館坂佳成(たてさかよしなり)…【野良着の隊士】オリジナルキャラ。斗和の継子で
十七歳。
小野寺夏世(おのでらかよ)…【野良着の隊士】オリジナルキャラ。斗和の家の家事全般、畑の管理をしている。十九歳。
令和…【野良着の隊士】オリジナルキャラ。斗和の鎹ガラス。寡黙。
「頼モー!」
ある朝、斗和の自宅。玄関の方から騒がしい声がした。斗和が見に行くと、玄関先に文を持った一羽のカラスが佇んでいた。
(頼もう!って道場破りじゃないんだから……。あら可愛い、誰のカラスかしら?)
「斗和チャン!手紙!リンドーガ会イタイッテ!」
(と、斗和ちゃん?私、友達だったっけ?それに、りんどーって誰?)
倫道の鎹カラス、マスカラスが翼をバタバタさせながらピョンピョンと跳んで見せて、足に付けた手紙をアピールしてくる。
(朝からテンション高い子!)
斗和はマスカラスの可愛らしい仕草に笑みを浮かべ、手紙を受け取って中身を確認した。
(面会?誰だろう)
斗和は会ったことも無い人物にいきなり面会を申し込まれ当惑した。
(水原倫道十八歳、階級丁。同い歳だけど知らない人よね?何の話しだろう?)
手紙には、少々込み入った話があると書いてある。令和について、という謎の言葉も記されていた。斗和は鎹ガラスに“令和“という名前をつけているが、そのことだろうか、と思った。相手が面会を求めているのに断るのも悪い気がして、何か引っかかるものを感じながらも了承することにした。
「斗和チャン!返事チョウダイ!」
「えっ?は、はい、すみません」
斗和は、返事を催促するという倫道のカラスのやや過剰なフレンドリーさに思わず苦笑した。そして、面会は承知したがしばらく多忙なので、日程は追って決めましょうと返事を書き、カラスに渡した。
「蓬萊斗和は私です。これを水原さんに。えーと、貴方のお名前は?」
「アタイ、マスカラス!斗和チャン、リンドーヲヨロシク!」
倫道のカラスはでかい声で自己紹介までして帰って行った。
(ますからす?変わった名前。同じカラスでも、うちの令和と違って元気良いなあ)
斗和は帰っていくマスカラスを縁側で見送り、いつの間にか戻って来た自分の鎹カラス、令和を横目で見る。途中からこのやり取りを見ていた令和だったが、斗和の視線に気づくとフイッと横を向いてしまった。
(つれない……)
任務以外はほとんどしゃべってくれない令和を寂しく思いながら、斗和はふとある疑念を抱く。
(まさか、令和って年号のこと言ってるの?)
ふとそんな疑念が湧き上がるが、さすがにそれは無いだろう、と振り払った。
斗和は、継子である館坂佳成(たてさかよしなり)にも水原倫道について聞いてみたが、面識は無く人となりは知らないが、珍しい黒刀を使うと聞いたことがあるというだけだった。
面会するつもりの斗和だったが、正式に柱に就任したり、不死川に手合わせを申し込まれたりして忙しく、すぐには面会できなかった。十二鬼月二体を倒したあの任務の後、斗和は柱に就任して”土柱”となったが、実は以前から柱への就任を打診されていた。
自分はそんな器ではない。剣士として実力が足りないし、無限列車の時の杏寿郎のように、他の隊士を統率して戦うこともできそうにない。
そう思って固辞していたのだが、当主の耀哉に強く奨められ、また先日の任務の報告で同席していた不死川にも推され、今回ばかりは断り切れず、柱への昇格を引き受けることになったのだった。
倫道の自宅。
「リンドー!斗和チャン二手紙届ケテ来テヤッタゾ!スグ返事クレタ!」
マスカラスが得意気に、斗和からの返書を見せびらかして報告していた。
「おお、ありがとう。ご苦労様」
倫道はマスカラスを労って早速返書を確認し、面会を承諾する旨の斗和の返書を何度も読み返してニヤニヤしていた。そんな倫道を引き気味に見ているマスカラス。
「リンドー気持チ悪イ」
「うるさいな、いいだろ別に!」
