通常は主人公視点、戦闘場面は第三者視点です。主人公が関与しない場面でも第三者視点となりますが、視点主は時々入れ替わります。
「もうお前に教えることはない」
ある日、鱗滝さんに言われて大岩の前に連れて行かれた。
「この岩を切れたら、最終選別に行くのを許可する」
そう言うと、鱗滝さんはその場から姿を消した。この日がやって来たか。
岩かぁ……。岩って斬れるの?刀で?普通そう思うよね。やってみよう。全集中。ただ一点にすべての力を集中させ、爆発させる。
思い切り刃を叩きつけるが、岩の表面が少し欠けただけ。実家でウエイトトレーニングを導入したおかげでパワーアップしたが、やはりそれだけでは足りない。
原作では錆兎が登場して鍛えてくれるんだよな、と思っていると、
「錆兎?」
俺は変な声を出してしまった。杖を突いた錆兎がいたからだ。帰って来たの?
「俺が稽古をつけてやろう」
こうして、修行の総仕上げとして錆兎の訓練を受ける事となった。
「お前はほぼ出来ている。あと一歩まで来ているが、まだ足りないものがある」
厳しいな、錆兎。極限の集中を求められる厳しい稽古。教えられた剣技を、戦闘の中で100%活用する術。
杖をついた師匠に主人公が鍛えられる。なんか見た事あると思ったら、ウルトラセブンに鍛えられるウルトラマンレオだ。ルーキーであったレオが、傷ついて戦えなくなったセブンにこれでもかと鍛えられる。幼少の頃テレビで見て怖かったな。
それはさておき。錆兎に鍛えられて約1か月。ついに、あの大岩を斬ることが出来た。俺は次回の最終選別に行けることが決まった。いよいよ最終選別だ。
「お前は儂が心血を注いで育てた。本当にすごい子だ」
鱗滝さんは初めて褒めてくれて、厄徐の面を授けてくれた。
「ようやく男の顔になったな」
錆兎もこれ以上無い褒め言葉をくれた。厄介な異形の鬼がいる。気を付けろ、そうアドバイスもくれた。
大丈夫、これ以上の犠牲を生まないためにも手鬼は俺が処理する。
岩を斬ってから選別までの間に、錆兎にお願いして作った、数十倍に強化した狭霧山の罠の数々。それらを使ってのディフェンス練習を徹底して行い、最終的には目隠しで行う。自分に向けられた殺意はもちろん、自分を攻撃する意思を持たないものですら避ける神技的ディフェンス。この世界じゃなければ絶対不可能だな。
新たなチートを身に着け、鱗滝さんから日輪刀も借り受けた。そして隠し武器としてあのナイフも大腿部に忍ばせ、いざ出陣。
藤襲山の中腹には、20人弱の受験者がいた。みんな年端も行かぬ子供ばかりだ。俺も外見はそうだけど。
その中で、顔に幾つもの傷があり、一人だけギラついた眼をして、周囲を威圧するようにただならぬ雰囲気を放つやばい少年がいた。今はあいつには近づかないでおこう、そう思った俺は目を合わせないようにすぐにその場を離れた。
鬼殺隊入隊への最終選別。合格の条件は、この藤襲山で7日間生き残る事。俺の7日間のサバイバルが開始された。
強化五感を使い、手鬼を探しながら他の受験者を助け、4日目。遠くで僅かに叫び声が聞こえた。
その方向に走る。この気配は。
俺はある細工をしてから厄徐の面を被り直して更に接近し、遂に手鬼と遭遇した。
襲われていた受験者を逃がし、面を被ったまま手鬼と対峙する。
「また来たな、俺の可愛い狐が。おい狐小僧、今は明治何年だ?」
手鬼は俺の厄徐の面を見て、ニタリと気味の悪い薄ら笑いを浮かべて話しかけてきた。
「今は令和時代だ!」
俺はすかさず嘘を教える。
「令、和あああ?年号が!年号が変わってる!また俺がこんな所に閉じ込められている間にいいい!鱗滝め!鱗――」
手鬼が怒り、叫ぶ。もうどこに怒りスイッチがあるのか分かんないな。年を聞かれたから言っただけだろう。嘘だけど。
