猩々緋鉄合金…猩々緋鉄をベースに作られた夢素材の金属。日光を吸収してその力を宿す猩々緋鉄の特性を持ちながら、硬度、耐摩耗性、靭性、耐蝕性の各要素が高次元でバランスを保つ優れた武器用刃物となるが、研磨などメンテナンスはし難い
19話 2人で一つ
無限列車の任務が終わり、少し時間ができたので実家の父に挨拶に行った。家にも良く来ていた千寿郎君の大活躍も報告すると、あの少年が、ととても喜んでいた。報告が遅れていたが柱に就任したこともきちんと報告した。柱と言っても見習いなんですが。
「そうか、お前も柱になったか」
父はそう言って何やら持って来させた。
――羽織と刀だ。
「この羽織は、表面はアラミド繊維、裏面は超高分子量ポリエチレン繊維とセラミックプレートの複合材料で作ってある。耐熱、耐蝕性に優れ、防刃性能も高い。この刀は猩々緋鉄に高濃度窒素、モリブデン、バナジウム等を添加して製鋼した“猩々緋鉄合金”から鍛造された特製日輪刀だ」
“猩々緋鉄合金”って初めて聞いたな。
抜いてみると、凄い刀だ。刀身の表面はざらざらとしており、刃の部分にも金属的な光沢は無い。柄を握り、切先を上に向けて陽にかざす。眺めていると、刀身は漆黒に変わり始めた。
――漆黒。日の呼吸の剣士の色。
日の呼吸は、原作やアニメで見ているけどどうも上手く再現できない。リミッターがかかっている感じだ。
それなのに、漆黒に染まる新刀。何か他の意味があるのか。でもこの刀は手にしただけで分かる、素晴らしい大業物であることは間違いない。
ありがとうございます。これで存分に戦って参ります。
無限列車での戦いから約2ヶ月、原作では大怪我を負う炭治郎君だが、この世界では大した怪我もなくひたすら訓練に時間を使い強くなっていた。また千寿郎君の覚醒、その後の目覚ましい働きで槇寿郎さんも煉獄家当主として目が覚めたらしい。歴代炎柱の口伝を杏寿郎さんだけでなく炭治郎君にも伝えてくれたようだ。
原作で大乱闘の原因になったあの耳飾りの件は大丈夫だっただろうか?ただ目覚めた槇寿郎さんならいきなり暴力をふるうことはないだろう。炭治郎君が日の呼吸、ヒノカミ神楽の技に自ら開眼するヒントとなるはずだ。
原作ではもう少し先だと思っていたが、……吉原編始まってたよ。
宇髄さん!吉原に乗り込むなら言ってくださいよ!一緒に行こうと思ってたのに。蝶屋敷で聞いたら、何日か前にもう出たって。俺は宇髄さんたちを支援するため、仕掛けを用意して吉原に急行した。
……実際にこの目で見たかったな、炭治郎君たちの女装姿。
吉原に着くと既に戦闘が始まっており、建物の屋根の上で炭治郎君が堕姫と戦っていた。原作より怪我の程度はまだ軽いようだ。炭治郎君は見事な技で堕姫の頚を斬りかけるが、ヒノカミ神楽の使い過ぎでスタミナ切れ、というか低酸素状態に陥って動けなくなってしまった。まだ技の練度が十分でなく、無駄な力が入っているのかもしれない。俺は鎌鼬を放ち、炭治郎君が避けきれない帯の攻撃を弾き飛ばした。
月に照らされた屋根の上で自らの美しさを誇るようにモデル立ちし、舌打ちしながらゆっくりと周囲を見渡す上弦ノ陸(の片割れ)・堕姫。炭治郎君との戦いに横やりを入れて来た攻撃の主を探っているようだ。
「バカがわざわざ殺されに来たの?1人増えたぐらいで変わりゃしないわよ」
炭治郎君のことは元より、新たに現れた敵も大した脅威と思っていないのだろう。警戒というより邪魔されてただいらついている。地上にいる俺を見つけ、まさに見下しながら高飛車に言い放った。
それにしても、なんちゅうエロイ恰好をしてるんだこの鬼は。うーむ、ちょっと見入ってしまう、決していやらしい意味でなく、戦闘力の分析とか……。そう、あくまで分析だ。ぶ、分析のため……。
我ながら情けない。男の悲しい性(さが)。
そんな俺の不埒な考えを知ってか知らずか、堕姫はニイッと顔を歪めて笑い、
「あら、お前良く見たらいい男じゃない。喰ってあげてもいいわ。それとも、鬼にならない?そうすれば命だけは助けてあげる。そばに置いてやってもいいわ。そうしたら――」
「ごめんなさい!」
堕姫が言い終わるのを待たず、俺は頭を下げる。
喰われるのも、鬼になるのもゴメンだし、その後のはもっとゴメンだ。堕姫はキョトンとした顔をした。
一瞬の後、言葉の意味を理解した堕姫は怒り狂った。
「誰に口を利いてるんだい、お前は!人間の分際でこのあたしの誘いを断るのかい?いいわ、ブチ殺して食べてあげる。骨も残さずにね!」
鉄の帯の嵐が俺を目がけて殺到した。
その時、炭治郎のピンチを察知した禰豆子が鬼の姿に変貌し、堕姫の背後に迫っていた。異様な気配を察知し振り返る堕姫だが、禰豆子は堕姫がディフェンスの態勢を取る間もなく蹴り一発で堕姫の頭の上半分を吹き飛ばし、反撃によって体を切り刻まれても上弦の鬼以上の再生速度で瞬時に再生し、なおも堕姫に襲い掛かる。
(禰豆子ちゃん、その姿になっちゃだめだ!)
