炭治郎たち3人は、妓夫太郎の援護を受けてフルパワーになった堕姫に苦戦していた。帯攻撃のスピードや精度が格段に上昇し、妓夫太郎の飛び血鎌の援護も加わっている。
しかし原作と違い妓夫太郎は柱2人を同時に相手取っており、左目を堕姫に移す余裕が無かった。次第に3人はそのスピードに順応、堕姫の頸に迫っていた。
「頸が柔らかいんだ!相当な速度か、複数の方向から斬らないとダメだ!」
炭治郎は指示を飛ばす。
「それなら2刀流の俺が行くぜ!」
伊之助が突撃を敢行する。
「雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃、八連!」
「水の呼吸 参ノ型・流流舞い!」
善逸と炭治郎は伊之助を狙う帯を切り裂き、弾き飛ばして道を作る。
伊之助は一切の防御を捨て、
「獣の呼吸 捌ノ型・爆裂猛進!」
猛ダッシュで一気に間合いを詰め、飛び込みざまに
「獣の呼吸 陸ノ牙・乱杭咬み!」
2刀で挟み切るように堕姫の頸を刎ねた。
「おっさん!こっちは派手に頸斬ってやったぜ!そっちも早く斬れよ!ド派手にな!」
伊之助が叫ぶ。
頸を斬られた堕姫はなおも動いて3人を追いかけるが、明らかに動きは遅く攻撃精度も下がり、防御に専念していれば3人は何とか攻撃をしのぎ逃げ続けることができた。
「バカの一つ覚えだなあ、お前らは」
一方の妓夫太郎は、宇髄と倫道の連携を見切っていた。
(でかい方のやかましい攻撃の間に、細いのが音無しの攻撃を挟んでくる。厄介だが何度も見りゃあ嫌でも分かるぜ)
妓夫太郎は倫道の斬擊を捌きながら笑う。
(いや、そうでもない)
倫道も笑う。倫道には秘策があった。
「音の呼吸 伍ノ型・鳴弦奏々!」
宇髄が繰り出す技で、連続して爆発が起こる。
(来るぞ、音無しの斬撃が。気配を探りゃあお前ごとき)
妓夫太郎は宇髄の斬撃を避けながら次に集中するが、攻撃の気配が読めない。
(くそっ、また雲隠れかっ!どこへ行きやがったあのガキ!)
倫道は納刀したまま妓夫太郎に近づき、血鎌を避けながら禰豆子の血を霧吹きのように妓夫太郎に浴びせて離脱。
(何だあ、これは?毒でもねえようだしなあ)
妓夫太郎は顔面にべったりと着いた血を拭うが、そこに火薬玉が投げられた。
倫道は鎌鼬で火薬玉を爆ぜさせるとそれが擬似爆血となり、鬼を焼く炎が妓夫太郎を包んだ。その瞬間を狙って宇髄と倫道が同時に仕掛け、頸を斬りかけた。
(このおかしな攻撃に気を取られてっ!まずい、斬られる!)
しかし宇髄のタイミングがわずかに遅れ、すんでのところで避けられてしまった。爆血を絡めての連携攻撃が躱され、宇髄と倫道は妓夫太郎と広めに間合いを取って睨み合う。
(まずい、宇髄さんに毒が回っている。解毒を急いだほうがいいな……。禰豆子ちゃんの血、さっき1本使っちゃったからあと1本しかない。ヤツの動きを一瞬止められればイケるか?)
倫道は宇髄の動きが急激に落ちているのを察知して焦っていた。今までは何とかごまかせたが、もはや毒の影響が隠せなくなっている。
宇髄は息が上がり、ヒューヒューと喉が鳴って苦しそうに呼吸している。顔面にはチアノーゼが出ており、その巨大な2刀を取り落として地面に膝を突いてしまった。
倫道は宇髄を庇って前に出る。
「やっと効いてきたなぁ。さぁどうする?お前一人で俺を斬れるわけねえよなぁ?それとも……」
妓夫太郎は下卑た笑いを浮かべる。
「いっそ逃げちまえよ。そのでかい方はどうせもう死ぬ。あのガキどもも俺と妹がすぐに殺す。お前は仲間を見捨てて一人で逃げれば助かるんじゃねぇか、なあ?」
(……このゲス野郎っ!!)
