猗窩座を撃破した俺たち4人。勝利の余韻に浸り喜びを分かち合いたいところだったが、まだ難敵が残っている。
「3人は一般隊員を保護しながら無惨を探してくれ。俺は別方向から他の隊員と合流する!」
俺は黒死牟戦に参戦するため、そう言って炭治郎君たち3人と分かれてまた別方向へ走りだす。3人には、一般隊員とともに城内にあふれる有象無象の雑魚鬼(それでも下弦なみの力を与えられていると原作に出ていた)の掃討をお願いしよう。
マスカラス、鳴女の転移使えるか?上弦ノ壱のところへ向かうぞ!
すぐに脳波でマスカラスに呼びかける。
しかし、急ぎたいのにこんな時に限って鳴女の空間転移術が安定しない。一時的にこちらの指示が上手く入力できない状態らしい。
やむを得ん。マスカラス、合流だ!直接道案内を頼むぜ。
マスカラスは本部と視界を共有しているはずなので、脳波の誘導でなく直接のナビゲートの方が迷いがないだろう。
(リンドー!ソノママ進メ!)
俺はまずマスカラスとの合流を目指して走る。
倫道は、マスカラスと合流するため無限城内を走っていた。Wi-Fiの電波の如く城内を飛ぶカラスたちが情報共有の鍵になっている。
鬼殺隊本部では、新たなお館様・産屋敷輝利哉がマスカラスを含むカラスたちからの膨大な視覚情報を収集、処理整理して城内の構造を把握、妹2人に転写させて無限城マップを作成、随時更新していた。これを見せることにより愈史郎の“目”を持つ隊員やカラスたちの視界の片隅には、常に更新される無限城マップがゲーム画面のように表示されるという視覚支援が行われている。鳴女によるこれ以上の無限城自体の操作はもう行われないため、詳細なマップが急速にでき上りつつあったがまだ足りないものがあった。
無惨の現在地の特定。
障害となる上弦を排除しなければならなかったが、残るは上弦ノ壱・黒死牟のみとなった。
(カラスたちも頑張ったな!もちろんお前が一番だろうけど)
倫道は走りながら呼びかけ、分かりやすいヨイショで機嫌をとる。
フフン、と脳波でも得意気なマスカラス。
(当タリ前ダロ!アタイヲ誰ダト思ッテンダヨ!)
(よし、ご褒美は高級住宅街の生ゴミだ!)
(アホカ!モット良イ物ヨコセ!)
脳波でもいつものアホの掛け合いをしながら互いに合流を目指して急ぎ、倫道、マスカラス合流。
猗窩座撃破より少し前、1人で行動していた時透は上弦ノ壱・黒死牟と遭遇していた。
「……来たか、鬼狩り」
(上弦ノ壱!)
時透は重厚な威厳すら漂わせるその存在感に圧倒された。
「何やら懐かしい気配……。お前、名は何という?」
不意に上弦ノ壱が問いかけて来た。
「時透無一郎」
しかし、時透の動揺はわずか一瞬の事。明鏡止水のように冷静な心で上弦ノ壱を見定めようとしていた。
「そうか、絶えたのだな、継国の名は」
意味ありげな呟きにも、もはや時透は全く動じなかった。
事前に分かっていた。この鬼が始まりの剣士だったことも、自分の祖先であることも。
全ては予め倫道から聞かされていた事。
(確かに目が6つあるな。でも倫道、君はあの壺の鬼のこと言えないよ)
威圧されるどころか、時透は講義の時に倫道が描いたド下手なイラストを思い出し、プッと噴き出した。
「お前は、私が継国の家に残してきた子の末裔だ」
黒死牟は穏やかに時透に語りかける。
「霞の呼吸 弐ノ型・八重霞!」
時透はゆったりとした構えから、いきなり仕掛けた。
「霞の呼吸……。良き技だ」
黒死牟は僅かな体捌きで全て躱す。
「十四、五歳か。その若さで良く練られた剣技、私に怯まず笑みさえ零す胆力……。さすがは我が末裔だ」
感慨深げな上弦ノ壱・黒死牟に、
「嫌だなあ、自分から鬼に堕ちた者の子孫だなんて、恥ずかしくてお天道様の下を歩けないな。お前だってそんな先祖がいたら、お天道様の下を……もともと歩けないか、鬼だから」
時透はそう言って、今度は挑発するように鼻で笑う。
「まあ俺とお前には何の関係も無いけどね」
時透の顔に、雲のような痣が浮き出す。
(この因縁にけりをつけるのは俺の役目だ。刺し違えても倒したいけど、俺1人では難しい……。銀子!)
