ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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第二話 鬼狩りの道へ

 鱗滝左近次。

 鬼殺隊元水柱にして、現在は水の呼吸の育手として剣士の育成に当たっている。その鱗滝のもとを一人の少年が訪ねてきた。これは異例のことであった。ここへ来るのは、通常鱗滝自らが助けるか、隊士の誰かの紹介だ。だがこの少年はどちらでもなかった。

 誰の紹介も無く突然やって来た十四歳の少年に、鱗滝は最初入門を許さなかった。前の年も、錆兎と義勇という二人の少年を最終選別に送り出した。だが合格した、つまり生きて帰って来たのは義勇一人だった。育てた子供たちが帰って来ない事が辛く、弟子を取るのを止めようと考えていた時でもあった。しかし倫道は諦めなかった。試しに課された山下りも時間ギリギリで何とか突破し、鱗滝は仕方なく水原倫道を弟子にすることにした。

 

 倫道は意欲的に学び、日課の修練の後も復習をこなした。その上、アクション映画や特撮、その他漫画、もちろん鬼滅原作などフィクションから、パルクールや体操競技、格闘技などの現実の動画も、覚えている限りの動きや技を参考に自己鍛錬を行った。

 

(ここは漫画の世界。現実世界でなし得ないことも必ずできる!訳の分からん訓練でも何故か強くなれる!常識では考えられない訓練法でも、リターンは大きいはずだ!)

 そうして身長も伸びて体も見る間に逞しくなり、鱗滝の罠の数々を髪の毛や衣服にわざと掠らせて紙一重で避ける、神業的ディフェンス力も身に付けていった。

 

 修行は順調に進み、あの課題がやって来た。

 

「もうお前に教える事は無い。この岩を斬れたら、最終選別に行くのを許可する」

倫道は鱗滝に大岩の前に連れて行かれ、こう言われた。

 

(ついに来たか。しかし、斬れる気がしない……)

何度か岩に斬りつけてみたが、岩は刀を弾くだけだった。

 

(発勁で内部に力を伝えて岩を割って、それで誤魔化したらだめかな?でもこんなに大きな岩じゃ無理か)

倫道が考え込んでいると、周囲にはいつの間にか霧が立ち込めていた。

 

「何を難しい顔をしている?男なら考え込んでいないで挑め。斬って見せろ」

倫道の頭の上から突然声が響く。気配も無く、狐の面を被った少年が大岩の上に立ち、木刀を担いで倫道を見下ろしていた。

 

(錆兎!ああ、救えなかったんだ。俺は、遅かったんだな)

倫道はその姿を見て唇を噛む。

 

「立ち止まるな、進め!男に生まれたのならば、前に進む以外の道など無い!」

錆兎は軽やかに大岩から飛び降りざま、飛鳥のような速さで打ち掛かって来た。

 

 今ここに居る錆兎は、この世の者ではない。死んでいった子供たちの無念の思いが結集して実体化し、倫道を選別合格へ導こうと手解きをしているのだ。倫道は原作を読んで分かってはいた。しかし木刀の一撃一撃は重く、打ち合って伝わるその衝撃は現実としか思えなかった。

 錆兎との立ち合いで、倫道は全力を出しているつもりだった。しかし、もう一歩も動けないと思ってからでも実はまだまだやれることが良く分かった。人間の脳は、自分の体を守るために勝手に限界を設定してしまうのだ。だが意識してそのリミッターを解除しなければ本当の意味で訓練にはならない。倫道は、自分自身が無意識に設定した限界を破れずにいることを再確認させられた。

 

 不利な状況からさらに強い力を発揮して逆転する。そんなことは現実世界ではほとんど不可能だ。勝てる相手ならばそもそもピンチにはならない。またはピンチにならないうちに持てる力を出した方が助かる確率が高いだろう。

 全く力が残っていないはずの状態からでも逆転できると信じること。必ず勝つ、生き残る。信じる心の強さが、不可能を可能にする。――それがヒーローなのだ。

 

 錆兎に挑み続けること一週間。

 

 倫道は、自分自身の心が作り出した偽の限界点を突破し、現実世界の常識に囚われた心の殻を破り、この世界で初めて全力で戦った。

 

 そして、錆兎を倒し――大岩を斬っていた。

 

「お前を行かせるつもりは無かった。だがお前は本当に頑張った。良くやった。……お前はすごい子だ。最終選別に行くのを許可する」

鱗滝は、倫道を厳しく鍛え、優しく見守った。その師匠に頭を撫でられ、認められた嬉しさに涙しながら倫道は修行を終えた。

 約一年間の修練の総仕上げが終わり、十五歳になった倫道は最終選別へ行くことを許可された。

 

 最終選別でやるべきこと。合格は当然として、手鬼の処理があった。

 

(手鬼は俺がここで必ず倒す。これ以上無駄な犠牲は出さない!)