「そうか!お前は鱗滝さんに捕らえられたんだな!それでこの厄徐の面を目印に、鱗滝さんの弟子を殺すと決めている訳か!」
俺はそれに割って入り、先回りしてあらかた言ってやった。
「お、おう、そうだよ。11、12、13。で、お前で14だ」
調子が狂ったのか手鬼はちょっと言い淀んだが、またアニメで見たまんま煽り始め、指折り数えている。手がたくさんあって数えやすそうだな。
「その面をつけているせいで、みんな俺の腹の中だ」
話し相手がいないのかいろいろ教えてくれるが、それはもう知っているのだよ。俺は反撃を開始する。
「お前、つまんない嘘つくね。お前が喰ったのは12人。13人目は喰ってないだろう?それに、獲物を取り逃がした間抜けな鬼がいるらしいな」
俺のセリフに手鬼はぎょろりと目を見張り、やがてまた憤怒の表情となった。
「あの変なヤツが横取りしやがったああ!あいつさえいなければ。あいつめええ!!――おい小僧、何で知ってる?」
ふと冷静になり手鬼が問いかける。
「何でかって?そりゃあお前……」
俺は含み笑いをしつつ、ゆっくりと厄除の面を頭の後ろへ回し、あの黒覆面を被った顔を晒した。
「その変なヤツは、こんな顔だったかい?」
変態仮面参上!黒覆面が見えるかどうか心配したが、この世界では夜の暗闇でも肝心なところははっきり見えるのだ。俺の変態機動を見せてやるぜ。
「久しぶりだな。また会えて嬉しいよ」
俺が止めの煽りを食らわすと、怒り狂った手鬼のパンチが殺到し、戦闘が始まった。
倫道は無数に生えてくる手鬼の腕攻撃を躱し、足場にし、様々な方向に跳躍。着地と同時にさらに跳躍し、上下、左右と立体的な軌道で本体に斬撃を浴びせ続けた。近い間合いにもかかわらず、手鬼は全く攻撃が当たらないことにいら立ち、より多くの腕を一気に向けて来る。
倫道は腕と本体とのスペースに入り込み、襲い来るパンチを蹴って一気に距離を詰め、頸を狙う間合いに入った。
(間合いに入られた!)
手鬼は一瞬焦ったが、
(大丈夫だ、俺の頸は硬い。あの宍毛のガキでも斬れなかった。頸を斬り損ねたところで!)
思い直して頸の防御を固め攻撃を待ち構えた。しかし、倫道は突進する勢いそのままに脚のナイフを投擲、ナイフは頸を守っていた手鬼の眉間に突き立った。その柄を蹴り込んで頭蓋骨を貫通させ、倫道は空中に跳んだ。
「ガッ!」
手鬼の短い悲鳴が漏れた。脳の一部が損傷し、手鬼の視界が暗転する。
数秒後、手鬼が再び視界に捉えたのは、月を背に、既に自身の目の前まで落下していた倫道のシルエット。
(この姿は……っ!)
手鬼は、迫りくる倫道にかつて自分を捕らえた鱗滝の姿を重ねていた。その口からは鱗滝と同じ、あの忌々しい呼吸音。
「水の呼吸 壱ノ型・水面斬り!」
倫道の刃は、易々と手鬼の頸を刎ねた。
「くそおおお!体が崩れて消えて行く!最後に見るのが鬼狩りの顔だなんて!しかもこんな……ああああ!」
転がった頸が恨めしそうに、泣くように叫ぶ。
あっそうだ。覆面脱ぐの忘れてた。
俺は手鬼を煽るための覆面を脱いで、手鬼の頸に近づいて行った。炭治郎君ほどの嗅覚は無いから、匂いで感情は分からない。しかし、人間だった頃の記憶を蘇らせ、鬼になった自らの運命を嘆く手鬼の悲しみは分かる気がした。
回想シーンで、兄ちゃんに手を握ってもらってたな。
俺も手を握っていてやるから安心して逝きな。次に生まれて来る時は、鬼になんかなるなよ。
それと今は明治40年だ。さっきは嘘ついてごめん。
手鬼はぽろぽろと涙をこぼしながら、灰化していった。
俺は手鬼に殺された子供たちにも、心の中で報告する。
倒しました。どうか、成仏して下さい。