いつもの如く土柱邸にやって来て、斗和に相談を持ち掛ける倫道。
「斗和さん、また相談なんだけど」
「倫道君、顔……。顔が」
「あっ、ゴメン、悪い顔になってた?」
「ちょっとなってた。で、何?」
倫道の悪巧みの表情を見て斗和はちょっと引いたが、少し興味もあったので聞いてやることにした。
「今、明治四十三年だ。炭治郎君たちの入隊を大正元年とすると、おそらくこの年末、原作開始になると思う。アニメでは、お正月に備えて炭を売って来ると炭治郎君が言ってたから、あの事件が起こるのは年末のはず」
「そうだね……。何とかしたいけど、今の私たちだけじゃ無惨を迎撃して撃退はできないよね」
「そう。だから、竈門家を雲取山から離すか、無惨を雲取山から離すか」
「なるほど」
「それで、良い事思い付いたんですよ」
「今めっちゃ悪い顔してるよ倫道君!一体何を思い付いたのよ?!」
斗和は呆れながらもさらに興味をかき立てられた。
「いやー大したことじゃないけど、雲取山じゃなくその近所の山に、それもなるべく人が入らないような山の奥の方に、青く色塗った彼岸花を置いて来て、”青い彼岸花を見た”って噂流すんだ。滅多には人目に触れないけど、少数の人は目にする。でも山奥だから正確な場所は分からないし、噂の広がりは遅い。無惨や鬼たちが噂を聞いて行こうとしても場所が分からないから右往左往して、さんざん苦労して見つけたものは色が塗ってあるだけの偽物。やっぱりこの辺にも無かったってことで、骨折り損のくたびれ儲けってわけ!”大騒ぎしてニセモノを掴まされるとは、何をやっているのだ猗窩座!お前の名はバカ座であったか?”って」
「それ面白いね!」
斗和は悔しがる無惨や、怒られる猗窩座や玉壺を想像して噴き出した。
(面白い!……けどちょっと酷いなそれ)
そんな風に思われているとは知らず、倫道は自慢気に思い付きを語った。
「そうでしょ?大した事じゃないけど、年末の数日だけでも雲取山に来なければいい訳だから」
倫道の実家は雲取山からそう遠くないところにあり、時々炭治郎たちに炭を配達してもらったりしていた。それに雲取山で遊んでいたこともあり、竈門家にも何度か遊びに行ったこともあった。炭治郎の父、炭十郎がまだ存命の時に会った記憶もある。
「それから、竈門家のみなさんを温泉旅行に招待する。幸い俺はみなさんと顔見知りだし、炭治郎君や禰豆子ちゃん、竹雄君、花子ちゃんも良く知ってる」
「なるほど、そっちが本命の作戦だね」
「竈門家を雲取山から離せばより安全でしょ。完璧!」
倫道は近場の温泉宿に話をしてくる、と早速出かけて行った。
(色々考えるなぁ……)
斗和はその悪知恵に感心することしきりであった。
「良いんですか?すみません、炭や山の物もいつも買ってもらっているのに」
竈門家の母、葵枝は倫道にしきりに頭を下げていた。
「いつも重い炭俵を届けてもらってるし、持ってきてくれる山菜やらが嬉しいらしいですよ。お母さんも大変だろうから、温泉でたまにはゆっくりしてくださいって、みんなから」
倫道は竈門家に行き、倫道の実家の町内にある家々の有志からだと嘘をつき、近隣の温泉宿への家族旅行をプレゼントした。
明治四十三年の年末。竈門家は近場の温泉宿へと旅立った。
(これで良し。一家惨殺は起こらないし、禰豆子ちゃんも鬼にならずに済むな)
だが倫道は知らなかった。
働き者の炭治郎は少しでも家計を楽にするため、温泉宿に行く家族を見送り、この日も一人町へ炭を売りに行った。帰ったら夜は炭を焼き、翌日家族の元へ行くつもりだった。兄妹思いの禰豆子も、夜通し炭を焼く兄に付き合うため家で留守番をし、翌日炭治郎とともに温泉宿に行くことにしていたのだった。
竈門家は年末年始を挟んでの数日間、宿に泊まる予定だった。倫道は念のため、任務の帰りに温泉宿へ行ってみた。
「葵枝さん、少し休めてますか?」
「はい、ゆっくり出来て本当に申し訳ないです。炭治郎たちにもいつも良くしてもらって、ありがとうございます」
母親の葵枝が出てきてお礼を言ったが、倫道は炭治郎と禰豆子の姿がないことに気付いて不安を覚えた。
「炭治郎君と禰豆子ちゃんがいないようですけど?」
「炭治郎は昨日も町に炭を売りに行って、その後家で一晩炭を焼いてから来るって……。大変だから禰豆子もそれに付き合って、今日一緒にこちらへ来ます。本当にあの子たちには苦労かけてしまって」
「な……!!!分かりました、ゆっくりしてくださいね」
倫道は雲取山に急行した。
(何てことだ……!もしあれが昨夜起こってたら、小細工が水の泡に……!)
