ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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47話 終結(VS無惨)

(人間返り、老化、分裂阻害。毒は3つか!これらの解析と分解に時間と体力を奪われる。……まだ分解ができない!)

舌打ちする無惨。

 

(残念、外れです)

その意識の中に珠世が現れる。

(薬の効果は4つ。3つはお前の予想通り。無駄に増やした脳が役に立ちましたね。そこまでは良くできました。……でも)

薄っすらと笑みを浮かべ、珠世が冷静に告げた。

(私の全ての力を注いだ研究の成果はそんなものではありません。3つの薬で弱らせ、最後に細胞を破壊する薬が効いてくる)

そして無惨の頭に片腕をまわしてしなだれかかり、もう一方の手で無惨の髪を撫でながら顔を寄せ、ニタリと表情を一変させた。

大きく見開いた目はらんらんと輝き、その瞳孔は鬼本来の細い縦長。笑う口元は大きく裂けて吊り上がり、牙が覗く。凄まじい執念を感じさせるその顔は、人間に擬態していた時の穏やかさなど一片も残らない、まさに復讐の鬼。

 

珠世は無惨の頭を撫で続けた。

(お前の大嫌いな死がすぐそこまで来たぞ。いくら逃げようと、死は今度こそお前を捉えて絶対に離さない――)

最後にギリリと鋭く爪を立てて思い切り無惨の顔を抉り、珠世はそう言い放つと狂ったように笑い声をあげ、消えていった。

 

 

空全体が濃紺から薄明へと、少しずつ色を変える。東の地平線の赤色が夜空を押し上げる。

夜明けまで、あと三十分。

 

俊足の宇髄も追いついて爆薬による攻撃をしかけ、同じく追いついたしのぶが死角から連擊で新たな毒を刺す。

「貴方に投与した薬は4つ。ですが」

しのぶは笑顔をその顔に貼り付け、無惨の怒りなど意にも介さず語りかける。

「貴方にはもっともっと苦しんでいただくよう、薬をもう一つ追加しました。全身から出血してくると思いますので、もう少しお待ちくださいね!……まあ怖い、そんなに睨まないでください。これは水原さんの発案なんですよ」

原作には無い、蛇毒から作ったオリジナルの薬。血液の凝固異常を引き起こす毒だ。

血管内で不必要な血栓が異常発生して血流が滞り、それだけでも各臓器は機能不全となるが、本来出血を止めるはずの凝固成分が無駄に消費されるため、一方では止血困難となる。体は血栓を溶かそうと出血しやすい方に傾き、さらに出血傾向が加速する。血管の目詰まりと止血困難、相反する2つの異常事態が同時に起こる、非常に危険な状態である“播種(はしゅ)性血管内凝固症候群”を引き起こす毒。放っておけば多臓器不全にまっしぐらだ。いくら無惨といえども、先に投与された4つの薬を分解し、柱たちとの戦闘を行いつつさらにこの病態を自己修復するのは不可能。心臓や脳が幾つあろうと同時に全てが障害され、機能が低下すれば何の意味も無かった。

 

無惨は目を見開き、牙を剥きだして怒りの表情でしのぶを睨みつけるが、しのぶはにこにこと笑みを絶やさない。珠世、愈史郎と共同開発ではあるが、自ら開発した薬が憎き無惨を追い詰めていることが嬉しくてたまらないのだ。そこに、原作通り細胞を破壊する薬が効いてくる。

見る間に無惨の目から、鼻から出血し、縁壱、倫影につけられた古傷からもボタボタと血が滴り落ちた。

「おのれ……」

言い終わらないうちに、ゴボリと口からも大量の血を噴いた。それでも無惨はしのぶに向け攻撃を放つが、倫道がこれを全て迎撃した。

 

 

無惨の動きが突如ぴたりと止まり、視点が定まらない異様な表情になったかと思うと、右肩から左側腹部にかけて斜めにあった口が大きく開き、強力な衝撃波の攻撃を放つ態勢になった。

(バカが、させるか!そうはもう知ってるんだよ!)

「ほれ、ご褒美だ」

倫道はチャンスとばかりに無惨との距離を詰め、大きく開いたその口にすかさず宇髄特製の火薬玉を2つ、3つと投げ込んだ。

「ぐわあっ!」

無惨の体内から籠った爆発音が連続して響き、体内からの強烈な爆破ダメージに無惨が悲鳴を上げる。本来の位置にある心臓が一つ潰れ、一瞬脊椎や肋骨などが丸見えになるほどの損傷を与えた。すぐに再生されてしまったもののその速度は誰が見ても明らかなほどに低下していた。

「みんな、少し下がれ!」

 

倫道は疲れの見えてきた他のメンバーを下がらせ、無惨に1対1の斬り合いを挑んだ。

 

倫道と無惨が猛スピードで斬り合う。

倫道の赫刀化高周波ブレードが、無惨の腕刀と管の攻撃が、お互いに傷を刻んで行く。

「水の呼吸 拾壱ノ型・凪!」

そこに義勇が飛び込んで無惨の攻撃を弾き、

「雷の呼吸 漆ノ型・炎雷神(ほのいかずちのかみ)!」

(炭治郎も倫道さんも死ぬ気で頑張ってる!俺も命懸けで行かなきゃ!)

