【ほのぼの鬼殺隊生活】の主人公水原倫道が、鬼滅の原作世界ではなく【野良着の隊士】の世界に転生していたら、というIFの物語。水原倫道、(許可を得て)野良着の世界に乱入。
【野良着の隊士】×【ほのぼの鬼殺隊生活】=コラボ作品・『野良着の世界にほのぼのを』
【野良着の隊士・改編】について
主人公は蓬萊斗和(ほうらいとわ)。
1904年、明治三十七年。
東北地方のある村で、八人の家族が住む家が何者かに襲われた。大量の血痕が残されていたが、住人の姿は無かった。
十二歳の少女、蓬萊斗和(ほうらいとわ)は近所に住む農家の娘だった。夜明けと共に起き出して働いていた彼女は、偶然この凄惨な光景を目にし、家中に充満するむせ返るような血の臭いにめまいを覚えたが、同時にある疑念を抱いた。それを確かめるべく以前訪ねた隣町まで走り、ある家の前まで来ると思い切って中に声をかけた。表向きはごく普通の商家だが、藤の花の家紋が入ったその暖簾には見覚えがあった。
「あら?お嬢さんは鬼殺隊のかたではないようね。どうしました?」
中から女が出て来て、隊服を着ていない斗和を見て訝しんだ。
きさつたい。女は確かにそう言った。そしてここは、ふじのはなのかもんのいえ、だ。
記憶はさらに蘇り、疑念は確信に変わる。
あの血だらけの家。あれは熊の仕業じゃない、鬼だ。
鬼殺隊、藤の花の家紋の家。間違いない。
――頭の中に蘇るのは、自分が令和の世で生きており、鬼滅の刃を読んでいた記憶だ。そして、自分は鬼滅の刃の世界に転生したのだと気付く。
隣家を襲った鬼はおそらく退治されていない。そもそも人喰い鬼がいるこの世界では、安全な場所などどこにもないのだ。これから起こることを知りながら、何もせずにのうのうと暮らすなんてできない。
登場人物たちを、特に煉獄杏寿郎を死なせたくない。原作漫画を読んでいて特に強く印象に残ったのが、煉獄杏寿郎の勇姿だった。
ならば、為すべきことは一つ。
鬼殺の剣士となって戦うため、斗和は生まれ育った家を後にして、遥か東京へと歩き始めた。
斗和は当代最強の剣士である岩柱・悲鳴嶼の使う”岩の呼吸”を習得すべく励むが、女性であるが故に絶対的な筋力が足りず、どうしても習得できず悩んでいた。しかし畑仕事での土を耕す動きからヒントを得、”土の呼吸”を派生させ、最終選別を通過する。
斗和は土の呼吸を拾ノ型まで作り上げ、鍬(クワ)に似せた重く大きな特殊日輪刀を使うことでその威力と精度を高め、剣士として鬼と戦う。
人を救いたいが、自分が介入して物語を変えるのは良いことなのだろうか?
誰かを救った反動で、思いもよらない悪影響が出るのではないか?