倫道は決意し、藤襲山に向かった。

 

 一年中藤の花が乱れ咲く藤襲山のその中腹に、鬼殺隊士を志す少年少女およそ二十名がいた。この山で七日間生き残ること、それが合格の条件。こうして鬼殺の剣士になるための第一歩、最終選別がスタートした。

 他の受験者を助けながら手鬼を探し、最終日の夜。倫道はついに手鬼と遭遇した。手鬼はいやらしく煽って来るが、倫道は手鬼をすんなり倒し、殺された者たちの無念を晴らした。

 

 七日間を生き抜いて藤の広場に戻るとそのほとんどが生存しており、倫道はホッとした。そして、選別を生き抜いた者たちに説明がなされていく。鬼殺隊剣士の階級、隊服の支給、そして鎹ガラス。上空が鳴き声でやかましくなり、たくさんのカラスが現れた。カラスたちは隊士一人ひとりの元へやって来た。倫道のところにも一羽のカラスがやって来て、倫道が左腕を出してやるとカラスはそこに止まった。

 

(おお、これが鎹カラス……これ本当に喋るのかな?)

興味津々の倫道は、カラスをツンツンしてみたが特に反応は無く、喋り出す様子もない。

 

「……」

そっぽを向いているカラスを倫道はさらにツンツンする。

(無視か。ならば)

明治のおでんツンツン男、ならぬカラスツンツン男。

 

「……ッ」

うるさそうにじろりと睨むカラス。面白くなって更にツンツンしていると、とうとうカラスがぶち切れた。

 

「カアーッ!ウゼエッ!話シ聞ケ、クソガキ!面倒見テヤラネェゾ!」

(本当に喋った!だけどガラ悪いなー。まるでチンチラ、じゃなくてチンピラみたい。カラスってチェンジできないのかな?)

などと考えていた倫道であったが、

 

「アホーッ!」

鎹カラスは怒って飛び去ってしまったが、そのうち帰って来るだろうと倫道は呑気に構えていた。

 

 その後玉鋼を選び、隊服の採寸を恙なく終えた倫道は師の鱗滝に合格を報告すべく、狭霧山へと帰って行った。

 

 最終選別から三週間以上が経過した。

 

(おかしいな、原作では十五日くらいじゃなかったか?刀鍛冶さんいつ来るのかな?)

倫道は、ここ狭霧山で依然待機中だったが、日輪刀がなかなか届かない。倫道は不思議に思ったがさらに待ち、選別から一ヶ月近く経ってようやく待ち人が来た。深編笠にたくさんの風鈴をぶら下げた何とも奇妙な風体の男が狭霧山の倫道を訪ねて来た。

 

「俺は刀鍛冶の鋼鐵塚だ。水原倫道の刀を打ち、持参した」

原作に登場する鋼鐵塚が、低く落ち着いた声で名乗った。道中何かあったのか、疲れた様子が見えた。

 

「鋼鐵塚さん、お待ちしておりました。さあ、中へどうぞ」

原作キャラの登場に嬉しくなった倫道だったが、長い口上に付き合うのが面倒になり、そう言ってさっさと小屋の中へと案内しようとした。

 

「お待ち……していた?そりゃあ、待たせやがって、ということか?」

鋼鐵塚の雰囲気が変わる。

 

「えっ?いや、あの、決してそのような意味ではなく」

慌てて謝る倫道だったが、遅かった。

 

「てめえ!刀一本打つのにどのくらいかかると思ってんだ!……いや、いいんだ、死んだヤツが居なくてそりゃあ結構だが、二十人も合格しやがって!おかげでこっちは刀二十本手分けして打つんだぞ!!もう朝から晩まで!時には徹夜で!!打って打って打ちまくって!!ふざけんな!!」

ちらりと見えた鋼鐵塚のお面の下の素顔は、目の下に濃い隈ができてゲッソリとしていた。

 

(うわあ!色変わりの前から地雷踏んだ!殺される!!)

鱗滝が出てきて取り成し、倫道も必死に謝って何とかその場は収まり、鋼鐵塚はやっと小屋に入った。

 

(この段階で追いかけられるって、俺ぐらいじゃないか?)

倫道はこの先がさらに不安になった。

 

「お前、鱗滝の自慢の弟子だって言うじゃねえか?鮮やかな色変わりを見せてくれよ。透き通るような青か、海のような深い群青か……。さあさあ、抜いてみな」

 やっと落ち着いた鋼鐵塚は、さっきとは打って変わって倫道に期待を込めて話しかけている。

 

(やだなー、怖いなー怖いなー……。どーも嫌な感じがする……。もし黒刀になんてなったら……。うわー出そうだなーやだなー)

倫道は稲川淳〇の怪談を思い出しつつ、嫌な予感がしていた。 

 

「日輪刀は別名”色変わりの刀”と言って、持ち主によって色が変わるんだ。強い水の剣士ってのは、刀も美しいんだぜ。どうした、早く抜いてみろよ」

水の呼吸一門の見事な色変わりを期待する鋼鐵塚は、上機嫌で倫道を促した。

 

 倫道は体を捻って鋼鐵塚から刀が見えないようにし、まずは根元の部分だけを少し抜く。

 

(げえっ!!)

