「俺は炭治郎君たちを手伝いに行く。無一郎君はここで待機した方が良いね」
「だ、大丈夫だよ。僕は全然……だいじょう……ぶ……おえっ!」
玉壺が灰になったのを見届けて倒したのを確認、その安堵感もあったのだろう、一気に毒が回って時透は真っ青になって嘔吐。
確か原作では特に解毒などは必要なかったと倫道は思い出し、経過観察をお願いすることにした。
「無一郎君、ちょっと休もうね」
倫道は、時透の呼吸状態の観察だけは怠らないように鉄穴森に言い含め、時透と小鉄を任せると里の方へ全速力で救援に向かった。
炭治郎、禰豆子と玄弥は激戦を展開していた。
上弦ノ肆・半天狗が、本体である“怯え”の鬼と、別々の個性を持った4体の鬼、
“積怒”、“可楽”、“空喜”、“哀絶”、
この計5体に分裂して3人を苦しめる。本体の“怯え”の鬼はネズミほどの大きさしかなく発見が困難で、その頸は非常に硬く斬りにくい上、さらに他の分裂体は当然本体を全力で守る。そして本体以外の4体も強く、炭治郎たちは苦戦を強いられていた。
しかし炭治郎は戦いの中さらに成長、禰豆子の血で赤く燃える爆血刀を使い、積怒、可楽、空喜に大きなダメージを与えていた。
彼らの目には、燃える刀を振るう炭治郎がかつて無惨を追い込んだ最強の剣士と重なって見えていた。
玄弥は哀絶の一部を喰らって鬼化し、身体強度を劇的に向上させていた。叩きのめした哀絶を片手で軽々と持ち上げて頸を締め上げていたが、倒す決め手がなく攻めあぐねていた。
窮地に陥った本体の“怯え”の鬼は、本体以外の分裂体の4体を合流させ、さらに強力な鬼、
“憎珀天“を作り出した。憎珀天は少年のような見た目ながら、もとの4体全ての能力を使うことができ、さらに攻撃力も上昇していた。
禰豆子と玄弥は憎珀天と戦い、炭治郎は逃げる本体の鬼、“怯え”の頸を刎ねるべく、追撃を開始した。
憎珀天はこれまでの鬼よりさらに強く、樹木で巨大なトカゲの化け物を幾つも作り出す固有の血鬼術を持ち、それらを自在に操って禰豆子と玄弥を捕らえ、本体の頸を斬りかけた炭治郎も捕まえようと迫った。
巨大トカゲの一つが遂に炭治郎をその口に捕らえ、噛み潰そうとしたその時。
「恋の呼吸 弐ノ型・懊悩巡る恋!」
巨大トカゲが一瞬でバラバラに刻まれ、恋柱・甘露寺が現れた。
一見して柱と分かるその速さに憎珀天は一応警戒する。矢継ぎ早に攻撃を仕掛けるが全て甘露寺に斬られ、
(この小娘、なかなかやりおる)
スピード勝負では不利と見た憎珀天は、
「血鬼術・無間業樹!」
多数の巨大トカゲを同時に出現させて、甘露寺を圧殺しようとした。
「恋の呼吸 伍ノ型・揺らめく恋情 乱れ爪!」
甘露寺はしなやかな動きとスピードでその攻撃すらも全て捌き、憎珀天の頸を刎ねようと瞬息で間合いを詰めた。
「それは本体じゃない!頸を斬ってもだめだ!」
炭治郎は判断ミスを知らせるが甘露寺は迷いを生じ、一瞬にも満たない間だが動きが鈍った。
「血鬼術・狂圧鳴波!」
そこに憎珀天の超音波攻撃をまともに食らい、失神する甘露寺。
(この攻撃を食らって、肉体が形を保っていられるとは!……普通の人間ならば粉々の肉片になっていてもおかしくはない。何故この小娘は肉の形を保っていられるのだ?)
