ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

16 / 87
人物紹介
煉獄千寿郎…杏寿郎の弟。気弱だが実は天才
煉獄槇寿郎…杏寿郎、千寿郎の父。訳あってダメ親父に
錆兎…怪我により右足を膝上で切断したが、ある手段で剣士として復活する


無限列車編
16話 こんにちは千寿郎君


那田蜘蛛山の戦いの2ヶ月余り前。

俺は会津から帰った後、甲に昇格していた。

そして無限列車編に備えてある仕込みを行うため、炎柱・煉獄杏寿郎さんに面会すべくお土産を持ってお屋敷を訪ねていた。

「兄上から聞いております。どうぞ」

玄関では今回のターゲット、千寿郎君がにこやかに出迎えてくれた。座敷に通されると程無く当代の炎柱・煉獄杏寿郎さんが現れる。

「溝口少年か。うむ、他の呼吸についても学びたいとは感心だ!」

俺は今回、炎の呼吸の技についても学びたいという名目で杏寿郎さんを訪ねているのだ。

「俺の継子になると良い。一人前にしてやろう」

ありがたいお言葉も頂いたが俺も任務(と裏任務)があるし、そうでなくとも忙しい杏寿郎さんにそうそう稽古をつけてもらうわけにもいかない。と言うわけで。

「千寿郎君をしばらくお借り出来ないでしょうか?一通りのことはお出来になるのでしょう?それと私は溝口ではありません。水原と申します」

そう切り出した。

「千寿郎を?確かに他人に教えることは千寿郎の学びにもつながるかもしれん。しかし父上が何と言われるか」

問題はそれか。ここでお父様の槇寿郎さんが乱入。酒臭っ!

「何だ貴様は!勝手に人の家に上がりこみおって!千寿郎を連れ出すなど許さんぞ!」

昼間からもうしたたかに酔っている。だらしなく着崩れた着物と帯、顔には無精ひげも生えてなかなかのダメっぷりだ。

「私は甲隊士水原倫道と申します。先代炎柱・煉獄槇寿郎様とお見受けいたします。土産を持参しました。お口汚しとは存じますが」

俺は自己紹介し、対パパ用に持って来た物を渡してみる。

「梅酒を缶に詰めたものにございます。お口直しに一口いかがですか?」

プシュッと1本開け、早速飲ませてみた。

「何だ、梅酒か。そんな甘ったるい物が飲めるか!……仕方ない、まあ飲んでやるか」

何だこんな物、と言う感じで口を付けたが、プシュッという音でも分かる通りこれは炭酸入りなのだ!

「この刺激は!うまい!うまい!!」

と一気に飲んでくれた。でも慣れないのに、炭酸飲料をそんなに急いで飲んだら。

「ヒック!ゲフウ!」

ほら言わんこっちゃない。しゃっくりとゲップまで出ちゃって、煉獄兄弟も唖然としている。ここで俺は某缶入り炭酸梅酒1ダースの風呂敷包みを手渡し、

「千寿郎君の件は」

改めて聞いてみると、パパ寿郎は先ほどの醜態で気まずくなったのか、

「勝手にしろ」

手にはしっかりと風呂敷包みを持ち、引っ込んでしまった。

ありがとうございます。ああそれと、飲み過ぎはお体に障りますので、ノンアルコールにしてございます。気分だけお楽しみください。

その後改めて話し合い、まず1ヶ月千寿郎君を俺の実家と狭霧山に預かって炎の呼吸の技を教わり、その後は煉獄邸と行き来してもらうことにした。

「本来なら俺が手ずから教えるところだが、すまないな溝口少年。他の呼吸を使う剣士と一緒に稽古するのは千寿郎にも良いことだ」

杏寿郎さんも言ってくれた。

「僕でお役に立てるでしょうか?」

千寿郎君は少し不安気だが、大丈夫。目的は君を覚醒させることなのだよ。

その後あまり時を置かずに早速狭霧山に来てもらった。

千寿郎君は太刀筋は悪くない。どころか。

ちょっとこの子、すごくない?実は天才なのかもしれない。幼い頃から鍛えられ、杏寿郎さんの技も常に間近に見ており、神経系の発達は非常に良い。後は筋力の向上を図ることと、心のどこかに掛かっているリミッターを解除することだ。

――それでは仕込みを開始しよう。

 

