14話 柱合裁判
柱。鬼殺隊最高戦力にして、隊員数百名の頂点に立つ9名の剣士たち。
吹きすさぶ風がよく似合う、“9人の戦鬼”と人の言う。彼らが行くは、涙で渡る死の大河か、夢みて走る死の荒野か。
ともかくも、色々な意味で常人とはかけ離れた人々が俺の前にいた。竈門炭治郎、禰豆子の柱合裁判なのだが、彼らを庇ったため実質俺と義勇も何らかの責めを負う可能性があった。そして俺は、裁判の後の柱合会議にもなぜか呼ばれているのだった。
柱たちは産屋敷邸のお庭に並んでおり、水柱・義勇は何故か1人離れて立っている。俺はただの一般隊員なので義勇の傍に片膝を突いて控えている。
半ば意識を失った状態で後ろ手に縛られ、地べたに転がされている炭治郎君に隠の後藤さんが声をかけて起こす。そして、
「あなたは今から裁判を受けるのですよ、竈門炭治郎君」
蟲柱・しのぶさんがそう宣告し、裁判が始まった。
しかし、炎柱、音柱、岩柱は最初から殺す気満々だ。最終的には認めてもらえるとしても、原作通りだと禰豆子ちゃんが何度も刺されてしまう。説得できれば良いがと思っていると、
「そんなことより、冨岡とその水原という隊員はどうするのかね」
木の上からネチネチした声が。蛇柱・伊黒さんだ。
彼の説得は難しいだろうな。
「胡蝶めの話によると、鬼と知りながら庇っていた隊律違反は、冨岡、水原も同じだろう。どう処分する?どう責任を取らせる?」
くそっ、ネチネチといやらしい。だが正論だ。
「柱でありながら鬼を庇うなどあり得ん。何とか言ったらどうだ、冨岡」
蛇柱はさらに言う。義勇と傍らに控える俺に注目が集まる。杏寿郎さんと目が合うが、一瞬、おや、という顔をしただけだった。
以前にお宅に伺った時にずいぶんお話ししましたよね?千寿郎君とも一緒に稽古してるし、少し庇ってくれてもよさそうなものだが。
「冨岡、水原両名の処罰は後で考えましょう。それよりも、私は坊やの方から話を聞きたいです」
しのぶさんが弁明の機会を与えてくれた。
しかし炭治郎君の説明では今一つ要領を得ない。
「差し出がましいようですが、多少事情を知っておりますので私からご説明いたします」
俺は見かねて立ち上がり説明を引き継ぐ。
「彼の兄妹たちとは以前から知り合いなのですが、2年前、彼の留守中に家が襲われ、家族は殺され禰豆子が鬼になりました。私はたまたま現場にいましたが、その時禰豆子は炭治郎にも私にも危害を加えませんでした。あの子は、禰豆子ちゃんは強く人間であろうとしています。人間の心が残っています。鬼になってから2年以上誰も傷つけておりませんし、炭治郎が隊員になった後は彼を助けて共に戦い、この度の那田蜘蛛山でも十二鬼月の撃破に重要な役割を果たしています」
一気にしゃべった。興奮して途中からいつも呼んでいるように“禰豆子ちゃん”になっていたけどまあいいや。
「しかし、これからも人を喰わないことを、ド派手に証明できるのか?」
音柱・宇髄さんがもっともな指摘。
うーむ、これも正論だ。
(何だっけ、あの鳥……)
そんな中、お空の鳥をぼーっと眺めている無一郎君。そんなに口を開けてると虫が入るよ。
心の中で突っ込みをいれていると、
「お館様はご存じのはずでは?いらっしゃるまで待ったほうが良いと思いますが……」
恋柱・甘露寺さんグッジョブ。ここで一旦殺す派の勢いが弱まる。
「妹は、俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として、人を護るために戦えるんです!」
炭治郎君がたまらず叫ぶが、遂にあの男が現れた。
「おいおい、何だか面白い事になってるじゃねえか。鬼を連れたバカ隊員てのはそいつかい?」
禰豆子ちゃんの箱を片手に、風柱・不死川実弥登場。
「不死川さん、勝手な事をしないでください」
しのぶさんがたしなめるが、全く意に介さない様子。隠のお姉さんも困ってるし、ここは穏便に。
