母親が警察署へ駆け込んできたのは五月十九日の二十二時頃のことだった。
憔悴した様子の母親が警官に伝えたのは娘が学校から帰ってきていない。と言うものだった。
母親が言うには携帯も電源が切れており、友人関係など確認をしてみたものの、
誰も心当たりや見かけた者はいなかったと言うことだ。
彼氏の類も居ないらしく、行先にはまるで心当たりがないと言う。
大切な一人娘で一人で外泊したこともなければ、バイト以外でこんなに遅くまで連絡なしで
帰ってこなかったことはないのだそうだ。
取り乱す母親を何とか宥め、捜索願を提出させて今日のところは帰っていただいたのだった。
嵐のように現れては去っていた母親を見送った後で、担当していた警官二人は缶コーヒーを片手に
一服していた。
「すごかったですね。さっきのお母さん。」
「まあ。可愛い一人娘が居なくなったんだ。無理もないだろう。」
「実際はどうなんですかね? 誘拐とかだったりするんすかね? 」
「うーん...可能性はゼロではないと思うけどな。最近なんてSNSでしか知らない男に平気で
会いに行ったり、家出先探したりなんて珍しくもねぇからな。蓋を開けてみれば、
そんなことっだったり、親に秘密にしていた彼氏と駆け落ちごっこなんてパターンだろうがね。
あの母親の様子からすると『箱入り娘』って感じで育ててたっぽいしな。」
「『箱入り娘』だと、可能性が上がるんすか? 」
「別に統計とったわけじゃねーけど、そういう子供ほど爆発した時が厄介なんだよ。
親は親で子供の本当の心を見ずに、表面の体裁や格好ばかりに気を取られて気づかない。
その結果、ある日突然と突拍子もないこと始めたりするもんだ。」
「はー...怖いっすね。」
「『親の心子知らず』って言うが、逆もまた然り『
親子であろうとも別々の人なんだ。何も話さず、伝え合わないままで以心伝心とは
行かねぇってこった。」
そう言うと、空になった缶をゴミ箱へ放り込み、仕事へと戻っていった。
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一人の女性が部屋の隅にある仏壇の前で目を瞑り、静かに手を合わせていた。
目を開けると、そこには変わらずに制服姿で微笑む我が子の姿があった。
この世でたった一人の家族である我が子がこの世を去ってからというものの
何をするにも気が入らなくなってしまいパートも辞めた。
それからは、ただ時計の針が周るのを見つめる生活を送っていた。
今、彼女をこの世に繋ぎ留めているのは我が子の裁判だけだった。
裁判の判決を見届け、最高の結果を我が子へと報告するためだけに生きていた。
だが、裁判の流れは決して良いものではなかった。
弁護士とも話してはいるが、相手方の有利な状況を崩しあぐねていた。
このままでは最悪の場合、無罪なんてことになってしまうかもしれない。
そんなこと...絶対に許すわけにはいかない。あの子の命を奪っておきながら、
無罪なんてことがあってたまるものか。
彼女は傍らに置いてあった出刃包丁を胸の前に持ってくると、両手で強く握りしめた。
「許さない...そんなこと。何があっても償わせるからね。