ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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41話 赤い月夜の悪夢(VS黒死牟)

「畳み掛けろ!頸を斬れ!」

悲鳴嶼が叫ぶ。

 

「その通りだ」

黒死牟の纏う雰囲気が変わる。

 

「警戒!!」

倫道が叫ぶが、言われるまでも無かった。悲鳴嶼、不死川、時透も黒死牟から発せられる重圧がさらに増したことを体感していた。

鋭い一撃が猛烈なスピードで放たれる。

 

黒死牟の持つ、その肉体から作られた刀のような得物、虚哭神去(きょこくかむさり)が数倍の長さになり、本来の威力を発揮する。今の一撃で、床板には長さ10メートルもの深い傷ができていた。幸い重傷を負った者はいなかったが、

(なんてスピードだ!知ってて備えていたから何とか逸らせたが……。いきなりだったら間違いなく死んでた!それにこの間合いの広さ)

原作を知っている倫道ですら背筋が凍る一撃。少しでも対処を間違えれば、四肢など簡単に切断、どころか全身がバラバラの肉片になる。

 

だが頸を落とさなければ勝利はない。そのために原作知識をフルに使い、悲鳴嶼や不死川を拝み倒して連携訓練を行い、戦術を練り上げて来たのだ。

(そっちが広い間合いなら、こっちは飛び道具でいくぜ!)

「空破山!」

倫道は真空波の遠隔斬撃を飛ばし、

「風の呼吸 弐ノ型・爪々 科戸風!」

不死川も間合いの広い斬撃を飛ばす。

攻撃は次々ヒットする……かに見えた。しかし見えない刃である真空波すら黒死牟本体ではなく、着衣を切り裂いただけであった。

 

「遠当てか……。猗窩座が使っていた技だ。だが着物を裂く程度では虫を殺すのがせいぜいだ」

 

(空破山のスピードでも見切られる。チャンスメイクにもならないか……。それなら躱せないようにゼロ距離でお見舞いしてやるぜ!いずれにしても接近戦、日輪刀で頸を刎ねるしかないんだ!)

連携から倫道が仕掛ける。

「水の呼吸 玖ノ型・水流飛沫・乱!」

他の3人は倫道の意図を汲んで動きを合わせる。

倫道は玖ノ型の淀みなく細かいステップで一定距離を保ち、仲間に迫る攻撃を回転して弾きつつ力を溜める。時透と前後に重なり、また前に出る悲鳴嶼に迫る刃を弾き、回転する度に威力と速度を上げて真空波をも飛ばしながら戦場を駆け、回転速度をさらに上げて行く。

10回、15回、20回転。

 

「水の呼吸 拾ノ型・生生流転!」

力を溜め、投擲された悲鳴嶼の鉄球を追うように軌道修正した倫道が歩法を変え、一直線に黒死牟に肉薄、荒ぶる水の龍のエフェクトを纏う拾ノ型の斬撃を放った。

回転する度に威力を上げる水の呼吸奥義の一つ、生生流転。倫道が頸を落とさんと最後の回転とともに放った横一文字の斬撃は、連携の中に織り込まれた攻撃であったにも関わらず、黒死牟の反射速度によりその刀で受け逸らされて上方へ滑り、頸への直撃とはならなかった。だが黒死牟の得物を叩き折って顔面の上半分にザクリと深い傷を刻み、

「衝破山!」

刀を打ち合わせる事によって真空波を発生させる、空破山の派生技で黒死牟の頸を半ばまで斬った。だが傷はすぐに塞がり、刀は再生する。

倫道はすぐさま返す刀で回転するような追撃を見舞うが、今度は炎のようなエフェクトがはっきりと現れる。

 

(今のは……俺、体が勝手に動いた?それに今の技は、日の呼吸の……円舞?)

自分の体に違和感を覚える。何故今まで上手くコピーできなかった日の呼吸の技が咄嗟に出たのか?