倫道は焦り、
「炭治郎君!禰豆子ちゃんを抑えろ!」
炭治郎に叫んだ。
「うげぇっ!」
堕姫の肺から絞り出された声と、その肋骨がミシッと砕ける音が、蹴られた後から響いた。禰豆子は堕姫をサッカーボールか何かのように、路地を挟んだ向かいの建物まで軽々と蹴り飛ばし、堕姫の体は外壁をぶち破ってその室内の床に叩き付けられて転がった。
蹴りをまともに食らった堕姫は内臓を破壊され、口から血を吐いて立ち上がろうともがいていた。
禰豆子は跳躍して一瞬で距離を詰め、倒れたままの堕姫に襲いかかった。頭を蹴り砕き、胴体を踏み抜き、顔には恍惚の笑みさえ浮かべながらさらに踏みつけ攻撃でぐしゃぐしゃにした上に、血鬼術・爆血で黒焦げの状態にして圧倒していた。しかし強力に鬼化した副作用か、巻き添えで怪我をした一般人の女性に襲い掛かろうとして炭治郎が必死に止めていた。
(やばいっ!)
倫道は、切腹という言葉が何度も頭をよぎり心の中で悲鳴を上げるが、原作での子守唄のことを思い出し、
「炭治郎君、子守唄だ!」
と叫び、ぐしゃぐしゃに潰されて黒焦げにされた堕姫を一時放置、炭治郎と一緒に子守唄を歌って何とか禰豆子を鎮めた。
(水原?お前が何でここに居やがる?それに竈門禰豆子が派手に鬼化してやがる。ああ、それで子守唄か)
宇随が到着し、瞬時に状況を把握した。
子守唄でようやく鎮まった禰豆子に、
「禰豆子ちゃん、少し血を貰うよ」
倫道はそう声をかけ、抗凝固処理をした2.5mlの注射器に2本だけ採血して解毒剤を作っておいた。
炭治郎は禰豆子をしまう箱を取りに一時戦線を離脱し、宇髄が再生した堕姫と対峙していた。
(おかしい。弱すぎる……頚を斬ったのに体も崩れねえ)
宇随は簡単に堕姫の頸を刎ねるが、この状況を怪しんでいた。
「お兄ちゃああん!!頸切られちゃった!悔しいよう!!」
童女のようにわあわあと大泣きする堕姫。そして、ただならぬ気配。
堕姫の呼び声に応えて妓夫太郎が目覚め、堕姫の背中から現れると宇髄は一気に緊張の度合いを高めた。
こいつは危険だ。そう判断して即座に斬りかかったが、妓夫太郎は宇髄の斬撃をあっさり躱し、いつの間にか堕姫に寄り添って斬られた頸をつなげてやっていた。
(こいつ、反応速度が段違いだ。こっちが本物の上弦ノ陸か!)
