ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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捏造設定激し目です。


45話 輪廻(VS無惨)

倫道は心臓も大動脈も損傷し、大量出血により心肺停止となった。攻撃に混ぜられた無惨の血液量も通常の人間なら即死のはずであった。しかし、循環血液量の極端な低下で死に瀕した状態が、皮肉にも無惨の血への順応を手助けした形になった。

要するに、血液なら――何なら水でもいい、血管を満たして体を巡ってくれるなら、という生存のための人体の本能。出血性ショックに対しては、輸血が間に合わなければ代用血液(種々あり)、それでも足りなければ普通の点滴が使われるのだ。

愈史郎の蘇生処置で無惨の血液が全身を巡り、倫道はそれに順応して鬼となり、脳、神経が死ぬ寸前に全身の再生が始まった。そして鬼の力で極く短時間のうちに損傷した部分も含め臓器が再生、蘇生を果たした。

 

童磨戦、猗窩座戦、黒死牟戦で受けた全身の傷も見る間に治癒し、胸を貫かれた傷さえも全く元通りになった。

「鬼化するぞ!抑えろ!」

愈史郎が人間に戻す薬を投与しながら周囲の隊員たちに叫ぶ。

カッと倫道の目が見開かれ、

獣のような低い唸り声が口から漏れて来た。

 

始まった。目は吊り上がり、虹彩は紅く瞳孔は縦長になり、顔に血管が浮き上がり牙が生えた。しかし獣のように吠えながらも拳を握りしめ、周囲の者たちを殺そうとする衝動に必死に抗っている様子であった。

隠の隊員が10人がかりで体を押さえ、愈史郎が人間に戻す薬をさらに投与する。

体の中で鬼と人間が激しくせめぎ合う。暴れる力は弱まったが、体を反らし、痙攣しながら激しく苦しんでいた。牙をむき、正気を失った表情で苦しむ倫道だったがやがて気絶し、完全に脱力して静かに呼吸するだけになった。

 

「おい、大丈夫なのか?倫道さんは……どうなるんだよ?」

「分からん、後は本人の意思の強さ次第だ。強く人間であろうとすれば必ず戻れる。……俺はこいつを信じる」

泣き出しそうな顔で緑川が聞くが、愈史郎は倫道を見つめたまま答える。

周囲の隊員たちに混じり、緑川と尾崎も何もできないことを歯痒く思ったが、傍らで声をかけ続けることしかできずにいた。

 

 

 

 

俺は夢を見ていた。

 

おぼろげな、この人生でのものではない記憶が蘇って来る。

 

俺は十歳の子供だった。

俺の家は、戦があると招集される、半農の下級武士たちの住む集落にあり、俺の父もそんな身分の人だった。

思い出してくる。

ある夜、闇に紛れて鬼が集落を襲った。他の家では声も出せずに殺されたらしく、ほとんど気配が分からなかった。いきなり入って来た鬼に、俺を逃がそうとした両親は為す術もなく殺され、俺も殺される寸前だった。死を覚悟した。

 

鬼は、肩から胴体にかけて、俺に振り下ろそうとした腕ごと袈裟切りにされていて、次の一撃で振り向く間もなく頸を刎ねられていた。

背後には年老いた侍が一人静かに立っていた。この集落に住む人ではなく、明らかに外からやって来た人だと分かった。その侍は、据物でも斬るように易々と鬼を斬ってしまった。

 

命を助けられた。俺は安堵したが、傍にはたった今殺された両親の遺体があり、嫌でも現実に引き戻された。

周囲には物音もしない。集落の人々はほとんど殺されていたようだった。

 

侍は、両親の亡骸にすがって泣いている俺と一緒に涙を流してくれた。

聞いたことがあった。人を喰う鬼と、それを狩る鬼狩り。侍は各地を旅しながら鬼を狩っていると言っていたが、私はもう鬼狩りではない、そうも言っていた。

 

