ほのぼの鬼殺隊生活(完結)   作:愛しのえりまき

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土の呼吸 拾ノ型奥義・大地ノ怒(だいちのいかり)…【野良着の隊士】オリジナル技。


第二十話 復活~無限列車編~

(二人が共に行ってくれるのなら心強い。私も杏寿郎を死なせたくはない。もちろん他の子供たちも、誰一人として死なせたくない。……そして、この思いは君たちに対しても同じなんだよ、斗和、倫道。必ず生きて帰って来て欲しい)

耀哉は斗和への手紙を持ったカラスを見送りながらそう思っていた。

 

 耀哉から斗和に、無限列車の任務開始日時が告げられた。斗和と倫道は、以前からこの任務に同行させて欲しいと耀哉に願い出ていた。

 

(いよいよだ。私がこの世界に来た意義を果たせる)

斗和はこの時を待っていた。

 

 車内で四十人もの人が行方不明となり、”人喰い列車”と呼ばれるようになった無限列車。その調査、及びそれに関与する鬼を討伐することが今回の任務だ。しかし原作では、列車に巣くう鬼を退治するだけでは終わらなかった。上弦の鬼の出現、交戦した炎柱・煉獄杏寿郎の死。斗和と倫道はそのことも耀哉にありのままに説明し、杏寿郎を死なせないために同行を願い出ていた。

 

 杏寿郎に生きていて欲しい、それは前世からの願い。その願いが斗和を強くする原動力だった。今世では同じ世界に生き、同じ組織に属し、血反吐を吐いて厳しい鍛錬を積み重ねて同じ”柱”となった。だから、共に戦って自らの手で杏寿郎を助けたい。その思いを行動で示す時が近づいている。助けたい思いは倫道も同じだった。そのために、杏寿郎の父である槇寿郎を覚醒させるなど多少回りくどい手段も取り、万全を期した。

 

 斗和と倫道は偽造した切符でこっそりと無限列車に乗り込んだ。そしてこの任務の目玉と言える人物も二人に同行し、密かに列車に乗り込んだ。魘夢を倒すまでは見つからないよう影ながら援護し、猗窩座との戦闘の際に現れて全力で戦おうと申し合わせていた。これだけのメンバーならば猗窩座を撤退に追い込むだけでなく、あわよくば討ち取れるかもしれないと、倫道は密かに期待していた。

 車掌に入鋏されると血鬼術が発動するが、当然偽造切符の斗和たちには効かない。三人は正体を悟られないよう寝たふりをしてその時を待った。

 

 魘夢の頸に迫る炭治郎と伊之助。魘夢の手先となった運転士の男が炭治郎を刺すが、倫道が蝶屋敷で炭治郎に渡しておいた防刃腹巻のおかげで、炭治郎はほぼ無傷であった。炭治郎と伊之助の頑張りで、無限列車と一体化した魘夢の頸は斬られた。断末魔の悲鳴と共に高速走行していた列車は激しく脱線、先頭の機関車をはじめ各車両は横転し、広範囲に散乱した。だが乗客を喰らおうと至る所に這い出していた魘夢の肉隗がクッションとなり、また杏寿郎の技が衝撃を相殺し、死者は出なかった。

 

(ひどい有様だが乗客に死者は出ていない。竈門少年たちは無事か?それに、俺が技を放つ時に、同時に幾つか衝撃があったようだが気のせいだろうか?)

隠れていた斗和、倫道たちも密かに技を繰り出して脱線の衝撃を和らげていたが、杏寿郎は後方車両に居たのに対し三人は前方車両にいたため、その存在を杏寿郎に気付かれることはなかった。

 

(彼らも命に別状ないようだな)

杏寿郎は車外に出て、怪我人を救助している炭治郎たちを見つけて安堵していた。

 

「怪我人は多いが命に別状は無い。君たちは良くやった。もう無理せずに体を休めろ」

炭治郎、伊之助、禰豆子の箱を持った善逸が集まって、杏寿郎が彼らに労いの言葉をかけた。

 

 脱線の衝撃で車両の外まで投げ出された乗客も多数おり、前方の車両に乗っていた別動隊の三人もそれぞれ乗客の救出を行った。多数の怪我人を一か所に集めるのも一苦労だったが、幸いにも死者はおらず、救助に一区切りつけた三人は合流を果たした。

