ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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人物紹介 
緑川駿人(ミドリカワハヤト)…サイコロステーキ先輩。性格はだいぶ治ったがまだ少しひねくれている。覚醒し強くなっている
村田光良(ムラタミツヨシ)…村田さん。覚醒し指揮官としての能力を発揮している。冷静沈着
尾崎東子(オザキハルコ)…母蜘蛛鬼に操られる女性隊員。実は熱血少女。覚醒し殿を努めたり、仲間を護りながら戦う


34話 決意

「ただいま戻りました」

カナヲは訓練から帰り、研究の合間に自室に戻って書物の整理をしているしのぶに帰宅の挨拶をした。しのぶも微笑んで挨拶を返す。

 

「師範の稽古はいつお願いできますか?」

カナヲはまたしのぶに稽古をつけてもらうのを楽しみにしていた。

「カナヲ。今回、私は稽古には参加しません」

しのぶは申し訳無さそうに、しかしきっぱりと言った。

「わ、私は、師範にも稽古をつけて欲しいです」

カナヲがしのぶの機嫌をうかがうように、もじもじとしながらも希望を伝えた。

 

「カナヲもだいぶ自分の気持ちが素直に言えるようになりましたね。良い兆しです。もう良い頃合いでしょう」

しのぶは感慨深げにカナヲに笑いかけ、言葉を継いだ。

 

「カナヲには話しておきましょう。姉の仇、その鬼の殺し方を。そして私の決意を。もし姉の仇、上弦ノ弐・童磨と会敵し、私とカナヲで戦うことができたら、勝利の条件として私は鬼に喰われて死ななければなりません」

しのぶは平然と語る。

 

「何故ですか?童磨の戦い方や血鬼術も先日の講義で聞きました。一緒に戦えば、勝てる……」

激しく動揺しながらも必死に訴えるカナヲ。

「そのような考えは今すぐ捨てなさい。上弦の強さは少なくとも柱3人分。相手の戦術が分かったところで勝てる保証はありません。そのような甘い考えでは、ヤツには傷一つ負わせられない」

しのぶの表情や口調は変わらない。しかしその強い言葉が決意の固さを物語る。静かな迫力にビクリと体を硬直させるカナヲ。

 

「複数の柱たちと共闘できれば正攻法でも倒せるかもしれませんが、そう上手く行くとは限りません。しかし童磨というあの鬼は、女を喰うことに異常に執着するそうです。女で、柱となれば必ず喰らおうとするでしょう。だからこの体を毒の塊とし、望み通りヤツに喰わせるのです。現在私の体は、頭から足の爪先まで、髪の1本から手足の爪に至るまで藤の花の毒が回っています。1年以上藤の花の毒を摂取し続けて、やっとこの状態になりました。水原さんによれば私と童磨が交戦するのは確定事項らしいので、他人を当てにするより自分で何とかしなければいけないのですよ」

 

「わ、私も今から……」

何とかしのぶの役に立ちたい。そんな思いでカナヲも慌てて言いかける。

しのぶは首を横に振る。

「決戦には間に合わない。それにこんな事をするのは私1人で十分です。今後体にどんな影響が出るかも分からないし、童磨に通用するのかどうかさえ分からないけど……。私の刀で打ち込める毒の量は1回50グラム。でも上手く行けば、私の体重37キロ分、およそ700倍の毒を投与できる」

 

(嫌だ。師範の死を前提に勝つなんて、嫌だ)

カナヲの体が震え始め、引き攣ったように上手く呼吸ができなくなる。カナヲは涙を流して泣きたかったが、冷や汗が流れるばかりで泣けなかった。カナエが死んだあの時と同じだった。

 

「童磨が私を喰って毒が効き始めても、それで死ぬとは限らない。だから、カナヲが必ず頸を刎ねて止めを刺してね。それに、これは最後の手段。水原さんが全力で手伝ってくれるそうですから。これを使わずに勝てれば良いけれど」

