ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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49話 救済

俺の体の中で無惨の血と残留した人間化の薬がせめぎ合う。だがさすがは無惨がその意志をもって注ぎ込んだ血と力。

俺は、漫画世界で鍛え抜いた肉体と技、それに人間を遥かに超越した鬼の筋力や再生能力が融合した“凄まじき鬼の戦士”となった。人類にとっては、悪夢のような存在へと進化してしまった。

……とまあそんなことはどうでも良いが、血鬼術が使えるようになった。

血鬼術、治癒の力。何でも治せる、そんな力が欲しいとずっと思い続けていた。

何百回、何千回、どれほど願ったか分からない位に。目の前で人が死ぬ度に、己の無力さを呪い、欲した力。その力が宿ったようだ。

だが珠世さんが開発した人間化の薬は強力なのだ。それに俺は1回鬼を克服している。鬼化状態はそう長くは続かないだろう。鬼でいられるのはごく短時間。血鬼術が使えるのは鬼の力が残っている僅かの時間だけだ。しかも不完全で、血鬼術を使うには代償が必要なのだと本能的に分かる。その代償は――。

 

急げ。今、俺の為すべきことは、何か。

 

 

 

 

千年にわたる鬼との戦い、その勝利の歓喜と興奮、嵐のような熱狂の渦が徐々に収まって、破壊された街の惨状が明らかになる。そして、柱や炭治郎たち以外にも、無限城内の戦闘、巨大化した無惨との戦闘などで多数の傷病者がおり、動ける者が救護活動を始めていた。

(良かった、気づかれてない。まあ疑う者もいないだろうが……)

勝利の喜びの余韻の中、倫道は心の内で密かに笑う。

(痣の者たちの力を奪うぞ。無惨、手を貸せ)

倫道は己の内の無惨に密かに呼びかける。

柱たち全員と炭治郎にはくっきりと痣が浮き出し、戦闘終了後も消えてはいなかった。

(さあ、お前たちのその力を俺に渡せ)

倫道は痣の力を奪うため、柱たちと炭治郎、“痣の者”の元へと向かって歩き出した。

 

 

「悲鳴嶼さん」

倫道はまず、建物の壁にもたれかかって座っている悲鳴嶼の傍に両膝を突き、声をかけた。

「水原か。見事な働きだった。本当に良くやってくれた」

悲鳴嶼は、傷の手当を受けながら穏やかに答えた。

「悲鳴嶼さん。長きにわたり、鬼殺隊のまとめ役としての御働き、本当にお疲れさまでした。貴方こそ柱の中の柱です」

倫道は声を詰まらせながらそう言って、深く頭を下げた。

 

(ごめんね、みんな。俺も悲鳴嶼先生が大好きなんだ。幸せになって欲しい。だから、俺は悲鳴嶼先生を全力で助ける。みんなと会えるのはちょっと先になっちゃうけど、先生が天寿を全うするまで天国で見守ってあげてね)

倫道は、10年前に殺された子供たちへ心の中で呼びかけた。

 

「握手です。健闘を称え合う西洋の習慣ですが」

そして、心からの敬意を込め悲鳴嶼の右手を握った。

「嗚呼……、ありがとう。しかし私が今日あるのはみなのおかげだ。こちらこそ礼を言わせてくれ。それに私の役割も終わったようだ。痣の発現により、私の命ももうすぐ尽きるだろう」

悲鳴嶼も弱々しく倫道の手を握り返す。

悲鳴島は自らの死の運命を悟っていた。その呼吸は浅くなり、脈も弱くなっていたが、顔には満足そうな穏やかな微笑みをたたえていた。

 

(致死的な外傷は無い。とすれば、この衰弱は痣の副作用によるものだ。……全集中 蛇杖の呼吸!痣の病原を探れ)

倫道は悲鳴嶼の手を取りながら必死に“痣の力”の源を探る。

 

生体内を超高速でスキャンする。脳、中枢神経系。心臓、肝、腎。血液を含むその他主要臓器群から臓器単体、組織、細胞にまでスキャニングが及ぶ。違う、病変はもっと他にある。

(これは……!)

細胞のその核の中、遺伝子。

(なるほど、これは遺伝子レベルの変容か。急速にテロメアが短縮している。おそらくは一時的に細胞増殖が爆発的に加速するかわりに、二十五歳を前に細胞分裂ができなくなって死に向かう……まさに寿命の前借りだ。血気術、発動!)