雪雲が空一面を覆い、昼間でも薄暗い日だった。倫道が雲取山に入る頃は普通の雪だったが、山道を駆け上っていくうちにどんどん雪は強くなり、時折吹き付ける冷たい風に雪が舞い、視界を奪われるほどだった。
倫道は雪を蹴散らしながら山道を駆け上り、竈門家へ急いだ。そして、竈門家への道の途中、山の中腹あたりに二人の姿を見つけた。
降りしきる雪の中、呆然と立ち尽くし、涙を流す禰豆子。尻もちをついたまま、これも呆然と禰豆子を見つめる炭治郎。
――禰豆子は鬼になっていた。
その前日。
町で炭を売り、夜は炭焼きをする予定だった炭治郎だが、帰宅するのが遅くなり、麓の三郎じいさんの家に泊めてもらった。夜の間、禰豆子は一人で留守番をしていたのだが、そこに無惨が襲来してしまったのだ。
翌朝に帰宅した炭治郎は、血塗れで倒れている禰豆子を発見した。まだ体温が残っていて、かすかに呼吸があった。町の医者に診せるために炭治郎は禰豆子を背負って山道を駆け下っていたが、その途中で禰豆子が鬼に変貌したのだった。
「頑張れ禰豆子!鬼になんかなるな!」
禰豆子は獣のような唸り声を上げながら炭治郎にのしかかり、噛み付こうとしていた。炭治郎は斧の柄を牙の生えた禰豆子の口に咬ませ、辛うじて持ち堪えた。炭治郎が禰豆子に懸命に呼びかけ続けると、押さえつける力が急に弱まった。禰豆子はフラフラと立ち上がり、さらに覚束ない足取りで二、三歩後退って炭治郎から離れ、涙を流しながら呆然と炭治郎を見つめていた。
「炭治郎君!大丈夫か?!」
そこに、倫道が雪を蹴散らして山道を駆け上がって来た。
「倫道さん……」
炭治郎は今にも泣き出しそうな顔で倫道を見たが、今まで見た事の無い服装の倫道に強い違和感を覚えた。羽織の下に黒の詰襟の上着とズボン、軍隊のような服装だ。そして何よりも、その腰に刀と思しき物を帯びている。
(倫道さん、まさか)
勘の良い炭治郎は察してしまう。
禰豆子は再び牙を剥き、唸り声を上げて倫道を睨む。
(禰豆子ちゃんが鬼に!ゴメンな、苦しい思いさせることになって!みんな一緒にって、俺がちゃんと言っておけば良かったのに)
倫道は自らの詰めの甘さを嘆き、顔を歪めた。
「倫道さん……!まさか禰豆子を殺しに?!」
炭治郎は庇うように禰豆子の前に立ち、斧を構えて倫道を睨んだ。
「違う!禰豆子ちゃん、炭治郎君!大丈夫だ、俺は味方だ。俺は君たちを護るために来た。信じてくれ」
倫道は腕を胸の高さに掲げ、ゆっくりと炭治郎と禰豆子に近づいて行く。炭治郎は斧を構えながら後退り、禰豆子の所まで後退した。禰豆子は牙を剥いていたが、倫道の顔を覚えていたからか、倫道に害意が無いのを察知したからか、威嚇を止めてまた涙を流した。
(禰豆子が鎮まった……)
振り向いた炭治郎は禰豆子の様子を見て斧を下した。倫道は炭治郎と禰豆子を一緒に抱きしめた。倫道は禰豆子の様子から、鬼になったものの少し自我を取り戻し、人を喰らう欲求を抑え込めるレベルに落ち着いたと判断した。鬼の気配が小さくなり、荒かった呼吸も静かになり、禰豆子は大人しくなった。
「大丈夫、大丈夫だ。俺が護る」
倫道は炭治郎と禰豆子の肩を抱いて優しく語り掛けた。だが安心したのも束の間だった。
倫道の聴覚が、雪を踏みしめて猛スピードで接近する足音を捉えた。
同時に斬撃が叩きつけられ、雪煙が舞った。禰豆子は倫道の変化と迫りくる殺気を感じ、間一髪で二人から跳び退いてそれを避けた。
倫道の兄弟子、水柱・冨岡義勇。
(あれは隊士か?俺の他にも任務の者がいるようだが、何をしている?)
