ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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31話 恋・蛇・風

今日はお土産持って、甘露寺さんのお家へお茶にお呼ばれ、ではなく出稽古にやって来た。

「水原さーん!おいでませ我が家へ!」

お家の前まで来ると、甘露寺さんが手を振って出迎えてくれた。

「お土産持って来たから後で食べて。今日はしっかり稽古しましょう!」

フレンドリーな雰囲気なので、何となく甘露寺さんには対等な友達の感じの口調になってしまう。しのぶさんには敬語なんだが。

刀鍛冶の里で共闘したのに、本当にこの可愛らしい人があんなに強いのか、見た目からは信じられない。

 

俺がお土産(舟〇の芋ようかん48本セット約3キロ)を渡しながら言いかけたその時、玄関からこちらを睨む氷の様な視線が。

伊黒さん、どうしてここに?いやすみません、もちろん居てくださって良いんです。はい。決して邪魔だなあとかそんなことは思ってません。全然思ってませんから。一緒に稽古できて嬉しいな、ははは。

……甘露寺さん可愛いなー。などと鼻の下を伸ばしていたが、ちょっとだけ気分が盛り下がった。

「甘露寺をお前と2人にするのは心配だからな、さっさと入って来い」

言い捨てて伊黒さんは邸内に先に入って行った。

 

心配って。俺が甘露寺さんに手を出すってこと?失敬な、俺は鬼殺隊の風紀委員長と呼ばれているのを知らないのか。そんな役職はないけれども。と言ってる間に伊黒さんはもう身支度を整えて道場で待っている。まあ個別に訪問する手間が省けたし、一緒に訓練しますか。

 

手合わせと言っても伊黒さんも甘露寺さんも特殊な刀だから、木刀に変えることが難しい。軽めのスパーリング程度に留めて互いの太刀筋を確認し、連携訓練を行う。

伊黒さんは、この合同訓練の前に抱いていた印象と違い、よく話を聞いてくれた。もっと好き嫌いだけで判断したり行動するのかと思っていたが全然違った。共闘した場合、こうした方が良さそうだと言う意見をよく聞いて、色々と試す事ができて有意義だった。ネチネチはしてるけど。

 

稽古後、パンケーキを焼くと言う甘露寺さんに代わり俺がちょっと焼いてみた。バターと卵多め、牛乳少なめのしっとりもっちり食感が自慢だ。リアルでもやっていたお菓子作りがこんなところで役に立つとは思わなかったよ。

「水原さんすごーい!美味しそう!」

焦がさず、鍋にくっつかずに上手く焼け、甘露寺さんが褒めてくれた。

さあ召し上がれと2人に出すと、甘露寺さんははちみつをたっぷりかけて、美味しい!とバクバク食べてくれた。

 

「伊黒さんも食べて!美味しいから!」

甘露寺さんは無邪気に言う。伊黒さんはそれを見て氷の視線を俺に向けてきたが、あまり甘露寺さんが勧めるので、口元を覆った包帯をずらすと一口だけ食べてくれた。傷を見ないよう俺はそっと目を逸らしてあらぬ方向を見る。

「お前、こんな事いつもやってるのか?」

伊黒さんは意外そうに聞いて来た。

なかなかのもんでしょう?生地にクルミや干しぶどうを混ぜても美味いですよ。

他にはチーズケーキなんかも作ります。小豆を煮て、寒天入れて羊羹も作りますよ。今度持って来ましょうか?