他に頼る人も無く、独りぼっちになった俺は優しい目をしたその人について行った。

侍は、鬼に遭遇する度に鮮やかに斬って捨てた。その強さ、美しい剣の技の冴えは子供ながらにも理解できた。真剣勝負、命懸けの殺し合いの最中なのだが、俺は危険なのを忘れるほどに夢中でその剣技に見入った。

 

「僕もじいちゃんと一緒に鬼を狩りたい。僕に剣を教えてください」

一緒に旅していたある日、思い切って頼んでみた。

 

「鬼狩りは厳しい修羅の道だ。この戦乱の世だが、刀を取らずとも生きていく術は他にもある」

侍は最初、俺が鬼狩りの剣士となることを良しとしなかった。

だが俺はどうしても鬼に復讐をしたかった。そしてそれ以上に、侍のその技に憧れを抱くようになっていた。この人のように、悪い鬼を斬って人々を護り、助けたい。

 

俺は何度も頼んだ。

じいちゃんはやはり止めたが俺の決心は変わらず、自己流で体を鍛え始めた。最初は体の動きも刀の動きも速すぎて分からなかったが、毎日見続けた。そのうちに何となく力の流れが分かり、じいちゃんと同じように力を伝えることを意識してみた。やがて、呼吸を保ち、全身の筋肉から発する力が滑らかに、見事に連動し刀に伝達するのを少しずつ真似できるようになった。筋肉の緊張、力の伝達が分かるようになり、どこに力を入れ、どう動けば良いかを理解し、コピーする能力がだんだんと育ってきた。そうして、じいちゃん――縁壱さんは俺の弟子入りを認めてくれた。

 

厳しい稽古が始まった。以前少しだけ父に教わった剣技など、ままごとのようなものだと痛感した。しかし楽しかった。上達が分かった。強くなるのが楽しくて仕方なかった。

鬼殺隊という組織があることも知ったが、それよりも俺はじいちゃんと一緒にいることを選んだ。

刀鍛冶の里では、ひょっとこのお面を被った奇妙な人たちに会った。みな良い人たちで、俺に優しくしてくれ、じいちゃんと昔からの付き合いだからと刀を打ってくれた。刀身はじいちゃんと同じように黒く染まり、お前もかい、里の長はそう言って愉快そうに笑った。

 

俺はどんどん強くなり、鬼を斬れるようになった。そして数年後。

 

「日の呼吸の剣技は全てお前に伝授した。お前に私の姓を与えよう」

身寄りも無く天涯孤独だった俺は継国姓を与えられ、継国倫影(みちかげ)と改名して縁壱さんの息子になった。いつの間にか、俺にも縁壱さんと同じような痣が浮き出していた。

 

 

父縁壱は、討ち漏らした鬼の始祖、鬼舞辻無惨と、鬼になった兄を探していた。俺と父は共に鬼を狩りながら旅し、父が八十歳になり、俺が二十歳を過ぎてしばらくしたある赤い月の夜、鬼になった伯父・継国巌勝に会った。

 

「みな死ぬはずだ、二十五歳を前に……。何故お前だけ生き長らえている?」

伯父は父を目にして明らかに動揺していた。

「お労しや、兄上」

父は、人であることを捨て異形となり果てた伯父の姿に涙を流した。

双子の兄弟の間で、何か通じるものがあったのだろう。お互いに動かず、しばし静寂の間があった。2人の間に流れる空気は、その時は穏やかであったが、父が刀の柄に手をかけた瞬間、雰囲気が突然変わった。父が発する重圧のようなものに、それだけで鬼はたじろいでいた。

「参る」

父が刀を抜き、斬りかかった。年老いても父の剣技は衰えを知らず流麗で、鬼を圧倒した。

あと一太刀で倒せるところだったが、父は動きを止めた。

 

