ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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37話 仇敵(VS童磨)

しのぶは、無限城内を一人歩いていた。

(これが水原さんの言っていた無限城……。だけど現在位置が全く分からない)

しばらく歩くと目の前に扉が現れ、それを開けると、蓮の花が咲く池の上にいくつもの通路を巡らせたような構造の、天井が高く広い空間が現れた。

 

通路の一角に、血まみれで折り重なるように大勢の人が倒れている。その中で、こちらに背中を向けて座り込んでいる者がいる。

ボリッ、ボリッと硬い物が砕ける音が周囲に響き、しのぶがじっと見ていると、気配を察したのかその者がぐるりとこちらを向いた。

「あれえ、来たの?わあ、女の子だね」

手に持った人間の腕を食べながら、口の周りを血だらけにして愛想良く笑顔を浮かべる鬼。

 

「やあやあはじめまして。俺の名前は童磨。いい夜だねえ。君、名前は何て言うの?」

鬼はわざわざ帽子を取って仰々しく挨拶をしてくる。その頭頂部付近の髪に、血を被ったような紋様が見えた。

これだけの数の人を殺してその遺体を食べながら、楽しそうに朗らかに語り掛けてくる。残虐さと爽やかな笑顔のギャップがこの鬼の異常性を際立たせていた。

 

(童磨、そう名乗った。それに頭には血を被ったような紋様。外見の特徴も一致する。やはり水原さんの言う通りですね)

倫道の講義によって、姉の仇は上弦ノ弐・童磨という鬼であると分かった。武器や戦術も詳細に解説を受け、珠世と倫道の協力の元、新たな発想で今までにない特別な毒も新たに作ってある。

何より1年以上かけて藤の毒を摂取し続け、自分の体を毒の塊にしてある。

倫道には思い止まるように言われていた。涙ながらに何度も何度も深く頭を下げられていた。あまりの真剣さにその時は決意が揺らがぬではなかったが、いざとなれば捨て石となって自分を喰わせて弱らせ、他の人に、できればカナヲに頸を斬らせる覚悟であった。

そして新たな技を身につけ、頸が斬れるようになった。

 

ようやく巡り合えた姉の仇。たった一人の肉親を奪った敵が目の前にいる。

湧き上がる憎悪が、殺意が抑えられなかった。激しい感情によって一瞬でアドレナリンが奔騰し、自分の心臓の鼓動が聞こえるような気さえする。

 

「私は鬼殺隊 蟲柱・胡蝶しのぶ。お前が童磨か!」

しのぶは、常に顔面に貼り付けている笑顔を取り去り、近づきながら名乗る。

「おや、どうしたんだい?そんなに険しい顔をして。何か辛いことがあるなら聞いてあげよう。さあ話してごらん」

優しく語りかける童磨。

「辛いも何もあるものか。私の姉を殺したのはお前だな?この羽織に見覚えはないか!」

憤怒のあまりしのぶの表情が歪み、噛みつくように言い放つ。

「あっ!あの花の呼吸の女の子かな?朝日が昇って食べ損ねた子だね。救ってあげられなくて申し訳なかった――」

童磨が言い終わるより早く、

「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞・真靡き!」

しのぶの瞬息の突き技が決まる。童磨は反応したが止められず、左の眼球から後頭部へとしのぶの剣が貫通する。

「速いなあ!止められなかったよ。でも」

童磨はにっこり微笑んでその傷を指で撫で、見る間に塞いでしまった。

「突き技じゃ鬼は殺せないよ。やっぱり頸を斬らないと」

トントンと手にした鉄扇で自分の頸を叩いて見せた。しのぶは鞘に納めた日輪刀の柄を回して第一の毒を用意する。

 

「突きでは殺せませんが、毒ならどうです?」

またしても鋭い突きが決まり、しのぶの剣から毒が注入される。

(これで、この毒が上弦に効くかどうかがはっきりする。効いたか?)

