ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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36話 開戦

たしかに産屋敷の2人の娘は無惨の近くにいた。そして耀哉とあまねもほんの数メートルのところにいたが、爆風の方向が違った。爆発による衝撃波と熱風は、畳1枚ほどの大きさで座敷から庭の方向に発生するよう限定されており、唯一その射線上に居た無惨に集中した。爆薬が取り付けられた畳は防護壁となって耀哉とあまねを護り、無惨は屋敷の外まで吹き飛ばされた上、全身の半分ほどをまだらに抉り取られ、残った部分も黒く焼け焦げていた。爆風の方向にある庭の土は抉れ、石灯籠も粉々になって吹き飛び、屋敷の塀と外の木立も10メートル程消し飛んでいた。

 

(何か仕掛けて来るとは思っていたが、これ程とは!……産屋敷、あの男を誤解していた。ニヤニヤと薄気味の悪い笑顔の仮面の下で、このような大それたことを考えていたとは。自分自身どころか家族を巻き込んでまで私を殺そうとするとは……!狂っている!正気の沙汰ではない!)

体は損傷が激しかったが急速に再生修復を進め、無惨はよろめきながら立ち上がった。だがこの間に、どこからか現れた倫道が庭にいたひなき、にちか姉妹とあまねを促し、耀哉を横抱きにして床下の隠し通路を目指して駆け込む光景を目にしていた。

 

(あの至近距離に居ながら何故やつらは無事なのだ?それにあの男は!)

 

水原倫道。直接手を下すことは少ないが、こちらの動きを見透かしたように手を打ってくる得体の知れない男。

 

(この男の策か!この爆破も最初から計算ずくで……!私がこの屋敷に来るように仕向け、爆発に巻き込んだというのか。気に入らん!)

 

そして爆風が収まると、肉の種子が周囲に漂って来るのが分かった。種子からは大小様々な大きさの棘が飛び出し、無惨を串刺しにした。棘は体内でさらに細かく枝分かれし、無惨は身動きが取れなくなった。

(これは血鬼術!?誰のものだ?しかし問題ない、吸収してしまえば良い)

無惨がそう思った時だった。重い銃声が響き、玄弥の放った薬入りの銃弾が無惨の胸に命中して食い込み、薬が体内に入った。

 

上手く命中したらこの1発のみ。もし外した場合はもう1発空砲を撃つ。そう決めてあった。

(もしも外したら俺が行く!)

そう思っていたが、倫道は銃声を聞いてヤシマ作戦の成功を確信し、耀哉たちの退避を進めた。

 

(こんな時に銃撃か!小賢しい)

普段ならば銃撃など受けたところで何の問題もないが、今この場面で続けて受ければ多少再生が遅れてしまう、無惨は危惧したが銃撃はこれ1発だった。しかし撃ち込まれた弾には何かが入っていた。

(何だこれは)

無惨は不審に思いつつも吸収してしまう。例え何か害のあるものだとしても、すぐに分解できるはず、そう思っていた。

 

その時何者かの腕が、無惨の修復中の体に突き込まれた。

「お前は!」

無惨はそれすらも、その手に握られていた何かとともに容易く吸収するが、その方向に目を向けて驚愕した。そこにいたのは目くらましの術を使って接近した珠世であった。

「珠世!何故お前がここに……!何をした?」

再生が進んでいるとは言え、体の半分を吹き飛ばされ棘で固定されている。それに加え人間が、おそらく柱たちが集まって来る気配がしている。早く完全に体を修復して迎え撃たねばならないが、この緊急時にまで執念深い女狐があくまで邪魔をしてくる。

 

無惨は怒り、珠世を一息に殺そうとする。

「……私の拳を吸収しましたね!?この手に握っていたのは何だと思いますか?私が持っていたのは、“鬼を人間に戻す薬”ですよ!効いて来ましたか?」

珠世は驚くべき事を口にし、憎々しい不敵な笑みを浮かべている。

「鬼を人間に戻す薬だと?そんな物ができるはずがない!」

自分をずっと付け狙う珠世にいらだちを募らせる無惨。

「それが、できたのですよ!私1人ではなく、みなの力で!この時を……どんなに待ったことか!今日こそお前を……地獄へ……!」

「お前もしつこい女だな珠世!お前の夫と子供を喰い殺したのはお前自身ではないか。逆恨みも甚だしい。迷惑千万とはこのことだ!」

無惨はわざと止めを刺さず、いたぶるように珠世の頭を掴んで締め付ける。珠世の頭蓋骨がミシミシと音を立てた。

「夫とわが子を喰い殺しただけでは飽き足らず、大勢の人間を楽しそうに喰らっていたな?そのお前が、よくも私のことが言えたものだな」

「そうだ、私は大勢の人を殺した……。その罪を償うために、お前を殺して道連れにしてやる!お前も私と共に、今日ここで地獄に堕ちろ!!」

無惨の嘲りに、珠世は絶叫した。

 

 

(珠世さん!!何でここに!打ち合わせと違うじゃないですか!)