宇髄がさらに斬りかかると、妓夫太郎は斬撃にカウンターを合わせ、宇髄の左前額部を斬った。
「殺す気で斬ったけどなあ。いいなあお前」
妓夫太郎は口の端を少しばかり歪めて笑い、
「妬ましいなあ。お前いい男じゃねえか。さぞちやほやされてきたんだろうなあ。……死んでくれねえかなあ」
整った容姿の宇髄に粘着質に絡む。
「けど許せねえなあ。妹をいじめる奴らは皆殺しだ!」
顔を歪めて口調を一転させ、宇髄を睨んで武器を構える。ごつごつといびつな、鎌に似た形の得物。猛毒のある自らの血で作った“血鎌”だ。
地獄から響いてくるようなしゃがれた声。痩せて落ちくぼんだ眼窩の奥には、その荒み切った心を映すドロリと濁った眼があった。この不条理な世の中そのものに対する深い恨み、強い憎悪を感じさせる。
一体どれ程つらい思いをしたら、こんな目ができるようになるのだろうか。
合流してこの光景を直に見た倫道も、原作を知っているにもかかわらず背筋が寒くなる思いだった。
「やられた分は必ず取り立てるぜ。俺の名は……妓夫太郎だからなああ!」
妓夫太郎は血鎌を投げ、それを自在に操り宇髄を攻撃する。宇髄は両手の刀で防ぎつつ、火薬玉を投げて相手に斬らせ、鬼にだけ爆破属性のダメージを与えてこれを迎撃する。この斬り合いと強烈な爆発の威力に倫道は刀を抜くことも忘れ、
「うわあっ!」
と頭を両手で抱え部屋の隅に逃げていた。宇髄はさらに火薬玉を投げて追加ダメージを狙うが、妓夫太郎の肩に上っていた堕姫が帯を鉄のカーテンのように展開し、爆風を防いだ。
「俺たちは、2人で一つだからなあ」
妓夫太郎はそう言って残忍な笑みを浮かべた。
「おい水原!来るぞ、構えろ!」
宇髄が倫道に怒鳴る。倫道は抜刀しようとするが手が震えて抜けず、その表情は恐怖に引きつり、開いた口からは、
「うわ、ああ、ああ……」
と今にも悲鳴を上げそうな情けない声が漏れていた。
(こいつ派手に役立たずかよ?何しに来やがった!)
宇髄はいら立ちを見せながら妓夫太郎の飛び血鎌を弾き、火薬玉を投げて撹乱しつつ堕姫の頸を再び刎ねた。
やはりこの鬼たちの体は灰化しない。2体の頸を同時に斬らなければならないのだ、宇髄はそう理解した。
「水原あ!手ぇ貸せ!いつまでも腰抜かしてんじゃねえ!」
宇髄は後ろで腰を抜かしている倫道に再び怒鳴った。血鎌の攻撃はたまたま外れている、そうとしか見えない。
(よし……!)
倫道は、原作でも知っている宇髄の戦い方を実際によく見て、把握した。
宇髄は連結した巨大な2刀を高速で旋回させながら後方の倫道に向かい、
「水原ああ!お前何やって――」
言いかけた、その時。
今までへたり込んで震えていた倫道がばね仕掛けのように飛び起き、残像を残すほどのスピードで宇髄の斬撃の隙間を縫い、血鎌をも避けながら間合いを詰め、
「水の呼吸 壱ノ型・水面斬り!」
妓夫太郎の頸に迫った。
「なにっ?!」
ほとんど警戒していなかった者の鋭い斬撃に妓夫太郎は目を疑ったが、頸に浅い傷を付けられただけで何とか躱した。
(何だこいつ、いきなり速くなりやがった。頸斬られかけたなあ!)
妓夫太郎は倫道を新たな脅威と認識した。しかし一撃を浴びせた倫道は爆炎に紛れて見えなくなり、宇髄の連結刀の旋回斬撃が間断なく繰り出される。妓夫太郎は宇髄と斬り合いながら、
(あのガキッ!どこに行きやがった?)
油断なく周囲の気配を探っていた。倫道は爆炎に隠れて妓夫太郎の死角をとり、地を這うような低い体勢から妓夫太郎と堕姫を串刺しにせんと
(水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き)
音も無く技を繰り出す。
「お前もやるじぇねえか。すぐに喉笛かき切ってやるけどなあ」
妓夫太郎はこれも寸前で躱し、倫道を睨みながら言った。
「宇髄さん!俺は合わせるから、好きにやってくれ!」
倫道が叫んだ。
(この野郎、上弦相手に正体隠して三味線弾いてやがったのか!)
宇髄は呆れると同時に、
(イケるぜ。この分なら譜面も完成しそうだ)
この上弦を倒す、その希望を見出していた。
「お前も大変だな。……柱2人を相手にするんだからよ」
2刀を構え直した宇髄は、妓夫太郎に向かって言った。
倫道は、先ほどまでとは一転して一分の隙も無く戦闘態勢を取っている。
(このでかい方は間違いなく強い。細い方のガキも柱かよ。しかも連携して来やがるなあ!)
倫道の尋常でない身ごなしを見て、妓夫太郎も警戒度を最大限に引き上げた。
宇髄はニヤリと凄みのある笑みを浮かべ、
「おい水原、こっちも2人で一つといこうじゃねえか。――ここからはド派手にいくぞ!」
ようやく実力を発揮した倫道に呼びかけた。
そこに、伊之助、善逸と炭治郎が合流した。
「こいつらは同時に頸を斬らねえとダメらしい。俺と水原でこいつをやる。お前ら3人は女を斬れ!」
宇髄は炭治郎たち3人にそう指示した。