 

「倫道君、そろそろ行こう」

「うん、いよいよだね。さて御大、参りますか」

「分かった。だが水原、その呼び方は止してくれ。槇寿郎で構わん」

三人は出撃準備を整え、先頭車両の方へ向かう。 これから上弦ノ参・猗窩座が現れ、戦闘が始まるのだ。斗和と倫道、そして杏寿郎に内緒で同行した煉獄槇寿郎。三人はそれぞれ強い想いを抱いて動き出した。

 

 

 

 炭治郎たちと杏寿郎のいるほんの十数メートル先に、上空から何かが落ちて来て地面に激突、大きな地響きと土煙が上がった。濛々と舞い立つ土煙の中に二つの目が光る。土煙が徐々に晴れると、姿を現したのは全身に入れ墨のような紋様のある青年の鬼。その目には”上弦”、”参”と刻まれていた。

 

(上弦の参?!どうして今、ここに)

驚愕する炭治郎。相手が鬼と見るや、すかさず構えを取る杏寿郎。上弦ノ参・猗窩座が炭治郎たちに攻撃を仕掛け、杏寿郎は危ういところでそれを迎撃した。

 

「炎の剣士か。弱者など戦いの邪魔になるだけだ。先に殺しておこうと思ったが、まあ良い。お前のその強さ、一目見れば分かるぞ。俺と存分に戦おう!」

 

 杏寿郎と猗窩座の戦闘が始まった。息もつかせぬ数十合の打ち合いの後、一旦間合いを広く取り、両者は睨み合った。

 

 杏寿郎の強さを肌で感じた猗窩座は楽し気に語りかけた。

「その強さ、練り上げられた闘気、素晴らしいぞ。柱だな?至高の領域に近い。しかし残念だ、お前は至高の領域には到達できない。何故なら」

そして猗窩座はまた杏寿郎に襲い掛かり、一しきり激しい攻防を繰り広げた。杏寿郎は息を切らし、猗窩座の拳が掠めた額からは血を流している。

 

「人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ。柱とてそれは変わりあるまい。お前も鬼にならないか?」

猗窩座は原作の通り杏寿郎を鬼に勧誘する。

 

「俺は炎柱・煉獄杏寿郎。いかなる理由があろうと、俺は鬼にはならない!」

杏寿郎は呼吸を整えながら敢然と拒否する。

 

「そうか、俺は猗窩座。鬼にならないなら殺す!」

 

 破壊殺・羅針!

 

 猗窩座の足元から雪の結晶のような紋様が展開する。猗窩座は全開戦闘の気配を見せ、杏寿郎に殴りかかろうとした。

 

(他に何かいる?!)

その時、羅針が別の大きな闘気を捉えた。猗窩座は杏寿郎への攻撃を中断して再び間合いを取り、周囲を見回す。別動隊の三人が姿を現し、猗窩座はその中に杏寿郎と同じく大きな闘気を纏う槇寿郎を捉えていた。そしてその隣には女性隊士の斗和。……しかし、闘気は二つ。三人の中で一人、ほとんど闘気が見えず、羅針にかからない倫道が猗窩座に向かって歩き出し、無防備に間合いを詰めて来る。

 

「水原?蓬萊!それに……父上?!」

自分の他に柱が二人、さらに父の槇寿郎までがこの場にいることに杏寿郎は驚いた。

 

(倫道さん!列車に乗ってたのか?それにあの人は土柱の蓬萊さん!)(あいつらも鬼殺隊か!ギョロギョロ目ン玉がもう一人いるじゃねえか!)

炭治郎も意外な人物の出現に驚き、伊之助は杏寿郎とそっくりな槇寿郎に驚いていた。

 

 猗窩座の至近距離にまで接近した倫道が抜刀した。気負う様子も無く、かと言って怯えも無い。闘気も薄く、ぶらりとやって来て何となく刀を構えた、猗窩座にはそのようにしか見えない。

 

(何だこいつは。危険を感じる能力が無いのか)

上弦の自分に対し、何の感情も抱いていないように見える不思議な男。少しでも武道をかじった人間ならば、自分を前にしただけで恐怖に顔を歪める。過去には腰を抜かし、失禁する者もいた。

 