童磨の顔色が見る間にドス黒く変色し、ぐはっ、と血を吐いて膝から崩れたが、数秒後には顔を上げしのぶを見てニヤリと笑った。顔色が部分的に戻り始めていた。

「あれえ?毒、分解できちゃったよ。ごめんねえ」

わざとらしく語りかけ、童磨は何事も無かったように立ち上がる。顔色は既に元通りになっていた。

 

「遊ぼうよ、しのぶちゃん!」

童磨は薄ら笑いを浮かべながら鋭い刃の付いた鉄扇を振り、しのぶに斬りかかった。

「血鬼術・粉凍り」

しかしその攻撃の本体は、凍らせた自らの血を斬撃に見せかけてまき散らすことだ。

しのぶは前掛りにならず、すぐにバックステップで距離を取った。

 

(凍った血を霧状に散布する技……。これを吸い込めば肺が凍って呼吸が使えなくなるんでしたね。水原さん、助かりました)

普通の冷気を吸入しただけなら肺胞が壊死することはあり得ない。口や鼻から肺に至る気道の粘膜が空気を加湿、加温するからだ。だが、この血鬼術の恐ろしさは、その粒子がごく小さいことにあった。その直径はPM2.5と同程度。このため極低温のまま気管、気管支を通過して肺胞まで到達し、肺胞壁に付着して壊死を引き起こすのだ。

(冷気を吸わない?本能的に避けているのかな。試してみようかな?)

童磨は血鬼術・粉凍りを連続で繰り出し、鉄扇で斬りかかりながら冷気を吹き付ける。

しのぶはバックステップで距離を取るが、童磨は自身の周囲に極低温微粒子を纏わせているためじりじりと追い詰められてしまう。いかにしのぶの突き技が早くてもうかつには仕掛けられなくなった。

 

ダァン!と扉が蹴破られた。

「空波山!」

続けて放たれた2条の真空の刃がスッパリと童磨の両腕を切り落とす。

「しのぶさん!遅くなりました!」

倫道が現れた。特殊フィルターの付いたマフラーで口と鼻を覆い、しのぶにもマフラーを投げた。

「あら、おしゃれですね!」

しのぶもマフラーを鼻と口に巻き笑顔を見せる。

「しのぶさん、毒は?」

「これから試します。冷気が厄介でなかなか近づけませんね。援護をお願いしてもよろしいですか?」

「むぉちろん!」

原作でもどうしても避けたかったしのぶの死。この世界では絶対に護る。助太刀して仇討ちを完遂する。倫道は、寒さで口が回らなくなるのを感じながら気合を入れ直した。

 

 

 

 

俺は無限城そのもの、壁、床、天井、あらゆる所、刀で触れるものすべてをめちゃくちゃに斬りまくって破壊しながら、城内を飛ぶカラスと輝利哉様たちの道案内でようやく童磨の部屋にたどり着いた。扉を蹴破って飛び込むと、そこではしのぶさんと童磨が既に交戦中であった。

「空破山!」

童磨の吹き散らす冷気のせいで真空波の軌道が良く分かる。新しく身に着けた鎌鼬の上位互換の技で、スピード、威力共に段違いだ。一瞬で童磨の両腕を切り落とす。本当は雲体風身とか色々な闘仙術を身に付けたかったのだが、日本には仙人が見つからなかったので断念したのだ。空破山とその派生技は剣技と言えば剣技なので、何とか独力で身に付けられた。

 

「へえ、また来たの。今度は男の子だね。君の名前も聞いておこうか」

童磨は瞬時に腕を再生、その手には既に鉄扇を持っている。

しかし寒い!気温差に、顔が、口がかじかんで上手く喋れない。

 

決めセリフを言おうとして、

「お、おにに、なぬぉる、ななどぬぁい(訳 鬼に名乗る名などない!)……」

あ、あれ?

「……?」

怪訝そうな顔をする童磨。

 

だめだ。全然口が回らないので仕方ない。

「みずはらりんどうだ」

つっかえながら、諦めて結局名乗る。

「水原……倫道……?ああ、君があのお方がおっしゃっていた得体の知れない人だね。そんな風には見えないけど。せっかくだから少し話をしようよ。鬼殺隊って、鬼と見れば斬りかかってくるような人ばかりだったからね」

それにしてもこの童磨というやつ、鬼だから顔色は悪いんだけど、本当に爽やかというか、悪い奴には見えない。まあいかにも悪者という外見じゃないところが怖いんだが。

 

 

 

 

 

扉が勢いよく開き、カナヲが戦場に飛び込んで来た。

「師範!」

心配そうにしのぶに呼びかけ、無傷でいるのを確認して安堵していた。そして、同じくマフラーで口と鼻を覆い、対峙している鬼を見る。

(童磨だ。師範が童磨と対峙している!)