「変な剣士だなお前は」

と言われたが、未来では料理男子は女の子にもてるのですよ。俺はもてたことはないけど。

よし、だいぶ打ち解けてきたな。

 

紅茶をご馳走になりながら、ふと思ったことを口にする。甘露寺さんの恋の呼吸と伊黒さんの蛇の呼吸って、太刀筋として相性良いよね。うねってきたり、鞭みたいにしなったり、複雑で予想外の軌道だし。2人で互いを護りながら接近して、一瞬の隙を突いて蛇の牙と猫の爪、どちらかの技を叩き込めばいい。組んで戦うべきだよね。

「ちっ、うるさいやつだ」

そんなことを2人に話していると、まんざらでもなさそうに伊黒さんが言った。

「照れるな伊黒さん。顔が赤いぞ」

そう言って俺は伊黒さんの顔を軽くつつこうとした。

バシッ!と予想外に強い力で俺の手を払う伊黒さん。一瞬にして場の空気が凍る。ちょっとふざけ過ぎたか。

 

「伊黒さんごめんなさい。調子に乗っちゃって」

俺はすぐに頭を下げて詫びた。

「いや、俺もムキになった。悪かったな」

それから、包帯を外しながら静かに言った。

「醜い傷がある。だから、触って欲しくない」

「……伊黒さん、どうしてそれを?」

もちろん傷の事を知ってはいたが、俺は狼狽えてしまった。伊黒さんが自分から傷を見せてくれるなんて。

「お前たちには見せてもいいか、そんな気分になった」

包帯を外すと傷が露わになった。驚きで固まる甘露寺さん。伊黒さんの顔の傷については話だけは聞いていたらしいが見るのは初めてだろう。

伊黒さんの一族を支配していた蛇鬼が、子供だった伊黒さんに刻んだ深い傷。口の両端から頬にかけて、切り裂かれた傷の痕だった。

 

しかし、残った傷跡の酷さより伊黒さんの心を苛んだものがある。

「俺は醜い一族の出なんだ」

伊黒さんは語り始めた。

 

伊黒さんの一族は、女の蛇の鬼に支配されていたが逆にその力を利用し、近くに来る人間を襲わせて殺し、奪った金品で贅沢な生活していた。その代わり生け贄として一族の子供を差し出すことで安寧を保障されていた。伊黒さんは三百七十年ぶりに生まれた男の子で、生け贄となるはずであったが逃げることに成功し、たまたまやって来た当時の炎柱、槇寿郎さんに助けられたのだ。

生け贄が逃げれば一族はただでは済まない。蛇鬼の怒りを買い、槇寿郎さんに助け出される前に一族はほとんど殺され、伊黒さんの他に生き残ったのは従姉妹(いとこ)1人だけだった。

蛇鬼が討ち取られた後、生き残ったその従姉妹は伊黒さんを激しく罵倒した。

 

生け贄のあんたが逃げたせいで50人が死んだ。あんたが殺したも同じだ。あんたが死ねば良かった。あんたが大人しく喰われれば良かったのに――。

子供時代の伊黒さんの心は、これでもかというほどに深く抉られた。

 

俺はもちろん原作で知っている。彼は漫画の登場人物。これも架空のお話しなのだ。でも俺の目の前にいるのは、心にも体にも深く大きな傷を負いながらも、懸命に生きている一人の人間だ。

 

呪縛。そんな言葉が思い浮かんだ。

殺された50人の恨みがましい目が、腐った手が、未だに伊黒さんを捕らえ続けて離さない。そんな幻影を見るほど、伊黒さんは今もその心の痛手に苛まれ続けている。

甘露寺さんの顔がみるみる曇る。両の手で口元を覆い、目には涙をいっぱいに溜めている。甘露寺さん、泣くな。俺だってやっとのことで涙を堪えているんだから。

 

 

「俺はお前たちと一緒に生きていて良い人間じゃない。俺は今度の戦いで死ぬだろう。だがそれは、俺にとっては必要なことかもしない。まず一度死んでから、汚い血が流れる肉体ごと取り替えなければ――」

「嫌だあ!伊黒さん!死ぬなんて言わないで!」

そう叫んで、甘露寺さんがとうとう泣き出す。

そうだ。伊黒さんが何を恥じることがある?何にも悪くないじゃないか。俺もちょっとだけ……目から鼻水。

 