(羅針の反応が薄かったのは、おそらくこいつが脅威とはなりえないからだ。闘気もほとんど見えない。弱者め、目障りな)

猗窩座はまず倫道を軽く捻り潰し、それから先程の戦いの続きを、そう考えた。

 

 水の呼吸 肆ノ型・打ち潮

 

 倫道が呟いた瞬間、その闘気が爆発的に膨れ上がり、空気が一変した。猗窩座は倫道の闘気が全身に突き刺さって来るのを感じ、咄嗟に警戒態勢を取った。そこに、目にも止まらぬ速さで波状攻撃が迫った。

 

「斬りかかるまで闘気を隠すとは、お前も柱か!その磨き抜かれた技も素晴らしい!」

斬り落とされた両腕を即座に再生し、猗窩座はその顔に喜色を浮かべて叫ぶ。

 

 土の呼吸 壱ノ型・土龍爪(どりゅうそう)!

 

 だが猗窩座の叫びが終わらぬうちに、巻き起こった土の粒子が竜を形どり、ドンと地を抉る強烈な斬撃が炸裂した。猗窩座がそれまで立っていた場所から十メートル先の地面にまで亀裂が走るほどの威力。倫道の攻撃はただの陽動に過ぎず、この一撃こそが本命だった。まともに当たっていれば猗窩座の頸から上はきれいに吹き飛ばされていたはずだ。

 猗窩座は飛び退って危うく直撃は回避したが、その顔面には斬撃の風圧だけで傷ができていた。

 

 斬擊を放ったのは、土柱・蓬萊斗和。倫道の背後から瞬時に間合いを詰め、斬撃を打ち込んでいた。

 

(せっかく俺が注意を引いたのに!だがまあ想定内だし、挨拶代わりには十分だろう。それにしても斗和さん気合入ってるな)

斗和の一撃が猗窩座に届かず、少し残念がる倫道。

 

「女、お前もなかなかに素晴らしい技を持っているな。だが女は戦いの邪魔だ。引っ込んでいろ」

猗窩座は斗和のパワーに感心したが、あくまで女は邪魔だと考えていた。

 

(体が軽い、実戦でもいける!)

心臓の治療は成功し、リハビリも十分行って以前よりもさらに激しい鍛錬を積んだ。不安もあったが、猗窩座相手のこの正念場でも、以前よりもさらに動けることを斗和は確信した。そして、杏寿郎を絶対に死なせない。前世からの強いその想いと願いを形にする時が来た。

 

 

 刀を手にした斗和の全身が月に照らされる。

 

 

 髪はひっつめて団子に結わえ、後れ毛が吹きすさぶ風に遊ぶ。鍬(クワ)に似た特殊日輪刀を手に、斗和は冷たく澄んだ表情で猗窩座を見据え、堂々と構えた。

 

「邪魔、だと?私を……舐めるなよ」

溢れる闘志でその瞳はキラキラと輝き、全身からオーラが立ち上る。

 

(これが本気の斗和さん!本物のワルキューレ……、戦乙女《いくさおとめ》だ!)

その佇まいは、いつも軽口を叩く倫道でさえ背筋がゾクリとするほどの美しさ、気高さ。おそらく真剣勝負の場でしか見られないその迫力に、倫道は息を呑む。

 

「倫道君!!」

「応!」

 

 斗和と倫道がそのまま戦闘に突入し、巧みに連携を取りながら猗窩座に迫る。強力だが振りが大きく隙も大きかった斗和の斬撃も、大幅な体力強化を行ったことで連撃が可能となった。倫道も巧みに死角に入り込み、猗窩座の防御を削りながら斗和の必殺技に繋げようとしている。

 

(これが本気の倫道君……!凄い!)

斗和も倫道の動きに目を見張る。猗窩座の強力な打撃を紙一重で躱し、柔軟に受け流しながら即座に攻めに転じたかと思うと、また防ぎ、護る。攻防一体の動きには水の流れの如く一切の淀みがない。

 

 破壊殺・空式!

 猗窩座が大きくジャンプして間合いを開け、空中から遠隔攻撃を繰り出す。

 

 土の呼吸 㭭ノ型・土嚢城壁!

 

 これを見た斗和は強固な壁を築いて防御。

 

 空破山!