父は立ったまま、剣を振り切った姿勢で亡くなっていた。寿命が尽きた自然死だった。

 

伯父である鬼は、父が亡くなったことを知ると天を仰ぎ、刀を取り落として頭を抱えていた。父が亡くなったことはもちろん悲しかったが、あまりにも悲し気な鬼のその姿に俺は成り行きを見ていた。鬼は震えながら刀を拾って再び構え、剣の達人とはとても思えないようなぎくしゃくした動作で父の遺体を斬ろうとする様子を見せたので、俺は伯父を斬り、それを許さなかった。

俺はここで伯父を殺す気持ちにはなれず、致命傷は与えなかった。

父の体を横たえると、懐から小さな笛が出て来た。体を再生した鬼がそれをじっと見つめていたので、思い出の品なのかと思い渡してやった。

「父が亡くなったばかりゆえ、この場で貴方を殺しはしませぬ。そうそうに立ち去られよ。だが次に会った時は、必ず貴方を討つ――」

俺がそう告げると、鬼は静かに去って行った。

 

俺は伯父を見逃し、父を埋葬した。

 

その後、父と同じように鬼の始祖を探し、伯父と再び会うことを願い放浪した。

程なく、父が亡くなったことを知って姿を現した無惨と対決した。無惨はこれまでの鬼とは比べものにならない強さであった。俺は日の呼吸の剣技と赫刀、持てる力の全てを駆使して戦った。頸を刎ね、切り刻んだが、俺自身もまた無惨の攻撃で瀕死の重傷となって動けなくなった。朝日が射して来るのを恐れ、無惨は分裂して逃げてしまったが、俺にはもう動く力も残っていなかった。

 

(父上、申し訳ありません。無惨は討ち果たせず、私はここで……)

俺は遠のく意識の中、悔しさに涙しながら父縁壱と本当の父、母に詫びた。そして、それきり俺の記憶は途切れてしまった。

 

 

 

「目を覚ませよ!倫道さん!おい!!目を……開けてくれよ!」

緑川は、気絶したままの倫道を揺さぶった。

尾崎も、刀を握りしめたままの倫道の手に自分の手を重ねて祈った。隠の隊員たちも、いつまた暴れだしてもいいように倫道の体を抑えながら、人間として戻ってくるように祈った。

 

 

(俺が、縁壱さんの息子だった……。俺はこの世界に戻って来た、そういうことか)

倫道は、現代人となるよりも前に、継国縁壱の養子、日の呼吸の継承者となった継国倫影(みちかげ)であったことを思い出していた。

これこそが漆黒に色変わりした日輪刀の本当の意味。最終決戦が近づき、無意識に日の呼吸を修練した体の記憶が呼び覚まされた結果だ。

 

今度こそ倒す。一人だったあの時と違い、今は心強い仲間たちがいる。原作知識もある。

 

倫道は目を開いた。瞳は元通りになり、牙も無くなり普段の穏やかな表情だったが、一つだけ違う点があった。

「これは……?」

目覚めた倫道の顔を見ながら緑川が戸惑う。

「聞いたことある……。たしか始まりの剣士たちにも……」

尾崎が呟いた。

 

「みんな。迷惑かけてごめん」

倫道は、心配そうに見つめる周囲を見回して、声を詰まらせる。隠の隊員たちや一般隊員たち、愈史郎としのぶ、そして緑川と尾崎の顔もあった。倫道は自分の力で上体を起こして胸や腹の傷を探ったが、

(傷が消えてる!……)

と驚いた。体の傷は元通りに完全に治っていた。

 

「心肺停止だったが救出が早かった。無惨の血液に順応して、脳が死ぬ寸前に鬼化した。鬼になったおかげで傷も全て治って、薬が効いて人間に戻った。しぶといヤツだ、あっさり鬼を克服しやがって。俺が治療したんだから当然だが……運だけは良いと褒めてやる」

