土の呼吸 玖ノ型・蚯蚓破裂(みみずばれ)…【野良着の隊士】オリジナル技。
「楽になさっていてください」
珠世は斗和の隊服の前をくつろげた。胸の真ん中、薄っすらと残る手術痕に当てるのは、聴診器ではなく己の掌。目を閉じて集中し、心臓の様子を探っていたが、やがて大きく頷いて手を離した。鬼は人間には分からないような臓器や細胞、遺伝子の異常が分かり、血の種類が判別できる。検査などしなくても体の外からそれらが分かることは、医師としては大きな武器となる。
珠世は無惨によって鬼にされた時、人間としての自我を失って大勢の人を殺した。後に自我を取り戻した時にその事を深く悔やみ、呪いが外れて無惨から逃れてからは、人々を救うために医師として研鑽を積んだ。鬼の特性を活かして診断能力を高め、倫道からは現代医学を学び、珠世は医師として格段の進歩を遂げていた。
「はい、もう結構ですよ。心臓の壁の動きも、血液の流れも正常です。弁の逆流もありませんし、拍動の乱れも無い。鍛錬を再開しているそうですが、何の問題もありません」
斗和は定期的に珠世にフォローアップの診察をしてもらっており、今日はその最後の日だった。二ヶ月ほど前からは徐々に鍛錬を再開しており、最初は息切れしたが、毎日続けると急速に以前の感覚を取り戻しつつあった。
「ありがとうございます。みなさんには何とお礼を言って良いか」
斗和は珠世に丁寧に頭を下げた。
「命拾いしたな。だが鬼に殺されてしまっては同じことだ。せいぜい稽古に励むんだな」
「愈史郎さんにも本当にお世話になりました。ありがとうございます」
愈史郎の皮肉混じりの祝福にも、斗和は笑顔で礼を返すのを忘れなかった。
(カナエに斗和、こいつらは鬼の俺たちと普通に接している。水原は例外だとしても、こんな奴ばかりなら鬼狩りとも協力できるかも……それは甘過ぎるか)
愈史郎はため息をつきながらも、その心には期待が芽生え始めていた。
鬼狩りと協力して、鬼舞辻無惨討滅を果たす。
初めて会った時、倫道にそう言われた。それはほんの数年先の未来のことなのだと。
無惨討滅は珠世の悲願であるが、とりわけ鬼に対して深い恨みや憎悪をもつ者の集まりである鬼狩りたちとは関わりたくないし、協力などできるはずがないと愈史郎は思っていた。しかし、今はそれが本当にできるような気がした。それに冷静になって考えれば、鬼を人間に戻す薬や鬼の細胞を死滅させる薬は確かに強力だが、無惨に投与するにはやはり鬼殺隊の武力が役に立つ。
無惨との最終決戦は今年の年末から来年にかけてのどこかで行われる、倫道はそう言っていた。運命の時が刻々と迫ってきているのだ。
珠世と愈史郎は懸命の努力で成果を上げており、決戦の準備は静かに着々と進行していた。
(珠世さんのお墨付きもらった!帰って倫道君にも報告しなくちゃ)
珠世から完治の説明を受け、斗和は感無量だった。
半年前のあの時。
倫道は斗和に熱心に治療を勧め、その必死さは懇願と言っても良く、放っておいて欲しい斗和とあやうく大喧嘩になるところだった。しかし倫道は周到に準備しており、胡蝶姉妹までもが「本当に貴女を心配している」と治療を勧め、万全のサポートを約束した上で長期離脱をしてでも病気を治すように言ってくれた。斗和は周囲の心遣いに感動して治療に踏み切ることができた。
入院中、カナエとしのぶは倫道に協力した経緯を教えてくれた。
カナエを助ける以前から、倫道が医療班の隠として懸命に治療や救護活動に当たっていたこと。そしてカナエを助けて治療を成功させながら、それを誇るでも無く安堵の涙を流していたこと。
「その水原さんに、どうしても助けたい人がいると言われたら、姉も私も協力しないわけにはいきませんでした。変な人ですよね、あの人は」
そう言ってしのぶは笑っていた。
夕方からの雨は上ったが、珠世は斗和に今夜は泊っていくように勧めた。遠慮深い斗和も何故か胸騒ぎがして、その勧めに素直に従った。
浅草の街に近いこの周りも普段と変わらず騒がしい。しかし今夜は何かが違った。華やかな中にどこか淀んだ空気が流れていた。
斗和が休もうとしていた時だった。
窓の外から、男が正気を失って暴れ、子供を襲っていると声が聞こえた。
(まさか、鬼がらみか?)
