ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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32話 水・岩

現場の倫道です。私は柱稽古の一環として、柱のみなさんの元を訪れておりますが、今日は水柱・冨岡義勇さんのお宅に伺っています!では早速突撃してみましょう!ごめんくださーい!

あ、家の中から出てきましたね、水柱・冨岡義勇さんです!髪の毛がぼさぼさで、ちょっとボーっとした感じですね。今起きたばっかりなんでしょうかこの男は。……何だか滝沢カレンみたいになって来たからやめようこの口調。

炭治郎君も出て来て挨拶をする。お館様の依頼で義勇を元気づけに来ているところだったようだ。炭治郎君がいるなら心強い、一緒に義勇を元気にしよう。義勇本人は何だかすごく迷惑そうな雰囲気だが、気にしない気にしない。

 

「義勇、合同稽古しよう。手合わせしてくれ」

不機嫌な顔してるなあ。弟弟子の俺が上目遣いでこんなに可愛くお願いしていると言うのに。それが良くないのでは、と言う炭治郎君の視線を受けながら、俺は義勇の道場にずかずかと勝手に上がりこんだ。先日の柱合会議の時も1人で出て行ってしまったし、まだ拗らせてんのか。

「じゃ手合わせしようか。柱稽古の一環だ、柱同士で手合わせしてしっかり連携訓練するようにって、悲鳴嶼さんからも言われてね。義勇が退席した後に決まったんだが」

俺は義勇の沈んだ雰囲気を無視して声をかけ、支度を始める。

義勇はうつむいて視線を合わせない。

 

またか、このネガティブさんめ。いい加減にしろよ。うん、だんだん腹立って来たぞ。先日の柱合会議の後も、他の柱のみなさんへのフォロー大変だったんだぞ!

 

「俺には柱は務まらない。俺は他の柱のみなと並んでいて良い人間じゃない。倫道、お前が代わりに水柱を務めると良い」

「そうか奇遇だな、俺もそう思ってたよ。俺の方が強いし柱にふさわしいってね。お前はいつもそうやって、“俺はお前たちとは違う”とか、“俺は柱じゃない”とかひねくれやがって。それなら俺が、今日ここでお前に引導渡してやるよ。そんな弱気なヤツがいたんじゃ鬼殺隊全体の士気にも関わるからな。兄弟子だろうが関係ない」

義勇の弱気な発言に対し、俺はわざと怒らせるように挑発的に言い放つ。

 

もどかしい。悲しい。どうして届かない?そんな思いの俺の挑発に義勇は乗った。

 

 

 

 

倫道と義勇は、木刀を構えて静かに対峙する。

「行くぞ!」

緊張を破り、苛烈な打ち込みを見舞う倫道。生木を根ごと抉り取り、大岩すら砕きながら流し去る鉄砲水さながらの激しさ。義勇は常ならば大海の如く、激しい川の流れも飲み込み受け流し、ここぞという時に鋭い反撃を見せるが、ここでは防戦一方で何度も倫道の攻撃をまともに食らいそうになる。

水の呼吸同士の激しい打ち合いだが、勢いでは怒りの感情をストレートに表に出す倫道が完全に上回っていた。

(すごい打ち込みだ!それに倫道さん珍しいな、ものすごく怒ってる匂いがする)

炭治郎は気が気でない。

(きっと倫道さんももどかしいんだ。2人は一緒に修行した仲だって聞いた)

炭治郎は倫道の心中も思いやるが、倫道の攻勢は激しさを増した。

「水の呼吸 参ノ型・流流舞い!漆ノ型・雫波紋突き・五月雨!」

倫道は義勇に技を出させず攻め続け、速い連続技に蹴りや足払いを織り交ぜてさらにスピードを上げる。

ここで倫道の呼吸が変わり、

「炎の呼吸 壱ノ型・不知火!」

一気に距離を詰め、打ち下す斬撃。義勇は何とか受け流すが、気の迷いがあり剣技に平素の切れが無い。

「破壊殺・脚式 流閃群光!」

倫道はさらに軸足を思い切り踏み込んで、連続蹴りを見舞った。

「ぐっ!」

受けきれずに吹き飛ばされて仰向けに倒れ、かろうじて上体を起こし倫道を睨む義勇。倫道は攻撃を中断してニヤリと笑った。

「大したことはないな。以前は兄弟子が柱になって鼻が高かったもんだが。なるほどこれでは柱は務まらん。鱗滝先生もお嘆きだぞ。それにお前がこのザマでは」

倫道は歩み寄り、皮肉な笑みを浮かべ、見下した態度でフンとため息をついた。

「お前を庇って亡くなったお姉様も浮かばれないな。全くの無駄死にだったという訳か」

そして倫道は笑みさえ消し、呆れ果てた、そんな調子で言い放った。

 

 

 

「倫道さん!何て事を言うんだ!!」

事情を聞いていた炭治郎が叫ぶ。いくら何でもそれは酷すぎる言い方だ。

炭治郎は数日間義勇に付きまとい、昨日今日で義勇からやっと事情を聴くことができた。

 