憎珀天は大いに驚き、この優秀な肉体を持つ人間を殺して食らおうと考えた。質の良い肉を喰らえばそれだけ強くなる。また憎珀天の状態にまでなるのは思い出せないくらい久しぶりで、単純にエネルギーが足りなくなり補給が必要と考えたからだ。
「甘露寺さんを護れ!この人が俺たちの希望の光なんだ!」
目の前で失神した甘露寺に、憎珀天が止めのパンチを打ち込んで頭を潰そうとした瞬間、炭治郎と玄弥は身を挺して甘露寺を庇い、攻撃を避けた。憎珀天は今度は雷による攻撃で全員をまとめて殺そうとしたが、意識を取り戻した甘露寺はこの攻撃を斬撃で相殺した。
雷攻撃と甘露寺の斬撃の威力がぶつかり、爆発のような閃光が幾つも発生した。
(やったか?)
憎珀天は目を凝らす。しかしその中心には、全ての攻撃をはね飛ばした甘露寺がすっくと立っていた。
「任せといて。みんな私が護る!悪いヤツには絶対に負けないから!覚悟しなさい!」
ぐっと敵を睨む。
先ほどとは明らかに纏う雰囲気が変わる。若い娘の甘さなど既に微塵も無く、歴戦の強者が作り出す威圧感を漂わせていた。見る間に周囲の空気がピンと張りつめていき、甘露寺の頸元に鬼の紋様に似た痣が発現した。
(……この小娘!)
うかつに仕掛けられない。
どちらかが仕掛けて均衡を破れば、今とは比べ物にならない激しい打ち合いとなるだろう、憎珀天の警戒度もさらに跳ね上がる。
「鬼殺隊は私の居場所。仲間は絶対に死なせない!上弦だろうと――」
先の先、甘露寺が仕掛けた。鋭い踏み込みから、鞭の様にしなる斬撃が噴き出すように憎珀天に浴びせられる。
「関係ないわよ!」
さらに2撃目、3撃目を打ち込んでいくが、僅かに躱されたかに見えたその時、憎珀天に幾つもの傷がビシビシと刻まれた。
「ぐわあっ!」
苦痛の呻きを上げて憎珀天が後退する。
(飛ぶ斬撃!誰?)
甘露寺が素早く周囲を確認する。
「甘露寺さんっ!その意気だ!」
いつのまにか倫道が現れ鎌鼬を放つと、跳躍して甘露寺の頭上を飛び越えて、
「水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き 五月雨! 壱ノ型 水面斬り!」
さらに大きく踏み込んで突きの連撃で崩し、横一文字の鋭い斬撃を繰り出した。
(また新手の童か!こ奴らがいては本体にトカゲをやれぬ!極悪人どもめ!)
後退を余儀なくされた憎珀天が忌々し気に睨む。
増援に勇気づけられた甘露寺はその力を十分に発揮する。次から次に発生する巨大トカゲであったが、頭や頸を叩きつけようとしても噛みつこうとしても、甘露寺は猫のような柔らかい動きでするりと攻撃を避け、時にいなし、避けられない時は全身の筋肉を緊張させる硬気功のような技で体当たりを食らわして巨大トカゲを粉砕し、激突の衝撃から体を守って有効打を許さない。倫道もまた甘露寺を護りながら複数のトカゲをまとめて斬り、迫るトカゲの頭を蹴って飛び回り、雷攻撃や衝撃波攻撃を見切って攻撃が出る前に潰していく。
2匹のネコ科の猛獣が暴れまわるかの如く、次々に生えてくる巨大トカゲも2人の跳躍の足場にしかならない。果てはトカゲの頭同士がぶつかって砕け、憎珀天のいら立ちはさらに募る。徐々に巨大トカゲの出現ペースが低下し、甘露寺と倫道の攻撃が迫り始め、憎珀天自ら応戦していた。
(よし、もっとイラつけ。もっとトカゲを出してこい!そうすればエネルギー切れで本体の守りがお留守になるぜ)
本体を追う炭治郎たちが楽になるよう、倫道は益々攻勢を強めた。
(倫道さんが来た!この増援は大きいぞ!)
一方の炭治郎たちも甘露寺と倫道の戦いに勇気づけられ本体を追う。大量の巨大トカゲを出していた敵が、トカゲを出す間もなく鬼本体への攻撃を許し、後退しているのだ。気を取られている隙に、こちらは本体の頸を狙う。
炭治郎が追いつき、頸を刎ねたかに見えたが体は崩れず、頸なしのまま逃げる鬼。炭治郎はこれすらも本体ではないと気づき、崖下に飛び降りて逃げた鬼を禰豆子とともにさらに追い詰める。
(そうだ!倫道さんの銃!)