「俺は実は占いが得意でね。占いによると、近々大きな任務で兄上は強敵とぶつかり、みんなを守ってそこで死ぬ」

俺は千寿郎君にさらりと言った。千寿郎君は当然衝撃を受ける。俺は原作の知識で、内部の人間しか知らないようなことを、さも占いであるかのように次々と言い当てて信用させた。

「俺は何としても杏寿郎さんを死なせたくない。俺もその任務の時はどうあっても行動を共にするつもりだ。そして千寿郎、君の力も借りたい」

俺はさらに続ける。さりげなく「千寿郎」と呼び捨てにして熱血な感じを演出。

「君は、本当はとても強いんだ。太刀筋も良い。だけど優しく穏やかな性格が戦闘そのものを拒んでいるように見える。刀が色変わりしないのはそれが原因だ」

そして大いに焚き付けた。

「君も名門煉獄家の男だ。才能が無いはずはない!兄上を守るため、共に強くなろう!」

止めを刺した。戸惑うばかりだった千寿郎君が、覚悟を決めてくれたように見えた。

 

少し変わった合同稽古がスタートした。錆兎と鱗滝さんにも剣技を見てもらい、合間には俺の実家でみっちりとウエイトトレーニングも指導した。前回の村田さんたちは水の呼吸の剣士だったが、今度は炎柱の弟ぎみまで連れて来てしまっている。

「お前はここを何だと思っているのか」

鱗滝さんには軽く怒られたが、一生懸命な様子の千寿郎君を見て黙認してくれた。

俺に発破をかけられ、右足を失いそれでも猛稽古をする錆兎にも刺激を受け、千寿郎君の目の色も変わる。筋力トレーニングの成果も出て、1ヶ月後には雰囲気が変わる程だった。自身でも手応えがあったのか、

「また直ぐに参ります!」

そう言って一時帰宅して行った。

千寿郎君と合同稽古するようになって4、5ヶ月。柔らかな物腰は変わらないが、肉体的にも精神的にもすっかり逞しくなり、トレーニングの効果もあって斬撃の威力はまさにけた違い。兄上を守りたい、力になりたい、その思いが戦いに臨む決意を揺るぎないものとし、天才の本分がいよいよ現れ始めた。

 

 

準備の時間はいくらあっても足りないが、時は来てしまった。

那田蜘蛛山の戦いを経て、療養と機能回復訓練を終えた炭治郎君たちに無限列車の任務が言い渡されたようだ。

俺たち3人の別動隊も、あらかじめ用意した偽造切符でこっそりと乗車した。発車してしばらく経った後、俺は1人で杏寿郎さんや炭治郎君たち4人に挨拶に行く。千寿郎君は乗客に紛れて魘夢が暴れだすまで隠れていてもらい、もう1人は変装して乗り込んでいる。

「水原少年も一緒か。それは心強い!」

杏寿郎さんは喜んでくれて、思わぬ増援に炭治郎君たちも嬉しそうだった。

先ほどから弁当を幾つも平らげている杏寿郎さんは、弁当の包み紙にふと目を止め、弁当売りをちらりと見た。

 

「車掌にご注意ください」

包み紙の隅に小さくそう走り書き。俺は他人に分からないように杏寿郎さんに目配せする。

「うまい!うまい!ありがとう!」

杏寿郎さんは相変わらず弁当を平らげながら、さり気なく了解を伝える。

 

今回の討伐対象である下弦ノ壱・魘夢。この鬼は眠りと夢に関する血鬼術を使う。原作によると人間に楽しい夢を見せ、自身の手先の人間をその夢に送り込んで“精神の核”を破壊させ、廃人となったところを肉体的に殺す。さらにその特性を挙げるならば、幸せな夢の後に悪夢を見せ、苦しみに歪む人間の表情が大好きというゲス野郎なのだ。

魘夢は精神の核を破壊する役の人間を4人用意していたが、列車が走り出して大分経って俺が加わったため、人間を急きょ調達する必要に迫られたはずだ。そこに、隙。

魘夢の手先の車掌が切符を切ると血鬼術が発動して4人は眠りに落ち、俺も笑いを堪えながら寝たふりをした。

 

原作で顔を知っており、魘夢の手先になるリーダー格の女は分かっていたため、あらかじめ彼がその女に近づいていた。口元に傷がある逞しい青年だが足に大怪我を負って人生に絶望し、仕方なく弁当売りをして生計を立てているという設定だ。