追撃の技は意図せざるものであったが――体が覚えていた。

 

「妙な細工の刀だ。再生が遅れ、この痛み……。刀同士を打ち合わせて衝撃波を放つ技も……初見なり。それに異なる呼吸の技を瞬時に切り替えて使うとは……。面白いが、傷も刀もすぐに再生するのだ」

黒死牟は表情を崩さず表面上平静を保ちながらも、

(しかし、併せて使われては少々厄介だ。加えて、鉄球の男、風の剣士と我が末裔も痣を出している)

さらに警戒を強める。

 

「当代の柱はほとんどが痣の者か……。痣の者は二十五歳を前に死ぬのだ。その鍛え上げた肉体も、磨いた技も消える。惜しいとは思わぬか?」

黒死牟が不死川、悲鳴嶼の痣に気づき、4人に問いかける。

「思わない。殺し合いが常である我々に明日を生きられる保証など無い。ましてや柱ならば、今さら二十五歳で死ぬことなど誰が恐れようか」

悲鳴嶼は、少しのいら立ちを滲ませて答える。

 

「人間ひとりの命云々のつまらぬ話をしているのではない。私は喪失を嘆いている……。お前たちが死ぬことで極められた技が途絶えてしまう。だが鬼となることで肉体の保存、技の保存ができるのだ。何故それが分からぬ?」

黒死牟はさらに問いかける。

「分かるはずも無し。我らは人として生き、人として死ぬことを矜持としている」

悲鳴嶼の口調には微塵の迷いも無かった。

 

例え人で無くなったとしても、優れた技と肉体を永遠に保て。黒死牟はそう言っている。

悲鳴嶼は、そのために人間を捨てて人喰い鬼になるなどありえないと考える。

黒死牟と悲鳴嶼の主張は全く相容れないものだった。

 

「お前が鬼になった理由はそれか?」

倫道が問い返す。

「そうだ。……技を継ぐ者がいなかった。血を吐き鍛錬した自らの技が受け継がれることなく消えて行く。それが忍びなかった」

黒死牟は静かに答える。

「何を下らねぇ事を!!」

不死川がいら立って斬りかかろうとする。

 

「それだけか?戦闘で殺すのは致し方ないとしても、日の呼吸を継ぐ剣士たちをわざわざ狙って殺したのは何故だ?自らの技の後継者がいないと言いながら、日の呼吸の技を継ぐ者は殺す……。何故だ?それはつまり」

倫道は不死川を手で制し、さらに問い詰めた。

 

 

「お前は縁壱さんに届きたかった。縁壱さんのようになりたかった。縁壱さんとその技を憎み、恐れていた。だから鬼となってまでも鍛錬を続け、全盛期の力を保つことにこだわった。そして縁壱さんの技を継ぐ者まで殺して根絶やしにした」

原作を知っている倫道がズバリと本音を言い当てた。

 

黒死牟は驚きのあまり動きを止めた。

 

「縁壱……だと……?」

 

黒死牟の低く抑えた声音が響く。

怒りのあまり強く噛みしめた歯が、ギリッと音を立てた。

 

「小僧……!何故お前が……その名を知っている……?」

 

黒死牟は歯をむき、凄まじく表情を歪めた。

その6つの目がグワッと大きく見開かれてギラギラと異様な光を放ち、倫道を睨み殺すほどに鋭い視線が放たれた。

黒い瘴気が黒死牟の体から立ち上り、恐るべき殺気がばらまかれる。2度と聞きたくない名前が、目の前の鬼狩りから突如発せられたのだ。

 

「伯父上。まことにお労しきお姿」

自然に、そんな言葉が倫道の口を衝いて出た。

(えっ?俺、伯父上って言った?何のことだ?何で黒死牟が伯父なんだ?)

そして、またしても。

 

「言ったはずだ。次は貴方を討つと。……貴方の“闇”は私が絶ち斬って差し上げる」

意外な言葉が続いて発せられ、口調まで変わっている。

(このセリフは一体?だが、楽にしてやる。殺すこと、それが俺にできる唯一の救済の方法)

自ら発した言葉に困惑しながらも、黒死牟の抱えている鬱積した想いを知っている倫道は、殺意を込めたその視線を撥ね返して真正面から刀を構えて睨み合う。鬼殺隊の勝利のため、過去に囚われた哀れなこの男の救済のため。

 

 

(この男……。この黒刀、先程の太刀筋。痣こそないが、よく見ればあの男に酷似している……)

黒死牟は倫道を睨み続ける。

 

 

 

 

