煉獄千寿郎…杏寿郎の弟。覚醒し、刀の色変わりを果たす
錆兎…義足を装着し剣士として復活をとげる
「来るぞ!」
巨大な気配を察知し、倫道が叫ぶ。
ドオン!
轟音と地響き。何かが空から降って来て地面に激突、もうもうと上がる土煙。その中で、ターミネーターの様にしゃがんでいた人影がゆっくりと立ち上がる。晴れていく土煙の中、そいつが倫道たちを見てニヤリと笑った。
現れたのは上弦ノ参・猗窩座であった。
「上弦……ノ参?!」
いきなり現れたとんでもない強敵に、炭治郎と伊之助は呆気にとられており、杏寿郎は臨戦態勢となるが、
「杏寿郎さん、ここはまず俺たちが。錆兎!行くぞ!」
事前に知っていた倫道は、準備万端の錆兎とともに猗窩座に攻撃を開始した。
錆兎は猛特訓の末、パラアスリート用の高反発義足を使いこなしていた。約5か月前、緑川たちを狭霧山に連れて行った時に、倫道はこの積層カーボンと強化プラスチックでできた義足を渡しておいたのだ。驚愕する錆兎だったが、文字通り血のにじむ訓練を重ね、千寿郎を連れて行った時には既にその性能を引き出していた。倫道が錆兎の脚の手術をした際、細心の注意を払って断端を処理したのは、義足を装着して動く事を想定していたためだ。
倫道が鐵鋼塚を拝み倒して錆兎のために打って貰った日輪刀も、既に鮮やかな水色へと色変わりしており、錆兎は剣士として復活していた。
倫道と錆兎の連携攻撃に猗窩座も僅かに後退した。
「素晴らしい!素晴らしいぞお前たち!柱かそれに近い者だな?水の剣士、お前たちの名は何と言う?」
猗窩座は強者と戦える喜びを全身で表して聞いてきた。
「人に名を尋ねるか。変わった鬼もいたものだ。俺は錆兎」
「おにに、なのる、ななどない(鬼に名乗る名など無い)!」
錆兎は名乗ってやり、倫道は決めセリフをかまずに言えて少しホッとしていた。
(な行が多くて言いにくいな)と思って練習していたが、役に立った。
「俺は猗窩座。そうか、だが何度でも聞くぞ、お前の名を!破壊殺・羅針!」
猗窩座は血鬼術を術式展開し、本格的に戦闘を開始した。
倫道は、錆兎と千寿郎にはこの戦闘の目的を説明してあった。相手の手の内を出させて杏寿郎につなげること、朝まで戦闘を長引かせ撤退に追い込むこと、絶対に杏寿郎を死なせないこと。その過程でもしチャンスがあれば討ち取る。だがもちろんその過程で命を失ったり、重傷を負ったのでは意味がない。だから無理をし過ぎないことも良く説明した。
しかし、やはり上弦ノ参・猗窩座は強く、2人は押し込まれる。
「千寿郎!」
倫道は更に攻め手を追加した。
「炎の呼吸 壱ノ型・不知火!」
千寿郎が即座に反応、攻撃を開始し戦列に加わる。
錆兎、千寿郎が主に攻撃し倫道が防御。一緒に訓練した者だからできるコンビネーション。
(まさか千寿郎がこれほど強くなっているとは!それに日輪刀が色変わりを!だが純粋な炎の呼吸の太刀筋とは違う要素が……?)
