ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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29話 告白

本日、俺はしのぶさんにお呼ばれしていた。

(大事なお話がありますので、蝶屋敷にいらしてくださいね。すみませんが目立たないようにお願いします)

実は先日の講義の後耳元でこうささやかれ、日程の調整をしていたのだ。

 

自宅に呼ばれる……これってもしかして。

 

「マスカラス、俺の恰好って変じゃないか?ちゃんとしてるか?」

家を出る前に何度も姿見で確認したが、ニヤニヤするのを懸命に抑えながら念のため相棒に聞いてみる。

「……」

返事はない。

 

そういえばこいつ、しのぶさんと手紙で日程の打合せしてたら、しのぶさんからの返書を空からポイと投げて寄越しやがった。いつもは手元まで持ってきてくれるのに。何か怒ってんのか?まあいいや、蝶屋敷までは行き慣れてるからマスカラスのナビが無くても行けるし。

お前はそこらへんで虫やらカエルでも食べて待っててくれ。

それとも家に居るか?一緒に行かないなら休んでていいぞ。何か急用があったら教えてくれればいいや。

 

と思っていると、危ねえ、何すんだよ!避けたから良いけど、錐もみ状態で突っ込んで来て背後の木にドンと突き刺さっている。名付けて必殺ドリルつつき。なんちゅう高威力の攻撃を繰り出してんだ。お前今絶対殺そうとしただろ。

「手のかかるヤツだな」

漫画のようにクチバシが木に突き刺さったマスカラスを抜いてやるとバサバサと暴れてすごく荒ぶっており、

「勝手ニ行ッテ来イ!帰ッテ来ルナ!」

とこんな感じで送り出され(?)俺はなんだか良く分からないまま蝶屋敷に向かった。

 

 

蝶屋敷に着き、言われた通り勝手口にまわるとしのぶさん自身が出迎えてくれた。普段と変わらない様子であったがちょっと顔が赤いような気がした。だが、どこか思いつめた感じにも見える。

「あまり人がいては話しにくいので」

しのぶさんは俺を自室へと案内してくれるようだ。

「はい、何でしょう?」

昼間から自室に男性隊員を引き入れている、そんな噂を流される事を警戒しているのか、しのぶさんは周囲を見回しながら用心深く自室に向かっている。

 

自室に招かれる……これってもしかして。

 

最後の戦いの前に思いを告げる、そんな展開では。所謂告白というやつだ。

いやそうでしょ、それしかありえないでしょこんなの。絶対そうだよ。

 

しのぶさんの後について廊下を歩きながら俺は平静を装う。しのぶさんから、甘い良い匂いがする。

全然期待なんかしていない。いや少しだけ期待している。正直に言うとかなり期待している。普通に歩いているだけなのに、緊張でぎこちなくなってしまう。胸がドキドキして心臓が口からまろび出そうだ。しのぶさんに聞こえないように注意しつつ唾を飲み込むが、思いのほかゴクリと大きな音がしてしまい自分でびっくりする。

そんな訳で俺はしのぶさんにホイホイとついて行ったわけだが、後で考えれば肝心のしのぶさんの様子に十分注意を払っていなかったことは否めない。部屋に入り、しのぶさんは襖をピシッと閉めた。

しのぶさんは立ったままだ。俺も必然的に座らない。

 

「あのう……」

しのぶさんは振り向き、言いにくそうに伏し目がちにしている。まつ毛長いなあ。変なところに感心してる場合じゃないか。

 

大丈夫ですよ、さあ、思い切って打ち明けてください。俺は受け止めて見せますよ。しのぶさんを護って童磨を倒し、お姉さんの仇を討って見せます。ついでに勢いで無惨もサクッと倒しちゃいますからっ!

お、お姉さん?カナエさんをお姉さんって、それはさすがに気が早いだろー。俺ってばせっかちだな。

 

俺の脳内では今、しのぶさんとの両想いは確定事項となった。

ちなみに中のおっさんもだが、異性が自分によせる好意には非常に鋭敏だ。他の二次小説の主人公のように、「女性がここまで態度で表してるのに何で気づかないの?鈍いの?バカなの?空気読めないの?」ということは俺に関しては起こりえない。

あの子俺のこと好きだ、そんなことはすぐに見抜くのだ。でももてない。

見抜いたと思ったら全て自分の勝手な勘違いであっただけだ。

 

だが向き合ったしのぶさんは左手で俺の隊服の胸の辺りをそっとつまみ、俺を見上げる。俺は少しだけ背を屈めると、しのぶさんはすぐ目の前まで顔を寄せた。甘い香りが一層濃く漂う。

かっ、かわええ。こんな間近で見ても。吐息が顔にかかる、気がする。

えっ?ちょっと、そんな。しのぶさんの左手が、さり気なく俺の胸から襟のあたりに来る。

「……?」

ほんの少し違和感。まあいいや、そんなこと言ってる場合じゃない、緊急事態だ。普通二次小説だったら、主人公に夢中になる女子が一人ぐらいいても良さそうなものだが、この作品ではそんな気配すらない。だが今まで一切無かった恋愛展開が遂に俺にも?!