しのぶは体を震わせているカナヲを優しく抱きしめた。数分間そうしていたが、カナヲが落ち着きを取り戻したのを確認し、頭を撫でてから体を離した。

 

「私が稽古をつけないのは時間が無いというだけではないのですよ。カナヲは改めて水原さんに稽古をつけてもらうと良いでしょう。あの人は、身内や親しい人は誰も殺されていないそうです。ただ理不尽に人の命を奪うものが許せないんだとか」

しのぶは座りなおして、いつものように穏やかな微笑みをカナヲに向けた。

 

「あの人は、鬼殺隊員の在りようを“護りし者”と言っていました。人々を護る、それが本分なのだと。……私にはその発想はできません。私はカナエ姉さんの真似をしてはいますが、復讐のために刀を振るっていると言われても否定はできません。残念だけど、カナヲを導くのはそんな私じゃない。カナヲには誰かを、自分自身を護るために刀を振るって欲しい。鬼の居なくなった世界でお婆ちゃんになるまで生き抜いて、笑顔で天寿を全うして欲しい。姉さんの最後の言葉でもあるの」

しのぶはカナヲをもう一度抱きしめ、研究室に戻って行った。

 

(なんだか水原さんの正論過ぎるお説教が移っちゃいましたね。“生きろ”なんて、今度は私がカナヲに向かって同じことを言ってる)

しのぶは自分でも可笑しくなり、クスリと小さく笑いを漏らした。

 

 

「おい、てめえ!稽古つけろ!今度は負けねえからな!」

ここのところ倫道は、柱稽古を義勇に任せて蝶屋敷に入り浸ってる。研究の総仕上げと、しのぶからカナヲにも稽古をつけてくれと頼まれているからだ。悲鳴嶼の岩柱稽古が終わったばかりだが、たまたま蝶屋敷に怪我の治療にやって来た伊之助が倫道を見かけ、稽古をつけろとさっきから追いかけ回しているのだった。

倫道は伊之助も一緒に童磨と戦うことを思い出し、

「伊之助君、それじゃカナヲちゃんも一緒に稽古しようか」

倫道はそう言って伊之助をカナヲとの稽古に巻き込み、手合わせだけでなく、伊之助、カナヲとの連携訓練もみっちりと行って童磨戦に向けての対策を十分に練った。

 

 

 

 

 

俺はお館様にお目通りを願い出ていたが何度も断られ、どうしてもとお願いして短時間だけの面会がやっと本日許された。

 

お館様は、もう起き上がることすらできない状態で、ただれたお顔だけでなく、体中に包帯を巻いておられる。申し訳ない気持ちでいっぱいであったが、あの事を何とか思い止まって頂きたかった。

「倫道……。やはり、来たね。まだ誰にも言ってはいないはずなのだが……。君は私が何をするのかも……知っているのだろう?でも、止めても……無駄だよ」

俺が会いに来た理由もお見通しなのか。二十三歳の若さでこの覚悟は。でもやはり止めなければ。自分を囮にして無惨を呼び寄せ、屋敷や家族諸共自爆するなど。

「私は……、駒の一つに過ぎない。……それに、私はこんな風にしか……戦えない……。本当に済まない……。みんなを残して……先に逝くこと、許して欲しい」

お館様はそう言って、それでも薄っすらと微笑みを浮かべておられる。話をするのも大変な状態だというのに。

 

ずるいです、お館様。ご自身は病気で辛くて苦しくていらっしゃるのに、そしてご自分の命を投げうって無惨討滅に繋げようとなさっているのに。それなのに、何故微笑んでおられるのですか?