杏寿郎も驚嘆した。千寿郎は確かに強くなっている。本人は気付いていないようだが、千寿郎の日輪刀はいつの間にか色変わりを果たし、炎のエフェクトを纏う斬撃を生み出す“煉獄家の炎刀”に変貌を遂げていた。そして炎の呼吸をしっかりと修業した素地の上に、水の呼吸の技をも取り込んだハイブリッド剣士としてその戦闘センスを開花させていた。
激しい攻防が続くが、猗窩座に決定的なダメージを与えられない。そして倫道と言えども猗窩座の攻撃に対して被弾ゼロにはできなかった。錆兎と千寿郎は極度の集中状態にあり、疲労や痛みを感じにくい危険な領域に入っていた。
「千寿郎!行くぞ!」
時間を稼ぐため、ここで少しでもダメージを入れなければ。倫道は連携攻撃の合図を送る。
「はい!炎の呼吸 伍ノ型・炎虎!」
千寿郎が技を繰り出す。倫道も同時に技を出す。
「水の呼吸亜型 壱式・緋屠螺(ヒドラ)!」
流麗な水の呼吸の技から逸脱するため“亜型”と名付けた倫道のオリジナル技、9つの頭を持つ水の怪物がモチーフだ。形勢逆転を狙い力を合わせる。
「同時発動・龍虎狂炎!」
9つの斬撃が螺旋状に迫り、千寿郎の炎虎がその中から襲いかかる。体中に斬撃を受け、大きく後退する猗窩座。
「何と素晴らしい斬撃だ!」
血だらけになりながらも、その顔は喜色満面。
だがその斬撃による傷も即座に再生されてしまう。
俺たちは全力で動き続けたのでちょっと退いて距離をとる。
猗窩座は、と見ると、後退したが攻撃を食らって感動してる……。この生粋のバトルジャンキーぶりに俺はちょっと引く。錆兎と千寿郎君は一気にダメージと疲労が来て立っているのがやっとなので、この機に一時下がらせる。
「斬りかかるまで闘気を隠していたな?それにこの俺を相手に仲間を護りながら戦うなど、人間にしておくのは惜しい。お前も鬼に」
猗窩座が俺を指さし、そう言いかけたところで
「断る!」
俺は先に言い放つ。
「何故だ?鬼になれば、永遠の命を得て鍛錬を続け、至高の領域に辿り着けるのだぞ!お前たちは今、息は上がり、脈も乱れ、満足に動くこともできまい。しかし鬼になればそんな疲れなど微塵も感じない。怪我の治りなど瞬きする間だ。お前たちのその素晴らしい技も全ては無駄だ」
得意気に話す猗窩座。悔しいが、肉体的には圧倒的に鬼に分がある。それは認めよう。
いや待てよ、俺の好きな鬼滅の二次創作の小説でも、煽るのが上手い主人公が「再生能力頼みの猗窩座」ってヤジってたけど、その通りなんじゃあ……?
斬られた傷はすぐ元通りになるし、スタミナも無尽蔵だ。そして、半永久的に生きられる。だがそれは、鬼という種族の生物学的な特性によるもの。鍛錬の結果ではない。こいつが至高の領域に辿り着けないのは、”鬼”だからなのでは……?何となくそんな気がする。
「お前はその強さを得て何を為す?何を護る?」
「護るだと?強くなることこそ目的ではないのか?」
猗窩座は俺の質問が理解できないといった様子で逆に聞いてきた。やはり人間だった頃の事は思い出せないのか。人間の頃のお前は、大事なものを護ろうとしたんじゃないのか?護るために強くなろうとしたんじゃなかったのか?この大敵は倒したいが、原作で鬼になった悲しいいきさつを知っているので俺は複雑だ。できれば救いたいが、話に応じる様子はない。
「鬼にならないなら、殺す」
猗窩座は再び構えを取った。俺も刀を構えようとしたが、予想以上に消耗しており、まだ手足に力が入らない。もう少し、もう少しで回復する。
「俺が行こう。俺は、炎柱・煉獄杏寿郎だ」
ギラリと刀を抜き、杏寿郎さんが前に出た。
猗窩座はまた良い相手に巡り合えたことを喜んだ。一晩にこれほど素晴らしい剣士たちと戦えるなど、何と言う僥倖。
先程の剣士たちも素晴らしかった。鏡のような水面を思わせるその静けさ。一転して荒れ狂う、激しい怒涛の攻撃、流麗な捌き技。まだ子供に見える炎の剣士も、若々しい情熱の中に変幻自在の柔らかさを感じる。成長すれば一体どれほどの剣士になるのか見てみたかった。
そして今度の相手は堂々と“炎柱”と名乗った。
感じる。その練り上げられ、燃え盛る炎のような闘気。感動すら覚える炎の剣士の佇まいだった。
「行くぞ杏寿郎!」
猗窩座と杏寿郎の戦闘が始まった。炭治郎と伊之助は、繰り広げられるハイスピードバトルを目の当たりにし、自分たちの力ではまだこの戦いに介入できないと理解し、歯痒い思いで見守る。原作と違い、杏寿郎は倫道たちとの戦闘を見て猗窩座の力を把握していたため、ほとんどダメージを負っていなかった。おそらく夜明けも近い。倫道はこの状況を見て、(勝てる!)そう思い始めていた。もしかしたらここで仕留められるかもしれない。
倫道はマスカラスを呼び、音式神・消炭鴉を起動、森の西の方角に罠を張るよう極細ワイヤーの束を渡した。マスカラスは、
「アタイニ任セナ!」
とすっ飛んで行った。
完全回復した倫道が戦闘に割って入り、防御的な立ち回りで杏寿郎を護る。
「水原少年、助かる!」
距離を取りながら杏寿郎が声をかける。
「勝ちましょう!こいつを倒して、みんなで勝ちましょう!」
倫道も答える。
(さっきまで転がっていたヤツがもう回復したか。ますます攻撃が届かなくなる)
猗窩座がそう判断し、倫道に攻撃を集中した。倫道は勝てると思ったが、ほんの少しの油断が僅かな隙になり、攻撃を受け流しきれずに吹き飛ばされた。このチャンスに、猗窩座は最大の必殺技、破壊殺・滅式を放とうとしていた。
(まずい!)
