22話 刀鍛冶の里へ
無限城に潜入している式神から、上弦ノ肆・半天狗と、上弦ノ伍・玉壺に刀鍛冶の里襲撃の命令が下ったと連絡が入った。
炭治郎君は前回の上弦ノ陸との戦いで刀をボロボロにしてしまい、鋼鐵塚さんから
「俺の刀をまた傷めやがったな」「お前に打ってやる刀は無い」「呪う」
という恐怖の手紙が連日のように送りつけられていたので、原作の通りお詫びがてら刀の打ち直しを直接依頼しに里に行くことになるであろう。
炭治郎君と一緒に向かっても良かったのだが、俺はそれらしい理由をつけて一足先に急ぎ向かうことにした。奴らが場所を特定するまでもう少し時間がかかるはずなので、襲撃までは好きな温泉に入れるという目論見だ。
また鋼鐵塚さんを通じて以前からお願いしていた、玄弥君のための、銃身を短く切り詰めたショットガンも受け取りに行くつもりであった。
今回は無一郎君と甘露寺さんの覚醒のお手伝いをし、みんなと共闘して上弦ノ肆、上弦ノ伍を倒し、玄弥君ともぜひゆっくり話をして仲良くなっておきたいところだ。
里に着くと俺は一番に里長の鉄地河原鉄珍様を訪ねた。
「どうもコンニチハ。ワシ、この里の長の鉄地河原鉄珍。よろぴく。まあ畳におでこつくくらいに頭下げて……うんうん、もう頭つけて、そないに丁寧に。感心感心」
刀鍛冶の皆さんの技術力のすごさは良く知っているので、俺は言われるまでもなく尊敬の念を込めて畳に頭を着けて平伏する。余談だが、鉄珍様はあの鋼鐵塚さんの育ての親でもある。幼い時から偏屈であった鋼鐵塚さんに実の親が重度の育児ノイローゼになってしまい、鉄珍様が“蛍”とかわいらしい名前を付けて引き取って育てたのだ。おかげで鋼鐵塚さんは里長直伝の技を持つ優れた鍛冶職人となったが、偏屈ぶりには磨きがかかってしまったという。
鉄珍様は、里長とは思えぬ軽い口調で挨拶を返す。俺は最初に頂いた刀の研ぎ直しと、父にもらった新たな刀についての相談もお願いする。この新刀は、耐久性や鋭い切れ味を維持する能力は高いのだがその分研ぎにくい性質を持つのだ。
「大事に使ってくれとるようだね」
最初の刀を抜いて一言。
そして例の特製日輪刀は、里長が何とおっしゃるか気がかりだった。隊員たちの武器は全てこの刀鍛冶集団が作るが、この刀は違うのだ。
「これは?」
新刀を鞘ごと渡すと、怪訝そうな鉄珍様。
「これは……その、私の実家に代々伝わるものでして(汗)。研ぎ直しなどが難しいと聞きましたので、刃こぼれなどがあった時に調整をお願いしたく、本日は相談に参りました」
苦しい言い訳をする俺だが、金属加工に関する超一流の技術者である鉄珍様には通用するまい。特製日輪刀を抜いてじっと見ている鉄珍様。お面の奥の目が鋭くなるのが分かる。
他の柱たちの日輪刀のように、刀身の根元に「悪鬼滅殺」の文字はない。目釘を外し、柄を取ってみてもこの刀の銘には何も彫られていない。
「この刀。この時代の物やない……な?材質も鍛え方も見たことが無い。蛍に頼んだっちゅう例の大砲みたいな銃のこともあるが、あんた一体何者や」
刀を眺めながら、何気ない調子で呟く鉄珍様。
「これは並大抵の代物やない。この力を生かすも殺すもあんた次第やな。これにはワシも興味があるし手入れなら任せてや。まあ困った事があったら言うてや」
刀を鞘に納めて返し、周りの鍛冶職人に、
「今のは黙っといてな」
そう口止めをしてくれた。
俺は余計な詮索をせぬ気づかいに感謝した。
「それと例の銃はもう完成しとる。ただあの子がまた癇癪おこしての、今行方不明なんよ。すまんの」
そう言って、猩々緋鉄製の、銃身を短くしたソードオフ・ショットガンと弾薬、狙撃用の長い替え銃身を持って来てくれた。
大口径だが本体の銃身は短く切り詰められており、取り回しはおそらく今使っているものとそう変わりないはずだ。散弾と一発弾を両方撃てるし、特殊な弾も撃てる優れモノだ。銃身を取り換えればある程度の距離の狙撃も可能だ。玄弥君喜ぶかな?楽しみだ。
里に妙な壷のようなものが現れても決して近づかないようお願いをして鉄珍様のお屋敷を辞し、宿に案内してもらった。
その途中俺は小鉄君を訪ね、偶然お父様が亡くなったのを知ったというていで慰めた。小鉄君は原作においてこの刀鍛冶の里編の最重要人物の一人なのだ。
俺(中身のおっさん)も親を亡くした時は五十代でもすごく辛かった。まして小鉄君は親一人子一人だったのに、わずか十歳にしてたった一人の親も亡くしてしまった。その辛さ、寂しさは察するに余りある。最初はいきなり訪ねてきた俺を気味悪がって、