「どおりゃアアア!天空より出でし伊之助様のお通りじゃアアア!」

そしてまた1人、天井をぶち破って伊之助が落ちて来た。

 

「みんな、分かってるな!」

倫道は確認のため呼びかける。

「分かってるっつーの!冷気を吸い込むなってんだろ?だけど俺様は遠間からでも――」

伊之助はいきなり童磨に突っかかる。

「斬れるんだぜ!」

走りながら肩、肘の関節を外し、通常なら到底届かない遠い間合いから鞭のように腕を振った。

「獣の呼吸 玖ノ牙・伸うねり裂き!」

童磨は顔面にまともに斬撃を食らい、驚いて後退する。伊之助はさらに二撃目、三撃目を加えようと腕をしならせて迫るが頸には届かず、童磨は浅い傷を負っただけであった。

「あはは、面白いねえ君!めちゃくちゃだけど、俺に手傷を負わせるなんて」

「ちっ、浅えか」

残念がる伊之助。

「舐めてかかるなよ!」

倫道は改めて警戒を呼びかける。一太刀浴びせた程度では、上弦は小揺るぎもしないのだ。

「やっぱり被り物かあ。なかなか年季入ってるなあ、これ」

すうっと大気の揺らぎも見せず、童磨がいつの間にか伊之助の被り物を取り上げる。

 

「てめえっ!俺の猪頭返しやがれ!」

被り物を取られた事に気付き、伊之助が斬りかかり、カウンターを防ぐため倫道も動く。

しのぶも隙を伺う。童磨は伊之助の斬撃を躱しながら鉄扇で斬りつけるが、倫道がこれを防ぐ。カナヲがさらに斬りかかり、倫道が隙を見て猪頭を取り返し、伊之助に放った。

 

「あれえ、君の顔、どこかで見た気がするなあ……。どこだったかな?」

童磨は攻撃を捌きながら余裕を崩さない。

 

「しのぶさん!俺たちが撹乱するから毒を!」

倫道はしのぶに叫ぶ。しのぶは第二の毒を装填し、倫道、カナヲ、伊之助が次々に斬りかかる隙を見て毒を打ち込んで行く。

(さっきの毒と種類を変えて来たか。無駄だと思うけど)

童磨は、打ち込まれたのが先ほどとは違う毒だと悟るが、即座に分解してしまった。

「うーんこれも駄目みたいだね」

童磨は即座に分解できたことで、また余裕の笑みを浮かべる。

「水原さん!これは効きませんよ!」

「いいからどんどん打ち込んで!」

しのぶと倫道は言い合い、しのぶはちっと舌打ちしてまた距離を取った。

「それは効かないみたいだから、調合を変えた方が良いんじゃない?」

笑いながら斬りかかる童磨。鉄扇を振るう度に粉凍りがまき散らされ厄介この上ないが、倫道は連撃の機会を狙う。

倫道は目でしのぶに合図して連撃の準備を促し、童磨にショートレンジでの斬り合いを挑む。

童磨の鉄扇の連撃を全て切り返し、カウンターの斬撃を入れてふらつかせ、離脱と同時にしのぶが連撃を入れた。

「5連撃、これならどうだ!」

倫道が童磨に向かって叫ぶが、

「毒を喰らうのって面白いね!癖になりそう!次のは効くかもしれないよ、やってみようよ!」

童磨は満面の笑みを返す。

 

「頑張れ!君たち!」

童磨はダメージを受けるどころか、さも愉快と言わんばかりに爽やかに笑いながら冷気を吹き散らし、倫道たちの頭上に巨大なつららを出現させるなど、多彩で強力な氷の血鬼術を徐々に展開し始めた。

肺がやられるのを警戒し、4人はヒットアンドアウェイの戦法を崩さず距離を保つ。跳ぶように移動し、全力で刀を振りながらも4人は連携を取り、しのぶの突きに繋げていく。見事な連携だがそれども童磨を一気に崩すことはできない。両手の鉄扇は斬撃だけでなく防御にも優れ、殊に頸の防御は完璧であった。その攻防一体の動きと氷の血鬼術の広い間合いに倫道たちは攻めあぐねていた。

 

(殺すのはある程度技を出させてからだ。情報は有益だからね。それにしても俺の能力や血鬼術の情報まで伝わっているようだ。冷気を吸い込むなと言ってたし……どういう事だ?あのお方のおっしゃるように、この男が何らかの手段で情報を得ているのかな?)