倫道は刀を捨て、猗窩座と杏寿郎の間に走り込み、
「極限集中!赤心少林拳・梅花の型!」
水の呼吸亜型、そしてこの戦いに備えもう一つ身に付けた技、極限集中を発動。
倫道は、加速装置があったらいいなとしょうもないことを考えていたが、漫画とか特撮だとよく体感時間操作って出て来るよなと思い至ったのである。似たような技が鬼滅にもあった。花の呼吸 終ノ型・彼岸朱眼。だがあれは代償として失明の危険が伴うので、修行も危険じゃないか?と考え止めておいた。
集中を高め、速い物を見続ける。反応する。繰り返しているうちに、全集中のさらに上、極限集中を身に付けた。効果は10秒程度しかないが、体感時間が10倍以上に引き伸ばされる。だがこの状態で戦闘を行うと、疲労困憊となり少しの間動けなくなる。今後は持続時間を長く、この状態であっても万全に動けるようにしなければならない。
杏寿郎の死を何としても防ぐため極限集中状態となり、鉄壁の護りの型を展開。同時に陸奥圓明流の技、“浮身”を使い、衝撃を逃がす方向に自ら跳び、威力を和らげる。
猗窩座の右パンチの軌道を自身の左側に逸らしつつ、さらに杏寿郎を巻き込んで自ら右後方へ跳び、杏寿郎への致命傷を防いだ。その瞬間だけ、倫道には周囲の動きがゆっくりに見え、パンチを逸らして後ろへ跳ぶタイミングは完璧だった。しかし滅式を逸らした倫道の両腕は痺れ、威力をだいぶ殺してはいるがそれでも数メートル飛ばされ、倫道と杏寿郎は一瞬戦闘不能になった。倫道は、猗窩座の右パンチによって杏寿郎が腹を貫かれるあの原作の死亡シーンを回避できて安堵しながらも、
(危なかった。“浮身”を併せて使わなければ、腕が無くなっていた)
と滅式の威力に戦慄した。
(仕損じたか。滅式の威力が9割以上殺がれた。小賢しい真似を!)
猗窩座は自身の必殺技の不発を残念がったが、気付けば夜明けも近いようだった。
「杏寿郎、素晴らしい戦いだった。また会おう。そして水の剣士、貴様の顔は覚えたぞ。次は殺す」
猗窩座は鬼殺隊の一行に言い捨て、日の光がさす反対方向へ逃げる。炭治郎たちが追うが、猗窩座のスピードには追いつけなかった。しかし森のその方向には、2つ目の仕掛け。断面積で言えば髪の毛の10分の1もない鋼線を束ね、強度をさらに上げたものをマスカラスと消炭鴉が飛び回って張り巡らせてあるのだ。森の中へと、猛スピードで逃げる猗窩座だが、突然足に衝撃を受け、転倒した。刃物で出来たような傷があり、膝から下がちぎれかけている。
(何だこれは?鬼狩りたちの攻撃か?)
鬼狩りたちは周囲におらず攻撃の気配も無い。
また走り出すと今度は顔面や胸に次々と傷が入り、何かが絡まる。よく見れば周囲には細い鋼線が張り巡らされており、これを避けるためには大きく迂回しなければならない。あとほんの少しで日の光が届いてしまう。猗窩座は直感的にその仕掛け人を悟った。気に障る問いをしてきたあの剣士。
(あの小僧だ。あの水の呼吸の小僧め!生かしてはおかぬ!次会った時はその頭蓋を粉々に砕いてやる!)
「うおおおっ!」
猗窩座は叫び、鋼線の罠に突っ込んで引きちぎり始めたが、次々と絡んで思うように動けない。
その時、べんっ!と琵琶の音が鳴り、猗窩座は無限城へ召喚されて行った。
猗窩座は陽光が射す戦場から何とか脱出することに成功した。しかしこの時、猗窩座は気づいていなかった。倫道が密かに放った音式神・茜鷹がステルス状態で近づき、紙片となってその背中に張り付いていたことを。