愈史郎が素早く身支度を整えた。
「蓬萊さんはゆっくりなさっていてください。私たちは様子を見てきます」
珠世は斗和にそう言い残し、愈史郎とともに出て行った。
程なく、珠世と愈史郎が男女を連れて診療所に戻って来た。男性は白目を剥いて意識を失っていたが、頑丈な縄で幾重にもがっちりと拘束されており、その容貌は人間ではなかった。顔中に浮き出した血管、牙が覗く口許、明らかに鬼化していた。女性は完全に人間で、肩に傷を負って気を失っていた。
(これは、炭治郎君が無惨に遭遇したあのイベントだ!ということは、ここに炭治郎君たちがやって来て、その後無惨の刺客も来るってことね)
斗和は気付いた。
珠世は鬼化した男性を拘束したまま地下牢へ隔離し、咬まれて怪我をした女性の傷の治療をしていた。
「愈史郎、すみませんが先程の少年をここへ。おそらく一緒でしょう、そのかたの妹さんも」
鬼の妹を連れた、鬼狩りの少年。
鬼化した男性を懸命に抑え込み、「この人に誰も殺させたくない!」そう叫ぶ炭治郎を目にして、以前に倫道に言われていたのはこの子であったかと珠世は思い当たった。
咬まれた女性の治療を終えた珠世は、炭治郎と妹を招くよう愈史郎に頼み、愈史郎は内心不満を抱きながらも二人を探しに出て行った。
「珠世様、お連れ……しました」
しばらくすると愈史郎は炭治郎と禰豆子を連れて戻って来たが、その顔には明らかな不満が見て取れた。
「先程はお任せしてしまってすみません」
診療所に招き入れられた炭治郎はそう言って詫びた。
炭治郎は浅草の雑踏の中、禰豆子を鬼にした者の匂いを辿り、鬼の首魁・鬼舞辻無惨を発見した。しかし無惨は通りがかりの男性を鬼に変え、騒ぎに紛れて姿を消した。鬼にされ、暴れる男性を抑え込んでいるうちに警官が来て、炭治郎は取り囲まれてしまった。普通の人間である警官たちでは、鬼化した人間は到底抑えきれない。そうなれば間違いなくあの男性は別の人を襲ってしまう。
炭治郎がそう危惧していると珠世と愈史郎が現れ、血鬼術で警官たちの視界を奪い、鬼化した男性と怪我をした女性を連れ去った。混乱に乗じて炭治郎も騒ぎから逃げることができたのだった。
炭治郎と禰豆子は目眩ましの術で隠された診療所に招かれ、原作通り珠世から話を聞いた。炭治郎は珠世と話すうちに、鬼でありながら人を喰わず、嘘偽りのない清らかさに打たれ、禰豆子の血液を調べること、鬼の血液を採取することへの協力を約束した。
別室にいた斗和はこの場面に顔を出そうかどうか迷っていたが、炭治郎には後に柱合会議で顔を合わせるだろうことを考え、ここで会っておくことにした。
「うわあっ!は、鋼鐵塚さん?!」
斗和は気配もなく炭治郎の後ろに立つ。背後に突然現れたひよっとこに気付き、炭治郎は腰を抜かすほど驚いた。斗和は炭治郎を驚かすため、ひょっとこの面を付けて現れたのだ。珠世がクスクスと笑みを漏らして尋ねた。
「蓬萊さん、炭治郎さんとお知り合いですか?」
「鬼を連れた隊士のことは聞いていました。一度会いたいと思っていたんです」
斗和は虚実を交えてお面の下で微笑む。
「初めまして、竈門炭治郎君。私は元土柱・蓬萊斗和と言います」
「貴方も鬼殺隊員なんですか?柱って……。それに禰豆子のこと、どうして知ってるんですか?」
禰豆子を隠してはいなかったが、倫道や冨岡、鱗滝以外の者に話してはいない。禰豆子の存在を知られていると分かり、炭治郎は不安になった。
「柱というのは、まあちょっと強い人たちのことですよ。鬼を連れた隊士がいるというのは、実は上の者はみな知っています。それを良く思わない人もいますが、私は二人を応援したいと思っているんです。……そちらが禰豆子ちゃんですね?はじめまして、蓬萊斗和です」
「むー?」
禰豆子が寝転がって脚をぶらぶらさせたまま、小首を傾げて斗和を見上げている。斗和はひよっとこのお面を外し、優しく禰豆子に微笑みかけた。