生物は細胞の増殖を繰り返し、傷ついた部分を修復したり成長したりしているが、それに必要なのが細胞分裂。細胞分裂のため遺伝子の複製を繰り返すと染色体末端のテロメアと呼ばれる部分が徐々に短縮し、やがて細胞分裂ができなくなり死に至る。だが、このテロメアの短縮が起きない、正確には普通の細胞と比べると極めて緩徐にしか起きない場合がある。それが鬼の細胞であり、癌細胞と同じだ。倫道の血鬼術により悲鳴嶼の遺伝子は修復された。

爆発的な身体能力向上は封印され、痣の力は消えた。

 

「何言ってるんです、痣はもう消えましたよ。さあ、気をしっかり持ってください。みんなが待ってますよ。……どうかしましたか?」

悲鳴嶼は、手を握った時に一瞬倫道に違和感を覚えた。薄れゆく意識の中で、人ならざる気配を感知していた。しかしそれはすぐに消え、それ以上に薄れつつあった意識ははっきりし、全身の力が少しずつ戻って、いつの間にか生気を取り戻している自分自身に驚愕した。

だが先程の異様な気配は……?気のせいか。それとも。

「また、後ほど」

悲鳴嶼の体から痣が消え、倫道はもう一度頭を下げて悲鳴嶼のもとから離れた。

 

 

「お前は死なないと思っていた。俺は別に心配などしていない。落ちついたら、顔の傷を治す約束を果たしてもらうぞ」

倫道は近くにいた伊黒と甘露寺のところへ行くと、伊黒はそう言って離れようとした。

「伊黒さんも結構やられましたね。傷だらけじゃないですか」

倫道は笑顔で、少し心配そうに声をかける。

「それがどうした?みな同じだろう」

「今までにもたくさんの血を流して、この戦いでもたくさん傷ついた。だから伊黒さんの体にもう汚い血なんか一滴も残ってませんよ。何も恥じることはない」

「利いた風なことを言うな」

伊黒は一瞬だけ薄っすらと笑い、倫道は微笑みながら呼び止めて右手を差し出した。

「何だ?」

怪訝そうな伊黒に、倫道は屈託なく笑いかける。

「握手です。お互いに、良く頑張りましたってことで。……甘露寺さんも」

伊黒はブスッとしたいつもの顔で、甘露寺はにっこりと握手に応じた。

「2人は命の恩人です。ありがとうございました。だから、生きていてくれて本当に良かった!」

倫道が言うと、甘露寺は花のような笑顔を見せ、伊黒も微笑んだ。2人からも痣は消えていた。

(甘露寺さん!今日こそ伊黒さんに言うんだよ!お嫁さんにしてって!)

(水原さん、嫌だもう!で、でも、あたし頑張ってみる!)

倫道は握手しながら小声で甘露寺をそそのかす。甘露寺も小声で応じた。

「伊黒さん、何だか甘露寺さんからお話があるって。しっかり聞いてあげて!」

倫道はニヤリと笑い甘露寺をちらりと見る。顔を真っ赤にして、フン!と決意を固め、自分に気合いを入れた甘露寺が倫道に向かってうなずき返していた。

「……そ、そうか。お前は早く胡蝶に診てもらえ」

伊黒は倫道にそう言うと、少し顔を赤らめて今度は甘露寺に向き直った。

「甘露寺、俺からも話がある」

 

それを聞いて倫道は慌ててその場を離れた。

(伊黒さん、甘露寺さん、助けてくれたお礼はしましたよ。お幸せにね)

倫道は、これからの展開を想像して幸せな気分になった。

 

 

近くにいた時透と宇髄も、倫道と握手を交わした。

「あれが日の呼吸の技なんだね。すごかったよ」

時透はにっこり笑いながら手を握り返す。

「お前と竈門が一番派手だったな!今回ばかりは俺も負けを認めるぜ。全くお前には驚かされる」

宇髄も豪快に笑いながら握手に応じた。一瞬真剣な雰囲気になる倫道に違和感を覚える宇髄だったが、

「おい、痣が消えてるぞ」

「宇髄さんも」

倫道が去った直後、宇髄と時透はお互いの顔を見ながら訝しんだ。

 

 

杏寿郎も倫道と握手を交わし、千寿郎は倫道に抱きついて泣いた。杏寿郎の顔からも痣が消えた。

「僕が変われたのは水原さんのおかげです」

千寿郎は涙を流しながら深く頭を下げた。

倫道は首を横にふり、千寿郎の肩を掴んだ。

「君は優しい子だ。その君を殺し合いに巻き込んでしまった。本当にすまなかった」

ずっと心に引っかかっていた想いを吐露し、倫道は千寿郎に謝った。

「そんなことありません!」

「それは違うぞ、水原!」

千寿郎と杏寿郎が否定する。

「水原君、それは違う。戦いに参加したのは千寿郎自身の意志だ。それに、君と稽古するようになって、千寿郎が生き生きした姿を見せるようになった。以前の千寿郎には、自信が持てずにいつもどこか迷っている風情があったが、しっかりとした意志を示すようになった。だから君のしたことは間違いではない。君は本当に良き仲間となってくれたのだな。私からも礼を言う!本来ならば父親の私が導かねばならなかったのだが、恥ずかしい限りだ。それに、息子たちのおかげで私自身も目を覚ますことができた。そのきっかけは君だ。ありがとう」

槇寿郎は手当てを受けながらそう言うと、微笑んで倫道に頭を下げた。それを聞いた杏寿郎が、倫道の分厚い肩を叩く。

(やばい、目から鼻水が……!)