予感が的中した。二、三秒間見ていただけで、刀の根元が黒く色変わりし始めたのだ。

倫道は素早く刀を鞘に納めて背中に隠し、鋼鐵塚に向き直って愛想笑いを浮かべた。

 

「おい、見えねえぞ。もったいぶってないで早く抜けよ」

怪訝そうな表情の鋼鐵塚がさらに倫道を促す。

 

「きょ、今日は、くっ、曇っているんで、日を改めた方が良いかも」

顔を引きつらせながら倫道は妙な言い訳をした。冷たい汗が倫道の背中を伝う。

 

「雲一つない晴天じゃねえかよ。それに色変わりに天気は関係ないだろう。早く抜け」

既に結果を見抜いている鱗滝は特に何も言わずに見ている。鋼鐵塚は早く刀身を見せろと迫り、倫道は訳の分からない言い訳をして何とか刀身を見せないように誤魔化そうとしていた。押し問答が続いたが、鋼鐵塚は急速に機嫌が悪くなっていく。

 

「おい!早く抜けって言ってるだろう!俺は忙しいんだ!」

ついに鋼鐵塚に怒鳴られ、倫道は情けない顔で刀を鞘から抜いた。

 

「黒……!」

鋼鐵塚は呟く。現れたのは漆黒の刀身だった。

 

「黒い、な」

鱗滝も呟く。倫道は恐る恐る鋼鐵塚を盗み見た。

 

「黒とは珍しいじゃねえか。滅多に拝めない色だぜこれは」

鋼鐵塚の意外過ぎる言葉に、倫道がえっ?と顔を上げた。

 

「……とでも言うと思ったか?」

怒られなくて済むかも、という倫道の淡い期待を裏切り、鋼鐵塚のお面の下の目が一瞬ギラリと光る。倫道は観念した。

 

「きえええー!」

鋼鐵塚が頭を掻きむしり、ひょっとこのお面の口から蒸気を吹き出しながら奇声を発して立ち上がる。

「俺は!鮮やかな!青く透き通るような刀身が拝めると思ったのにいぃぃぃ!」

鋼鐵塚は倫道の首を絞め、ガクガクと揺さぶった。

 

「あ!全長十間(約十八メートル)の巨大なみたらし団子がやって来る!」

倫道が玄関の方を指さして叫ぶと、

「何?!どこだ!」

鋼鐵塚の注意が一瞬逸れて首を絞める力が緩み、倫道はこの隙に逃げた。

 

「おい、もういい加減にせんか。……色変わりがどうであれ、この子は必ず強くなるだろう。だが強いだけで生きて帰れるとは限らんのは、お前も良く知っているはずだ。この子の無事を祈ってやってくれ」

鱗滝がそう言ってなだめて土産を渡すと、鋼鐵塚はぶつぶつ言いながらもそれ以上暴れることなく帰って行った。

 

(いよいよ俺の鬼殺隊生活が始まる!人々を護り、仲間を護る。誰も死なせない!)

倫道は自分の使命の重大さに本当の意味で不安になるが、頑張ろうと改めて決意した。

 

 騒ぎが収まると、鎹カラスが飛んできて指令を伝えてきた。

倫道はしばらく見なかったカラスに能天気に話しかけてみた。

 

「元気だったか?よろしく頼むよ相棒!」

先日はウザがっていたが、今日は仕方なくといった調子で応じている。

 

「ショウガネーナ、アタイノ言ウコトヲ良ク聞ケヨ!」

(女の子だったのか……ヤンキーだけど)

倫道は初めて気付き、慌ててご機嫌を取りに行った。

 

「カラスってじっくりと見たことないけど、可愛いもんだな!いやーホントかわいい、まじかわいい」

と多少棒読みだがストレートに褒めた。

 

「マ、マアナ!アタイハリュウソウインツキヨミノミコト……」

カラスはすっかり上機嫌になって名乗るが、

「長い。マスカラスにしよう」

倫道はごく当たり前のように、変な名前を付けた。

 

「何ダヨ、ソレ!」

「アメリカ(の近くの国)の言葉で、“天空の覇者”て意味なんだけど(ウソだけど)、どうかな?」

「ソ、ソウカヨ。ナラソウ呼ビナ!」

 

 まんざらでもない様子のマスカラスを見ながら、

(案外良い子そうだな、マスカラス。苦労かけるかもしれんが頼むぜ相棒!)

倫道はそう呟き、自己紹介した。

「俺は水原倫道だ。よろしくな!」

 

「行クゾ、リンドー!アタイ二付イテ来イ!」

そう言うと、マスカラスは早速飛び立って行った。

 

「本当にありがとうございました!行って参ります!」

倫道は鱗滝に深々と頭を下げて精一杯の感謝と出立の挨拶をし、マスカラスの後を追って駆け出して行く。

 

 倫道は、ここが”鬼滅の刃”の原作世界ではないことにまだ気付いていなかった。

その大いなる勘違いをしたまま、倫道は踏み込む。

いつか自分を助けてくれた少女と同じ、鬼狩りの道へ。

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