(禰豆子が反応していない。害意は無いんだ。優しくて強い匂いだ……)
炭治郎は柱合裁判のことなど知る由もなく、禰豆子に微笑みかける斗和の様子に安心していた。
斗和と炭治郎が穏かに対面を果たしている頃。
浅草からすぐの住宅街に二つの人影が現れた。繁華街の喧噪も既に収まり、他に道を行く人もいない。トン、トン、と毬を突く音が夜更けの街に小さく響く。毬が跳ねる度に、仕込んだ鈴がチリリンと鳴った。
「見えるかえ?」
毬を突く少女が聞く。その顔色は不自然なまでに青白く、目の虹彩は金色で、瞳孔は細く縦長だ。
隣には、這いつくばるように何かを探るやや年長に見える少年がいた。少年が地面に手をかざすと、ギュロ、と掌に目が開いた。目は数回瞬きをし、やがて目の中に矢印が浮かび上がって足跡を捉え、それが向かう方向までも正確に示した。
「おお、これじゃ。足跡が見える……。あちらをぐるりと大回りして、三人になっておる」
目標を見つけた少年は、目を閉じたままそう答えてニヤリと笑った。
「花札のような耳飾りをつけた鬼狩りの首を持って来い」
無惨の命令を受け、二人の鬼が炭治郎を追っていた。珠世の診療所には愈史郎の血鬼術で目眩ましが施されているが、炭治郎に向けて放たれた刺客がその足取りを捕捉し、診療所の近くにまで迫っていた。
「危ない!伏せろ!」
愈史郎が叫び、珠世に覆い被さって護る態勢をとった。
突然、壁をぶち破って二つの毬が部屋の内に飛び込んで来た。毬は四方に跳ね返りながら室内を滅茶苦茶に破壊していく。
(やっぱり来た!えーっと……。名前、何だっけ?)
斗和は毬を避けながら鬼の名前を思い出そうとしていた。
「矢琶羽(やはば)の言う通りじゃ。何も無かった場所に建物が現れたぞ。目眩ましの術など使いおって、小賢しいのう」
崩れた壁の向こうから、毬を手に朱紗丸(すさまる)がケラケラと笑った。
「それ、もう一度毬で遊ぼう!」
二つの毬がまた投げ込まれた。跳ね回る毬の一つが急に軌道を変え、珠世を護る愈史郎の頭を吹き飛ばした。
(愈史郎さんがやられた!俺がみんなを護らなきゃ!)
先程の毬の破壊力を目の当たりにして、炭治郎は抜刀して油断なく構えた。愈史郎が頭を吹き飛ばされてしまったため、珠世も護らねばならない。
(うーん、やっぱり思い出せない。……茶々丸と、ヤバトン……だっけ?)
(※作者注 矢場とん…名古屋名物の味噌カツ専門の外食チェーン店の名前)
炭治郎はもう一人の隊士、斗和をチラリと見遣るが、斗和は深刻な表情で何かを考えている。だが実は鬼たちの名前を思い出そうとしているだけだった。
階級が上とは言っても女性なのだ、自分が絶対に護る。炭治郎は自分自身に気合を入れた。
「耳に花札のような飾りの鬼狩りは……お前じゃのう!」
壁に開いた大穴から室内を覗いた朱紗丸は、無惨に命じられたターゲットを見つけて嬉しそうに笑った。炭治郎はそのセリフで自分が標的であるのを知った。
「珠世さん、蓬萊さん!身を隠せるところまで下がってください!ヤツらの狙いは俺です!俺と禰豆子がみなさんを」
炭治郎が気負って叫ぶが、珠世は愈史郎の体を支えながら大丈夫だと答えた。
「炭治郎さん、私と愈史郎は鬼ですから、すぐに治ります!気にせず戦ってください。それにここには」
毬が風を切って迫るが、珠世は慌てなかった。
ここには斗和がいる。
倫道から斗和の強さは聞いており、珠世にはどこか余裕すら見える。
「私が前に出ます」
ポンポンと羽織についた埃を払って立ち上がると、斗和は鞘代わりの麻袋を外し、特に特に気負った様子もなく愛刀を構えた。
(炭治郎君、さすが主人公だね)
斗和は炭治郎の気概を頼もしく思いながら、予期せぬ形で始まった久々の実戦に笑みを浮かべた。
(あれが刀?!)