倫道は怒りで頭に血が上りかけるが何とか冷静さを保った。――逆転の目は必ずある。
倫道は妓夫太郎をじっと見た。妓夫太郎が仕掛けて来るタイミングを計る。妓夫太郎は円斬旋回で一気に方を付けにくるはずだ。それを迎撃してチャンスを作るしかない。
「お前逃げねえのかぁ?……くくく、人間は下らねえ。本当は自分の事しか考えてねぇ癖に、仲間仲間とぬかしやがって、全く反吐が出るぜ。自分だけでも生き残ることを考えりゃ良いのになぁ……。まあ逃がす気もねぇけどなあ。ああ?お前、降参かあ?」
妓夫太郎は人間の弱さ、暗部を突いた心理攻撃で倫道を揺さぶる。誰しも死ぬような危険な目に遭いたいとは思わないだろうし、他人を犠牲にして助かりたいと思うのも自然なことだ。だが妓夫太郎が人間だった頃はそう思っただろうか?少なくとも妹の梅のことは、自分の身を犠牲にしてでも護りたいと思ったのではないか?
ため息をついて刀を収めた倫道を見て、妓夫太郎はゆっくりと歩いて間合いを詰めながら嘲笑う。毒に侵された宇髄に苦痛を与え、倫道には死の恐怖を与えるため時間をかける。
(くそっ、こいつわざと時間かけてやがる!)
「仕方ねえなあ。お前一人じゃ何もできねえからなあ、この状況じゃあ」
円斬旋回で倫道を殺し、その後で堕姫と共に炭治郎たちを殺す。この上弦ノ陸にとっては造作も無いことだ。勝ち誇り、余裕を見せる。
「おい虫けら。ボンクラ、間抜け、役立たず。お前は絶望しながら死ぬんだよなあ」
だが倫道は諦めてなどいない。
妓夫太郎が円斬旋回を放とうとしたその時、倫道は、羽織の内側の脇腹あたりに手を入れて金属の輪を取り出し、胸の高さに構えた。
(何だこいつ、何かする気か?まあ今さら無駄だなあ)
妓夫太郎は円斬旋回・飛び血鎌を放った。
倫道は外側に刃の付いた金属の輪、チャクラムを片手に4枚ずつ、両手を広げるように8枚を同時に投擲し、飛び血鎌を迎撃した。チャクラムはさらに大きく弧を描いて戻り、唸りをあげて妓夫太郎に襲い掛かる。
技を出した直後のため全部は避けきれず、1枚が妓夫太郎の腕に刺さり刃に塗られた藤の毒が妓夫太郎の体内に入った。
(このガキっ!この期に及んでまだおかしな真似を!しかも藤の毒を塗ってやがった)
しかしそれは倫道も同様であった。宇髄を庇ったため、飛び血鎌の避けきれない1本が倫道の大腿部を掠めていた。
(毒を食らっちまった!ヤツが分解しないうちに早く頸を!いや宇髄さんの解毒が先か?)
円斬旋回とチャクラムのぶつかり合いで建物が崩壊し、瓦礫があたりを埋め尽くした。妓夫太郎は瓦礫から抜け出たものの、毒で動けなくなっていた。
倫道は瓦礫の中から宇髄を助け出すが、宇髄の呼吸はどんどん弱くなる。
倫道は注射器に取った禰豆子の血液を霧状に宇髄に吹きかけ、火打ち石で擬似爆血を施した。
禰豆子の血液が反応して燃え、宇髄の毒が消えて行くが、今度は先程食らった毒で倫道がふらつき膝を突く。
「水原!」
頭を振り、目を凝らしながら、体が動くようになってきた宇髄が叫ぶ。
「早く……頸を!」
倫道も叫んだが、妓夫太郎は毒の分解を終えてしまっていた。
「ちぃと効いたぜ、この毒はよお。面倒だ、お前らまとめて殺してやるよ」
血鬼術 円斬旋回・飛び血鎌!