子供の時姉と二人で暮らしていたが鬼に襲われ、翌日に祝言を控えていた姉は彼を庇って殺された。

その後鱗滝に弟子入りしたが、最終選別では錆兎に守られ自身は鬼を1体も倒さずに“合格”してしまった。錆兎は大怪我をし、本来なら剣士の道を諦めざるを得ないところであった。

そんな自分がのうのうと生きていて良いのか。最終選別に通ったと言えるのか。柱などと名乗れるのか。

 

だが炭治郎との会話の中で、生き残った義勇自身が姉に託された命を繋いでいく使命に思い至り、雰囲気が少し変わったと炭治郎は感じていた。

 

義勇は怒りに表情を歪めた。

 

「お前のお姉様だけじゃない。錆兎だって呆れるだろうよ」

言い捨てて、倫道は木刀を突き付け、堪え切れずに感情をぶつけた。

 

「腑抜けかおのれは!!立て、義勇!!――こんなものか。俺の自慢の親友は!自慢の兄弟子は!お前がここで挫けたら、一体誰が死んだお姉様の命に意味を成すんだ!」

倫道は、涙を流しながら再び木刀を構える。

 

「鬼を倒して人々を護る!そう誓っただろう!撃ち返してみろ!――水の呼吸亜型 壱式・緋屠螺(ヒドラ)!」

倫道は渾身の一撃を放つ。

(あの技は!ダメだ、もう止めないと!)

炭治郎は焦る。

「水の呼吸 拾壱ノ型・凪」

義勇は素早く立ち上がり、技を繰り出し――互いの木刀が砕けた。

 

「お前、泣いてるのか?」

義勇は突っ立って、倫道を不思議そうに見つめて呟いた。

(そうじゃなくて……。他に言うことがあるだろ?)

倫道は思わず脱力するが、倫道と炭治郎は、その様子から迷いを脱したと判断した。

 

(俺はここまで1人で来たんじゃない。姉さんに命を救われた。先生に剣技のいろはを教わった。錆兎も倫道も、俺を叱咤激励してくれた。お館様は俺を認めて下さった。隠のみなや胡蝶にも世話になったな。そして共に任務に当たり、死んでいった多くの仲間たち。想いを、命を繋いで行かなければ。ここで立ち止まっては顔向けできない)

義勇が表情を引き締める。

 

(本来の義勇に戻った……よな?)

倫道は義勇の様子を見て安心しかけた。

 

(自慢の親友、か。こういうことを照れもなく言うところが倫道らしい)

そして義勇は先ほどの倫道の言葉を思い出し、珍しくムフフ、と笑った。

 

(うわっ笑った!悪いけどちょっと気持ち悪いな、炭治郎君何とかしろ)

(倫道さんがさっきあんなこと言ったからですよっ!倫道さん何とかしてくださいよ!)

(炭治郎君はお館様に直に頼まれたんだろ?俺はたまたま来ただけだから)

(ずるいですよ倫道さん!さっき親友って言いましたよね?)

明後日の方を向いて急に笑顔になった義勇を巡り、倫道と炭治郎の間で義勇を押し付け合う短い暗闘があったが、向き直った義勇はすっきりと凛々しく、しかしどこか抜けたいつもの義勇だった。

 

「倫道、炭治郎。遅れてしまったが、俺も柱稽古に参加する。……2人で何か話していたのか?」

「い、いや、何でもない。義勇が目を覚ましてくれたから、嬉しかっただけだ。なあ炭治郎君」

「ええっ?!は、はい……」

炭治郎は慌てて答え愛想笑いをして誤魔化した。

 

(いつもの義勇、いやちょっと成長した義勇かな?思い切り打ち合って吹っ切れてくれたかな。分かってくれればそれで良し!それでこそ最強の水柱、冨岡義勇だ)

倫道はようやく安心する。

最終選別の時は、たまたま合格したのかもしれない。だがそれも天命。ここまで強くなったことを考えれば、最終選別には通るべくして通ったのだ。そして今の柱の地位は、紛れもない義勇の努力と実力の証。

 

(良かった。義勇さんが完全に吹っ切れた感じだ)

炭治郎も安心し、思い出していた。

禰豆子が鬼になった時もこうやって倫道と義勇は争っていた。

あの時義勇は不器用ながらも自分を励ましてくれていたのだ。今度は倫道が、同じようなやり方で義勇の迷いを断ち切った。

 

 

「柱稽古は俺と一緒にやろう。水の呼吸、鱗滝一門の結束は絶対だからな!他の柱のしごきで死なないように、基礎練習させてるんだ」

倫道ももちろん義勇の参加を歓迎する。自分の負担が減るからだ。

 

倫道による基礎講座が、“何時でも誰でも参加できる”水柱合同稽古として新たに開始された。

 

 

 

 