欲を言えばもうちょっと早くからあればなあ。

 

それにしても展開が急すぎて、俺にも心の準備というものが。

すると即座に(準備完了しました!)と心の声がする。俺ってば心の準備速っ!

ここでナレーションが入る。――そのタイムは僅か0.05秒に過ぎない。

 

メタルヒーローの変身時間か。

ではそのプロセスをもう一度見てみよう。……いや要らんだろ。

 

動揺している場合じゃない、仮にも鬼殺隊風紀委員長としての俺の立場はどうなる?そんな役職は無いけれども。もう思考がまとまらず、頭の中で猛烈なスピードで一人漫才をしていると、次の瞬間。

 

「んげっ!?」

思わず間抜けな声を漏らしてしまった。

 

俺は、ぐいっ!とものすごい力でしのぶさんの方へ引き寄せられた。そう言えば、先ほど俺の胸の辺りにあったしのぶさんの左手は、いつの間にか襟の方に移動していたのだ。遠慮がちにそっと俺の隊服をつまんでいた左手は、今やがっちりと襟首を掴んで半ば頸を絞める形になっており、右手にはこれまたいつの間にか短刀が握られていて、ぴたりと俺の頸動脈付近に突き付けられている。

傍からは俺の襟のあたりをしのぶさんが掴み、2人で顔を寄せ合ってふざけて内緒話でもしている様に見えなくもない。だが実際は、尋常でない迫力で身動きもできない状態にさせられ、頸には刃物。

ああ、さっきまでの、上気したような、ほんのり顔を赤らめた可憐なしのぶさんはどこへ。

 

怖い、怖すぎる。この氷のような視線。

「以前から怪しいと思っていましたが貴方は何者ですか?正体を現しなさい。どこから来て何が目的ですか?言わなければ今すぐ殺します。言えば喋っている間だけは生かしてさしあげます」

しのぶさんはくぐもった低い声で聞いてきた。

 

誤解ですっ!

 

俺は怪しい者ではありません、いや怪しいけど、鬼側のスパイではありません。

お、落ち着いてください。刃物が、隊服の上からだけど気のせいかちょっと刺さってますから。

気持ちいい温泉に浸かっていたと思ったら、一気に氷水にぶち込まれた気分。冷汗が背中を伝う。

 

むごい、むごすぎる。この酷い仕打ち。

「何でも喋りますから、い、命だけは」

俺は両手を挙げて懇願すると、頸に当てられた短刀に込められた力が少し緩んだ。

 

「しのぶさん、生まれ変わりと言うのを信じますか?」

俺は震える声でそう話し始めたが、ぐっと再び頸の短刀に力が込められた。ひいいっ!

「待って待って!本当なんです許してください!!」

俺は悲鳴を上げてしまった。

 

「大声を出さないでくださいね」

しのぶさんはにっこりと笑いながら冷静に脅す。

おしっこちびるかと思った……。いや少しちびったが、俺は全てを告白する決意をする。

それが伝わったのか、しのぶさんは俺の襟首を掴んだ手を離し、短刀を下した。俺は極度の緊張から開放され、両手をゆっくりと降ろしながら大きく息を吐き、冷汗をかきつつしのぶさんに向き直る。

 

「本当の事をお話しします」

俺は深呼吸し、

「聞きましょう」

しのぶさんは油断なく身構えながら返事をした。

 

しのぶさんのこんな表情は初めて見た。原作で童磨と対峙した時の凄まじい怒りの表情とも違う、冷たく射すくめるような鋭い眼差し。本当に血の気が引いた。だが覚悟を決め、俺は今度こそ話し始める。

 

前世の記憶を持ったまま“転生”したこと。この世界は、前世の俺が良く知っている物語の世界であると考えていること。結末を知っており、それでも人を護るために精一杯頑張ろうとしていること。いつまでこの世界に留まれるか分からないことも。

 

「人が信じてくれると思います?こんな話……」

目を大きく見開いて聞き入るしのぶさんに、俺は聞いた。

「結末は分かってると言いましたが、しかし確定ではない。それは、俺と言う不確定要素があるからです。俺が介入して本来なら死んでいた人々を救えたこともありました。人間の勝利は決まっている。無惨は滅びます。でもたくさんの人が死ぬ。俺はそれを救いたいんです。――未来はちょっとしたことで変わる。誰かが水面に投げた小石の波紋が互いに干渉して共鳴して、やがて大きなうねりとなって未来を変えることもある。誰かがほんのちょっと頑張ることで、死んでしまう人が救われるかもしれない。結末が分かっていたとしても俺は努力を止めません。すごく頑張って柱にもなりました。隠のふりをして救護活動も続けています。直接助けるだけじゃなく、重要な役割を担う隊員には俺も一緒に頑張ることで、変わるきっかけを掴んでもらったりしました。でもまだ足りないんです。全てを救うにはまだ足りないから、できる事は全てやるつもりです」