三人の人影があるが、その内一人は隊服の男、もう一人は普通の人間の少年、そして、残りの一人、少女は鬼だ。
冨岡は、隊服の男が少年と少女を護るように抱いているのを見て一瞬訝しんだ。だが三人が密着していても、鬼の少女の頸だけを刎ねるくらいは冨岡にとって造作もないことだった。躊躇わず斬りかかったが、見事に初撃を躱され少し驚いていた。
冨岡は改めて隊服の男、倫道に目を遣った。どこかで会ったような気がしたが、思い出せなかった。雰囲気は平凡。一般の中級隊士の一人で、甲のような上級隊士とは見えなかった。
禰豆子は大きく後方へのジャンプをして冨岡の斬撃を躱し、牙を剥いて唸っている。倫道は、禰豆子に駆け寄ろうとする炭治郎を抱き止めていた。
「任務ご苦労だった。ここは俺がやろう」
冨岡は、すぐ横にいる倫道に労いの声をかけた。言外に、邪魔にならないようその少年をそのまま押さえて下がっていろ、という命令を含ませながらだ。少女の鬼を、その肉親と思われる少年の目の前で斬らなければならない。精神的にきつい役目をせめて自分が引き受けようという冨岡の配慮だった。
標的は三、四メートル先。冨岡にとっては障害になる間合いではない。倫道は炭治郎を抱き止めたままじっとしている。冨岡は禰豆子を確認、刀を抜いたまま倫道たちの横を通り、禰豆子へと歩を進めた。禰豆子との距離は少し縮まり二、三メートル。
一瞬で片が付く、はずだった。
「炭治郎君、離れて」
冨岡は驚いた。
倫道は冨岡の予想しない行動に出た。倫道は大人しく引き下がるどころか少年を下がらせ、禰豆子に向かう冨岡を追い越し、行く手に立ち塞がった。
鬼殺の妨害行為。明確な隊律違反だ。
「何のつもりだ?名前と階級は?」
「水原倫道、丁です」
(そうか、こいつは確か)
倫道の名前を聞いた冨岡は、同じ鱗滝門下の後輩であることを思い出して不審に思った。なぜこの男は鬼を庇うのか?
鬼と化した肉親に喰われる事例は多い。鬼への変貌は大きな苦痛を伴い、苦しむ本人を心配し、一番近くにいるのは肉親である可能性が高い。そして、鬼への変貌には多くのエネルギーが必要であり、そのエネルギーを補うのには、自分と一部共通の遺伝子を持ち、栄養価が高い肉親を食らうことが最も都合が良かった。
「水原と言ったな。その鬼は知り合いか?庇い立てするならお前も一緒に斬らねばならない。そこをどけ」
冨岡は威圧を込め、努めて冷静に倫道に語りかけた。
得意ではないが、言葉で退いてくれれば良し。そう思った。
「絶対に退けない……!冨岡さん、この子は人間を襲わない!人間の心を保っているんだ!」
倫道は冨岡の発する静かな重圧に耐えながらきっぱりと言い返した。冨岡は禰豆子を”鬼”と呼ぶ。倫道は”この子”と呼ぶ。冨岡は禰豆子の名を知らず、初対面ということもあるが、鬼の禰豆子を見た時点で殺害対象として認識しており、それに対し倫道は、仲良しの兄妹で物語の主人公の一人という認識がある。冨岡と倫道、二人の認識の差は埋め難い。
だが、禰豆子を庇う倫道のこの行為は隊律違反がより重大であることを示している。つまり、鬼殺隊にとっては鬼は等しく鬼でしかない。肉親や近しい者が鬼になったら斬らずに庇う、そのようなダブルスタンダードは絶対に許されないのだ。
冨岡は人間を斬りたくはなかった。だがこの同門の後輩隊士は、柱である自分を敵に回しても、あくまで鬼となった娘を庇う姿勢を見せている。鬼殺のためであれば、隊士同士が争ったとしても隊律違反にはならない。冨岡は止む無く刀を構えた。ある程度分からせる必要がある、そう判断した。
(ここは退けない!何とか分かってもらわないと。……しかし、どう収めたら良い?)