「伊黒さん!この戦いが終わったら、その傷俺が治す」

あくまで傷を気にしていると思いこんでる感じで、俺は言う。

「こう見えて、前世は医者……」

俺は言いかけた。

「前世だと?」「ええっ!?」

2人は驚く。あ、しまった。

「かと思うくらい、手先は器用なんだ」

俺は慌ててごまかしながら言った。

「その傷は、手術して丁寧に縫い直せばずっときれいになる。約束するよ。だから、お互いに生きて戻ろう!」

俺は鼻をすすり上げながら能天気に泣き笑いで語りかける。

「お前が……?フン、まあ期待しないでおこう」

甘露寺さんも俺もメソメソしているのでさすがにバツが悪くなったのか、伊黒さんは顔を洗うと言って一時席を立った。

甘露寺さんはまだ泣いている。

 

「伊黒さんのこと好きなの?」

ズバリと聞いた。もじもじしているが、甘露寺さんは痣を発現させてしまっているのだ。先ほどの生きる死ぬの話も現実味を帯びている今、いつまでも迷っている時間はないと思うが。まあ原作を知っている俺から言わせて頂こう。

 

両想いなんだから、どっちでもいいから早く告白しろ!!

 

ああもう焦れったい。”ムズキュン”などと言われたドラマあったよね。俺は甘露寺さんの思いを代弁するべく椅子から立ち上がった。

「好きなら想いを口に出さないと。さあ言って!伊黒さん大好き!」

せーのっ!俺は甘露寺さんを促す。

「い、伊黒……さん、だ、だい……すき……」

甘露寺さんは消え入りそうな声で言う。顔が真っ赤になっているのが初々しくて良いけど、ダメだ!声が小さい!

「伊黒さん、大好き!」

こうだ!腹から声を出せ!

「嫌だ、聞こえちゃう……恥ずかしい……」

「恥ずかしくない!言うんだ!」

こんな風に!と俺は大声で言う。

 

ほらお嬢ちゃん、恥ずかしがらなくて良いんだよ?げへへ。

ううむ、何だか違うプレイになっているような気も……はっ!?

 

俺は背中に冷たいものを感じ恐る恐る振り向く。そこには憤怒の表情の伊黒さんが。

「お前、甘露寺に何をしている?恥ずかしがるような事をしたのか?」

ちっ違う、誤解です!

「恥ずかしい」「恥ずかしくない」から聞いてたのね……。肝心なところ聞かないで。

恋のキューピットだと言うのに何で俺がこんな目に。伊黒さんにぶん殴られ(もちろん軽くだ)、後は若い人同士で勝手にやってね、と俺は帰路に就く。

帰り際、伊黒さんの視線に耐えながら

「想いは届くから。この戦いが終わったら、必ず口に出して言うんだよ!」

甘露寺さんをそそのかしておいた。

 

 

 

 

本日は不死川さんを訪ね、手合わせと連携の確認などを行う。

「面倒だ、互いに全力で殺し合うのが一番だぜェ。テメェとは手合わせ願いてぇと思ってたところだぁ」

凶暴に笑う不死川さん。

あくまでも稽古だからね?まあ俺もそうそうは負けないっすよ。柔能く剛を制す、と言いますからね。

「剛能く柔を断つ、とも言うなぁ」

なっ!?学があるところ見せようと思ったのに、負けた……。

 