マスカラスにそう言われて怒ったふりをするが、倫道のニヤニヤは止まらない。だが倫道はふと心配になり、マスカラスに確認した。
「お前、蓬萊さんに失礼な事してないだろうな?」
倫道は、何気ない調子でマスカラスに聞いた。倫道は普段、斗和のことは「蓬萊さん」、「土柱(様)」と呼んでいるが、頭の中では密かに斗和さんと呼んでいる。
「シテナイシテナイ!マスカラス、礼儀正シイ!」
マスカラスがすかさず答えるが、倫道は疑わしそうにマスカラスを見つめる。
「ホントか?まさかとは思うけど、蓬萊さんに向かって“斗和ちゃん“って呼んだりしてないよな?」
「ヨ、呼ンデネーヨ……」
視線を逸らすマスカラス。
(目が泳いでる。怪しい……)
倫道はさらに追及する。
「それならいいけど。あと返事を催促したりもしてないな?」
「ウッ……シ、シテナイ」
「あと目の前でフンしたりとか」
「スルワケネーダロ、ボケ!」
「ふーん……」
(あっ、ダジャレになっちゃった。けどこいつ絶対何かやらかしてるな)
倫道はますます疑わしそうにマスカラスを見るが、一計を案じて笑顔に戻る。
「そうか、それならいいんだ、それ聞いて安心したよ。蓬萊さんて優しそうに見えて凄く恐ろしいんだぞ。この前の十二鬼月なんて、頭ぐちゃぐちゃだったろ?それとな、礼儀もちゃんとしないと、カラスでも無礼討ちにしてるからな」
「!」
マスカラスが、ギョッとしたように目をまん丸にして倫道を見る。
「朝から騒がしいとか、手紙の渡し方が悪いとか、馴れ馴れしいとか。二度目は無いらしい」
「……」
マスカラスがキョロキョロと視線を彷徨わせ、挙動不審になる。
「飛んでるカラスを空中で真っ二つに斬っちゃうそうだ。その後、羽根を毟って、足爪の所を引き千切って、焼き鳥にして食っちゃうんだって」
「リンドー……」
「でもお前は無礼なことしなかったんだろ?大丈夫、大丈夫!また手紙書くから、すぐ届けてくれよ」
「リンドー、アタイ……オ腹ガ痛イ」
「そうか残念だな、せっかく虎屋の羊羹を頂いたんだが、お前は食べられないな」
「食ベル!」
「何だ大丈夫じゃねえか。じゃあ食べたらお使い頼むぞ」
「リンドー!アタイヲ殺ス気カ!」
「大丈夫だって、嘘だから(笑)。羊羹もだけど」
「ウ、嘘?!斗和チャンガ怖イッテ嘘ナノカ!!リンドー!テメエ!!」
ギャオウ!とマスカラスが怒る。
「やっぱり斗和ちゃんって言ってるじゃねえか!蓬萊さんは柱だからな?岩柱の悲鳴嶼さんに行冥ちゃんって言わないだろ?風柱の不死川さんに実弥ちゃんって言えるか?とにかく偉い人にちゃんづけはダメなの!分かった?」
「ハイハイ分カッタヨ、分カリマシタ!……トイウ素直ナ心」
(ううむ、あんまり素直じゃない気もするが、まあいいか)
「蓬萊さんは優しいから大丈夫だと思うけど、失礼のないようにまたお使い頼むな」
倫道は脱力しながらマスカラスに声をかけた。斗和が却って親しみを覚え、笑って許してくれることを願うしかなかった。
それから何度か手紙のやり取りをし、日程が決まった。十二鬼月二体を倒したあの任務から一ヶ月以上経ってからのことだった。
いよいよ物語の主人公・蓬萊斗和と倫道の面会が実現することになった。これまで実は二度会っているとは言え、倫道は柄にもなくとても緊張していた。現実世界で物語を読んでいた倫道は、斗和が穏やかで優しい性格なのは良く知っているが、きちんと対面して話をするのは初めてだ。その穏やかな人に初対面で悪い印象を与えては、救うどころか今後近づくこともできなくなる。それに、なぜ転生者だと気付いたのか、上手く説明しないと不自然に思われてしまう。事実を上手く隠して、どう切り出したものか悩んでいたが、結局”令和”で気付いたことにしようと決めた。
そして倫道は、最後までネタばらしはしないことを決めていた。それを告げるのは、本当の最後。全てを解決したら、この世界は貴方の物語なのだと告げるつもりだった。
(本当に家の周りに畑があるんだな。すごい広さ!)