 

 倫道も負けじと縦に斬り上げるように刀を振り抜く。刀が空気を叩く音が響き、真空波が飛び出した。ザアァッと地面を疾るその航跡が夜目にもはっきりと分かり、真空の刃は着地した猗窩座の片脚を切断した。

 

(こいつも遠当てを?!この速さ、俺が躱しきれんとは!)

失った脚を素早く再生する猗窩座、その期を逃さず頸狙いで間合いを詰める斗和と倫道。激しい戦闘が続く。

 

 

(虚空を拳で打つと、一瞬の間に離れた所にまで攻撃が届く……。凄まじき技だ。だが残念ながら鬼殺隊にもそれを操る化け物がいる)

杏寿郎は斗和と倫道の戦いを見ながら、柱合会議の時に見た倫道の遠当てを思い出していた。倫道は素手でも撃てるほどにその技を磨いており、刀を手にして本来の威力で放たれるそれは、さらに破壊力を増していた。

 

 斗和と倫道の連携戦術は見事であったが、頸の防御は固く、それ以外の箇所にはいくら斬撃を受けてもすぐに再生する猗窩座には決定的なダメージを与えることはできず、羅針によって攻撃を読まれ、徐々に押され始めていた。

 

 斗和、倫道と猗窩座の激しい戦いを見ながら、槇寿郎も高揚していた。

 

(以前水原に見せられた幻の中で、杏寿郎を殺した相手はこいつだ。この鬼だ。上弦であろうと、絶対に杏寿郎を殺らせはしない!)

倫道に見せられた幻。たかが幻で済ますにはあまりに生々しく、まるで自分がその場に立ち会っているかのようだった。そして、杏寿郎が腹を貫かれて殺される、その場面。あまりに衝撃的で、しばらくは寝ても覚めても槇寿郎の頭から離れなかった。その時は怒りのあまり倫道を殴って追い返したが、槇寿郎はどうしても気になって、後日密かに倫道を呼んで謝罪した上で、仔細を問い質した。

 

(”占い”というのはそんなに何でもわかるものだろうか?)

槇寿郎はにわかに信じられなかった。だがその精度たるや驚くべきものであり、自分の心情までも見事に言い当てられ、信じざるを得なかった。

 

「信じていただけるかどうかは分かりませんが」

倫道は前置きし、杏寿郎が殺される場面のことを語った。倫道は、前世で何度も見た無限列車編のあの場面を脳内で再現し、槇寿郎に見せたのだ。

 

「近い将来、そのようなことが起こると頭の中にはっきりと映像が思い浮かんだのです」

だからそのまま見せた、倫道はそう言った。

 

「僭越ながらあのような出過ぎた真似をいたしました。しかし、槇寿郎様。本当にそうなってからでは……!」

 

「遅い、か……」

槇寿郎は腕組みをして宙を見つめ、それから涙を溜めた倫道の瞳を見返した。

 

 これを機に槇寿郎は変わった。倫道に会いに出る前は剣呑な雰囲気であったが、帰宅した時には憑き物が落ちたようにスッキリとした表情となっていた。

 自分がやるべき事は分かっていた。あとはそれを実行に移すかどうか、やり抜くかどうかだ。

 槇寿郎はその日から酒を断ち、きちんと食事をとり、体を動かし始めた。体力が回復していき、息子たちとともに再び鍛錬するようになった。同時に倫道に乞われるままに、時々稽古をつけたりするようになった。

 槇寿郎の体力や実戦勘が戻るにつれて稽古は激しさを増していき、倫道は斗和にも声をかけて参加させた。やがて来る上弦との戦いに向けて連携訓練もしっかりと行った。斗和と倫道が尊敬の念を抱いていることも槇寿郎には十分に伝わっており、二人が稽古に打ち込む姿勢には槇寿郎も感心していた。その姿勢に刺激を受け、槇寿郎の稽古も益々熱を帯びていった。自身の鍛錬を積み重ねるうちに、槇寿郎はゆっくりとだが確実に、自分の心と体がかつての力を取り戻していくのを実感した。

 幻の中で杏寿郎が殺される場面で抱いた、深い悲しみと後悔の念。妻が死んでからは、全てがどうでも良くなった。息子たちに向き合うこともしなくなっていたが、あの時自分は確かに泣いていた。このまま父親たる自分が何もせず、ただむざむざと息子を死なせるようなことは絶対にしない。もう一度立つ。燃えるような情熱が、槇寿郎の胸に蘇っていた。

 

 

 

 

 

(何と素晴らしい剣士たちだ!)