倫道も、どうしても禰豆子を護らなければ、と刀を抜いた。
(黒刀……?水の呼吸ではないのか?)
冨岡は倫道に興味が湧いた。
「それなら止めて見せろ。俺から見事護って見せるがいい」
冨岡は刀を構えて冷静に言い放つ。しかし倫道は冨岡のセリフに違和感を覚え、微妙な変化を察知した。倫道は淡い期待を抱く。
(何が何でも殺す、じゃないのか?何とか見逃してくれないかな)
しかし冨岡の構えは緩むことは無く、互いに刀を抜いた両者の間の空気が見る間に張り詰めていく。
冨岡が仕掛け、ついに戦闘が始まった。
倫道は自らは攻撃せず防御に徹し、冨岡が諦めるのを待つ作戦だ。冨岡は、自分からは攻める気配を見せない倫道にイラ立った。数合は冨岡の攻撃を受け流して防いだ倫道であったが、冨岡の攻撃が鋭さを増す。そして浅いとは言え、腕に、胸に幾つも傷が入った。
(義勇さんが本気出してきた!……本当に斬る気なのか!無傷では済まないか?このままじゃ大怪我するか死ぬかだ)
倫道は、鬼滅の原作で良く知っているキャラとの斬り合いという事態に戸惑いが拭えないでいた。そのため力を開放せず、まだぐずぐずと迷っている。
水の呼吸 参ノ型・流流舞い
冨岡は倫道に斬り掛かって牽制しながら、その勢いのまま禰豆子に攻撃を加えようとする様子を見せた。
「させるかっ!」
水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き!
倫道は連擊を何とか捌き、禰豆子の方へ向かおうとする冨岡を追って距離を詰めながら、最速の攻撃を放った。
「この子たちを傷つけるな!」
倫道は、突き技を躱して間合いを取った冨岡を叫びながら追撃する。
土の呼吸 陸ノ型・粒子舞撫煙(りゅうしぶぶえん)!
倫道は冨岡に知られていないであろう土の呼吸の技を使い、広範囲攻撃を仕掛ける。土の粒子と雪が舞い上がり、その中から幾筋もの斬撃が冨岡に襲い掛かった。
水の呼吸 拾壱ノ型・凪
(こいつ、さっきと気配が変わったな。本気ではなかったということか)
冨岡はオリジナル技で倫道の広範囲攻撃を相殺する。倫道に大きな怪我をさせないようにあしらうつもりだったが、倫道の気配の変化を察知し、そう簡単にはいかないようだと考えを改めた。
水の呼吸 肆ノ型・打ち潮
冨岡はすぐさま流れるような波状攻撃で反撃に出たが、倫道は全て受け切って見せた。
空破山!
倫道は二条の真空波を飛ばし、一つは冨岡の髪を掠める。倫道はこの隙に一気に間合いを詰めた。
水の呼吸 壱ノ型・水面斬り!
そして思い切り踏み込んでの鋭い横一文字の斬撃。冨岡はこれも何とか受け流すが、倫道の動きの速さも技の繋ぎの滑らかさも、先程とは全く違っていた。
(かまいたちか……!やはりこいつ)
冨岡は、倫道が未だ力を見せていないと判断した。つまり。
(手加減の必要はないと言うことか)
冨岡は少しだけ笑った。他人が見ても分からない程の僅かな表情の変化だった。
(倫道さん……!)
炭治郎は息が止まりそうだった。今は大人しくしているが、妹の禰豆子は怪物になってしまった。匂いが、全く違っていた。その妹を巡り、普段は優しい顔馴染みの倫道が、見知らぬ人と本物の刀で斬り合っている。今までに見せたことも無いような激しく荒々しい気迫を露わにして、傷を負い、血を流しながら妹を護るために戦ってくれている。
「二人とも止めてくれ!止めてください!!俺が、ちゃんと妹を元に戻すから!誰も傷つけさせないから!止めてください!」
炭治郎が必死に叫ぶが、二人の戦いは止まない。一時防御から攻撃へと転じた倫道であったが、以前の不死川との立ち合いと違い、真剣を使った斬り合いではやはり攻めきれない。
(これだけの力を持っていながら、なぜお前はこれ以上攻め込んで来ない?お前の覚悟はその程度か。そんなことで護れると思うか!この理不尽な世界に抗えると思っているのか!)