柱への就任を機に、斗和の自宅は土柱邸と呼ばれているが、その土柱邸が近づいてくる。倫道は緊張を紛らわすように周囲を眺めたが、土柱邸は遠くからでも目立っていた。生垣に囲まれた畑の中に一軒家が建っていて、その畑の広さに倫道は驚いた。
玄関で声をかけると、若い女性と大柄な隊士が倫道を出迎えた。斗和の自宅と畑の管理をしている夏世(かよ)と斗和の継子の館坂佳成(たてさかよしなり)だった。
(ああ、やっぱりここは野良着の隊士の世界なんだ)
倫道はそんなことにも感動していた。
「師範、水原さんがいらっしゃいましたよ」
館坂が奥の方に声をかけた。
「い、今行きまーす!上っててもらって!」
明らかに緊張を含んで、わずかに上ずった斗和の声がした。
(ここが斗和さんの家か。いよいよちゃんと会えるんだ!)
いちいち感動しながら客間で待っていると、倫道の緊張はさらに高まる。ふううっ、と一つ息をついたその時、野良着隊服でなく、一般隊服に着替えた土柱・蓬萊斗和が現れた。
「すみません、お待たせしました!蓬萊斗和で……す?」
(ああ……斗和さんに……会えたああ……!)
倫道は挨拶も忘れ、感動に涙ぐんで思わず斗和の黒目がちな瞳を見つめた。あの時の思い出が鮮やかに蘇る。初めて会った時も、倫道は呆けたように見つめ、斗和ははにかんだような、戸惑ったような表情をしていた。
(やっばりそうだ、運命なんだ。あの時俺を助けてくれたのは……)
十四歳の倫道を助けたあの可憐な少女は、美しく強く成長し、今や柱となって再び倫道の前にいる。
「あの……?」
斗和は困惑したが、愛想笑いを浮かべながらこのおかしな人物を観察する。
(何……?大丈夫かなこの人?)
斗和は会うなり涙ぐむこの男のことが心配になったが、斗和の運命を知っている倫道は、生きている斗和に、物語の主人公に会えたことだけで既に胸がいっぱいで、すぐに言葉も出ない状態だった。
初めての出会いから四年の時を経て、必然と言える三度目の出会い。この世界の未来を変える対面が実現した。
(やばい、き、緊張がっ!)
だが大きな感動も束の間、倫道は今度は大きな緊張感に襲われていた。既に変な人認定されているのは確実で、何とか挽回しなければという焦りもそれに拍車をかけた。
「は、はじめまして。蓬萊斗和さん。……あっ、土柱様。私は水原倫道十八歳、階級は丁(ひのと)です。み、みず、水の、こ、呼吸で、ああっ!みみずの呼吸じゃなくて、あの、水の呼吸です。ほ、本日は、面会してくださり、ありがとうございます」
(あれ、緊張してただけ?意外とまともな人……かな?でもめっちゃ緊張してる)
斗和は丁寧に頭を下げる倫道の様子からそう思い直したが、そうと分かると倫道の緊張が斗和にも一気に伝染した。
「あっ、は、はい、蓬萊斗和です。階級甲……じゃない、柱、柱になったんだった。私も十八歳です。土の呼吸を使うんですけど、あ、土の呼吸と言うのはですね、岩の呼吸から私が派生させたもので、最初は岩の呼吸が良かったんですけど、師匠がお前には岩の呼吸は無理だって言うから、あ、師匠っていうのは、熊みたいなおっさんなんですけど……」
ガチガチに緊張し、ぎこちない挨拶を交わす転生者二人。カミカミになる倫道とどうでも良い事をしゃべり出す斗和。お互いに尋常でない強さを持ちながら、異性への耐性が極めて低い者同士の、ド緊張の面会が始まった。
(なんだか良さそうな人じゃない?)
(そうだな、だけど何やってんだあの二人、大丈夫かな?)
ふすまの隙間から、夏世と佳成がそっと覗いている。夏世と佳成は恋人同士であり、共に斗和の心配をしているのだった。斗和と倫道は正座して向かいあったまま、「どうも」「ど、どうも」と、お互いにぺこぺこ頭を下げるばかりで話が一向に始まらない。
「えーと、あ、あの、単刀直入に申します。土柱様の……」
意を決した倫道がやっと話を切り出したが、ふすまの向こうの気配に苦笑して続きを言い出しにくそうにしていると、斗和は途中で話を遮り、ゴッホン!と大きな咳払いをした。
「ちょっと待っててください」
そう言ってふすまを開け、夏世には買い物を、佳成には畑兼鍛錬場で稽古を申しつけた。
「師範、頑張ってくださいね」
「頑張るって何を?」
「良さそうな人じゃないですか!後でどうなったか聞かせてくださいね」
「そんなんじゃないから!稽古して来なさいよ!」
斗和と佳成が小声で言い合う。
「本当にすみません、失礼な事をしてしまって。それと、”斗和”でいいですよ、同い年なんだし」
倫道は斗和の配慮に感謝した。確かに、倫道がこれから話す内容はこの世界を揺るがす重大事項であり、誰に聞かれても良いという訳ではない。斗和の気遣いに、倫道はかなり緊張が解れた。
「じゃあお伺いしますが、斗和さんのカラス、令和って名前ですよね。何か由来でも?」
(やっぱりカラスのこと?)