時透のカラス、銀子が救援を求めて飛び出して行った。
「霞の呼吸 漆ノ型・朧!」
時透がまたしても仕掛ける。黒死牟は躱し、心中で己が子孫である時透を褒め、
(こちらも抜かねば、非礼であろう)
呼吸の剣技で迎え撃つ。
「月の呼吸 壱ノ型・闇月 宵の宮」
時透は用心し、踏み込みをやや抑えていたため、刀による斬擊は紙一重で躱せた。しかし、黒死牟の“月の呼吸”により不規則に発生する三日月状の刃は躱しきれず、浅い傷を負った。
「初見でこの技を躱すか。さすがは我が末裔だ」
黒死牟は、時透が深手を負わず斬撃を躱したことに驚く。
「関係無いと言っただろ。ご先祖だったら何?俺が手加減するとでも思ってるの?」
時透は虚勢を張るが、
(倫道の言う通り、斬撃の速さ、三日月の刃のおまけもとんでもない!)
警戒を強め、自分からうかつには踏み込めなくなった。
(まだ誰も来ねえ。俺が援護するしかねえのか?俺で役に立つか?)
物陰に隠れて様子を窺う玄弥は逡巡していた。急にこの近くに飛ばされ、ここに来るまでの間に下弦程度の鬼を何匹か喰って力を溜めていたが、上弦ノ壱相手に通用するとはとても思えず、自分が出て行くことは躊躇っていた。
「まともに戦える上弦はもはや私1人……。あの方に、お前を鬼として使っていただこう。……人間は脆い。殺さぬよう多少の手加減はしてやろう」
黒死牟はそう言いながら、無造作に時透に歩み寄って行く。
その圧に、じりじりと後退する時透。
(行くしかねえ!)
玄弥は時透に当たらぬように銃を撃つが黒死牟の姿は無く、気付いた時には既に背後を取られていた。
「この気配……。鬼喰いはお前だったか」
黒死牟は抜く手も見せず、玄弥の両腕と両足を切断した。
「ぐああっ!」
玄弥が血を噴き出しながらのたうち回る。
「玄弥!」
時透が助けに走る、その時。
「風の呼吸 肆ノ型・昇上砂塵嵐!」
荒々しい暴風のような剣技が黒死牟に向かって放たれた。攻撃を弾き、跳び退る黒死牟。
玄弥の兄、不死川実弥が現れ、倒れたままの玄弥を後ろに庇い、膝を突いて構えた。
「兄貴!済まねえ……」
苦痛に顔を歪ませ、それでもすまなそうに言う玄弥。手足は既に再生が始まっている。
「本当にてめえはしょうもねえ弟だぜ。母親を殺してまで俺はお前を守ったのによぉ。……前に死なねえとぬかしたよなあ?んなら、約束を果たしやがれぇ!!」
不死川は、玄弥に言い捨てて立ち上がり、激しい怒りをにじませる。
「おい、クソ目玉野郎!善くも俺の弟を刻みやがったなぁ!!許さねえ!!」
時透も加わり、激しい戦闘が開始された。
玄弥は鬼喰いをしていたため、この間に手足を再生させて繋ぎ、姿を隠す。
(くそっ、何もできなかった……。こんな俺が役に立つのかよ……?また割って入っても、今度はあっさり頸を落とされて終いなんじゃねえか?)
玄弥は必死に心を落ち着ける。
(でも炭治郎に言われた。警戒されてない、弱いヤツが可能性を持ってる。倫道さんにも言われた。乱戦では強い者を倒すのは弱い者だって。兄ちゃん、俺も役に立って見せる!兄ちゃんを助けてみんなで生きて帰るんだ!好機を待て。俺が役に立つ好機を!)
