黒死牟は体の至る所から刀を出現させ、ノーモーションで三日月の刃もまた全方位に多量に射出し、自分を縛り付ける木を瞬く間に消し飛ばした。
「水の呼吸 拾壱ノ型・凪!」
倫道は3人を護るため、それらの大部分を弾いて逸らすが完全に無効化はできず、自身に数発の被弾、また離れた所にいる玄弥は護り切れず、三日月の刃の1つが玄弥の胴を真っ二つにした。玄弥のダメージは大きいが、黒死牟の刀を取り込んで鬼化しているため絶命せず、その再生力で一時的に出血を緩やかにし、何とか持ちこたえていた。
一方固定から解き放たれた黒死牟もダメージを受けていた。
(私の体内から根を生やしたあの木に、かなり力を吸われている……!あの鬼喰いめがまだ息がある。両断してまず止めを)
黒死牟は血鬼術を使う玄弥に狙いをつけた。
倫道たち4人は、この土壇場でギリギリの命の取り合いをしたことによって一気にその戦闘力を伸ばしていた。
「霞の呼吸 漆ノ型・朧!」
黒死牟が玄弥を狙う気配を察し、倫道は刀鍛冶の里でも使った時透との連携技、霞の呼吸・二人朧を繰り出す。
ファーストコンタクトでは黒死牟に躱されたが、爆発的に成長した時透の鋭い斬撃が黒死牟の頸に迫った。
(戦いのさなかでのこの凄まじき成長!あの方の脅威となる前に、やはり私が全力をもって葬らねばならぬ!)
黒死牟はハリネズミのように体中から刀を生やし、三日月の刃の全方位攻撃を再度放とうとした。
「風の呼吸 陸ノ型・黒風烟嵐!」
倫道と時透の連続攻撃と霞に紛れ、地を這うような低い体勢から不死川が同時に斬撃を放つ。黒死牟は躱しきれないと判断し咄嗟に上方へ飛ぶが、
「岩の呼吸 弐ノ型・天面砕き!」
跳躍していた悲鳴嶼がさらに上空から鉄球を叩き付ける。
「今……だ……血鬼術……!」
剣士4人の猛攻を捌ききれずダメージを受け、体勢を崩す黒死牟。その隙を突き、玄弥が黒死牟の体内に残った銃弾から再び血鬼術を発動、木を生やして固定する。黒死牟は玄弥にまで気を回す余裕が既に無くまたも固定され、不死川の刀がついに黒死牟の頸にがっちりと食い込んだ。
黒死牟は固定されながらも必死に技を出そうとするが、倫道は飛び込んで黒死牟の脇腹から背中まで刺し貫いて内臓に損傷を与える。
黒死牟の体内から血を吸い上げて成長した木は強固な拘束具となり、また倫道の疑似赫刀による刺突が黒死牟の力を奪っていく。
(やはりこの刀!この焼け付くような激痛、縁壱の刀と同じ……体が強張る……!技が……出せぬ……。血鬼術が使えぬ……)
頸は強固でなかなか斬れず、悲鳴嶼が頭に鉄球を叩きつけ、時透がさらに頸に刀を振り下ろした。
(まだ腕は動く……。あの鬼喰いの男と黒刀の小僧を殺せば、邪魔な固定も無くなりこの刀の効力も消え、自由に動けるはずだ……。ヤツは、黒刀の小僧はどこだ?)