夢を見せてほしいと訴える彼を仲間に加え魘夢の手先は5人となり、眠り込んだ俺たちの元へ近づいた。リーダー格の女が自分の腕と杏寿郎さんの腕を結び、手本を示す。他の4人もそれに倣い、自分の腕と俺たちの腕を血鬼術で作った縄で結び、夢に侵入しようとしたその瞬間。後から加わった弁当売りの青年が俺に着けた縄をぐいっと引っ張った。飛び起きる俺。

「あんた何やってんの!」

女が叫ぶが、飛び起きた俺と弁当売りが手先の4人を当身で気絶させ、杏寿郎さんもすぐに飛び起きた。深い眠りに入る前の炭治郎君たちも叩き起こし、鬼の気配を察知した禰豆子ちゃんも起きて来た。善逸君だけは良い感じで半覚醒状態にしてあるのがミソだ。

「眠りの血鬼術か。人間を手先に使っているから察知できなかったという訳か。なるほど!助かったぞ水原少年!」

杏寿郎さんは早くも気合全開。

見れば、既に客車の壁や天井から触手が生え、乗客たちを喰らおうとしていた。杏寿郎さんは瞬時に状況を理解し、

「俺は後方5両を守る。黄色い少年と竈門妹で残り3両を、水原少年は残りの者を統率して鬼の頸を探して斬れ!」

と即座に命令を出した。

その中には、弁当売りの恰好から隊服になり、両足で立っている錆兎もいた。それと、忘れちゃいけないもう1人。

「兄上!」

客室の戸を蹴破って、千寿郎君が登場した。驚く杏寿郎さん。

「話は後で!兄弟で戦ってください!」

俺は千寿郎君を委ね、炭治郎君、伊之助君、錆兎とともに先頭車両へ走り出した。

 

 

 

原作を知っている倫道は、前方へと走る。

「前の方から、強い気配をビンビン感じるぜ!」

倫道は伊之助が言うのを軽く聞き流しながら、原作よりも早い汽車との融合に少し焦る。すると客車内に人型をした魘夢が現れた。倫道は、面倒な血鬼術を使われる前にすぐに頸を刎ねた。

(頸を斬ったのに死なない!)

炭治郎は狼狽したが、

「いいね、その顔。混乱しているねえ……」

客車の中に新たに魘夢の頸が生え、嬉しそうに厭らしい笑顔で語るが倫道は答えを知っているため全く取り合わない。

「知りたいだろう?どうして頸を斬ったのに死なないのか……。おおい!君たち?!」

「もうそれは本体じゃないんだ!列車と融合した頸を探すぞ!」

倫道は魘夢が何か言うのを無視して駆け続けた。

「これを投げ込んだら目をつぶれ」

先頭の機関車の前まで来て倫道はみんなを止め、そう命令した。

魘夢の血鬼術、強制昏倒睡眠・眼の対策として持ち込んだ今回の仕掛け。善逸の耳の事も考え、爆音を出さず強烈な閃光だけを発するように改良した、スタングレネードであった。

「いくぞみんな!」

倫道はスタングレネードを運転室に投げ込む。数百の目を見開き侵入者を待ち構えていた魘夢は、高輝度LEDの1000倍以上の光を浴びて完全に視力を失って血鬼術が発動できず、石炭庫の下の頸を発見され、全員の力で頸を切断されて絶命した。列車と同化していた魘夢は断末魔の悲鳴を上げてのたうち回る。列車は激しく脱線し、何度か横転した後にようやく止まった。

倫道たちも無事で、個々に乗客たちの救護に当たっていた。倫道、炭治郎、錆兎、伊之助は集まって無事を確認し合ったところで煉獄兄弟もやって来た。

「水原少年、驚いたぞ。千寿郎が良くやってくれた。礼を言う」

杏寿郎は開口一番、笑顔で倫道に言った。

「俺は炎柱・煉獄杏寿郎だ。君は?弁当売り……ではあるまいな?」

「先程は失礼しました。俺は鱗滝の下で育手をしている錆兎。今回は倫道の頼みで加勢しに来ました」

杏寿郎と錆兎も互いに自己紹介していた。怪我人は多いが死者はおらず、1つ目の任務は完了した。しかし、このままでは終わらない。倫道は警戒を強める。

予め錆兎と千寿郎には伝えてあった、2つ目の任務が開始されようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。