そんな恐れを抱きながらも強くなり、鬼との戦いを繰り広げていく。そして、煉獄杏寿郎に憧れを抱きながらも不死川実弥と恋に落ちていく。互いに思いを寄せる不死川と斗和だったが、斗和は心臓に病を抱えていた。激しさを増す戦いの中、次第に病は進行し、症状は増悪(ぞうあく)する。根本的治療のないこの時代、体に負担をかけずに過ごすことが一番の治療法であったが、彼女は最後まで戦い続けることを選択し、そして……。
”ほのぼの鬼殺隊生活”の主人公・水原倫道は、前世で”野良着の隊士”を読んで、その切なすぎる展開に胸を痛め、主人公の蓬萊斗和を救いたい、そう思っていた。
そんな甘く切ない二次創作の物語の世界に、全てを知っている水原倫道が転生していたら、というもしものお話。
主人公の斗和と登場人物たちがほのぼのと平和に生きていけるように。悲しい結末を回避するために。
水原倫道はこの世界で頑張る。
第一話 野良着の隊士の世界へ~彼岸花と夕日~
時は1906年、明治三十九年。
「雲取山周辺に鬼の出現情報あり。速やかに討伐せよ」
指令を受けたのは一風変わった鬼狩りの少女。
少女が使う技は、岩の呼吸から派生させた”土の呼吸”。詰め襟の一般隊服ではなく、野良着のような隊服に、頭には手拭いでほっかむりという出で立ちだった。少女は鍬(クワ)に似た重く大きな特殊日輪刀を背負い、雲取山を目指して飛ぶように走っていた。
森の木立が途切れ、空が見える開けた場所。一面に咲く花の中に、ひと際目立つ色合いが不意に出現した。十四歳の少年・水原倫道は、その神秘的な美しさに息を呑み、ただ見つめていた。
目覚めの日。倫道にとって、それは忘れられない日になった。
強い陽射しは夏の名残を留めるが、時折吹く風は涼しく、秋の訪れを示していた。
十四歳の少年・水原倫道は、その日朝早くから家の近所にある雲取山に入っていた。山の中のひんやりした空気を心地良く感じながら、小川や木の根を飛び越え、夢中になって草花や生き物などを見ているうちに、いつになく山の奥の方まで入ってしまった。今までに何度も来ている山だったので迷うはずがなかったのだが、その日に限ってなぜか道に迷った。そして随分と歩いて疲れを覚えた頃、周囲に花が咲いていることに気付いた。進むにつれて花は密になり、木漏れ日に照らされて咲き乱れる花は美しかった。倫道はこんなにたくさんの彼岸花を今まで見たことが無かった。
(花を象徴する言葉があるって聞いたことあるな。花言葉って言ったっけ?彼岸花の花言葉って何だろう?)
明治初期に日本に入って来たとされる花言葉だが、彼岸花の花言葉の一つが“転生“であることを、もちろん倫道は知らない。
鮮やかに咲き誇る赤い花を見て、倫道がそんなことを思い出しながら歩いていると、やがて来たことがない場所に辿り着いた。
まばらになっていた木立が途切れ、開けた空から眩しい陽射しが降り注ぐ。その光景を見ていると、さらに驚くべきことが起こった。あふれる光の中、一面の赤い絨毯の中に青い炎がポツポツと現れ、ゆっくりと燃え広がっていった。
赤い彼岸花の中に青い花が咲き出したのだ。それは青い彼岸花の群生だった。
倫道は、その神秘的な美しさに息を呑み、ただ見つめていた。
ここは青い彼岸花の存在する世界。
(青い彼岸花……?こんな花は今まで見たこと無いぞ)
その美しさに見入っていたが、花はわずかな時間ですぐに閉じてしまった。空の端っこに一条の煙が見え、顔見知りの炭焼きの家族の家がここからそう遠くないことを示していた。
倫道は他の場所にも青い彼岸花がないか探したが見つけることはできず、夢中で探し歩いて気付くと、森はまた深くなっていた。
最近周囲でも物騒な噂を聞くようになり、暗くなる前に家に帰りなさいときつく言いつけられていた。町はまだ夕焼けで十分明るい時刻だが、山の中の日暮れは早い。うっそうと茂る木々の間から差し込む陽の光は心細くなり、辺りは急に薄暗く、闇が迫っていた。
雲取山に現着した鬼狩りの少女は脚を緩め、鬼の気配を探りながら周辺を歩く。やがてわずかな気配を察知すると、背中の武器に巻いてあった鞘代わりの麻袋を外した。刃が薄闇に鈍く光り、少女はその変わった形の武器を構えながら再び脚を速めた。
ここは青い彼岸花の存在する世界。そして、人を喰らう鬼がいて、それを狩る者たちがいる。そんな世界に生きていることを、倫道はまだ知らなかった。
倫道が慌てて森を出ようとしていた時、”鬼”と遭遇した。
「うまそうなガキだなぁ……」
明らかに人間でないモノが、倫道を見てそう言った。不気味に笑った口元から覗く牙と、長く鋭い爪がはっきりと見えた。倫道は逃げようとして転び、悲鳴を上げて地面に這いつくばったまま頭を抱えた。
土の呼吸 壱ノ型・土龍爪(どりゅうそう)!