倫道はこの光景に呆然とする。これでは珠世の命が保証できない。

 

 

 

(宇髄さん!どうですか、爆破大作戦上手く行きましたよ!見ものでしたよ、ズタボロになって悔しがるあの無惨の顔!いい気味だぜ!それに玄弥君もさすがの腕前、ヤシマ作戦も成功だ!)

先制攻撃としてはこれ以上ないほど上手くいった。倫道は心の内でガッツポーズしながら耀哉たちを退避させ、待機していた隠隊員に預けてこの場に戻って来た。そして目にしたのは、原作通りの無惨と、腕を吸収された珠世の姿。

倫道は驚き、軽くパニックになっていた。事前の打ち合わせでは珠世は前線とは離れたところで待機して救護の指揮を執り、場合によっては応急処置などをするはずだった。しかしこのままでは無惨に吸収され、殺されてしまう。

 

(珠世さん、まさか最初から死ぬつもりだったのか!!)

 

 

 

 

「直接の戦闘力を持たない貴方は、危険なので最前線に出てはダメですよ。まして無惨に近づくなど以ての外です」

珠世が危険を冒して無惨に薬を打ち込む必要が無くなったので、原作通りにならないよう倫道はそう説明して何度も念を押した。

曖昧に微笑む珠世に、

「そうですとも。危険なことはこいつらにやらせておけば良いのです!」

珠世を慕うあまりに愈史郎が思わず本音を口にする。倫道は苦笑し、

「……愈史郎」

低い声で珠世が叱責する。愈史郎は慌てて、冗談です!と直立不動になった。

「本当に、危険なことはしないでください」

倫道は再びお願いした。

「分かりました。私も鬼とはいえ、命は惜しいですから」

大丈夫だ、確かに珠世はそう言っていた。愈史郎と別行動を取ると決めたのはこの後だが、致し方ないと倫道は思っていた。愈史郎には最前線に近いところで働いてもらう必要があった。

 

 

自らの手で復讐ということもある。自らの手で無惨に薬を投与すること。しかしそれ以上に強かった感情。

(鬼となって自我を失ったからとは言え、珠世さんは大勢の人を殺してしまった。その罪の意識に、珠世さんはずっと苛まれ続けてきた。死をもって自らの罪を償う……。その強い感情を過小に評価していた)

 

痛恨の判断ミスだった。倫道は自らの読みの甘さを悔いたが、既に珠世はもう肩まで吸収されており、戦いの中で強引に引き剥がして奪還するのは不可能だった。

 

ただ研究に研究を重ねた対無惨用の薬は、本命も予備も一滴残らず全てが投与された。

もしも玄弥が外した場合に備えて倫道が持っていたはずの予備の薬は、いつの間にか偽物にすり替えられていた。

 

 

 

 

「うおっ?!」

玄弥はやぐらからこの大爆発を見ていた。

(この爆発で、本当にお館様は無事なのか?)

爆煙が少し晴れ、倫道が耀哉たちを連れて逃げるのがちらりと見え、ようやく安心して改めて無惨をスコープに捉えた。そして無惨が棘に固定され身動きができないタイミングで狙撃を敢行し、見事に命中させていた。

 

(よしっ、当てたぜ!後は)

後は、待っていれば強制的に鬼の居城、無限城へ落とされるはずだ。

 

(兄ちゃん、俺も絶対役に立って見せる!)

ガシャ!と銃身を短いものに付け替え、高揚感を抱きつつ玄弥は戦闘開始を待つ。懐には倫道からお守りとして渡された鬼用の回復薬があった。

 

産屋敷邸襲撃の報を聞き、柱たちと炭治郎が急行していた。

 

「悲鳴嶼さん!お願いします!」

愈史郎の血鬼術を使い予め近くに潜んでいた悲鳴嶼は、珠世の合図で巨大な棘付き鉄球を無惨の頭部に叩きつけて粉砕するが、無惨の頭部は見る間に再生し忌々し気に悲鳴嶼を睨んだ。

 

悲鳴嶼は音でそれに気付く。お館様の読み通り、この男は頸を斬り離しても死なない。この男を殺すには太陽の光で焼き殺すしかない。太陽が昇るまで、この場に留めなければならない。

 

「無惨だ!こいつが鬼舞辻無惨だっ!」

悲鳴嶼が叫ぶ。他の柱たちも到着し、悲鳴嶼が対峙している者の正体を知る。

 

柱の一斉攻撃が無惨に襲い掛かるが無惨はニタリと笑う。無惨は鳴女に無限城への転移を命じていた。もちろん無惨自身だけではない。

 

突如、この場にいる全ての者たちの足元に巨大な空間がぽっかりと口を開けた。

地獄――無限城へと続くゲート。

 

鳴女に捕捉されていた隊員、いや倫道が意図的に捕捉させていた有力隊員たちも、鳴女に召喚されて次々に無限城に落とされて行く。この場にいない者も同様に無限城へ落とされていた。

「これで私を追い込んだつもりか?貴様らがこれから行くのは地獄だ!!今宵こそ皆殺しにしてやろう!」

無惨は自らの本拠地である無限城に誘い込み、鬼殺隊の殲滅を狙っていた。

(まんまと自分たちの方から地獄へ落とされに来た)