黒死牟はまず手の届く距離にいる倫道を両断しようとしたが、高周波ブレードは黒死牟の体に深々と刺さったまま、持ち主の姿が消えていた。
不死川、時透が頸の刀に力を込め、倫道が最初の青い刀で上空から斬りつけ、悲鳴嶼が手斧を打ち込んだ上から何度も鉄球を叩き付け、ついに頸を落とすことに成功した。
(体が崩れる……あの刀に刺された所から……!私は負けるのか、お前以外の者に……縁壱……)
黒死牟は、原作のように第二形態になること無く力尽きて灰化し、体が消え去った跡には着物の他に、巌勝が縁壱に贈ったあの笛が残されていた。
私と縁壱は、戦乱の時代、武士の家に双子として生まれた。跡目争いの原因になることから双子は不吉とされ、弟の縁壱は十歳になったら寺へやられ、出家させられることになっていた。家督を継ぐ私とは何から何まで大きく差をつけて育てられており、私はそんな縁壱を常に憐れんでいた。それと同時に、家督を継ぐ責任や期待も背負うことがない弟を、知らぬ間に見下していた。――七歳の時、縁壱が優れた剣の才能を現すあの時までは。
私は、それまで憐れみ下に見ていたこの弟が、私などその足元にも及ばぬくらいに優れた才を持っていると知ってしまった。
その時から。
その瞬間からずっと、生涯でただの一度もこの弟に勝ったと思ったことが無かった。人間を捨て鬼になってまで。このような異形になり果ててまで全盛期の力を保とうとした。それどころか、鬼になってからも厳しい鍛錬を積み重ねて力を増したはずだというのに。
四百年前のあの立ち合いで、私は事実を突きつけられた。
人外の道に踏み入ってまで手にしたはずの力。それすらも、この自然の理を超えた天才の前では全くの無駄であった。
そして、もはや永遠に勝つことは叶わない。
鬼になって生き続ける限り、この屈辱を私はこれからも抱えていくのだ。私は天を仰ぎ、その無情を呪った。
何故お前だけがいつも特別なのだ。痣の者であるはずなのに二十五歳を過ぎても死なずに生き長らえ、この歳になってなお、鬼である私を圧倒する剣技。
神々の寵愛を一身に受けた、太陽の如き者。
縁壱は寿命で死亡し、勝ち逃げた。
お前が憎い。憎くてたまらなかった。六十年前の、骨まで焼かれるような嫉妬の感情が鮮やかに思い出され、腹が煮えて全身が震えるほどであった。怒りと絶望、そんな単純な言葉では言い表せない様々な感情がないまぜになり、私は頭を抱えて声を漏らした。
そして立ったままの縁壱の亡骸に近づき、憤りに任せて両断しようとした瞬間、刀を持った私の両腕は落とされていた。
縁壱の連れていた若者が、いつの間にか黒い刀を構え、じっと見ていた。体を再生し斬りかかったが、心乱れ、調和を全く失ったままの私の斬撃は若者に掠ることすらなく、私は体を真っ二つにされて地に転がっていた。
「父の言っていた通り、誠にお労しきお姿。……私は縁壱の息子、継国倫影(みちかげ)。今は父が亡くなったばかりゆえ、この場で貴方を殺しはしませぬ。そうそうに立ち去られよ」
縁壱の息子と名乗るその男は憐れむように私を見下ろし、穏やかにそう言って刀を収めた。
私が体を再生して立ち上がると、
「だが次に会った時は、必ず貴方を討つ――」
そう言って、刺すような視線を向けた。
私は気圧され、この男の言うことはただの脅しでは無いことを理解し戦慄した。
崩れ行く私を悲しい目で見つめる黒刀の男。
お前はやはり縁壱の息子と名乗ったあの時の男であったか。私のことも、縁壱から聞かされていたのであろう。だから、知っていたのか。
だが、私の心中までは知るまい。
いくら手を伸ばしても届かなかった。鬼になってまでも、縁壱には届かなかった。兄弟でありながら、何故これほどまでに違うのか。
縁壱。私はただ、お前になりたかった。
黒死牟の頸を落とし、灰化して行くのを確認した俺たちは思わずへなへなとその場にへたり込んだ。悲鳴嶼さんすらも地面に膝を突いて天井を見上げてほっと息をついている。
俺も緊張を解いて継国兄弟を想う。