炭治郎は斗和の特殊日輪刀を見て驚くが、斗和の戦う姿を見てこの後さらに驚くことになる。
そこに毬が迫ってきた。ビュッと刀が風を切る音、グシャリと毬が潰れる音が響く。
斗和が特殊日輪刀で無造作に薙ぎ払うと、二つの毬は破裂して跡形もなく消滅した。
「炭治郎君はみんなを連れて下がって」
斗和が刀を構えて炭治郎に指示する。
(軌道が読めない上にあの速さで飛んで来る毬を、二つ一緒に叩き潰した!)
炭治郎は目を丸くした。
「珠世さん、この家は捨てるんですよね?」
この戦いの後、珠世たちは確かここを引き払い拠点を移すはずだ。斗和は念のため確認した。以前よりも破壊力を増した土の呼吸の技が、鬼を建物ごと殲滅し、ここを更地にしないとも限らない。
「ええ、鬼舞辻にここを知られた可能性があります。ここは移らなければなりません。ですが、それが何か?」
「いえ、何でもないです。ちょっと聞いてみただけです」
遠慮無くぶち壊せるとはさすがに言えないので、珠世に曖昧に笑いかけ、斗和は建物の外に向かって駆け出した。
(一撃で毬を斬りおったのか?遊びがいがあるのう!)
診療所の外では、六本の腕に各々毬を持った朱紗丸が部屋の中を覗き込む。
「今度は六つじゃ、今のようにはいかぬぞ」
朱紗丸が毬を投げ込もうとした時。
「茶々丸!!」
斗和は鬼たちの攻撃を自分に集めようと、大声でうろ覚えの名前を叫ぶ。
(あれ?違った?)
朱紗丸がキョトンとしているため、やはり名前を間違えていたかと斗和は気付いた。
(ま、まあいいよね、どうせすぐ倒すから)
斗和は思い直し、特殊日輪刀を鋭く一振りして構えた。
(こいつ……!)
斗和が刀を一閃すると、前方に半円状に衝撃波が広がり、鬼たちは警戒感を露わにする。
「ニャッ?!」
姿を隠して物陰からこの戦闘を見ていた珠世の使いネコの茶々丸は、自分の名前を呼ばれて驚いたが、斗和が鬼たちに向かって走って行くのを見て自分の事ではないらしいと分かり、再び隠れて様子を見守った。
「……丸!ヤバトン!お前たちの相手は私だ!」
斗和は朱紗丸の名を誤魔化し、矢琶羽の名を間違えながら叫ぶ。
(やりよるのう。こいつの頸も持ち帰れば、あの方に喜んでいただけるかもしれぬ)
(儂の名はヤハバだ!この女め、それはもう残酷に殺してやるから待っておれよ!)
矢琶羽は近くの木の上に陣取り、血鬼術・紅潔の矢で毬を操って軌道を変え、朱紗丸をアシストする態勢を整えた。
だが斗和は一瞬で朱紗丸との間合いを詰め、土の呼吸の技を放つ。
土の呼吸 壱ノ型・土龍爪(どりゅうそう)!
毬など投げる間も無かった。
防御した何本かの腕ごと頸を吹き飛ばされ、朱紗丸の体は血を吹きながらゆっくりと倒れた。珠世と愈史郎は半壊した建物から出て、斗和の戦闘を見守っていた。
「次!」
斗和は叫ぶが、矢琶羽の位置を正確に把握していなかった。
(とは言ったものの、もう一人はどこかな?)
斗和は矢琶羽の位置が分からなかったが、敢えてきょろきょろと辺りを見回す動作をして無防備な姿をさらし、攻撃を誘って釣り出そうとした。
(朱紗丸がやられた!こうなれば儂が無惨様のお言いつけを!しかしあの女、柱かもしれぬ。だとしたら……。どうする?儂一人で殺れるか?)