そして自分を必死に鼓舞した。
不死川は打ち合いながら、黒死牟を冷静に観察する。
(本当に鬼が呼吸の剣技を使ってきやがる。月の呼吸とか言ったなぁ……。始まりの呼吸の剣士、てのは伊達じゃねえ。こいつは強え!だからこそ)
この鬼の強さをひしひしと感じながら闘志をたぎらせる。
「面白え!てめえは殺し甲斐があるぜえ!」
不死川はさらに踏み込んで前に出て矢継ぎ早に攻撃を繰り出すが、黒死牟の超高速斬擊と不規則に発生する三日月状の刃で有効なダメージを与えられない。
(この風の剣士は相当な手練れ……。柱であろう、このような剣士に会うのは久しぶりだ)
一方の黒死牟は不死川の激しい攻撃を捌きつつ、戦いを楽しんでいた。
(不死川さん!前掛かり過ぎだ!)
時透は焦る。事前のレクチャーのおかげで致命傷は負わされていないが、相手はまだまだ小手調べと言わんばかりの余裕。攻め込んでいるように見えるが、不死川自身も斬撃を受けてしまっていた。
(不死川さんと俺だけではまだ厳しいな。玄弥の射撃もこの状況じゃ生かせない。誰か柱の増援が必要だ……。頼んだよ銀子!)
時透は銀子が救援の隊員を連れて来てくれるのを待っていた。
そこに鎖に繋がれた鉄球が叩き付けられ、岩柱・悲鳴嶼が合流した。
悲鳴嶼の武器は鎖鎌とでも表現するべきであろうか。ただし“鎌”は巨大な手斧、“分銅”は、棘のついた、人の頭が隠れるほどの巨大な鉄球だ。
2つの武器は普通の人間には動かすことすら困難な重さだが、悲鳴嶼はそれを猛スピードで振り回し、つないだ鎖でコントロールしながら手足のように操る。
その破壊力のもの凄さ、この武器を自在に扱う筋力、俊敏性、技の練度、冷静な判断力。
悲鳴嶼はまさに鬼殺隊最強の戦士であった。
(これは、我々が束になっても倒し切れぬかもしれない)
上弦ノ壱・黒死牟は、その最強戦士悲鳴嶼行冥をもってしても決死の覚悟を決めるほどの強敵であった。
「無惨と戦うまで温存するつもりでいたが、ここで負ければ元も子もない」
悲鳴嶼は決断した。
両腕を体の前でクロスさせ、裂帛の気合いを発した。
「ここで使うも止む無し!」
その両腕には、岩のひび割れのような痣が発現していた。
時透、不死川、悲鳴嶼の3人の合流をもってしても、黒死牟の余裕を崩すことはできない。その熟練の剣さばき、隙の無い身ごなしに加え、不規則に発生する三日月状の刃。3人とも少なくない傷を負わされており、なかでも不死川は積極的に前に出ているため、浅いとはいえ多数の傷があった。
鬼殺隊本部。
「お館様、形勢不利です。上弦ノ壱の元に他の柱を向かわせますか?上弦ノ参を倒した煉獄杏寿郎、冨岡義勇、竈門炭治郎の3人は行動を共にしていますが、彼らは行けます」
総司令官の産屋敷輝利哉の妹、補佐役のくいなが、対黒死牟戦を見ながら輝利哉に判断を仰いでいた。焦りからか、くいなの顔からは血の気が引き、表情は強張っている。
その時カラスたちの目が、壁をぶち破ってショートカットしながらまっすぐに黒死牟の元へ向かう倫道とマスカラスの姿を捉えた。
「お館様!同じく上弦ノ参を倒した水原倫道が今向かっているようです!いかがしますか?」
くいなは先ほどより幾分か血色を戻し、指示を仰ぐ声にも安堵の色が混じる。
「分かった。倫道はそのまま上弦ノ壱へ。行冥、実弥、無一郎、玄弥。それに倫道が加われば上弦ノ壱は必ず倒せる。他の隊員は無惨の元へ」
輝利哉は瞬時に決断する。
この決戦で、必ず鬼を滅ぼす。その困難を極める目的のため、秒単位で変化する事態の中、輝利哉はお館様として、総司令官として必死に最良の一手を探り、次々と決断を下していく。鬼との千年に及ぶ決戦の勝敗、そして大勢の隊員たちの命運が、その決断にかかっているのだ。八歳にして重すぎる役目を担う輝利哉はプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、隊員たちと共に懸命に戦っていた。
(水原、頑張ってくれ。死ぬなよ……!)