許して欲しい。貴方にそんな風に言われたら、黙ってうなずくしかないじゃないですか。

俺はお館様の決意が固いことを改めて知る。だめだ、もう目から鼻水が。

 

「お館様……」

堪え切れず、俺はずずっと鼻をすすった。

 

「お館様の決意の程、分かりました。ではせめて、より大きな傷害を無惨に与えられるようにお手伝いをいたしたく存じます」

俺にできる精一杯、小細工にしかならないけど。爆発物に関しての専門知識のある宇髄さんにも協力を取り付けてある件だ。

 

「ああ、分かった。ありがとう……頼むよ。行冥には明日相談する」

お館様は、俺が何をするのかはやはり見通しておられるのだろう。

爆発の衝撃波の方向を緻密に計算した上で無惨を誘導し、無惨のみに大ダメージを与えるようコントロールする。無論100パーセント上手くいくとは限らない。宇髄さんを信用して無い訳ではないが、原作通り爆死する可能性だってあるのだ。

自爆を隠し通すため、原作通りお屋敷には奥様のあまね様、お嬢様のひなき様、にちか様もいらっしゃるのだろう。せめて3人を巻き込まないようにし、そしてお館様も助ける。

 

地下に避難路を作り、爆発の直後に俺が案内して避難させる。それと、珠世さんが無惨に直接薬を打ち込むのではなく、遠くから撃ち込んではどうかと考えていた。そして、俺の頭の中にはそれを可能にする人物が浮かんでいる。

それなら珠世さんも救える。珠世さん、悲鳴嶼さんと綿密な打ち合わせをして、何としても成功させよう。

 

 

 

 

俺は柱稽古の合間を縫って、近くの甘味処に村田、緑川、尾崎の“チーム倫道”の3人を誘い、息抜きも兼ねて決起集会を開こうとしていた。3人とも柱稽古最終の岩柱・悲鳴嶼さんまで辿り着いているのだ。えらいぞ!

 

「村田さん、ハヤト、ハルちゃん久しぶり」

俺が声をかけると、

「これから景気づけなのに甘味?好きだねえ」

緑川君にからかわれたが、いいじゃないか、甘いものが好きなんだから。それに酒飲むような雰囲気じゃないだろ?まじめな話もするしな。

合同任務からかなり経って、みんな成長し活躍している。村田さんは剣技もさることながら、強い者も弱い者もそれぞれの配置で生かす優れた指揮官となっており、50人程度の大きな部隊編成でも十分にその統率力を発揮していた。

緑川君は最前線で斬り込み隊長として、尾崎さんは防衛任務や撤退戦における味方の被害を抑える役割で、それぞれ活躍していた。

 

「近々最終決戦が起きる。みんなで頑張って、鬼のいない夜明けを迎えるぞ!」

俺は3人に宣言する。

「でも俺たち役に立つのか?情けないけど、お前ほど強くないし」

村田さんが言う。

「いざとなったら、俺が倫道さんの盾になるよ」

緑川君が冗談めかして言うが、これは原作で実際に起こっていたので、彼も本気なのだろう。

「あっあたしも!」

尾崎さんも言う。

「上弦とか、そんな強い敵を倒せるとは思わないですけど、盾になる位なら」

尾崎さん、にっこり笑って言うセリフじゃないぞ。軽いな、命が。でも彼らは本当に真剣なのだ。俺は自然と苦い表情になる。

 

「他人の為に死ぬのは尊いことかもしれないけど、それに酔っちゃダメだ。それに柱が一般隊員に護ってもらうわけにはいかんでしょ。俺だけじゃない、柱はみんなそう思ってるよ」

真顔になって、偽りない気持ちを告げる。

 

「だから柱じゃなくて、倫道さんを護るんだよ!当たり前だろ」

照れ隠しなのか、緑川君がぶっきらぼうに言う。

 

そんな。あたしの為にそんな。そんなにあたしのことを想ってくれてたなんて。

「そ、それはひょっとして告白!?」

俺は目をキラッキラさせて両手を胸の前で組み、乙女のポーズをすると、

「キモっ!そういう意味じゃねえよ!でも、俺たちは本気で護ろうと思ってんだぜ」

緑川君が照れながら言う。

すごく嬉しいが、本気ならなお良くないよ。俺は今度こそまじめに語る。

 