針の穴ほどの隙を突き、必殺の技が次々と放たれる。この精緻を極める動作、全く隙なく練り上げられた連携。そして天を衝く気迫。猗窩座は喜びに震える。頸以外は何度も切断され、胴を両断寸前まで斬られてもすぐに再生し、楽し気に戦っている。

 

「お前たちのような素晴らしい相手と戦えて嬉しいぞ!お前たちも鬼になれ!俺と永遠に戦い続けよう!」

時間にすれば数分間ではあったが、斗和と倫道も体力的に厳しくなっていた。

 

「身を削る思いで戦ったとしても、全ては無駄だ。お前たちが俺に食らわせた素晴らしい斬撃も、痕も残さずに完治した。どう足掻いても、人間では永遠の命を持つ鬼には勝てない」

斗和と倫道は激しく息を切らしていた。猗窩座は憐れむように二人に話しかけた。

 

「お前は……、その只の人間に……負けるんだ!」

息を切らせた倫道が、負けじと猗窩座に言い返した。

 

「上弦の鬼よ、全く大したものだ。お前の言う至高の領域とやらも、満更嘘ではないようだ。鬼でなければ、是非とも一献傾けながら語らいたいものだが」

頃合いと見て槇寿郎が不敵な笑みで前に出る。

 

「だが人間は辿り着けないとなぜ決めつける?人間であってもいつかは辿り着けるはずだ」

ほんのわずかに生まれた戦闘の合間。槇寿郎が猗窩座に話しかける。

 

「何を言っている、至高の領域に辿り着くには人間の限られた命などでは足りない。その短い命で何を為せる?……俺のように鬼となり、百年、二百年、いや永遠に修練することが必要だ。選ばれた強き者が鬼になり、初めてその高みを目指す資格が与えられるのだ。なぜお前たちにはそれが分からない?!」

猗窩座はイラ立ち、杏寿郎を含めた四人に問いかけた。

 

「確かに人は老いて死ぬ。だが人間には永遠の命がある。お前の目の前にもな。親から子へ、子から孫へと受け継がれる命の河、それが永遠の命だ。命は、技は、その想いは受け継がれる!杏寿郎は俺の息子だ。俺の技も、杏寿郎やこの若い剣士たちに受け継がれ、さらに磨かれていく。お前とて、誰かの技を受け継いだのだろう?!」

槇寿郎は炎のように燃え盛るオーラを放ちながら猗窩座を睨み据え、きっぱりと言い放った。猗窩座の脳裏に一瞬誰かの姿が浮かんだ。温和な笑顔の壮年の男。その隣には、はにかむように微笑む少女。だがそれが誰なのか、思い出すことはできなかった。

 

「鬼にならないならお前たちはここで全員殺す。命の河とやらもここで途切れる。惜しいことだが」

猗窩座は残念そうに言い返し、構えを取った。

 

「杏寿郎、お前の成長した姿を良く見せてくれ。共に行くぞ!」

槇寿郎は二ッと不敵な笑みを浮かべ、杏寿郎に声を掛けた。

「はい!父上!」

 

 槇寿郎は上弦の鬼に対しても、気後れした様子など微塵も見せなかった。炎柱・煉獄杏寿郎は、再起した先代炎柱、父・煉獄槇寿郎の姿に胸を熱くし、これまで以上に闘志を燃やす。

 

炎の呼吸 壱ノ型・不知火

 

杏寿郎の先制攻撃で、最強の親子が戦闘に入った。

 

 親子で共に鍛錬することによって生まれる阿吽の呼吸。煉獄親子は互いにその隙を埋めながら果敢に攻め続ける。三つの影が飛び回り、金属同士を打ち合わせるような鋭い音が激しく響き、火花が散る。上弦ノ参・猗窩座は動きも速い上に再生力が高く、何より単純に戦闘能力が高い。

 一撃で頸を刎ねるのは困難。細かい攻撃を続けて僅かな無防備状態を作り出し、その隙に高威力の攻撃を叩き込むしかないと槇寿郎は判断していた。

 息もつかせぬ猗窩座の拳打の嵐を一方が捌き、もう一方が斬撃を入れようとするが、その戦闘力、再生力は煉獄親子をもってしても押されるほどだ。重傷ではないが、二人とも多くの打撲や傷を負っている。

 

 ここで、斗和と倫道も気力を振り絞って立ち上がり、再び戦闘に参加した。

四人は必死の思いで間断ない攻撃を繰り出し、わずかな隙を作り出し、そして好機が到来した。

(槇寿郎さん、斗和さん、俺たちが隙を作る!あの技だ!)