凛とした、少女の声が響いた。
何者かが倫道の傍を風のように走り抜け、ギャッという断末魔の悲鳴と、バキリと骨を砕くような音が同時に響いた。
数秒の後、ドサッと何かが地面に倒れる音がした。倫道は恐る恐る顔を上げて周囲を見渡すと、頸から上を吹き飛ばされ消えていく化け物と、こちらに背中を向けて立つ、野良着姿の華奢な人影があった。頭に手拭いでほっかむりをして、手には鍬(クワ)のような物が握られていた。
(女の人……近所の農家さん?さっきの声は、この人?)
近所の農家さんが、悲鳴を聞きつけて助けてくれたのか?そう思ったが、その人が持っているのは、普通の鍬より刃の部分が一回りも大きく、刃先は鋭利で茶色く染まっている。そして、相手は人間ではない、化け物。聞こえた音は一回。ただの一撃で化け物の頭を飛ばして絶命させる一般人など、そうそういるはずがなかった。
(この人が助けてくれた?)
命を救われた倫道は、この場にそぐわない人物の背中を見つめた。
「大丈夫ですか?」
視線を感じたのか、野良着の人は頭のほっかむりを取り、振り返って倫道に声をかけた。
(えっ?)
倫道は、思わずその人を凝視してしまった。その人は、自分と同じ位の年齢の可憐な少女だった。ただ、あどけないその顔には、顔の真ん中、鼻から左の眼の下を通り、左耳の近くにまで走る大きな横一文字の傷があった。
倫道は数秒間少女の顔を見つめてしまったが、とても失礼な事をしていると気付いて慌てて視線を逸らし、丁寧に礼を言った。
「怪我は無いですよね?間に合って良かったです。……この辺はまだ危ないから、山を出るまで私の後を付いて来てください」
少女はそう言ってもう一度ほっかむりをすると、倫道にくるりと背を向けて走り出した。
「えっ?は、はい!」
倫道も慌ててその背中を追いかけて走り出した。よく通る登山道の方向は何となく分かったが、まだあんな化け物がいるのでは、という恐怖もあり、少女のお団子に結った髪を見ながら必死にその背中を追った。少女は山の中をまるで平地のように大変なスピードで走り、時々振り返りながら倫道を先導してくれた。途中、ほっかむりをしていた少女の手拭いがはらりと解け、倫道は走りながらそれをキャッチした。少女は気付かずに走り続け、倫道はまた必死に後を追った。
山の入り口付近はまだ少し明るく、たくさんの赤い彼岸花が夕日に照らされて咲いていた。もうすぐ登山道の入り口というところで少女は振り返り、
「ここまで来れば安心ですね。気を付けて帰ってください。それじゃ」
そう言ってお辞儀をし、立ち去ろうとした。
「あ、あの!……これ」
倫道は少女が落とした手拭いをおずおずと差し出した。
「ありがとうございます……」
少女は手拭いを受け取ってまたぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ、助けてくれて本当にありがとうございます」
倫道はもう一度お礼を言って、夕日に照らされた少女の姿をはっきりと見た。あどけないが目鼻立ちの整った顔、痛々しい大きな傷。倫道が真っすぐ見つめると、数秒間視線を合わせた後、少女は恥ずかしそうに目を伏せた。長い睫毛によって瞳が憂いの色を帯び、気まずくなって倫道も視線を足元に落とした。
「鬼狩り様……ですか?」
何でもいいからもう少しだけ話していたくて、倫道は勇気を出して顔を上げ、そう聞いた。
少女も顔を上げ、恥ずかしそうに頷いてまたお辞儀をし、手拭いで顔を隠しながら今度こそ走り去ってしまった。
「あの子が鬼狩り……」
助けてくれた少女は去った。倫道は、今しがたの鮮烈すぎる出来事が現実なのか幻なのか分からなくなった。痕跡は何一つ残ってはいない。だが、自分の口から出た言葉が不思議だった。
鬼狩り、とは?
