殺した僕は、地獄へ行くよね……。父さん、母さんと同じところには行けないよね。……ごめんなさい」

僕は父と母に謝った。

「父さんと母さんは、地獄でも……。累と一緒に行くよ」

父と母はそう言って僕を抱きしめた。僕の中で、感情が弾けた。

「ごめんなさい!全部僕が悪かったよ!!ごめんなさい!ごめんなさい!……ごめん……なさい……」

意識が無くなって行く。僕を斬った鬼狩りが傍に来た。止めを刺すのか。僕は十二鬼月だからな、当然だ。だけど、彼は。

 

 

 

倫道は、片膝を突き、倒れた累の背中に手を置いた。

 

「両親もきっと一緒にいてくれる。安心して逝きな」

 

そう声をかけた。累は涙を流しながら灰化していった。

 

伊之助を助け出し、遅れて到着した義勇は、十二鬼月を倒した倫道をさほど驚きもせずに見ていた。(良くやった。だがまあこのくらいの相手なら当然か)

 

 

 

 

 

 

 

俺は累の背中に手を置いて声をかけ、ウロウロしている茶々丸を呼び、炭治郎君の代わりに血を取って渡した。

 

――茶々丸、だから俺の羽織で爪を研ぐなと言ってるだろ!

 

一旦は退けたのに、またやって来て爪を研いでいる茶々丸をそのままにして、並べて寝かせた炭治郎君と緑川君を簡単に診察する。

 

炭治郎君は全身に多数の切創やら打撲、無理をしてヒノカミ神楽を使ったためのスタミナ切れ。緑川君は全身に多数の切創、打撲、複数の肋骨骨折と肺挫傷、左前腕の橈尺骨骨折といったところか。致命的な損傷が無いのは不幸中の幸いだった。

 

 

 

 

その頃山の西側では、村田たちが奮闘していた。7人で探索中に木にぶら下がった巨大な繭を幾つも発見し、やっとのことで切り開くと、中から溶けた人間の死体が出て来た。残りを落とそうとしていると姉蜘蛛鬼が現れ戦闘になった。村田と尾崎以外は繭にされたが、2人は粘って戦い、しのぶが到着して姉蜘蛛鬼を瞬殺、繭にされた隊員も全員が無事救助されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ、しのぶさんが来る。どうしよう、禰豆子ちゃんを隠すか、いや間に合わないし、まず見つかるだろう。

 

などと考えていると、しのぶさんが禰豆子ちゃんを串刺しにする勢いで飛び込んで来た。義勇がしのぶさんの剣をはじく。

「冨岡さん、どういうおつもりですか?」

顔は笑っているが、しのぶさんのその声には冷たい殺意が籠っている。

険悪な雰囲気が漂うが、カラスの伝令が間に合った。

 

「竈門炭治郎、禰豆子ノ両名ヲ拘束シテ本部二連行セヨ!」

 

という指令のもと、隠たちによって2人は運ばれて行った。

 

 

それにしても、良く戦ったと思う。十二鬼月相手に、よくぞ。おじさん感動したよ。

 

「良くやったよ。本当に良くやった」

 

隠の隊員に運ばれる緑川君に、そう声をかけた。

 

「俺はヘマして、あの癸に護られたんだよ。情けねえ」

 

緑川君は血だらけの顔で苦笑する。

 

「でも命令は守ってくれたんだな。ありがとう」

 

俺がまた声をかけると照れたように笑い、手を差し出して来た。俺も涙ぐみながらその手を握り、また生きて再会することを誓い合った。

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