Sheltered Girl   作:夏野 雪

2 / 11
弐-揺籃

 何を言っているの。

質問?

正しく?

そんな事をするためだけに私はこんなに怖い思いをさせられてるの?

聞きたい事があるんだったら面と向かって聞いてくれればいくらでも答えるというのに。

無駄だと分かっていても手足を動かそうと力を入れてみるも、やはりびくともしなかった。

そんな事を考えていると目の前にあるモニターから文字が消えたかと思ったら、

間髪入れずに新しい文字が浮かび上がってきていた。

それは先ほどの文字より、より一層奇妙で不気味なものだった。

『天井の隅をご覧下さい。』

恐る恐る天井を見上げてみると、そこには自分に向けられているカメラがあった。

所謂防犯カメラというやつだ。カメラの横では赤いランプが点滅していた。

カメラと目が合った瞬間にモニターの文字が連動しているかの如く消え去った。

どうやら監視されている事は間違いない様だ。

『まず、お聞きします。貴女は女性ですか。正しければ首を縦に。間違っているなら

首を横に振って下さい。』

いよいよ意味が分からない。こんなに大それた仕掛けをして人を監禁した割には、

何とも馬鹿馬鹿しい質問内容に拍子抜けしてしまった。

大事そうに抱え込んでいた不安や恐怖は籠の中から、何処か遠くへとパタパタと

飛び立っていってしまったような気分だった。

緊張感が冷めてしまった私は子供のままごとにでも付き合うかのように首を縦に振った。

『では、貴女が私に捕まったのは()()()()()のことですか? 』

そう言えば、私はどこで捕まったのだろう。

現実離れしずぎた現状に気を取られていて、その辺の記憶がぼんやりと遠くに

霞んでいくように思えてきた。

その切り替わった文字を見つめ、私は頭の中の時間を巻き戻していった。

確か...私は学校から帰る途中だったはずだ。そうだ。だから制服を着たままなんだ。

今日はバイトが無いからって、ゆっくりと帰っている途中だった...。

学校の帰りでバイトがないということは...月曜日か水曜日のはず。そう。水曜日...。

五月十九日の水曜日だ。

あの時は家まであと十分ぐらいの住宅街でスマホを見ながら歩いている時だ。

バチンという音と共に視界が真っ白になって...。

次に目が覚めた時にはご覧の有様だ。あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

家族の皆は心配してるんじゃないだろうか。

そうだ。お父さんとお母さんが、きっと通報してくれているはず...。

助けに来てくれるはずだ...。

どうせ今の私には何も出来ないんだ。動くことも、叫ぶことも。

なら、やるべき事は一つだ。

私は僅かに差し込んできた希望の光に勇気を貰いながら、首を横へ振った。

 

 

 

-----

 

 

 こいつは何を言い出すんだ?

「お前の目的は何だ? 金か? 回りくどいことはしないで、はっきり言ったらどうなんだ? 」

俺は一体誰に話しかけてるんだ。近くに誰かがいるのか?

『貴方は部屋に一人で監禁されています。しかし、私の監視下にあります。

ですので、大人しく私の指示に従っていた方が身のためですよ。』

一々気に障る機械的な声が、また辺りに響いた。

こいつの言っていることを信用するならば、俺は一人で監禁されていて、

何かしらの建物内の一室であるということになるな。

『まず、貴方の性別を教えて下さい。』

こいつは人を馬鹿にしてるのだろうか?

自分の置かれている現状との余りにも乖離した質問に怒りを抑えることが出来なかった。

「俺の質問は無視か? 金なら払うから幾ら欲しいだよ! 」

俺の言葉がもたらした静寂はしばらく続いていた。

あの耳障りな機械の声もしなければ、物音一つ聞こえてこなかった。

追い打ちのための言葉を考えていると、自分の後ろの方で扉が開くような音と気配を感じた。

外気なのか少し冷たい空気が背中に当たった気がした。

「ぐっ...!」

自分の喉の奥から蛙の鳴き声のような、自分でも聞いたことのないような声が出た。

やはり、部屋の扉が開いたようだ。そして、誰かが入ってきたのだ。

その誰かは今、俺の後ろに立って俺の首を締めている。

紐状の何かで思いっきり首が締め上げられていく。息が出来ない。抵抗したくとも手も足も

動かせない。頼みの声も出すことが出来ない。

やばい。

殺される。

意識が途切れそうになった刹那、首の圧迫感が急になくなった。

息を思いっきり吸いたいと言う気持ちに反して、急激に飛び込んできた空気を受け止めきれずに

勢い良くむせ返ってしまった。

朦朧とする意識の中で背後の方から、また扉が開け閉めされるような気配が感じ取れていた。

『次は確実に殺しますからね。』

直ぐに部屋のどこからか、あの抑揚のない機械の声が聞こえてきた。

どうやらこいつは本気らしい。こう言う頭の螺子が外れていそうな奴が

一番危険なのかもしれない。

無論、どこまでも言いなりになるつもりは無いのだが、何の情報も自由もない今は

こいつに従うほかはないようだ。

俺はまだ死にたくない。しかもこんな訳の分からない場所で一人で...。

『先ほどの質問ともう一点追加です。貴方が私に捕まったのは()()()()()のことですか? 』

落ち着け。俺。こいつは俺が意図していようといまいと記憶違いや間違えでも

躊躇なく俺を殺すだろう。

しっかり考えるんだ。俺が捕まった日?

確か...俺が最後に覚えているのは会社の帰り道だ。自宅の最寄り駅を出た所だったはずだ。

駅前に停車していた車の傍を通り過ぎようとした時だった。

急に中から出てきた人物に何かを押し付けれたと思ったら、もう意識はなかった。

意識が途切れる直前にバチンという音と閃光を見たような気がしたが、

はっきりとは思い出せなかった。

ともかく疲れ果てていてぼーっと歩いていたのだ。疲れていた理由は会議だ。あの会議。

あれは毎週恒例の苦行である企画会議だ。会議が開かれるのは決まって水曜日だった。

そうだ...水曜日。それなら五月十九日だ。間違いない。

「俺は男性で捕まったのは五月十九日で間違いない。」

俺は恐怖で怯えてしまい従順な玩具になり下がった役を演じようと決めた。

『やれば出来るじゃないですか。』

あらん限りの罵倒を叫び散らかしたい気持ちを必死に抑え、俺は奥歯を必死に噛み締めていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。