「鬼殺隊として人を護るために戦える?そんなことはなあ――。有り得ねえんだよ、バカが!」
禰豆子ちゃんを刺そうと、刀に手をかける不死川さん。
「止めろ!!」
俺は思わず叫び、不死川さんを睨みつけた。
倫道が叫ぶ。びりびりと周囲の大気が震える。
(ほう、この声の主、なかなかやる。この声の強さ、鋭さは良い)
岩柱・悲鳴嶼は密かに感心していた。
「てめえはあの最終選別の野郎か。何でここに居やがる?」
不死川も思わず声の方を見て、倫道に気付いた。
「ちょっと事情がありまして」
倫道が少し口ごもりながら答える。
「不死川さん、その箱をこっちに返してくれ」
倫道はあくまで冷静に語りかけた。
「ほおぉ。こいつは鬼だぜ……?それを殺さずに、てめえに返せとぬかすかよ」
不死川は好戦的な笑みを浮かべる。倫道との間に冷たい火花が散り、空気が張りつめて行く。
「その箱を放せ!」
倫道は、今度は声に怒気を含ませて不死川に叩きつけた。
「面白れえ。取れるもんなら」
不死川は薄ら笑いを浮かべたまま、抜刀。
「取ってみな!」
不死川が箱を刺そうとする瞬間に倫道がダッシュし、刀を持った不死川の右腕を両手でがっちりと押さえた。お互いに額が付きそうな距離で、無言のまま睨み合いながら力比べのようになった。倫道が不死川の右腕を押さえたままじりじりと押して行く。
「て、てめえ……!」
鬼を許さない、強い思いを抱く不死川は怒りを募らせるが、それは倫道も同じだった。
炭治郎と共に人を護って戦う禰豆子を傷つけさせない。
互いの正義がぶつかり合う。
不死川は右腕を伸ばし、左手には箱を持っているため力が入りにくく、やや不利。
不死川の手から箱が落ち、倫道はそれをキャッチして力比べから離脱、炭治郎の後ろに箱を置いた。
「善良な鬼と悪い鬼の区別も付かないなら、柱など辞めてしまえ!」
禰豆子を刺そうとした不死川に、炭治郎の怒りが爆発する。
「てめえら……!2人まとめてぶっ殺してやる!」
不死川も怒りを露わにし、倫道と炭治郎に刀を向けた。
「お館様の御成りです」
その時、お屋敷の中から声がかかった。不死川と倫道の対立で殺伐としていた空気が一変し、落ち着いて厳かな雰囲気になった。
怖かったあ……。不死川さん、最終選別の時の100倍くらい怖かった。おしっこちびりそう、いや少しちびったがひとまず収まった。
「よく来たね。私の可愛い子供たち」
お館様は、お子様たちに伴われ、縁側まで出ていらっしゃる。
「顔ぶれが変わらず、半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」
涼やかなお声が響く。
一瞬の後、俺と炭治郎君は不死川さんに頭を押さえられて平伏していた。
居並ぶ柱たちも片膝を突いて頭を垂れ、恭順の意を示している。俺は押さえられながらお館様を見る。この前は暗くて良く見えなかったが、顔面のほぼ上半分に皮膚の色素沈着とケロイド状の変性。視力が無くなっているそうだから、眼球、あるいは視神経にも影響が及んでいるのか。
ストーリーが進行すると皮膚病変が体全体に及び、立てなくなる様子も描かれている。それは何らかの原因による衰弱なのか、筋委縮なのかも分からない。
お館様もお救い申し上げたいが、俺にはもともとの疾患の特定が不可能。呪いというなら早く無惨を倒すべきなのだが、それにはまだ準備が足りない。
などと考えていると、
「この竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じます」
不死川さんがお館様に挨拶を述べた後、そう付け加える。
「炭治郎と禰豆子の事は私が容認していた。そして、みんなにも認めて欲しいと思っている」
お館様はそう言われたが、柱たちは口々に反対を唱える。
ここで鱗滝さんからの手紙が読み上げられた。
「もしも禰豆子が人に襲い掛かった場合は、竈門炭治郎、及び鱗滝左近次、冨岡義勇、水原倫道が腹を切ってお詫びいたします」