弟の縁壱さんは、自分は何の価値もない男と言っていた。そんな自分にも優しくしてくれた兄を想い、もらった笛を生涯大切に持っていた。
兄の巌勝は、縁壱さんを超えたくて、いや、元々はただ縁壱さんになりたくて鬼になった。心の底から縁壱さんを嫌悪していたのであれば、あの笛を大事に持っていることなど無かっただろう。双子の弟という近すぎる相手であるが故に、屈折した感情を抱いてしまった兄。鬼になった兄を斬らねばならぬと決めた弟。双子の兄弟のあまりに悲しい巡り合わせだった。俺の黒刀が縁壱さんを思い出させたのか、頸を落とされる直前、黒死牟は最後に涙を流していた。
原作で知っているが、俺はやはり手を合わせて祈らずにはいられなかった。2人の魂が救われるように、もし生まれ変わりが叶うなら、次の世では敵として対峙することなく平穏な人生を過ごせますように。
黒死牟を倒して、これで上弦は全て倒した。幸い俺は大怪我はしてないが、けっこう斬られている。優れた防刃性能を持つ俺の羽織でさえも、三日月の刃で容易く斬り裂かれた。漫画世界の刃物には現代の装備でも及ばないらしい。
おっと玄弥君の上半身と下半身が泣き別れのままだ。俺は慌てて駆け寄り、息も絶え絶えの玄弥君に鬼用回復薬を投与して上半身と下半身をくっつけ、俺と不死川さんの血も少しだが輸血する。鬼だから血液型不適合はないだろう。上弦ノ壱の力を取り込んでるからそう簡単には死なないと思うが焦る。
「おい!大丈夫か玄弥ぁ!てめえ、死んだらぶっ殺すぞ!何とかしろ、水原ぁ!」
傍らに付いている実弥兄ちゃんも心配そうに叫ぶ。
「おお、任せとけ!」
俺は自信有り気にそう答えては見たものの、回復できるかどうかわからん…。あ、でもどんどん回復して来たぞ。さすがは不死川さんの超稀血。ではそろそろ人間に戻す薬を…。
「倫道さん、それは待ってくれ。もう少しこのまま戦いたいんだ」
鬼のまま回復して意識もはっきりした玄弥君が言う。精神状態も完全に制御されており、時間制限はあるだろうが戦闘体としてはこれ以上ない最良の状態と思われた。
でも人間に戻れなくなるんじゃあ……。兄ちゃん、どうする?俺は実弥兄ちゃんに目で尋ねる。
「分かった」
不死川さんが答える。ええっ!?不死川さん?
「こいつがやると言ってんだ、好きにさせてやれぇ。だが戦いが終わったらさっさと治療受けやがれ」
マジか。……でも兄ちゃんがそう言うなら。俺は人間化薬をしまうが、
な、何すんだ不死川さん?
不死川さんが玄弥君の首筋に手刀を一閃。漫画で良くある、気絶させる時のやつ。
現実なら昏倒するほど殴ったらまともに目覚める保証は全くないのだが、漫画の世界だからいいか。
「おい、今のうちに玄弥に薬を打ってくれ」
……ああ、そういうことか。現実なら本人の同意が得られていない治療はしてはいけないのだが、人間に戻れなくなるリスクを考えると仕方ない。では気絶してる間に治療してしまおう。
(玄弥君が死ななくて良かった!ややこしいけど、こっちの兄弟は何とかなるだろ)
不器用ながらもお互いを思う不死川兄弟。俺は暖かい気持ちになりながらやることを整理する。まずは無一郎君、悲鳴嶼さんの治療を行い、実弥兄ちゃんの治療だ。すぐ縫合するから待ってろよ。
それから無惨と遭遇しているであろう炭治郎君たちのところだ。
兄ちゃんの傷を超速で縫っていると、
「あの隠、やっぱりてめえかよ」
そう言われたので、
「今回の傷はほとんど残りませんよ」
俺がニヤニヤしながらそう言うと、
「へっ、全くてめえはふざけた野郎だぜぇ」
不死川さんは軽く睨む。もうバレても構わないからね。よし、全部終わった。自分の傷は医療用のホチキスで止め、
「3人は、付近の怪我人の救出を。俺は別行動で怪我人の救出と無惨を探索しながら行きます。じきにこの無限城が崩壊するから、気をつけて」
悲鳴嶼さんに挨拶し、隠の隊員に玄弥君を任せて俺は無惨と戦っている現場への転送を待つ。あとの3人は、少し休憩してもらわないとね。