矢琶羽はようやくこの女剣士の強さが尋常でないことを悟ったが、無惨に命じられた標的を目の前にしながら逃げ帰るなど不可能だった。もしそんなことをすれば、呆気なく塵のように消されることは十分に承知していた。
(儂一人でもやるしかない!このまま帰ってもどのみち……!)
矢琶羽は覚悟を決め、血鬼術・紅潔の矢を乱れ撃ちして攻勢に出た。
「蓬萊さん!上だ!木の上にいる!」
その時、嗅覚で矢琶羽の位置を探知した炭治郎が居場所を教えた。
(そこか!)
斗和は息も乱さずに大きな特殊日輪刀を振り回し、斬擊で矢印を弾き飛ばし、矢琶羽のいる木に急接近した。
土の呼吸 玖ノ型・蚯蚓破裂(みみずばれ)!
バリバリッ!と落雷のような大音響がして、矢琶羽の陣取った桜の大木は根元から真っ二つに裂け、矢琶羽は逃げ出そうとしたが間に合わず、胴を斜めに切断されて地面に落下した。
「寄るな!汚れたぞ、儂の……着物が……」
斗和はゴルフのスイングのように日輪刀を一振りし、落下した矢琶羽の頸を刎ねた。
その瞬間も着物の汚れを気にしながら、矢琶羽は消滅していく。
「炭治郎君、血を」
斗和は呆気に取られている炭治郎に呼びかけ、二体から血を採って珠世に渡した。
「蓬萊さん、ありがとうございます。……この二人は、十二鬼月ではないようですね」
珠世は斗和に話しかけた。
「十二……鬼月?」
炭治郎が疑問を挟む。
「鬼舞辻直属の配下です。このお二人は違うようですが」
「そうですね。目に数字が入っていないし、弱すぎる」
斗和は事も無げに答える。
(この鬼たちは重苦しくなる程の匂いがしていたのに、それをあっさりと倒してしまった。この人、とんでもなく強いぞ)
炭治郎は改めて斗和の強さに驚いた。
刺客は撃退したが、鬼たちの視界を通じて珠世の居処は無惨に知られた可能性が高かった。珠世たちはすぐ浅草を引き払うことを決め、出立の準備に取りかかった。
「珠世さん、愈史郎さん、私たちはこれで失礼します。どうかお気をつけて」
「蓬萊さん、炭治郎さん、禰豆子さん。ご無事で」
斗和は珠世と愈史郎に別れの挨拶を述べ、珠世は斗和と炭治郎たちの無事を祈った。
「お前らも野垂れ死にしないことだ。寝覚めが悪いからな」
愈史郎も皮肉交じりに声をかけ、準備のために診療所の奥に消えていった。愈史郎の皮肉もすっかり慣れた斗和は、最後にその背中に深々と頭を下げ、炭治郎、禰豆子ともに歩き始めた。
「炭治郎君、禰豆子さん。この先、多くの困難があるでしょう。でも多くの人が助けてくれます。貴方たちなら必ず乗り越えられますから、自分の信じた道を挫けずに歩んでください。きっと大丈夫、上手く行きます!……それと近々柱たちによる会議で貴方と禰豆子さんのことが議題に上がると思いますが、私も及ばずながら力になります」
「むー!」
抱きついてきた禰豆子の頭を撫でながら、斗和は炭治郎を励ました。既に斗和は柱復帰を打診され、次の柱合会議には出席するよう言われていた。従って、原作で炭治郎が裁かれる柱合会議には呼ばれることになるため、竈門兄妹を護れるのだ。
(カナエさんもいるし、何か理屈をつけて倫道君も引っ張ってくれば心強いんだけど、大丈夫だよね)
「ありがとうございます!俺はどんなことがあっても挫けません!必ず禰豆子を人間に戻して、鬼舞辻無惨を倒します!」
炭治郎は、目の前で見た斗和の強さに驚き、その強い剣士の温かい励ましに決意を新たにした。
「その意気です!私ももっと強くなれるよう頑張りますね。今度一緒の任務になったら、その時はよろしくお願いします!では!」
斗和はそう言うと、あっという間に炭治郎の前から消えた。
(もっと強くって……まだ強くなるつもりなのか、あの人は)
炭治郎は信じられない思いでいたが、気を取り直して禰豆子を箱にしまい、夜明けの町を歩き始めた。