妓夫太郎は今度こそ2人を殺そうと血鬼術を放とうとしたが、宇髄の嫁の1人・雛鶴が、大量の毒のくないの射出装置を構えて姿を現した。
善逸と伊之助を手助けした後、周囲の人々の避難誘導に当たっていた宇髄の嫁たち、まきをと須磨。そして同じく宇髄の嫁、雛鶴は、戦場を見渡し秘密兵器を使うタイミングを探っていたのだ。
「俺たちごと撃て!」
手に痺れが出て刀が十分振れない倫道が叫ぶ。
妓夫太郎の血鬼術より一瞬早く、大量のくないが妓夫太郎に向け放たれた。当然その射線上には宇髄と倫道もいる。
宇髄は自分自身に刺さるのも構わずに大量のくないの中を突っ込んで妓夫太郎の頸を狙うが、まだ十分に回復しておらず頸が切れない。妓夫太郎も藤の毒を塗ったくないが再び刺さり、反撃できない状態になった。
(くそっ、早く毒を分解して円斬旋回を!そうすりゃあこいつらを皆殺しにできる!)
妓夫太郎は満足に動けないが、今食らった毒の量ならすぐに分解してしまうはずだ。高威力、広範囲でかつ猛毒を付加した円斬旋回を放てば、目の前の宇髄と倫道は確実に殺される。
宇髄は蘇生したがまだ完全な状態ではなく、倫道は毒が回ってほとんど動けない。
その距離数十歩。妓夫太郎と倫道たちは近い距離にいながら互いに毒を受けて動けない。数舜の膠着状態だが、おそらく妓夫太郎が毒を分解し先に攻撃を放つ。
この時、ふらつきながら倫道が立ち上がった。よろめきながら走り、立ち上がりかけた妓夫太郎に体ごとぶつかる様に何かを突き刺した。
それは、言わば麻酔銃の弾。薬液とガスが分かれて充填されており、針が対象に刺さると薬液がガスの圧力で自動注入される仕組みだ。体の痺れで狙って投げることは不可能であったが、力を振り絞り直接妓夫太郎に刺すことができた。
これにより注入されたのは、”刃に塗った”などという生易しいものではない、大量の毒。しのぶ特製の毒液が大量に注入された。
「がああ!このガキい!何を……しやがったああ!」
妓夫太郎は異常な感覚に襲われていた。鼓動が速くなり、心臓が暴走して悲鳴を上げ始める。頸から顔にかけてがどんどん熱く、膨らんでいく。燃えるような顔面の熱感と共に、血走った眼が飛び出すように見開かれる。
「おぁがっ……ぐええぇぇ……!!」
喉が、気管が体の内側から締め上げられるように塞がるのが分かった。両側の眼球は半ば飛び出し、妓夫太郎は地面に膝を突いた姿勢で自ら喉を掻きむしる。そして、体から力が抜けた。
「くたばれええ!」
宇髄が巨大な刃を振り下ろすが、その頸はまだ切れない。
「畜……生……こんなヤツらに……この俺がああ!」
妓夫太郎が断末魔の悲鳴をあげ、そこに炭治郎が屋根の上から全体重を乗せて斬りかかった。
宇髄と炭治郎が渾身の力を込めて日輪刀を振り抜き、遂に妓夫太郎の頸を刎ねた。
「ぎゃあああ!」
伊之助は堕姫の頸を持って逃げ回っていたが、妓夫太郎が頸を斬られると同時に堕姫の頸も断末魔の悲鳴を上げた。
(やったか!?)
宇髄が安堵したのも束の間、
(こいつ、何かやる気だ!)