童磨も情報を引き出すつもりなのか一気に攻勢をかけては来ない。倫道、カナヲ、伊之助が代わる代わる、または同時に斬り込み、隙を見てしのぶが突き技で毒を注入するフォーメーションだが、しのぶは頸が斬れない事を童磨は見抜いており、さらに毒もすぐに分解にできるため脅威とは感じておらず、突き技に特に注意も払っていなかった。

 

倫道としのぶは毒が全く効かないことに焦りの色を見せながらも、なおも第二の毒を打ちこみ続けていた。

「さっきから100発は打ってるが、毒が効いてねえじゃねえか!これじゃ埒が明かねえ!」

チームプレーに徹していた伊之助も焦れて叫ぶ。

「伊之助君、焦らないで!3人はこのまま隙を作ってください。私はもっと毒を刺しますから!」

しのぶが必死の形相で呼びかける。

 

「ごめんねえ、毒はもう分解できちゃったよ。でも、えらい!君たちは頑張ったよ!無駄だというのに、毒なんか効かないと分かっているのに命懸けで戦い続けるなんて。何というひたむきさ!何という愚かさ!これが人間の素晴らしさなんだよ!」

童磨は目を閉じて語る。

「君たちは、俺に喰われるのにふさわしい。俺の一部となり、共に永遠に生きよう」

自分の言葉に陶酔するようにさらに言った。

 

「ごちゃくそうるせえよ!てめえになんぞに喰われてたまるか!」

伊之助は怒鳴り返した。

童磨の芝居がかった動きがふと止まり伊之助を凝視。

「そうだ、君はやっぱり見た事あるよ。うーん、どこだったかな?」

童磨は指を頭に刺し、血が噴き出すのも構わず脳をぐちゃぐちゃと弄って記憶を探り出した。

その気持ちの悪さに、激しい憎悪をたぎらせるしのぶさえもげんなりする。

「そうだ、琴葉って言ったな。赤ん坊を連れて逃げて来て、教団で匿ったんだ。伊之助っていつも呼びかけていて、指きりげんまんの歌ばっかり歌ってね。喰わないつもりだったけど、俺が信者を喰ってるのがばれちゃった。追いかけたら、崖の上から川に赤ん坊を落として……。死んだと思ったけど、生きてたんだね」

 

蘇る伊之助の記憶。母は自分を捨てたのではなく、人喰い鬼から必死に逃がしたのだ。

そしてこいつが母を殺した。

いつもぼんやりと脳裏にあった女性の顔。しのぶだと思っていたが、そうではなかった。伊之助は口の端を吊り上げ、表情だけで笑った。

 

 

「おいゴミクソ野郎。礼を言うぜ、思い出させてくれたこと、教えてくれたこと。まさか親の仇が目の前にいたとはなあ。てめえは必ず地獄に落とす」

激しい怒りを抑え、一転して静かな口調となり刀で童磨を指し示し挑発する。

こいつはしのぶの姉の仇と聞いていてたが、自分の母の仇でもあった。

「天国とか地獄なんて無いんだよ。それはかわいそうな人間が作り出した空想の産物なんだよ」

童磨は憐れむように、一段と優し気な微笑みを向ける。

 

「生憎だな、地獄ってのは本当にあるんだぜ」

伊之助が怒りをたぎらせながら、なおも冷静な口調で語る。

「そうか、君は言葉も覚えたけど間違ったことも覚えてしまったんだね。もう一度言うけど、そんなものは本当は無いんだよ。悪い人間は地獄に落ちる、そうでも思わないとやってられないでしょ?人間ってつくづく……」

童磨は笑顔を崩さず言いかけるが、

「知らねえのも無理はねえ……。だが喜べ」

伊之助は2刀を構え、猪頭の下で凶暴な笑みを浮かべる。

「てめえのために俺が作ってやるぜ!てめえが今から味わうのが地獄だ!!」

伊之助が再び激しい感情を乗せて叫んだ。

 

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