「ありがとな。でも、もしも俺の為にみんなが死んだら、俺はとてもとても悲しいよ。もし本当にそうなってしまったら、俺はみんなのお父様やお母様に何と言って詫びればいいんだ?ご存命でも、亡くなっていても関係ないよ」

親のことまで持ち出して諫めると、さすがに押し黙る緑川君と尾崎さん。村田さんもうなずく。

 

そう言いながら、俺は密かに思い出す。遠征任務にこの3人を連れて行こうと思った時のこと。

 

俺は、君たちに好かれて良いような人間じゃない。罪悪感がこみ上げる。

 

君たちを目覚めさせたのも、那田蜘蛛山で人的被害を抑えることが目的だった。悪い言い方をすれば、駒として使おうとした。君たち自身の生存を、最初からそこまで強く思ってた訳じゃない。それなのに君たちは、俺の打算も知らずにどんどん力を付けて、今では一般隊員の中では名前を知らない者はいないくらい強くなって。

ついには俺を護るなんて言ってくれて。

 

俺を護るだぁ?うう……。2万年早えわバカたれが。鼻の奥のほうがツンとしてくるけど泣いてないぞ。全然泣いてない。泣きたくなるほど嬉しいけど、だけどその気持ちだけは確かに受け取った。

 

気持ちは受け取ったから、せっかく身に着けたその力は俺のためじゃなく、自分自身を護るために使って欲しい。自分の命を犠牲になんて思わないで欲しい。

もう俺の中で君たちは、原作における単なるモブキャラではなくて、大事な仲間なんだよ。

 

すっかりしんみりした雰囲気になってしまったが、

「さあみんな、せっかくだから評判のあんみつ食べようぜ!緑川のやつ、岩柱様のところでずっと甘いモン食いてえ、って言ってたんだ」

村田さんが明るく言う。

「村田さん、そればらすなよ!倫道さんのこと言えなくなるじゃねえか」

緑川君も気を遣ってか、わざと大げさに怒ったふりをしてくれた。

そうだな、俺がしけた顔していても始まらない。俺の思惑がどうあれ、力を付けたことで3人はここまで無事に生き残っている。

 

「みんなで生きて帰ろう。命令は3つ!」

「倫道さん、だから4つだって」

俺のしょうもないボケに緑川君のツッコミ。いつもの俺たちだ。

では最後に俺から締めの挨拶を。

「俺たちは人々の命を、その幸せを護る。そしてあくまで品行方正、清廉潔白、純粋無垢、みんなの模範となるようなまじめで明るく優しくて穏やか、責任感が強く……」

「ウザッ」「うざいっす」「ちょっとうざい……です」

村田、緑川、尾崎。あのね、君たち。

 

うざいとは何事だ、うざいとは!リーダーがありがたい訓示を垂れているというのに。

こうしていつもの掛け合いをして笑い、雑談をした後決起集会はお開きになった。

 

店を出ると、そばにある2階ほどの高さの立ち木から怪しい気配がする。新しい上弦ノ肆・鳴女が放った目玉の卑妖だ。俺はそいつに向かってぴたりと指をさした。

「?」

店を出ていきなり動きを止め、あらぬ方向を指さす俺を不審がる3人。

「どうかしたんですか?」

尾崎さんが聞く。

「いるんだよ、あそこに。無惨の手下が俺たちを見張ってやがる。みんなもガン飛ばしてやれ」

俺たちはおぼろげに見える卑妖を睨みつける。それを通して見ているかもしれない無惨をも睨みつける。

 

見ているか無惨。もうすぐだ。何としてもお前を滅ぼす。

もうすぐ俺たちの決意を見せてやろう。

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