「貴様あの時の……!どんなカラクリかは知らぬが、私も全身全霊で臨まねばならぬ!」

 

 

6つの目を見開き、必死の形相となった黒死牟に、悲鳴嶼、不死川、時透、そして倫道は跳び退り更に距離を取った。

4人と上弦ノ壱の距離が開いた。

上弦ノ壱・黒死牟は恐ろしいまでの気迫を露わにする。怒り、そして自らの生存を危うくする者を排除しようとする本能。この者たちを殺さねばならない、本能がそう告げていた。

 

(こっちの警戒が薄くなった!完全に意識の外だ)

どういう理由かは分からないが、殺意はこちらに向いてはいない。完全に警戒が消えている。玄弥は黒死牟の髪と折れた刀身を取り込む。

(体が燃えるように熱い!力が湧き上がって来やがる!すげえ、これが上弦ノ壱の力……!)

強力な鬼に変貌した。その銃も更にゴツくなり、目玉が生えた。

 

(今だ!)

黒死牟が全力で攻撃を開始しようとした時、轟音と共に玄弥の弾丸が放たれた。黒死牟は刀で叩き落とそうとしたが、弾はまるで生きているかのように自在に曲がって軌道修正し、全て命中してその体に喰いこんだ。

 

次の瞬間、メキッ、ミシミシッ!と黒死牟の体内から異音が発生し、木が生えた。

木は黒死牟の体内から皮膚を破って枝を、幹を伸ばし地面に根を張って、その血を大量に吸収してさらに成長し、黒死牟の体を絡め捕るように縛りつけて固定した。

 

 

(これは血鬼術……!あの鬼喰いの者か)

地面に固定された黒死牟に一斉攻撃が迫る。この場にいる4人は何れも一騎当千の実力者。抵抗できない状態となれば、即座に頸を刎ねられてもおかしくはない。

 

平穏が足下から瓦解していく感覚。自らの生存が脅かされる緊急事態に、ぞわりと総毛立ち、腹の奥底が冷たくなる。焦燥と恐怖が黒死牟の全身を駆け抜ける。

蘇る記憶。

 

四百年前の、あの赤い月の夜以来の、懐かしく忌まわしい感覚だった。

 

 

 

 

私が鬼となってから六十年以上は経っていた。赤い月の夜。

信じられぬものを見た。

八十歳を過ぎ、老いさらばえた双子の弟、継国縁壱。

 

痣の者。

二十五歳を前に死ぬはずなのに、お前は何故生き長らえている?

傍らには、同じ痣のある二十歳そこそこと思しき若者が付き添っていた。

「お労しや、兄上……」

かつて人間であった頃の自身の片割れ。感情の起伏を見せなかった弟が、涙を流して初めて表した憐憫の情。心の底からの涙が私の感情を揺らした。以前はどうしようもなく目障りだった弟だというのに。

 

不思議な事に憎しみや怒りは感じなかったが、この者が鬼狩りである以上、向かって来るならば斬る。殺さねばならなかった。

 

懐かしさと殺意の交錯した、数瞬の奇妙な静寂があった。

鬼になってからも鍛錬を続けた私と、老いさらばえ、やせ細った弟。全盛期ではこの弟にはるかに及ばなかったが、今この場ではもはや勝敗は明らかであった。私は今度こそ、人間の身であるこの弟を憐れんだ。

 

余裕。いや慢心と言うべき感情。

 

しかし縁壱が刀の柄に手をかけた瞬間、私のぬるい感傷など粉々に吹き飛んでいた。空気がずしりと重くなり、体が強張る程の重圧が縁壱の体から発せられた。

 

「参る」

眼にも止まらぬほどの斬撃。

老骨でありながら振るう剣は全盛期と変わらぬ鋭さ。流麗でありながら力強く、一分の隙も無かった。私は圧倒され、次の一撃で頸を刎ねられると悟った。

 

しかしその一撃は放たれることは無かった。縁壱は、剣を振り切った姿勢で立ったまま絶命していた。天寿を全うした自然死だった。

次の一撃が寿命の内に放たれていれば、私は殺されていた。

 

 

足場のない空中にいきなり放り出されたような感覚。あの時以来久しく覚えなかった焦燥、生存が脅かされる恐怖が、私に再び襲いかかった。

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