今日は岩柱・悲鳴嶼さんの修行場を訪ねている。

「せっかく来たのだ、水原もやって行くと良い。私が訓練生に課すのは次の3つの簡単なものだ。まず滝に打たれる修練」

悲鳴嶼さんは穏やかな笑みを浮かべながら出迎え、説明してくれた。原作で知っておりますのでご遠慮申し上げます。

「いや私は結構です」

「次に、丸太3本を担ぐ修練」

「結構です」

「最後はこの岩を一町押して運ぶ修練」

「結構です」

俺は即答する。というか嫌です。というか断固拒否。

 

「そうか?私は毎日やっているが……」

「はぁ」

「もちろん強制ではない。嫌ならばやらなくとも良いが」

どう考えてもやれと言っておられるように聞こえますが、私の気のせいでしょうか?

 

無言の圧力……結局やってしまった。氷風呂には慣れているのだが、自然の中で滝に打たれるのはまた違うつらさがある。丸太担ぎと岩を押すのも集中してやれば何とかできた。

 

「さすがだ。良く錬成しているようだな。まあやらずとも良かったのだが、志願するとは感心だ」

お褒めの言葉をいただいたのだが、志願……?はしていないのだが。それに俺一応柱なんですけど……?悲鳴嶼さんの心の目には一体何が見えているのだろうか。

だが悲鳴嶼さんが見たかったのは、俺の体の錬成具合では無かったと後で分かったわけだが。

 

それから連携の確認を行い、お館様の事を相談することにした。俺は原作で知っているが、まだお館様から悲鳴嶼さんには相談されていないようだ。

 

「お館様が、どうかなさったのか?」

悲鳴嶼さんが何かを察知して聞いて来る。そうでなくとも日に日に弱ってこられており、みな心配している。俺は、占いを元にした予想だと前置きして、お館様が何か危険なことをなさろうとしていると告げた。

「無惨に本部の位置を気取られたようです。……しかしやはり解せません。鬼殺隊と無惨の戦いは千年に及ぶとのことですが、その間一度として本部、つまり産屋敷邸の位置を悟られたことは無いはずです。内部の者が鬼になったという例外を除いては。それがなぜ今になって」

原作でもはっきりとは明かされていないが、おそらくその理由はこうだ。

「お館様はわざとお屋敷の位置を無惨に悟られるようにした、と?」

悲鳴嶼さんが、信じられぬという様子で呟く。

「お館様は、それを逆手に取ってご自身を囮にして無惨をおびき寄せ、無惨諸共自決なさるおつもりでは……」

俺は核心に踏み込む。悲鳴嶼さんには言わずにいられなかった。何とか悲鳴嶼さんに止めて欲しい、すがる思いだった。

「何だと……!」

悲鳴嶼さんは顔を曇らせて腕を組んで考え込み、そしてふと顔を上げた。

「それはお前の先読み……いや、予知と言った方がよいか、その力が示す未来なのか?」

そう聞いて来た。

悲鳴嶼さん、何故それを?俺は次の言葉が出なくなった。まさか違う世界から来たとは分からないだろうが、普通じゃないのはバレると思ってはいたけど。

 

「私は目が見えぬ代わりに、大勢の人間を心の目で見てきたつもりだ。本質を見ることに関しては普通の人間より優れていると自負している……。お前が普通の人間でないことぐらい気づかぬはずは無かろう?」

お館様の事が心配で渋面だった悲鳴嶼さんは、今は穏やかに微笑んでいる。

「お前は先読みの力を持ちながら、その力を邪心を持って使わない。鬼を滅し、人々を救い、仲間を助ける。……知り過ぎているお前に疑いを抱かなかった訳ではないが、疑いは晴れた。水原倫道。私は、お前を仲間だと認める。背中を預けて戦うに足る、本当の仲間だと」

悲鳴嶼さん。貴方にそう言ってもらえて、俺はすごく嬉しいです。

先ほどの“修練”は、俺が無心になるようにわざとさせた、と?

 

「それに、お前と任務を共にした隊員たちや、胡蝶も言っていた。あの人は信用しても大丈夫だ、とな」

しのぶさんもそんな風に。それにみんな、ありがとう。自分なりにだけど、ずっと頑張ってきたら……こんなに信頼された。俺は、例によって目から鼻水が。

 

「お館様の事だが……もし相談があれば、やめて頂くよう説得はしてみよう。しかしお決めになるのはお館様御自身だ。お館様の頼みとあらば、聞かぬわけにはいくまい……」

悲鳴嶼さんはまた難しい顔になって、嘆息しながら言葉を絞り出す。

確かに。この世界はどうしてこうみんな揃って覚悟が重いのか?

 

「それについては少し考えがあります。俺はこれからお館様にお目通りを願い、まずは何とか思い止まって頂くよう説得してみます」

そう告げて、悲鳴嶼さんの元を辞した。思い止まって頂けなければ、あの事を宇髄さんに改めて相談しよう。お館様、産屋敷家の人々を傷つけずに済むかもしれないあの手を。

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