善逸が超速の必殺技を放つ。

「獣の呼吸 伍ノ牙・狂い裂き!」

伊之助も立体軌道を描きつつ、四方から倫道に迫る管攻撃を斬り捨てる。

 

追いついて来たメンバーが次々と倫道に加勢し、戦いは激しさを増す。

「恋の呼吸 参ノ型・恋猫しぐれ!」

「蛇の呼吸 伍ノ型・蜿蜿長蛇(えんえんちょうだ)!」

甘露寺が同じく超高速の管攻撃を迎撃、伊黒が蛇行する軌道で接近し、鋭い一撃で無惨本体に迫る。

 

 

無惨には戦闘開始時の余裕など既に全く無かった。ゼエゼエと肩で息をし、体中の傷から血を流し、口からも血を吐きながら必死の形相で戦っている。しかしそれは倫道たち人間も同じだった。抗毒素血清を打ったからと言って、蓄積した疲労が完全に消え去る訳ではない。最前線にいる者はみな同じだった。これ以上このレベルで動き続けたら命が危ない、肉体を制御する脳の警告を無視して戦っていた。

 

その間にも再び無惨を包囲し、鬼殺隊は残る力のすべてを振り絞って猛攻を仕掛ける。炭治郎も己を鼓舞しながら倫道とともに日の呼吸の技を繋いだ。

 

朝焼けが地平線から広がって一段と色を鮮やかにし、空に明るさが増す。

日の出が迫っていた。

夜明けまで、あと十五分。

 

倫道と炭治郎は死力を振り絞り、既に限界を通り越した体で日の呼吸の技を繋ぎ、無惨を切り刻む。

 

「日の呼吸 陽華突!」

一瞬棒立ちになり、隙を見せた無惨に倫道が強烈な突き技を見舞った。無惨の鳩尾を貫通した刀は鍔元まで突き刺さった。体ごと突っ込んだ倫道の勢いは止まらず、その加速の鋭さに突き刺された無惨の体がくの字に折れ曲がる。倫道はそのままレスリングのタックルのように突進し、無惨の体がめり込んでひび割れるほどの勢いで建物の壁に叩き付け、そのまま串刺しにした。

そこに、炭治郎が飛び込んで無惨の体をさらに串刺しにし、無惨を建物に完全に縫い止める。

「ぐがあっ!」

2本の赫刀で串刺しにされた無惨は焼け付くような激痛に苦し気に悲鳴を上げ、口から血を噴き出して咳き込み、顔を歪める。

2本の刀は深々と腹部を貫き、傷からは刀を伝って川のように大量の血が流れ続けていた。

 

空は明るい。真冬の冴えわたった青空が広がっていく。東の地平線は目映いオレンジ色に輝く。日の出が刻々と迫る。

 

恐怖にいっぱいまで見開かれ、血走った目で無惨はそれを見た。

建物の間からわずかに見える地平線。そこから朝日が昇る、その光景を。

 

ぐりん、と無惨の眼球が上転して固定され、白目を剥いたようになった。苦し気に呻いていた無惨の顔から表情が消える。

ボコリ。

無惨の胸が、腹が、不気味に波打った。続けて、ボコボコと脈打つように波動が広がり、見る間に無惨の体が膨れ上がった。

(肉の鎧!いかん、巨大化する!炭治郎君まで取り込まれてしまう!)

「どけっ!!」

倫道は炭治郎を後ろへ思い切り突き飛ばし、自分の刀と炭治郎の刀を両脇にかかえるように握りしめた。柱たちが攻撃を重ねようとするが、

「来るなああ!離れろ!!!」

倫道は絶叫した。

必死の叫びのその迫力に、他の戦闘員が一瞬駆けつけるのを躊躇した。

倫道が巨大化した無惨に取り込まれた。

 

「倫道さん!」

炭治郎はよろよろと駆け寄ろうとしたが、ガクンと膝を突いてしまった。

「炭治郎!倫道さんに任せろ!」

後ろから緑川が炭治郎を抱き止め、猛スピードで退避した。

 

 

 

 

無惨は瞬く間に体長10メートルもある巨大な赤ん坊の姿になり、倫道をその体内に取り込んだ状態で暴れ始めた。

 