「何なんだよあんた」
と言っていた小鉄君。しかし、お父様は高い技術で人望があったことを伝えると喜んでくれて、自分には刀鍛冶の才能が無いと思っている、と話してくれた。
子供相手にも真剣に話を聞き、それからお土産の高級和菓子店のどら焼きを2人で食べているうちに結構親しくなれた。
「才能が無いなんて言わないでくれ。俺だって才能なんかないけど、死ぬ程頑張って柱になった。見習いだけど」
無駄に熱く語り、おじさんがついてるぞ!と励ました。小鉄君が受け継いだ戦闘訓練用カラクリ人形も大事だが小鉄君本人のこともとても心配していたので、少しだが元気を取り戻してくれて良かった。
楽しみにしていた温泉に入ろうと露天風呂に来てみると、そこには先客が。あの髪型は、今回のターゲットの一人不死川玄弥君だ。
俺は早速声をかけた。
俺が風呂に入っていると、人が入って来る気配がした。あちらは俺を知っているようで、玄弥君だろ?と背後から声をかけて来たが知らない声だ。振り向くと、一つか二つくらい年上に見える優し気な顔立ちの人がいた。悪いが全く知らない人だ。
「ああ、そうだけど」
興味も無いので俺はちらりと見ただけでそう答えると、ふっと笑顔になった。
「俺は水原倫道。倫道でいいよ。よろしく」
と名乗った。
いけねえ、つい塩対応したが水原って、水柱じゃなくて何と言ったか、柱みたいな……。なんか偉い人だよな?蝶屋敷で聞いたような気がするが、そんな上の人が俺に何の用だ?
「水次柱(みずのつぐばしら)、ね」
その倫道さんが苦笑して教える。
「君たちの同期はみんな活躍してるし、君も丁だろう?俺なんかよりみんな階級が上がるの全然早い」
そう言ってはくれたが少し気まずい。それに、俺の秘密を知って近づいて来てるんじゃないだろうな、ついそう勘ぐってしまうが。
「同期って言えば、俺はお兄さんの同期なんだよ。だからお兄さんのことも良く知ってる」
そうかと思うと、俺が気にしていること、一番聞きたいことをさらりと言う。
「知ってるんすか、兄貴のこと?」
俺は思わず身を乗り出して聞いてしまった。
「知ってるよ。玄弥君、お兄さんは柱だから早く追いつきたいって思ってるだろ?」
ずばりと核心を突かれ、俺はたじろぐ。
確かに、兄ちゃんは柱なのに俺は呼吸も使えない。あれしかないんだ。
「当り前じゃないすか。俺がこんなんじゃ兄貴に顔向けできねえ」
俺はクソみたいな自分が嫌でそう言った。倫道さんは以前兄ちゃんに聞いたらしい。弟も鬼殺隊に入ったんだなって。そうしたらすごく怒って、
「俺には弟なんかいねえよ。今度それ言ったらブチ殺す」
そう吐き捨てたらしい。聞くんじゃなかった……。俺は心底へこむ。
「今から話すのは独り言だ。聞いても聞かなくても良い」
前置きして俺から視線を逸らし倫道さんは続けた。
「不死川さんは、弟の事をすごく気にかけてる。殺し合いなんかしないで普通に所帯を持って、ジジイになるまで平和に暮らして欲しいって、本当にそう思ってる。それなのに弟のやつは俺の気も知らねえで、ってな。弟につらく当たって、鬼殺隊辞めろと言うのはそういう意味らしい、良く分からんけど。絶対本気で怒ってはいないな、良くは知らんけど。彼は熱くて、優しい人だから。まあこれだけは本当に言える」
本当か?本当に兄ちゃんはそんな風に言ってたのか?
「殺すぞって言われたけどそれでも弟のことしつこく聞いたら、少し教えてくれたよ。五つも年下だとか、不器用で誤解されやすいとか。自分はどうなんだって思うけど。いつの間にか優しい顔になってたよ。炭治郎君みたいに分かりやすくはないけど、不死川さんも弟が可愛いんだろうな。独り言終わり」
情けないけど嬉しくて、俺は慌ててお湯で顔を洗った。涙が零れるのを見られたくなかったから。
「あっ、おい!」
倫道さんが止めたが、硫黄のお湯が――。
「うわっ、目にしみる!」
「当り前だろ」
俺たちは笑い合った。
「口に出さないだけで、羨ましい兄弟愛だ。お互い不器用だから傍から見てるとハラハラするけどな。でも」
倫道さんは一呼吸置いて、
「焦るな」
諭すように言った。
「君のことも知ってるよ。鬼を喰ってるのか?」
倫道さんは声を潜めて聞いてきた。俺は鳥肌が立ち、ゾクリと背筋が寒くなった。
何でそれを知ってるんだ?悲鳴嶼さんと胡蝶さんくらいしか知らないはずなのに。この人は一体何なんだ?