あっさり言い負かされて始まった模擬戦も終了、真剣であればお互い半死半生だ。

「テメェもなかなかやるじゃねえかよ」

とお褒めの言葉。それと、今日はお土産を持って来ました。

「おう、気が利くじゃねえか」

好きだと聞いたもんで、原作知識ですけどね。食べましょう、と俺はおはぎの包みを取り出すが、

「「あっ……!」」

俺たち2人の声が重なる。潰れてた……。スマン不死川さん。

「ちっ、しょうがねえなぁ、食ってやるよ」

仕方なく食べる顔じゃないが、俺はすかさず、

「いやいや、こんな物を不死川さんに食べさせる訳にはいきません。これは俺が処分しますんで、後日新しい物を持って来ます」

俺はさっさと包みをしまう仕草をする。

「いや構わねえ、食ってやるよ」

「そんな、申し訳ないですよ!」

と言い合った後、

「食ってやると言ってるだろうが!風の呼吸 伍ノ型・木枯らし颪!」

「新しいの持って来ると言ってるだろ!水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き!」

おはぎを巡って再び必殺技の応酬になりそうであったが、俺が吹き出し、

「調子の狂うやつだぜ」

不死川さんも苦笑した。

 

改めておはぎを見て、不死川さんが聞いて来る。

「おい、何だあ、こりゃあ?緑色してるじゃねえか!」

不死川さん知らないの?これは、枝豆をすり潰して作った”ずんだ餡”のおはぎですよ。枝豆を細かく擦り潰した中にわざと粗く刻んだものを混ぜてあるので、滑らかさの中にザクザクとした食感と風味があってたまんないっすよ。

 

「いや、おはぎは粒あんに限るだろ」

妙な拘りを見せる不死川さん。うるせえな、じゃあ本当に片づけるぞ。

 

「おぃ待てェ片づけんじゃねぇ。せっかくだしなぁ、しょうがねえから食ってやるよ」

不死川さんは潰れたおはぎに手を伸ばし、どさくさにまぎれて食った。言ってから食うの早っ!口の周りにずんだ餡を付けてる不死川さんはなかなかにかわいい。そして、

「……うめぇな」

俺は不死川さんの呟きを聞き逃さなかった。当然だ、山形は庄内の名物で特上の枝豆、”だだちゃ豆”を使っているのだからな。よしよし美味いか、そうだろう、俺が独りうなずいて目を離した隙に。

 

オイ、ちょっと待てえ!4つのうちもう3つ食ってるじゃないか!半分こだろ普通!しかも4つ目にも手を伸ばそうとしてたな?俺が気づかなかったら全部食うつもりだったじゃねえか!全く油断も隙もないよこの子は。

 

ところで不死川さん、玄弥君の事なんだけど。

「あいつのあの銃は、役に立つのかぁ?あんなもんが」

顔をしかめながら不死川さんは言う。いやいや、役に立つどころか大活躍するかもしれませんよ。今や玄弥君の銃の腕は相当なもんです。ある計画の大事な役目もお願いするし。

 

「それはそうと、テメェあいつに何か吹き込んで焚きつけやがったな?この前顔合わせたら、俺はもっと強くなってみんなを護る、そんで絶対死なねえとぬかしやがった。おどおどしてたあいつが、あの愚図が、束ンなって上弦一匹倒したぐれぇで調子に乗りやがって。……逞しくなったもんだぜェ」

少し目を細めて、少しだけ笑ったように見えた。なんだ、知ってるんだそのこと。玄弥君のことなんかどうでも良いんじゃなかったっけ?

「俺はよぉ、あいつだけには生きて欲しいんだ。あいつはお袋や兄妹たちの分まで生きて、自分の家族を作って幸せにしてやりゃあいい。俺は生きて戻れねえかもしれねえからなぁ」

何言ってんの、生きて帰るんだよ。どっちが死んでもだめだ、生きるんだ、二人共。

 

玄弥君のこと、やっぱりすごく気にしてるじゃないか。そして、何と答えたかも俺は知ってるよ。彼が本当に嬉しそうに、少し涙ぐんで報告してくれたから。

「目は合わせてくれなかったけど……兄貴が“死ぬんじゃねえぞ”って……」

くそっ!全くこの兄弟は!また胸がジンとするじゃないか。俺はもう眼から鼻水が出そうになって、必死にそれを堪えていた。

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