 

俺はしのぶさんを見つめる。

そして思い出した。何で気づかなかった?何度も嗅いだこの甘い香りは、藤の花の香りじゃないか。

 

アホだな。しのぶさんの覚悟に比べて、俺は何をやってんだろう。心の中で自嘲する。

 

「しのぶさんが、己の全てを毒にして仇の鬼に喰わせようとしているのは知っています。止めてくださいとは言えませんが、どうか死なないでください」

しのぶさんは、カナヲちゃんにすら打ち明けていない絶対の秘密が知られていることに驚いた様子だった。

 

「そこまで知っているのですか」

苦々しい顔で呟くが、敵意はもう感じなかった。

原作を知っているというのに、俺はしのぶさんの覚悟の大きさに胸が痛くなる。

「今までの話は信じてもらわなくても構いませんが、これを知っているということは、本当の事を言っている証拠になりますよね?」

 

重い空気を何とかしたくて、冗談めかして言ったつもりだったのに。

微笑みかけようとしても上手く笑顔が作れなかった。

 

俺は真顔になって、最後に精一杯のお願いをした。

「どうか、死なないでください。鬼のいない未来を見たくないですか?しのぶさんがその世界で生きて行くことは、お姉様の望みでもあったはずです」

 

俺がそう言うと、しのぶさんはキッと眉を吊り上げて俺を睨んだ。俺も視線を逸らさず見返す。一瞬の後、しのぶさんはいつもの柔らかい表情を顔に張り付け、

「姉のことまで知っているんですね。……考えておきます。今日はお時間を取らせてすみませんでした。無礼をお許しくださいね」

えへへ、もちろん許しますよ。もう、すぐ許しちゃう!

すごく悲しいですけど。めっちゃ凹んでますけど。

しのぶさん、自分自身を毒の塊にして童磨に喰わせること、止めるつもり全然ないでしょ。

 

それに自分のアホさ加減にも嫌気がさす。

 

 

俺は褒めて欲しい訳ではない。いや本音を言えばめちゃくちゃ褒めて欲しい。でも、褒められなくても良いから、俺も自分なりの方法で懸命に戦っていることだけは分かって欲しかった。

理解はしてくれた、そう思うことにした。

 

ところで俺は、以前からずっと考えていたことがあった。さらに怒らせるかもしれないがこの世界なら、もしかしたら。

 

俺は部屋から退出しかけて、もう一度しのぶさんに声をかけた。

「しのぶさん。貴方にも鬼の頸が斬れるとしたら、どうしますか?」

「冗談で言っているのなら、やはり殺しますよ?」

しのぶさんは俺を見上げ、凄みのある笑顔で言った。

「俺のいた時代のある体術を使えば、非力な人でも爆発的な力が出せます。しのぶさんならすぐに会得できますよ。やってみます?」

しのぶさんは呆気にとられたが、

「まあ、研究の合間になら」

と承諾した。

それは、“ウエイブ”。アクション映画で見たやつだが、肩甲骨と骨盤を柔らかく使い、手先や足先に驚異的なスピードとパワーを与える。某動画サイトなどで何度も見ていたのが役に立つ時が来た。この世界ならば必ずできる。しのぶさんに俺の最初の刀を貸し、早速本日よりレッスンに入った。

体の使い方を意識するだけ。体幹や下肢の筋力、関節の柔軟性は十分だ。肩甲骨を開放する、それだけだ。踏み込みのスピードや体を捻っての溜めを、全て刀を振り切る力に変換する。やっぱり運動センスは常人の比ではないな。この分なら短期間でマスターできるに違いない。

 

 

でも、やっぱり。ちょっと酷くない?命を懸けて共に戦う仲間にさっきの仕打ち。まあ誤解だから仕方ないけど。

最終的に死なないでくれたらいいか。

 

 

帰り途、途中でマスカラスが現れて付かず離れずでついて来る。

ついて来てるの分かってるぞ、どうした、遠慮してんのか?

「……」

木々の間から何やらチラチラ見てきたりしている。当初の予想とは随分違ったが、別に俺は落ち込んでなどいないぞ。そう見えるなら、それは改めてしのぶさんの覚悟を嫌というほど思い知らされたからだ。

まあそれと、現実の厳しさというやつだ。

と思っていると飛んで来て頭に止まった。

 

「マア色々アルヨナ!」

こいつ何で知ってる?!しかも何か勝手に慰めようとしてないか?あのな、俺としのぶさんが恋仲になるなんて、最初から全く考えて無かったのだよ。何を失恋したみたいにしてくれてんだよお前は!

「ショウガネーナ、アタイガ居テヤルヨ!」

お前カラスじゃねーか!せめて人間のカラスが良いわ。……人間のカラスって何だよ。

俺は別にふられた訳じゃない。しのぶさんはあくまで救済の対象であって恋愛の対象ではなく、これは失恋ではない。だから、俺は少しも落ち込んでいない。

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