そう結んであった。少しは響くかと思われたのだが。
「切腹するから何だというのか。死にたいなら勝手に死にくされ。何の保証にもなりはしません!」
不死川さんは頑なだ。他の柱もまだ反対する。
「人を襲わないという保証ができないが、禰豆子が2年以上人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために4人もの命が懸けられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上の物を差し出さなければならない」
お館様は重ねておっしゃり、殺す派の柱たちは言葉に詰まった。もうこのくらいで諦めなさいよ君たち。
「それに、この炭治郎は鬼舞辻と遭遇している」
そしてお館様の言葉に一同は驚愕し、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
「どんな姿だ!能力は!」「場所はどこだ!」「根城は突き止めたのか?!」
口々に勝手な事を言い出し、ボケーっとしていた無一郎君でさえ、
「戦ったの?」
と食いついている。
「鬼舞辻は何をしていた?!おい!答えろ!」
炭治郎君は不死川さんに頭をガックンガックン揺さぶられて目を回している。
あまりに大騒ぎなので、お館様が口に手を当てて、静まりなさいと合図を送る。
鬼舞辻は炭治郎に追っ手を放っており、鬼舞辻にとっても予想外の変化が禰豆子に起きているからではと推測しているとお館様は結んだ。
だから、炭治郎と禰豆子をこのままにせよということだ。
「分かりません、お館様!」
不死川さんが叫ぶ。
まだ分かんないのかい、この子は!そんな子に産んだ覚えはないよ。産んでないけど。
不死川さんは禰豆子ちゃんの箱を持ってお屋敷に飛び込み、自分の腕を切って血を流しそれを禰豆子ちゃんに突きだしている。
炭治郎君は伊黒さんに妙な体術で押さえ込まれて動けずにいるが、それ普通の呼吸も阻害してないか?俺は伊黒さんの拘束を解こうとするが既に義勇が動いて、炭治郎君を押さえている伊黒さんの腕を掴んで力づくで退けていた。
不死川さんの血は、鬼にとってはものすごいご馳走。稀血の中でも特に希少な超稀血なのだ。禰豆子ちゃんは、不死川さんの超稀血を前にしても脂汗を流しながらも我慢を貫き、ついにぷいっとそっぽを向いて箱の中に入ってしまった。
この状況を聞いたお館様は、
「これで、禰豆子が人を襲わない事の証明ができたね」
そうおっしゃり、図らずも証明する決め手になってしまった不死川さんも悔しそうにしながら従わざるを得なくなった。
柱たちもまあ納得したらしかったが、
「何のつもりだ!」
伊黒さんは義勇の手を振りほどき睨んでいる。
「禰豆子を不快に思う者もいるだろう。炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦える事を、証明しなければならないね」
お館様がそうおっしゃるが、明らかに不快に思っている不死川さんと伊黒さんの心中を察してのお言葉でもあるのだろう。
まず十二鬼月を倒しておいで、というお館様のお言葉に、
「鬼舞辻無惨を倒します!」
炭治郎君が勢い余って宣言すると、少し笑いも漏れた。炎柱・杏寿郎さんは、良い心がけだ!と褒めてさえいる。何とか収まって良かった。
「それから、実弥、小芭内。あまり下の子をいじめないこと。いいね?」
最後に2人が軽く怒られたので下を向いたままニヤニヤしていると、後で殺す、という視線を伊黒さんが向けて来たので俺は慌ててまじめな顔を作った。炭治郎君は治療のため蝶屋敷へと搬送されて行き、裁判は無事終わった。
「炭治郎の事はこれで終わり。下がっていいよ」
お館様がそうおっしゃったので、
「では、私もこれで」
俺もそう言って帰ろうとしたが、
「倫道もここに残ってくれるかい?」
お館様に引き留められた。
そして、柱合会議が始まった。