倫道の様子に冨岡はイラ立ちをさらに募らせ、攻勢を強めた。倫道は徐々に押され、追い詰められる。
その時、炭治郎の背後にいた禰豆子が二人の間に割って入り、倫道の前に立って両手を広げ、護る動作をして冨岡を威嚇した。
(何だと!この娘は、自分が護られていることを理解して、こいつを庇っているというのか。……確かに普通の鬼とは明らかに違う)
冨岡は驚愕し、少しの間逡巡したが刀を下ろした。
「冨岡さん、お願いします!何とか見逃してください!……もしこの子が人を襲ったら、俺が切腹します!」
倫道は深く頭を下げ、冨岡にすがった。
「俺が妹を治します!人間に戻します!だから、斬らないでください……!」
炭治郎も土下座した。
「冨岡さん、この子たちを鱗滝さんに預けてはどうでしょう?俺は以前から知っていますが、炭治郎君は意志が強く真面目で体力もある。きっと強い剣士になります」
(ここで炭治郎君が鱗滝さんに弟子入りしないと原作が始まらないしね)
冨岡が刀を収め、どちらも大怪我をせずに戦闘が終わった。倫道は、炭治郎が安堵の涙を流している横で、しれっと話を炭治郎入門の方へと持っていき、原作の流れを作る。
「良かろう、この娘がある程度の理性を保っているのは分かった。お前、名前は何という?」
冨岡は炭治郎に向かい、表情を変えずに聞いた。
「竈門……炭治郎」
炭治郎は戸惑いながら答えた。
「狭霧山に住む、鱗滝左近次という人を訪ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え。水原、後は頼んだ。それと、今回の事は不問に付す」
最後に、冨岡はまた僅かに微笑んだ。そして竈門兄妹を倫道に託すと、冨岡は去って行った。
倫道は大きく安堵の溜め息を漏らし、呆然としている炭治郎に鬼と鬼殺隊について説明した。
「この世界には、人間を喰らう鬼がいる。俺たちは鬼を狩り、人々を護る鬼殺隊だ。昨夜、何者かが君の家を襲い、禰豆子ちゃんを鬼にした。家に帰った時、何か感じなかったか?」
「そういえば、嗅いだことの無い者の匂いがしていました」
「そうか、そいつが禰豆子ちゃんを鬼にした犯人だ。よく覚えておくといい。人間が鬼になるのは二つの場合がある」
「……」
「一つは、傷口に鬼の血を浴びること。だが普通の鬼がわざわざ自分の血を傷口に入れることは考えられない。そんな事をするよりその人間を喰おうとするからだ。その鬼が手傷を負って血を流していたなら話は別だが」
炭治郎は黙って聞いていた。
「もう一つは、鬼舞辻無惨の血が体内に入った場合だ」
「きぶつじ、むざん?」
「全ての鬼の始祖、人間を鬼に変える者。今回の件もヤツの仕業だと俺は考えている。鬼舞辻は実験的に人を鬼に変え、ある条件に適合する鬼を作ろうとしている」
「ある条件?」
「鬼は陽の光に当たると消えてしまう。それはヤツも例外ではないが、陽の光を克服する鬼を作り出し、それを取り込むことで弱点を克服しようとしている」
「そんな事のために人を鬼に……そんな事のために、禰豆子は……!」
「禰豆子ちゃんを人間に戻したいなら、君はこれから鬼殺の剣士となって、鬼と戦いながらその方法を探さなければならない。それにはまず、狭霧山の鱗滝さんに弟子入りして正隊員を目指すことになるが……できるか?とても危険な仕事だ。俺たち鬼殺隊に任せるというのも一つだが」
「やります!鬼殺隊になって、必ず禰豆子を人間に戻します!!」
竈門家の悲劇は防ぐことができたが、結局禰豆子の鬼化は止められなかった。だが人喰い鬼と戦い、禰豆子を人間に戻すことをモチベーションに、原作主人公の炭治郎は鬼殺の剣士の道へ踏み出すことになった。