「傷も完全に塞がったし精神も戻ったようですね。これでひとまず安心です。私も前線に戻ります」

愈史郎は憎まれ口をたたいて睨みつけた。しのぶは笑顔を見せ、一足先に出撃の準備を整えた。

「愈史郎君、しのぶさん、みなさん、ありがとう。俺はもう大丈夫!」

倫道は微笑んだ。

「心配させんじゃねえよ!胸に大穴が開いて、血を噴いてぶっ倒れて……俺たちが引っ張って来なきゃあのまま死んでたんだぞ!もうだめかと思ったじゃねえかよ!」

緑川が倫道に詰め寄る。

「そうか、偉そうなこと言って俺、結局2人に助けられたんだな。……ありがとう」

倫道は緑川と尾崎に頭を下げた。

「俺と尾崎だけじゃねえ、蛇柱も恋柱も手伝って、一緒に助けてくれたよ。あんたはホントに……。死ぬなって自分が出した命令だろ!忘れてどうすんだよ!」

「すみません……」

緑川は半泣きで倫道に説教をしていた。いつのまにか通常とは立場が逆転して、倫道は正座をして神妙な顔で謝っていた。

「けど、どうせまた行くんだろ?……命令は3つ!だよな?」

緑川と、尾崎も微笑む。

倫道もニヤリと笑って立ち上がり、深呼吸すると、地面をドンと思い切り踏みしめて咆哮した。倫道の刀がそれに呼応するように赤く光り始めた。

最終形態、赫刀がついに発動した。

 

「ああ、分かってる。ヤツを倒すまで俺は絶対死なない!……みんな、行って来ます!」

倫道は笑顔でそう言って、戦場に飛び出して行った。

 

その時前線では、建物が崩れる大きな衝撃音がした。間断なく響いていた剣戟の音が止み、静寂が訪れた。

 

隊員たちを一気に殲滅しようと、無惨が全ての管と腕刀を使い、フルパワーで全方位への同時攻撃を行ったのだ。隊員たちは防御したものの多くが吹き飛ばされ、一時戦闘不能になるほどであった。炭治郎も地面に叩きつけられ、一瞬呼吸できなくなった。

無惨が炭治郎に歩み寄り、止めを刺そうとしたその時。

 

「日の呼吸 輝輝恩光!」

腕刀と何本もの管が一瞬で切り裂かれ、無惨の顔面にも斬撃が入った。

気配が感知できないところからの斬撃、その焼けるような痛みに無惨は思わず飛び退り、攻撃を放った者を睨みつけた。

 

庇うように、炭治郎の前に人影が立った。

(倫道さん!)

倫道は半身に構え、後ろの炭治郎には左半身を、無惨には刀を持った右半身を向けている。炭治郎に振り向きながら、

「日の呼吸は、十二の型を繋げ、繰り返すことで円環を成す。これこそが十三番目の型、奥義。君の読み通りだ。――さあ炭治郎君、技を繋ぐぞ。一緒に頑張ろう!」

そう言って微笑んだ。

(倫道さん!その顔の痣は……!)

振り向いた倫道の顔には、左の額から目の周囲にかけて縁壱と同じような痣がくっきりと浮き出していた。

 

無惨に正面から向き直り、倫道が構える。

「その姿……!お前は!」

驚愕する無惨。あの痣。赤熱したように光る刀。

化け物。継国縁壱を彷彿させる炭治郎、その息子と瓜二つの倫道。

縁壱に切り刻まれ、体を分裂させて逃げた記憶に加え、その息子と名乗る男にも追い込まれた。2度目の対決の記憶は何故か薄れていたが、今や鮮明に呼び起こされ、無惨は思わずさらに2、3歩後退った。

 

 

 

「久しいな、無惨。憶えていてくれたか」

倫道は不敵な笑みを浮かべながらそう声をかけ、1歩踏み出した。

「決着を付けよう。今度は負けない!」

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