してやったりの笑みを浮かべる無惨だったが、柱たちは全く慌てていなかった。

(お前こそ俺たちを罠にはめたつもりだろうが、こちらは既に知っていることだ)

(水原の言う通りだな)

想定通りの展開に笑っている者さえいた。

 

「地獄に落ちるのはお前の方だ無惨!今日こそは逃がさない!絶対に倒す!!」

炭治郎が無惨に向かい絶叫する。

「人間風情が。できるものならやってみろ、竈門炭治郎!」

無惨は余裕の薄ら笑いを浮かべて言い返し、無限城へと落ちて行った。

 

 

ついに迎えた最終決戦。みなその覚悟はできていた。

 

 

「マスカラス!俺から離れるな!」

「リンドー!」

1人と1羽も遅れまいと空間転移のゲートに飛びこんで行く。他のカラスたちも主の後を追って次々と異空間へとダイブして行った。

 

 

愈史郎の血鬼術“目”。その力を宿した札を身に付けると、札を身に付けた者同士で視覚の共有が可能となり、札を身に付けた者以外からは姿が見えなくなるなど様々な効果を持つ。愈史郎は珠世からの願いで、鬼殺隊を援護すべくこの力を作戦本部に与え、全く不本意ながら珠世と別行動を取ることになった。

 

本部の人員は、総司令官・新しいお館様である八歳の産屋敷輝利哉、サポートのくいな、かなた姉妹と作戦参謀の村田。愈史郎本人は無限城へと潜入し、カラスや隊員たちにこの札を与えて伝達網を敷き、更に実際の怪我も鬼の力による怪我も、両方に対応する従軍医官として働く手筈になっていた。

 

倫道は、壁を斜めに走って落下の衝撃を緩和し、猫のように着地した。

すぐさま潜入させていた音式神・茜鷹を機動、上弦ノ肆・鳴女の位置を捕捉しにかかった。

 

また倫道は岩紅獅子、白練大猿、消炭鴉を全て機動。鳴女にマーカーを付け、大役を終えた茜鷹もこの場に還る。

 

倫道は集結した音式神たちに微笑みかけ、

「みんな、最後の大仕事だ。頼むぞ!マスカラスを護れ。……レイヴン!」

号令とともに、式神たちが全て細かい粒子となってマスカラスの体表面を覆い、その動きを妨げないアーマーとなった。美しく黒いカラスの羽の所々に赤いラインが入り戦闘的なフォルムだ。

「ギャアア!何ジャコリャアア!」

“カラス版ウルトラマンスーツ”に慌てるマスカラス。視界は一瞬暗くなり、すぐに周囲の光景が目で見たようにスクリーンに表示された状態となった。

 

「何かカッコ良くなったな。必殺武器はないけど、これでお前の運動性能と防御力、知覚の機能も格段に上がる。式神がお前を護ると言っただろう?」

倫道は自分が隠れるのに使っていた“目”の札に刀の下緒の紐を解いて通し、邪魔にならぬようたすき掛けにしてマスカラスに掛けた。すると判明している範囲で、無限城の立体的なマップが自身の現在地とともにマスカラスの視界のスクリーンに投影された。

 

「これで本部と視覚の共有ができる。それにこの鎧を着けていれば俺の位置も分かるし脳波で交信できる。お前はカラスたちをまとめて“目”を撒いて情報網を作れ。情報伝達の要になるんだ。“目”をつけて飛び回ってれば本部で城内の見取り図をどんどん詳しくしてくれる。それから、上弦ノ肆・鳴女を捕捉しろ」

 

倫道は麻酔薬が充填された自動注入機能付きの注射器を取り出す。

「発信機が付いてるから特定は容易なはずだ。捕捉したら、近くの隊員と愈史郎君と連携して、ヤツを支配下におく。これを使え。頼むぞ!」

「アタイニ任セトキナ!本当ニオマエハ最後マデ、アタイガイナイト何ニモデキネーナ!」

マスカラスはいつものように、ンガア!と元気いっぱい答える。

「はいはい、いつもすみませんね」

倫道は思わず苦笑した。

「それと……お前も絶対に死ぬなよ!」

腕に留まったマスカラスの頭を撫でる。

マスカラスはじっと倫道を見る。そして、

「オマエモナ、リンドー。オマエガ死ンダラ……アタイハ……」

(どうした、お前が死んだらあたいも生きていけない!か?さすがは相棒。そうかそうか、可愛いやつめ。でも大丈夫だ。長い時離れても、必ず呼び合う絆を運命と呼ぶんだせ)

などとエヴァでまとめた倫道が勝手に絆を感じて胸熱になっていると、

「勝手ニ死ンダラ、地獄マデ行ッテアタイガブッ殺スカラナ!」

マスカラスはまた元気良く言い残し、勢いよく飛び立っていった。

 

(結局殺すんかい……)

倫道は見送りながら微妙な表情を浮かべたが、気を取り直して童磨と戦うしのぶの元へ急いだ。

 

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