「杏寿郎さん!全力で攻めるぞ!!」

倫道はアイコンタクトで合図を送り、杏寿郎とともにスタミナ度外視の全開戦闘を開始した。

「よしっ!」「はい!」

槇寿郎と斗和は、残された体力を全てこの一撃に込めて必殺技を放った。

 

土の呼吸 拾ノ型 奥義・大地ノ怒(だいちのいかり)

斗和が極限の集中に入り、先に奥義を発動する。斗和の周囲に地鳴りがし始めた。

 

 

 

 

 共同鍛練で、倫道は斗和と槇寿郎の連携技を考えついて提案した。いかにも厨二らしい演出もつけて。

 

「水原、この予備動作は必要なのか?」

「必要です。恥ずかしさ……いや自らの力を制御する”心の枷”を吹っ切るためです」

困惑気味に槇寿郎が倫道に尋ねるが、倫道はあっさりと答える。

 

「倫道君、どうしてもこのポーズやらないとダメなの?」

「ダメです!必殺技っぽい動きしないと!」

 斗和も気恥ずかしさを覚えるが、倫道は容赦しない。

(ちょっと恥ずかしいな……)

 

 斗和と槇寿郎による土の呼吸奥義・大地ノ怒と炎の呼吸奥義・煉獄の同時発動。その前に、タメをつくってそれらしいポーズを入れよう、と厨二病患者である倫道が言い出したのだ。斗和は抵抗したが押し切られてしまった。

 

 稽古していた時はそう思っていた斗和であったが、槇寿郎、杏寿郎との共闘でテンションが爆上がりしていたため、槇寿郎と斗和は互いの刀をクロスさせるポーズを取り、連携必殺技を放った。

 

 土の呼吸 拾ノ型奥義 大地ノ怒(だいちのいかり)

斗和の奥義発動に重ね、槇寿郎が重ねて技を放つ。

 

 炎の呼吸 玖ノ型 煉獄!

 

「「同時発動!グランドクロス!」」

 

 地面が激しく揺れ、大地の裂け目から現れる炎の龍が猗窩座を飲み込むように襲い掛かった。

 

 

 猗窩座は負けじと破壊殺・滅式を放ったが、グランドクロスの威力に押されて相殺できなかった。

炎の龍は滅式をものともせずに猗窩座を飲み込んだ。

 

 

 

 

「勝った……」

斗和は、刀を杖に立ち上がろうともがいたが、地面に崩れてしまった。その視界の隅には逃げていく猗窩座の姿があった。

猗窩座は斬られかけて、まさに皮一枚で繋がった頸を落ちないように繋げ直し、切断された四肢を何とか再生し逃げて行った。

 

 

 日の出が迫る中で体をバラバラにされるほどのダメージを負ったが、辛うじて頸は守り切った。四人には既に追撃する力は残っていなかった。陽の光を遮る森の中に逃げると、どこからか琵琶の音が響き、猗窩座の体は異空間へと消えていった。

 

 猗窩座が逃げた方を睨みながら、一同は動けずにいた。猗窩座と戦った四人は体力を使い果たして地面に倒れ、息も絶え絶えとなり、少しの間起き上がることもできないほど疲労していた。炭治郎と伊之助は極限の戦いを間近に見て、その緊張感から解放されてどっと疲れ、座り込んでしまった。しかし誰も死なず、重篤な外傷も無く上弦を撃退することができた。

 

しばしの後。 

 

ホッとした空気が広がる中、ふと斗和の顔を見た杏寿郎が歩み寄り、遠慮がちに声を掛けた。

 

「蓬萊……その……」

「煉獄さん……」

 

 尊敬し、憧れる杏寿郎を前に斗和は顔を赤くして見上げる。

「蓬萊……言いにくいのだが、その……」

「いえ、何でも言ってください」

 

「斗和さん、斗和さん!」

倫道が横から小声で懸命に斗和に呼び掛ける。

 

「倫道君!今大事なところだから何も言わないで!」

「そうじゃなくて……!ハナ!」

 

 倫道が、小声で、しかし必死にある事を気付かせようとする。

(もう、黙っててって言ってるのに!)