倫道が感極まっていると、

「日の呼吸の剣技、見事だった!いつの間に身に付けた?それとも知っていたのか?」

杏寿郎が問いかけた。

「思い出したんですよ。ずっと、ずっと昔に父から教わったんです」

倫道は力無く微笑んだ。

「水原さん、顔色が悪いですよ。はやく胡蝶さんに診てもらった方が良いですよ」

千寿郎が心配して言った。

「大丈夫、ちょっと疲れただけだから。後でまた」

倫道は手を振って杏寿郎たちから離れた。

 

 

2度の大役を果たし、不死川玄弥は安堵と疲労、押し寄せる感情にようやく整理をつけ、無事な倫道の姿を見て笑顔で手を振った。

「助けてくれてありがとう!」

倫道も大声で呼びかけ、笑顔で手を振り返す。

玄弥は一見元気そうであったが鬼化を繰り返していたため、経過観察が必要としのぶが判断し、隠たちが蝶屋敷に運んで行った。

 

成長した弟の見事な働きを見届け、付き添っていた不死川実弥はホッとした表情でそれを見送っていた。

「不死川さん」

倫道が、ゆっくりと歩いて来る。

「てめえ、やるじゃねえかよ。まあまあだったぜぇ」

実弥は普段と変わらぬ様子で倫道を迎えた。

「玄弥君は?」

倫道が聞くと、

「ああ、念のためって蝶屋敷に運ばれた。大した怪我もねえ」

「でも、これから何か影響が出るかもしれない。そうだ、兄ちゃんが一緒に住んだらいいよ!気兼ねなく兄弟げんかできるから。まあ本当は仲がいいの知ってるけどね!」」

倫道はわざと兄ちゃんという言葉を使い、笑いかけた。

「うるせえ……しっかし、玄弥があの上弦の壱にぶった斬られた時ゃあ、もうだめかと思ったが……てめえのおかげだ」

不死川は初めて見せる柔らかい表情で言葉を継いだ。

「てめえとは色々あったよなぁ。最終選別で会った時は正直驚いたぜ。他のヤツを何人も助けてた、確かにそう聞いたが、てめえは傷もねえ、服の汚れすらほとんどねえ。化け物かこいつ、そう思ったが。そうかと思えば、隠の真似事なんぞしてやがって。ふざけた野郎だぁ」

「柱合会議でも揉めましたね。不死川さん、あの時は怖かったな……」

倫道が返すと、

「嘘を吐くな。あんな殺気を出しやがって、怖いが聞いて呆れるぜ」

不死川は懐かしそうに言う。柱合会議でやりあったのがもうずいぶん昔のことのようだが、まだ1年も経っていない。

 

倫道は手を差し出した。

不死川も薄く笑い、差し出された倫道の手を握り返した。不死川の顔の痣も消えた。

「落ち着いたら一度俺ん家に来い。あのおはぎ忘れんなよなぁ」

「“ずんだ”のおはぎね」

「そう、それだぁ」

お互いに笑い合う不死川と倫道。

「てめえには……まあ感謝するぜ。ありがとなァ、倫道」

「……!」

不死川が不意に照れくさそうに語った思わぬ感謝の言葉に、倫道は驚きと嬉しさで胸がいっぱいになり、

「俺も……。じゃあ、また」

やっとのことでそう返した。

(ああ、またそんなに嬉しいことを……目から鼻水が堪え切れないよ……俺も2人に会えて良かった)

上を向いて涙を堪えながら、倫道は背中を向けゆっくりと去って行った。

 

(俺はみんなを救済してるつもりになってた。だけど違った。みんなは俺を仲間として迎えてくれて、信頼してくれて、褒めてくれて。本当はみんなに救われてた。俺が救済されてたんだな)

倫道は気付いて、感謝した。

不死川も痣の消えた右頬をさすりながら温かい気持ちになったが、去っていく倫道の姿に違和感を覚える。

(あいつ……顔色が悪いなぁ)

 

倫道は、今度は義勇としのぶの元へと歩み寄っていく。

(痣の力を……奪うんだ。一人残らず)

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