「俺も秘密を打ち明けるけど、多少医術の心得があってね。任務の合間に正体を隠して隠隊員に紛れ込んで救護活動をしてるんだけど、その時蝶屋敷で君が診てもらってるの聞こえちゃったんだ。俺は耳も鼻も良いから」
俺は驚いて倫道さんを見つめる。当て推量じゃなく本当にばれているんだ。だけどこうでもしないと強くなれねえんだよ。止める気はねえ。
それはそうと、今なんつった?任務の合間?鬼狩りの合間に隠やってんのかこの人は。
「鬼喰いが君の体に将来どんな影響を及ぼすか、正直全く分からない。予想がつかない。自分の体も大事にしろよ。お兄さんが悲しむからさ」
頭ごなしに鬼喰いを止めろと言われなくて良かった。でもあんたも大概にしないと。
後で俺の部屋に来いよ。渡したい物があるから。そう言って倫道さんは先に上がって行った。一つ二つくらい年上かと思ってたら、話聞いたら倫道さんは四つも上だった。幼く見えるよな、と思っていたが、すげえ体に目を見張った。
悲鳴嶼さんほどでかい訳ではないが、ムキムキなんてもんじゃねえ、みっしりと高密度に鍛えられた筋肉が全身を覆っている。その質感に驚く。
まるで戦いの神だな。
思わずじろじろ見てしまった。
その後倫道さんの部屋に行ってみると、ごっつい銃をくれた。今持っている物より一回りもでかいが取り回しは悪くない。
「熊でも跡形もなく吹き飛ばせる」てどんな威力だよ。弾は里で開発してもらっていて、散らばる弾と単体の弾を切り替えられるそうだ。単体の弾でも普通にぶち抜く弾と弾頭が潰れて広範囲を抉る弾の両方が使える。
素人が撃ったら反動で銃が跳ね上がり、頭を怪我したりするかもしれんが君なら片手でも制御できるだろう、そう言われたが、ちょっと練習しないとな。いろいろありがとう倫道さん。
でも俺はやっぱり竈門炭治郎は嫌いなんだよな。あいつのまっすぐ過ぎる瞳は苦手だ。それにあいつ、最終選別の時に俺の腕折ったんだぜ。
翌日、炭治郎君がやって来た。里長の鉄珍様に挨拶をして来たところだと言うので、一緒に風呂に入りに行くと、途中でやはり刀をメンテナンスしに来ていた甘露寺さんに会った。
「水原さーん!炭治郎くーん!」
盛大に揺れ……じゃなくて手を振っている。顔をそむける俺たち。
「何で向こうむいてるの?」
甘露寺さんは無邪気に聞くが、
(おっぱいが半分出てるからだよ!)とは言えないので、炭治郎君が
「甘露寺さんっ!浴衣の前を合わせてください」
と言ってくれて良かった。
炭治郎君ありが……余計な事を……いややっぱりありがとう(泣)。甘露寺さんは慌てて浴衣の前を合わせ、
「今ね、すっごい背の高い男の子がいてね、挨拶したんだけど」
ああ玄弥君だな。彼は照れてるだけで無視したわけじゃないんだけど、説明するのも面倒なので適当に聞き流した。炭治郎君が夕飯は松茸ご飯ですよと教えると、テンション爆上げで食堂にダッシュして行った。
風呂では玄弥君と鉢合わせし、屈託なく話しかける炭治郎君に一方的にキレる玄弥君。俺は何とか2人を取り持ってスムーズに共闘できるくらいに話せるようにした。
食堂では俺と炭治郎君は甘露寺さんの食いっぷりに圧倒されていた。実際目にするとすごい。あっという間にタワーのように積み上がる空の丼。
(と、土佐イヌ……)
大変申し訳ないがそう思ってしまったのは絶対に内緒だ。ばれたら伊黒さんに半殺し、いや全殺しにされる。
刀が研ぎ上がって甘露寺さんは出立したが、その直前、
「私は、竈門兄妹を全力で応援するよ!」
と原作で見た胸熱シーンがあった。
触れ合った人の心を温かくする炭治郎君に、甘露寺さんもキュンとした模様。うん、分かる分かる。でも甘露寺さんも良い子だよね。鬼殺隊に入った理由は
「添い遂げる殿方を見つけたい」
正直どうかと思うけど、常人の8倍の筋肉密度があってものすごい力持ち、基礎代謝も高いから力士3人よりも大食いで、と色々大変だったのだ。そんな彼女をお館様や鬼殺隊の面々は受け入れ、彼女も鬼殺隊をとても大事に思っている。
自分の居場所を見つける事は、本当に大事だなと改めて思う。彼女はその為に命も懸けるのだから。