輝利哉を補佐する村田も額に汗を滲ませて、その頭脳をフル回転させて懸命に輝利哉を補佐していた。そんな村田の目にも、ひた走る倫道の姿が見えていた。
倫道はマスカラスと合流し、黒死牟と戦う時透たちの元へ急いでいた。
「早クシロ!コッチダ!」
ナビを受けながら全力で走り、壁や天井をぶち抜き、ようやく戦場にたどり着いた。
戦闘に参加する前に黒死牟の髪などを回収し、隠れている玄弥に渡して状況を確認。
不死川が幾つも傷を負わされており、いてもたってもいられない様子の玄弥をなだめ、引き続き隠れてチャンスを伺うように説得した。
「水原が来た。不死川は一時離脱して傷を縫って来い!その間は私が引き受ける」
悲鳴嶼はそう言って前に出た。
「不死川さん!傷診せろ!」
倫道は不死川に駆け寄り、傷を診る。
「……てめえも、来たのかよ」
不死川は少し息が乱れているが、落ち着いてぎろりと倫道を睨む。
(良かった、数は多いが筋層に達してるものは少ない。不死川さんの反射速度も半端ないな)
と感心した。
(不死川さんが自分で縫うより俺の方が早い。悲鳴嶼さん、無一郎君、頼む!)
倫道は、すぐに不死川の傷の縫合にかかり、十数か所の傷はすぐに縫い終わった。
「おう、ありがとよ!」
礼を言いながら不死川は立ち上がり、その体は再び闘気を纏う。
「シイィィィ……」
不死川は、独特の風の呼吸を発し、体の隅々まで気力を充溢させてゆく。闘気が膨れ上がり、右頬に風車のような形の痣が鮮明に現れた。
「水原ぁ!てめえも遅れんじゃねえぞぉ!」
倫道に言い残し、
「風の呼吸 壱ノ型・塵旋風 削ぎ!」
不死川は戦闘の只中に再び突入した。
悲鳴嶼、時透に、不死川が復帰し、さらに倫道が加わりディフェンスに厚みが増す。
不死川が斬撃を躱しつつラッシュをかけ、倫道がそれを護りながら追撃し、時透は死角から死角へ高速移動しながら鋭い斬撃を見舞う。悲鳴嶼の鉄球と手斧が攻撃の僅かな隙間を縫うように間断なく飛来する。それに加え、倫道は投擲された悲鳴嶼の武器を繋ぐ鎖を空中で掴んで引き、攻撃の軌道をさらに複雑で避けづらいものにした。
(攻め手が追加されただけではない、この複雑で多彩な攻撃……。異なる呼吸の剣士たちがこの人数で、この速度で連携するとは……)
4人の攻撃が次第に頸に届き始めており、黒死牟は警戒を強める。
(互いに隙を補い、死角を作って攻撃を入れてくる。なかでも最後に加わったこの男……。投擲された武器の軌道を変えるなど、人間技とは思えぬ)
倫道は、筋肉の緊張や弛緩、力の伝達が見える。さらにこの戦いで透き通る世界も見え始めており、悲鳴嶼にもその予兆が現れていた。
「みな、目を凝らせ。良く相手を見るんだ。透けて見えて来ないか?ヤツの筋肉の緊張、力の動きが。血液の脈動が」
悲鳴嶼が呼びかける。
そして、強く意識することで同じく不死川、時透にもそれが見え始めた。
(まさか見え始めているというのか?私と同じ世界が……)
黒死牟の警戒感は僅かながらではあるが危惧に変わる。
(悲鳴嶼さんも痣を出している。透き通る世界も。俺ももう出し惜しみは無しだ。これを使うしかない!)
「高周波ブレード、起動!」
倫道も決断する。手の内を晒すことにはなるが、力を温存しながらこの強敵相手に勝とうなどとはやはり考えが甘いと言わざるを得ない。
倫道の黒刀が低い唸りを発し、高周波ブレードとなった。
(必ず勝つ!みんなの力で!)