「ギャアアアー!!」

巨大な赤ん坊の姿になった無惨が、怪獣のような大咆哮を放つ。予想外の変身と強烈な音圧に一瞬みなが怯む。

「日の光の下へ押し出せ!日陰に入れるな!」

輝利哉の指示で攻撃を再開する隊員たち。柱たちも最後に残された僅かな力で懸命に攻撃を続ける。

 

「兄貴!」

不死川のもとに、回復した玄弥が駆け寄って来た。

「兄貴、俺が砲撃する。でも、あのバケモンの中に倫道さんが取り込まれてるんだろ?だから兄貴の視界を貸してくれよ。透けて見えりゃ、避けて当てられる!今度は俺が倫道さんを助ける!約束なんだ」

不死川は驚いて玄弥を、逞しくなった弟を見た。

「よォし、やってみやがれェ!」

不死川は“目”を玄弥にも分け、自分もそれを額に当て、じっと目を凝らして赤ん坊の姿となった無惨を見た。すると徐々に無惨の体が透き通り、倫道は赤ん坊の心臓の位置にいることが分かった。玄弥は再び長い銃身に付け替え、目を凝らす。

「おい、見えてるか玄弥」

「ああ、見えてるよ兄貴。しっかり見えてる」

玄弥は銃を構え、狙撃の態勢を取った。刀鍛冶の里のみなさんが新たに作ってくれた弾。着弾すると弾頭が潰れ、貫通することなく周辺の組織を広範囲に破壊する。炸薬量が多く、銃の耐久性の問題もあり3発しか撃てない。

(俺は今、鬼じゃなく、正真正銘人間の力で、自分自身の力で挑むんだ!倫道さん、絶対助けるからな!)

玄弥の気迫が満ちる。

 

 

「俺たちで無惨をこの場に留めるんだ!柱たちはもう満足に動けない!」

隊員たちは無惨を日陰に逃すまいと、自動車で体当たりし、力を合わせて路面電車の車両をぶつけたりしていたが、巨大化した無惨は自動車を軽々と蹴り飛ばし、腕を振るその一撃で路面電車をグシャリと叩き潰した。

暴れまわる無惨は地中に潜って逃げようとするが、悲鳴嶼が無惨の頸に鎖をかけ、強引に地面から引きはがそうとしている。残る隊員たちも協力し、これを阻止しようと全力で引っ張る。

四つん這いになった無惨の顎が上がり、頭部が無防備に晒される。絶好の的――!

「射線を開けろぉ!」

不死川が叫ぶと同時に、

ドオオン!

轟音とともに放たれた玄弥の弾丸は無惨の下顎から頸の一部を抉り取った。再生はされない。

玄弥はさらに一発を発射。今度は肩の肉を大きく抉り、骨を砕き、右腕を吹き飛ばした。

「ギャアアア!」

無惨はよろめきながら立ち上がり、苦し気に咆哮を放った。

 

「止めだっ!」

玄弥は最後の一発を発射した。弾は頸に命中、ビシャッ!と周囲の肉を大きく抉り取った。

無惨の頭がグラリと大きく前に揺れてゆっくりと胴体を離れ、地響きを立てて地面に落ちた。

 

頸を落とされた無惨の体は灰化が始まらなかったが、方向感覚を失ったのか、ズシン、ズシンと地響きを立てながら、なぜか太陽の昇る方へと歩き始めた。

 

 

 

頸の無い片腕の赤ん坊が、焼け落ちながら歩む死の行進。滅びへと向かう狂気の歩みだった。一歩進む度に、頸や肩の傷からバケツで液体をぶちまけるようにバシャバシャと血液が流れ落ち、じゅわじゅわと皮膚は焼けただれて行くが、しかし無惨はその光を求めるように太陽に向けて手を伸ばしていた。

 

太陽の光。

無惨はそれを強く欲しながら最後まで克服できなかった。太陽に向かって歩むその姿は、己の最期を悟り、その光で自らを焼き尽くそうとするかのように見えた。

 

あまりにも不気味で異様で、凄絶な光景に一同は攻撃を忘れ見入る。

「一体……何だこれは……?」

現場と視覚を共有している総司令官の輝利哉すら指示を出すことも思いつかず、ただ呆然と眺めていた。

 

頸や肩の傷、その他の傷、無惨の体の至る所が赤く光る。体内で何かが光り、その光が漏れ出ているのだ。

光は次第に強くなっていき、そして。

 

太陽へと伸ばした無惨の左手は焼けただれ、指の末端から徐々に蒸発して消え始めていた。ゆっくりだった歩みはついに止まり、残った左腕はだらりと垂れ下がった。

巨大な体がひび割れ始め、体内から溢れ出る赤い光が一層強くなった。

そして光に消し飛ばされるように体が崩れて粒子となり、風に吹かれて消滅していった。

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