斗和は多少イラッとして、

「なに?」

倫道に小声で返した。

 

「だって斗和さん、鼻水びろーんって垂れてるから!」

倫道は少し迷っていたが、我慢できずに教えた。

 

(やだっ!何で早く言ってくれないの!)

斗和は顔を赤らめて手拭いで鼻を拭いた。

 

「蓬萊はそういうところも可愛いな!」

杏寿郎はストレートに斗和を誉め、斗和は益々顔を赤らめた。

 

 

 

 

 

「お疲れ様、上手く行ったね」

杏寿郎と話し終わったのを見計らい、倫道が斗和に声を掛けると、

「倫道君もお疲れ様。重大任務完了だね」

斗和と倫道は、大声で話している槇寿郎、杏寿郎親子を横目で見ながらそう言って笑い合う。

 

「煉獄さんを助けて、槇寿郎さんも立ち直らせた。猗窩座も討ち取れればなお良かったけどそれはさすがに欲張りすぎかな」

「でも、本当にありがとう。不安だったけど、私、猗窩座相手でもやれた。もう完治したんだね。治してくれてありがとう」

 

「珠世さんと愈史郎さんのおかげだよ。それに治ってから努力したのは斗和さん自身だし。これで何の心配も無く手合わせできるね、風柱と!」

「それは言わないでよ……手合わせはやっぱり怖いんだよ」

斗和は苦笑した。物語より早く、斗和は不死川と深い仲になっているらしいことを倫道は察していた。

 

「蓬萊、俺ともまた手合わせを願おう!」

それが聞こえたのか、杏寿郎も参戦した。斗和はすぐに表情を明るくして、よろしくお願いします!と元気よく返事をした。

 

「俺もっ!俺もやりてえ!!」

「煉獄さん、蓬萊さん、俺も……。俺にも稽古をつけてください!」

尊敬する杏寿郎にも手合わせを申し込まれホワホワしている斗和の乙女心を無視して、興奮冷めやらぬ伊之助が乱入、炭治郎までもが遠慮がちに稽古を付けて欲しいと頼み、杏寿郎たちは男の会話を続けていた。

 

「うむ、感心だ!やがては君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだからな!強くなりたいという想いは柱への第一歩!その想いを持ち続けることが大事だ。今までの努力を一歩とするなら、柱への道のりはあと一万歩あるかもしれないがな!」

杏寿郎が爽やかな笑顔でとんでもないアドバイスを送ると、

「い、一万歩……ですか」

炭治郎は膝から崩れ、

「なぁにー?!」

伊之助はショックで思わず声がひっくり返り、猪頭の鼻から蒸気を噴き出した。

 

今までの鍛錬はただの一歩。柱になるにはそれをあと九千九百九十九回繰り返さなければならない。

 

 あまりに途方もない例えだが、それは大げさではない。柱になることは容易ではなく、あと九千九百九十九歩、というのも冗談で言ったわけではないが、強くなる素養を持ち、強くなるために努力を厭わないこの少年たちなら、柱になれると杏寿郎は確信していた。背中を預けて共に戦い、次世代の鬼殺隊を託せると信じたからこそ厳しい言葉を投げかけたのだった。しかし彼らにとってもこの戦いが大いに刺激になったことは明らかだった。

 

 猗窩座と戦った四人は全身に大小の傷を負い、疲労困憊であった。だが息子の成長を実感した槇寿郎、父との共闘を果たして上弦の鬼を退けた杏寿郎、杏寿郎を護れてホッとしている斗和、そして斗和を護れて安堵の倫道と、みな一様に満足気な表情だ。

 一万歩と聞いてがっくりする炭治郎、取り乱す伊之助、二人の反応を見て斗和と倫道は思わず笑った。杏寿郎と槇寿郎も豪快に笑う。

 

 笑い合う一同を勝利の朝日が照らしていた。

 

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