「規律や決まりの令、調和の和。それくらいの意味ですよ」
意外なことを聞かれ、斗和は倫道の真意を測りかねたが、穏やかな表情を崩さずにそう説明した。
「俺は転生者なんです」
倫道は覚悟を決め、本題に切り込んだ。これを口した以上、もう後戻りはできない。
「えっ?」
斗和は相手が何を言っているのか分からなかったが、一瞬の後、その意味を理解した上で戸惑った。そうですか、と言えば自分がその言葉を理解している、自分もそうだと認めたことになる。
(この人も転生者……?)
目の前の人物が再び怪しく見えてくる。斗和は警戒心から先程と違う、戦闘に近い緊張感をみなぎらせ、どうしたものかと思案を巡らせる。
「俺は令和三年、西暦2021年からこの“鬼滅の刃”の世界に来ました。斗和さんもそうなのでは?原作には、”蓬來斗和”なんて人はいなかったはずです。それに、カラスの名前……年号からではないですか?」
倫道は虚実を交えながらズバリと言った。令和という現代の年号、何より決定的な、鬼滅の刃というキーワード。
もう疑いようもなかった。これは本当だ。この人は本当の転生者だと合点がいき、斗和の警戒心がようやく薄らいだ。
その後は色々と話をした。
“目覚めた”時のこと、この“鬼滅の世界”でのこと。
だが倫道は、以前斗和に助けられたことは敢えて伏せた。
「私、東北の生まれなんですよ。十二歳で“目覚め”て、鬼殺隊に入らなきゃって思って。列車に乗るお金もないから、東京目指して何日も歩いて来たんです」
斗和が自分の目覚めを語ると、倫道も応じた。
「俺は東京の奥多摩の方です。十四歳で“目覚め”ました。それで鱗滝さんに入門して」
「へえ、原作沿いですね。水原さんは元何歳ですか?」
「俺は元は五十歳で、医者やってました。気付いたら子供になっていて……。でも中身は五十歳だからボケ始めちゃってて、知らないうちに同じ話を何回もしてたりするんですけど。ただ肉体年齢に引っ張られますよね。感情が若くなるって言うか。もし良かったら俺も“倫道”って呼んでください」
「じゃあ、倫道君で。私は元は二十九歳でした。でもそれ以外は良く覚えてなくて」
「そうなんですか。俺は元の世界でのこと、しっかり覚えてます。だから強くなるのと同時に、原作知識と医学知識を使ってみんなを助けたいなって。と言っても五十歳だからボケ始めちゃってて、知らないうちに同じ話を何回もしてたりするんですけど」
(ええ?!……この短い時間でもう同じ話をしちゃってますけど……)
斗和は困惑するが、気を取り直して話を続ける。
「ああ……え、偉いですね。私なんて、煉獄さんを助けるために強くなってるようなもんですよ」
「でも斗和さんもう柱じゃないですか!」
「いやあ、私なんかまだまだで……。この前も不死川さんにボコボコにされたばっかりで」
思い出したくないと言わんばかりに斗和は苦い顔をした。
風柱の不死川は、先日の十二鬼月との一戦以来斗和に興味を持った。下弦を撃破し、女性ながらに大きく重い変わった刀を使う女隊士。鬼殺隊当主の産屋敷耀哉からは、二度も柱への昇格を断っていると聞かされており、その強さを確かめようと、斗和が柱に就任した際に手合わせをしていた。斗和は不死川を恐れており、初めての手合わせでは萎縮して全く力が出せず、まともに打ち合えたのは最後の最後、ほんのわずかな時間だけだった。
「そんなことないです。斗和さんは強くて優しいって隠もみんな言ってますよ。それに比べて俺なんか、任務ずる休みなんて言われてるんですよ!まあ本当のことですけど。俺、隠に擬態して救護活動もしてるんであんまり任務受けられないんですよ」
「任務もこなして隠もしてるんですか?!」
「治療と情報収集の両方のためです。そしたらカナエさんが童磨と遭遇する任務を受けたの、偶然聞いてたんですよ。そのおかげでカナエさんも助けることができました。と言っても怪我したカナエさんを珠世さんの診療所に運んだだけですけど。珠世さんと愈史郎さんのおかげですね」
「カナエさん助けたの倫道君ですか!ああ、なるほど」
斗和は何か得心がいったという風に軽く頷いた。
「私、この前の任務で刀を持った隠に会ったんですけど、あれ倫道君ですよね?」