足が遅く、追撃から遅れた玄弥はまだ崖の上にいた。そして新しい銃を取り出し、散弾から一発弾に切り替え、炭治郎を射線に巻き込まないよう狙撃した。ドゴォン!と大きな発射音と強烈な反動ともに放たれた弾丸は鬼の片脚に命中、大腿部から下を吹き飛ばした。柱2人を相手に分裂体である憎珀天が全力で戦っているため、倫道の狙い通り本体には残された力が無くなり、吹き飛ばされた足を再生できずにいた。
転倒した鬼に全神経を集中し、透き通る世界を発動した炭治郎は、その心臓の中に隠れた本体の鬼を発見した。
「貴様の罪を、命をもって償え!」
炭治郎はその心臓に隠れた本体ごと、頸なし鬼の体を両断した。
崩れて行く本体と分裂体。しかし本体の“怯え”の鬼は、崩れて行くその一瞬、朝日が照らす中を炭治郎に向かって歩いてくる禰豆子を視界に捉えていた。
無惨は半天狗の視界を通じ、この光景を見ていた。
(でかしたぞ、半天狗!)
無惨はその時人間の少年に擬態していたが、自身が太陽の光を克服する手掛かりを得て、偽りの家族となっていた人間の母親を勢い余って殺してしまうほど興奮に震えていた。
樹木のトカゲが消え、へたりこむ甘露寺さん。
「終わったみたいだね」
俺が手を取って助け起こすと、
「ありがとお!私、死んじゃうかと思ったあ!」
と抱き着いてきた。おお、役得。そんなんされたら、おじさんドキドキしちゃうよ。それに憎珀天を足止めしたのは甘露寺さんの力です。俺今回はそんなに活躍してないな。
崖下では、炭治郎君と太陽を克服した禰豆子ちゃんを中心に、歓喜の輪が広がっていた。俺も崖を飛び降りてその輪に加わる。いやあ、何度見ても良い光景だな。炭治郎君の安堵の涙が、俺の涙腺も刺激するよ。玄弥君も良く頑張って食らいついてた。胸張って兄貴に報告していいぜ。
「良かったな、炭治郎、禰豆子」
玄弥君のそんな呟きも俺はばっちり聞いていた。玄弥君めっちゃいいヤツじゃん。
……だから分かってくれるといいな。
柱になって不死川さんに認められることばかりに囚われず、仲間とともに戦うこと、仲間の命も、自分の命も大事にすること。
俺の視線に気づいた玄弥君がニッと笑って軽く頭を下げる。俺も思わず笑顔になってうなずいた。
そして、感極まった甘露寺さんがドカーンと飛び込んで来て、ガバーっとみんなに抱き着いた。
「勝ったああ!みんなで勝ったよおお!」
玄弥君の顔が真っ赤になってて、可愛いったらないね。
朝日に照らされたみんなの顔は最高に輝いて見える。
BGMに川井憲次さんの曙光(実写版GANTZ)なんてどうだろう、ちょうど朝日がきれいに差している。画面にはスタッフロールが流れたりして。もうここでエンディングでもいいんじゃないか、そんな気さえする。
でもやっぱりそうは行かない。
無一郎君が記憶を取り戻し、炭治郎君と玄弥君も大怪我しているが自信をつけただろう。そして、無一郎君と甘露寺さんは痣の力を呼び覚ましてしまった。戦力の充実という意味では良かったが、二十五歳で死んでしまうのだ。何とかしなければならないが、さてどうしたものか、良いアイディアがまだない。
また今回俺たち剣士は死んでないし重大な身体的欠損もないが、鍛冶職人さんたちが数名殺されてしまい、それは残念でならない。
それに、場所が鬼に知られてしまったからこの里は捨てなければならないとのこと。もったいないことだ。でも、武器の生産や研究などを止める訳にはいかない。一刻も早く刀鍛冶の里を移して再稼働しなければならないのだ。
これからやって来る、本当の戦いに備えて。