鬼を狩る者。言葉の意味は分かる。鬼という架空の化け物、それを狩る者のことだろう。だが今まで生きてきて、そんな言葉を耳にしたことがあっただろうか?自分の口から出たその言葉が不思議に思えたが、どこかで確かに聞いた気がしていた。
唐突に、前世の記憶の奔流が巻き起こり、全てを思い出した。
令和の世に生きる五十歳の中年男だった倫道。令和三年春のある晩、仕事で疲れ切って帰宅し、倒れるように眠りに落ち――それきり記憶は途絶え、明治時代で少年として生きていた。
青い彼岸花の存在する世界。人を喰らう鬼がいて、それを狩る者たちがいるこの世界。自分はこの世界を知っている。今まで生きていたはずの世界で読んでいた”鬼滅の刃”という大好きな漫画の世界。
(転生、というやつだろうか)
倫道は悩んだ。
物語とは無関係に平穏に過ごすか。それとも原作に関わり、命を危険に晒しながら鬼を倒し、人を護るか。
原作漫画を読んでいる時も思っていた。少しでも登場人物を救いたい。人々が理不尽にその命を脅かされることなく、ほのぼのと平和に生きて行けるようにしたい。自分がその世界にいるのなら、頑張ることで救える命があるのではないか。しかし、それは同時に自分の命を懸けることでもある。
数日後。
意志を固めた倫道は、父の前に正座して願い出た。
「父上、お願いがあります。鬼殺の剣士になるため、家を出てある方に弟子入りして、剣の修行をすることをお許しください!」
思い切ってそう言って、頭を下げた。前世を思い出したことは告げず、鬼に襲われたところを助けられたので、自分も人のために鬼を狩りたいからと説明した。
「鬼殺の剣士になるということは、常に死と隣り合わせになる。その覚悟はあるのか?」
倫道の父は考え込み、そして言った。
「……はい」
「倫道、私からも話しておくことがある。お前の父と母は、お前が物心つく前に鬼に殺された。縁あってお前を引き取り育ててきたが、鬼の事からは意識的に遠ざけてきた。お前まで殺されないようにと願ってのことだ」
この子もいつか、鬼と戦うことになるのではないか。戦いに赴くこの子を送り出す日が来るのではないか。心配はしていたが、余りにも早くその日は来てしまった。
だがこれも運命なのかもしれない。倫道の父はそう考え、ため息をついた。
「話は分かったが、誰に弟子入りするんだ?」
「狭霧山に住む、鱗滝左近次という人です」
「鱗滝、そうか。……しっかり修行して、そして……。必ず生きて戻って来なさい」
自分の為すべきことを為す。決意を宿した倫道の目を見て、父はそう言う他なかった。
倫道は両親にしばしの別れを告げ、鱗滝左近次に弟子入りするため、狭霧山に旅立った。
登場人物が死なないように。人々が理不尽にその命を脅かされることなく、ほのぼのと平和に生きて行けるように。この世界で精一杯頑張ろうと、その一歩を踏み出した。
だが倫道は、ここが”鬼滅の刃”の世界ではないことにまだ気付いていなかった。それに気付くのは、もう少し後のお話。
続きます。この後、原作キャラや野良着の隊士に登場するキャラ等と絡み、だんだんと原作の時間軸へ入ります。
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