「そうです、大きな任務があるって聞いたので行ってみよう、と。却って迷惑かけちゃってすみませんでした」
「いえ、迷惑なんてそんなことないです。でもあの後不死川さんに色々聞かれて大変だったんですよ」
斗和は倫道を軽く睨む。
「すみません、あまり目立つのもどうかと思って、つい逃げちゃいました、えへへ」
倫道がアホのように笑っていると、斗和が口を尖らせて呟く。
「あんな簡単に下弦倒すんだから、倫道君が柱になったらいいんですよ。そうすれば私が柱にならなくて済……あっ」
「いやー、柱になると色々面倒かなって、あっ」
双方が思わず本音を口に出してしまい、しばし気まずい空気が流れる。
「あ、あはは……何でもないですよ?」
「はははは……俺も。何でもないです」
しまったと思いながらお互いに誤魔化し合い、空虚な笑いが漏れた。
「あの、今後の活動なんですけど」
わざとらしくゴホン、と咳をして倫道が切り出した。
「活動?」
斗和が聞き返した。転生者の二人が動くことは、物語の未来に大きな影響を与える。斗和は自分が動いたことへの反動を恐れ、自分自身を強化すること以外はあまり積極的には動いていない。だが倫道は力の及ぶ限り色々な人を助けたいと思っている。この違いを擦り合わせ、力を合わせなければならない。
「煉獄さんは助けたいんですけど、あまり出しゃばっても、その他のところに影響が出るかもって思って」
斗和は自身のもどかしい思いを語る。
「俺の考えはちょっと違うんです」
そう言って倫道は自分の考えを述べた。
「自分が迷い込んだ時点で、その世界はすでに正史ではなく、無数にあるパラレルワールドの一つになっている。自分がここに存在することがもう運命だと。変わることは織り込み済みだと思うんです。未来は変わる。自分もここに生きている。だとすれば、幾通りも枝分かれする未来から、努力して最善を掴み取ることは悪い事じゃない。むしろそうすべきじゃないかと考えるんです。もちろん無数にある並行世界の全てで煉獄さんを助けられるわけじゃないけど」
斗和はそう言われて考え込んだ。すぐに結論が出ることではないが、ずっと抱いていた迷いに、何か光明が見えた気がした。自分たちが迷い込んだ世界は、自分たちが変えていかなければならないのだ。
「人々が理不尽に命を奪われないために。死んでしまう登場人物を少しでも救って、みんながほのぼのと平和に生きていけるようにする。それが俺の目標です。やってみませんか?”自分の中の可能性を信じて力を尽くせば、路は自ずと開ける”って、アニメの名言なんですけど、逆に言えば、全力でぶつからなければ路は開けないってことです。変えてみましょう。ハッピーエンドを目指して!斗和さんと俺が組めば、鬼に金棒ですよ!」
(鬼殺隊なのに”鬼に金棒”って……)
斗和は微妙な例えに苦笑するが、そうかもしれない、と思い始めていた。
二人は大きな秘密を共有することになった。だが、倫道は斗和に対してさらに大きな秘密を抱えることになった。ここは鬼滅の刃の世界ではない。二次小説”野良着の隊士”の世界なのだ。
考え込む斗和、それを見つめる倫道の胸中は複雑だ。
斗和が杏寿郎に想いを寄せながらも不死川に惹かれ、やがて結ばれることも、心臓に持病を抱えた斗和が最後にどうなるかも倫道は知っている。倫道は何としても斗和を救いたかった。今はまだ心臓病の症状は出ていないようだが、物語の進行と共に悪化し戦えなくなる。それでも、斗和はその体で最終決戦に挑み、戦いのさなかに命を落とす。
倫道は努めて明るい声で言った。
「お互いに頑張っていきましょう!心を燃やして!」
「今までの考えをすぐにひっくり返すことはできないけど……。力を尽くさなければ何も変えられない、何も変わらない。力を尽くしてこそ何かを為せる……。確かにそうかもしれませんね。私も少しずつ心を燃やします」
斗和は微笑んで、静かに言った。
斗和の家からの帰途、倫道は決意を新たにする。
主人公の斗和を救い、登場人物たちをも助ける。みんながほのぼのと平和に生きていけるように、力を尽くす。
――例えその未来に自分の居場所は無いとしても。