宇髄は何かを察知する。
妓夫太郎は頸を斬られたが、死なば諸共と最後の攻撃を放とうとしていた。
「逃げろ!!」
宇髄はそう叫んで倫道を抱えて逃げ、妓夫太郎最後の攻撃は不発に終わった。
ああ、死ぬかもしれない。体が痺れて力が入らない。でもしのぶさんに分けてもらった毒液を思いっきり注入できたおかげで、妓夫太郎の頸は斬れたみたいだし。
目がかすんで来た。これ何の毒なんだ、ボツリヌス毒素か?いや局所に投与してすぐに全身に効くなんてあり得ない。
あ!妓夫太郎め、最後っ屁みたいな攻撃するんだった。みんな逃げろ!
「逃げろ!」と言いたかったが、声が出ない。血鎌にやられるかもしれないのに、宇髄さんが俺を抱えて逃がしてくれて……。
その後少し意識が飛んだ。
熱っちい!気付くと体が燃えていた。びっくりして飛び起きる。
「おい水原!」「倫道さん!」
宇髄さんと炭治郎君が呼びかけてくれていた。
禰豆子ちゃんの癒しの爆血で、ヴェノム状態の俺を解毒してくれたのだ。禰豆子ちゃんは、戦闘体からいつもの姿に戻り、竹の代わりに手拭いで口枷をして、むふーっと得意気なポーズ。ありがとう禰豆子ちゃん、助かったよ。
マスカラスが燃えてる俺を見て、
「ギャアア!リンドーガ火葬サレテル!」
バサバサと慌てていたが、元に戻ったのを見て安心したのか、
「心配カケンジャネーゾ!」
俺をつついた。痛いな、加減をしろって言ってんだよ!そんな、ちょっと頸をかしげて見つめてもダメだぞ。……くそっ、可愛いじゃないか。ホントに心配してくれたのか。
「勝手ニ死ンダラブッ殺ス!」
どちらにしても死ぬじゃないか。
宇髄さんも、宇髄さんの嫁ちゃんたちもホッとしている。
「それにしてもお前、芝居が過ぎるだろ!派手に役立たずかと思ったぞ」
宇髄さんからは怒られた。
鬼の頸を探しに行った炭治郎君は血を採って茶々丸に渡し、灰化したのを確認して戻って来た。全員もう動くこともできない程ぐったりと疲れ切っているが、原作と違い深刻な身体的損傷はなく、俺たちは無事任務を完遂した。
「そうか、上弦を倒したか。褒めてやってもいい。大したものだ、陸だがな。まあ一番下だ、上弦の」
救援のつもりなのか、伊黒さんが遅れてやって来てそう言った。
宇髄さんの嫁ちゃんたちがこの嫌味に何とも言えない顔をしているのが可笑しくて、俺は思わず笑ってしまい、まきをさんに睨まれてしまった。
そんなことをしていると、おお、伊黒さんのお友達の蛇、鏑丸君が俺の側に。
なぜに笑顔?そして血を回収した茶々丸も、遊んでくれとばかりに寄って来てた。
ハーレムじゃないか、動物だけど。
蛇対猫の睨み合いが勃発し、さらに上空から不穏な気配が。
ここに、蛇対猫対カラスと言う異色の三つ巴の戦いが始まりそうだったが、伊黒さんが
「こいつがそんなに気に入ったのか?食料として。だがあまり旨そうではないな」
と鏑丸君を回収し、炭治郎君のカラス、松衛門が仲裁してくれたおかげで助かった。ともかく無事に上弦討伐を果たし、隠のみなさんの手を借りながらではあるが俺たちは無事帰路に就いた。
およそ百年ぶりの上弦の鬼討伐に、鬼殺隊は湧きかえった。
「百年変わらなかった状況が今変わった。これは兆しだ。運命が動き出す」
鬼殺隊当主・産屋敷耀哉は既に立つことすら難しく寝た切りとなっていたが、興奮のあまり布団から起き上がり、妻のあまねに嬉しそうに語った。
「あまり興奮なさっては、お体に障ります」
あまねが諫めるが、耀哉は光を失ったはずの眼を輝かせる。
「鬼舞辻無惨。お前は、私たちの代で必ず倒す」